第22話

僕は、たった今聞いたことが信じられなかった。


……だって、お泊りだよ!?

一泊だよ!?

超絶美少女の家にお泊りだよ!?


………断ろう。


「あの……僕、帰りますから………」


「えぇ?帰っちゃうの?」


「は、はい。だってもういい時間ですし、流石にお泊りだなんて………」


「あ、それなら大丈夫。拓海くんのお父さんには許可を取ってあるわよ。

それに、今の時間に帰って警察にでも捕まったら、補導されるわよ?」


……少し脅迫が混じっていた。

しかも、父さんも許可してるとか…


…これはもう、降参するしかない……と思う。


「……分かりました。一泊させて頂きます。」


「うん。それでよろしい!雪菜も良いわよね?」


「お泊り……7年ぶりのお泊り………ふふっ……」


「……雪菜?聞こえてるの?」


「へ?あ、うん!もちろん良いよ!」


僕は、雪菜に嫌がられていないようでホッとした。

そして、改めてお願いする。


「じゃあ……一泊よろしくお願いします。」


「はいはい。ゆっくりしていってね。」


「はい。」


僕がそう返事をすると、月城さんは微笑んで、食器の片付けに移った。


そして、手持ち無沙汰になった僕に、雪菜が支持を出してくれた。


「拓海はお風呂を掃除。私は洗濯物を洗うから。」


「了解。」


雪菜に一通りの事を教えてもらい、与えられた仕事に着手する。



泡のスプレーを床にかけて磨くだけの掃除が終わり、僕はまた暇になった。


ソファに座って雪菜を待っていると、二階から雪菜の声が聞こえてきた。


「拓海〜布団先に敷いておくから!」


「ありがとー!」


僕も二階に聞こえるように返事をする。


……この時僕は思い出すべきだった。


二階には寝室が2つしかない事に……



しばらくした後、雪菜が二階から降りてきた。少し頬が赤くなっている。


「おまたせ。」


布団が重かったのだろう。

僕はそう推測して、雪菜に労いの言葉をかける。


「お疲れ様。」


すると、雪菜はチラリと僕の顔を見た後、プイっとそっぽを向いて言った。


「う、うん。」


少し様子がおかしいと思ったが、疲れたのだろうと思い、僕は座っている位置から少し横にずれた。


「ありがとう。」


と、雪菜は言って、僕の隣に腰掛けた。


「……………」


「……………」


……電車の時の二の舞にはなりたくないので、僕から話題を投げかける事にした。


「雪菜。」


「何?」


「進路ってどんな風に決めた?」


突然の質問に雪菜は驚いたようだが、ちゃんと答えてくれた。


「えっとね………近かったから?」


「それだけなの?」


「うん。それだけだよ?」


「へ、へえー。」


改めて、僕は思ってしまった。


………この子、やっぱりアホなのか?


……いやいや、確かに距離というのは進路を選択するにあたって重要な事だ。


……でも、念のために聞いておこう。


「雪菜、入試の点数を教えてくれ。」


雪菜は不思議そうな顔をしたが、頷いて教えてくれた。


「えっと……国語が58点、数学が60点、社会が55点、理科が60点、英語が60点……だったと思う。」



「………………………………」


説明しよう!


僕達の県の公立高校入試は、5教科300点満点で行われる。

つまり、1教科の満点は60点という事になる。


そして、この県最高レベルの高校の合格点数は、252点だった。


対して雪菜の合計点数は、293点。これはもう、学力推薦であの高校に入ってもおかしくない成績である。


………え?


何でこの高校に来ちゃったの?



「……な、なあ雪菜。この高校に来るの、先生に止められなかったか?」


雪菜はそれを聴くと、激しく頷いた。


「そうそう!物凄く反対されたんだ!…中でも酷かったのは校長先生だったなぁ………必死の形相で説得してくるんだもん。」


「そ、そうか。大変だったな。」


………どうやら、この子は真正のアホのようだ。


いや、天才か?


“バカと天才は紙一重”って言うしな。

あ、この場合はアホか。


……まあ、過ぎた事だし、こうして僕が雪菜に会えたのだから良いのだろう。うん。


僕は何時ものように自分を納得させる。


それと同時に、お風呂が沸いた事を告げる音が聞こえてきた。

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