悲劇の主人公が知り合った美少女は、実は幼馴染だった件。

アラタ ユウ

第1話

 まず、初めに言おうと思う。


これは僕と、とある少女との出会い、そして歩み寄りを記した物語だ。


物語はここから始まる。



* * *



 中学三年生の時、僕は失恋した。


 ……いや、違う。

僕はこの出来事を失恋とは呼べない。

何故ならば、僕は一切直接的な事はしていないからだ。


* *


 受験も近づいたある日の事。

僕は昼休みに知り合いに呼び出されていた。


「なあ結城。お前、早川に告ったんだろ?」


 突然の予想外の言葉に、僕は戸惑いや焦りなどの入り混じった感情がこもった返事をした。


「……なんで?」


確かに僕は早川さんが好きだ。

だけど僕は告白などしていない。

男子の間でもかなり可愛いと評判な早川さんに告白する勇気などないからだ。


 しかし知り合いはひらひらと手を振って言った。


「惚けても無駄だって。さっき聞いたぞ。」


 (一体誰だ?そんな噂をたてる奴は。)


 珍しく憤りを感じた僕は、その知り合いに誰にその噂を聞いたのかと尋ねた。


「……え?早川が言ってたんだぞ。

『結城に告られたけど、気持ち悪いから振った。』って」


僕の頭は真っ白になってしまった。


 …早川さんが?


 …何故?何のために?


 思考を巡らせて、思い当たる可能性を排除していく。


「………!?」


 そして、僕は真実に辿り着いた。


「……なあ、いい加減認めろよ。告ったんだろ?」


 知り合いは少し苛立ちながら聞いてくるが、僕は彼の目を真っ直ぐ見ながら言った。


「…いいや。告白なんてしてないよ。そもそもどうして僕が早川さんを好きだと思ったの?」


「いや、早川から聞いてたし。お前からの視線をよく感じるって。」


 (……気づかれてたんだな………)


 確かに、好きという感情が強すぎて自分でも知らない間に早川さんの姿を追ってしまっている事がよくあった。


 …でも、告白の件だけは絶対に否定しないといけない。


「そうか。でも、僕は告白なんてしてない。」


「……そこまで言うなら本当、なのか?」


そんな事を呟きながら、知り合いは自分の教室に帰っていった。


 僕は即座に人がいない四階への階段を駆け登ると、誰も使っていないトイレに駆け込んだ。個室に入って鍵をかける。


そして、今聞いた話をもう一度整理する。


 出てきた結論はやはり……


勝負さえさせてもらえなかった。という事だけだった。


……そこまで早川さんは僕の事が気持ち悪かったのだろうか?


 …まあいい。

……昼休みは後30分もある。

思いっきり泣こう。


 そこまでが限界だった。


「うっ……ぐすっ………」


悔しさと悲しさで頭がおかしくなりそうだ。


「くそ……くそっ………」


必死に鳴き声を抑えるものの、掌に汲んだ水のように鳴き声はこぼれて行く。


閑静な四階の廊下に、僕の嗚咽だけが響いていた。


* * *



 気がすむまで泣いた後、泣き腫らした目を洗って教室に戻った。

 クラスメイトは何も知らずに談笑している。その中には、件の早川さんも混じっていた。


 (何もかも壊して回りたい……)


 そんな事を僕が考えているとは露ほども知らずに、この学校で唯一友達と言える人物が声を掛けてきた。


「何処行ってたんだ?拓海。」


九条 大輝。

卒部した同じ剣道部に所属していて、三年生の男子は僕と大輝しか居なかったので、必然的に友達、それも親友になった。


因みに拓海とは僕の名前だ。


「…ああ、ちょっと職員室に呼ばれてな……」


即席で言い訳を作った。

親友の大輝にも、この事は話す気にはなれなかった。

これは僕の問題であり、大輝を巻き込む訳にはいかない。


……という建前で自分を納得させる。


そうでもしないと、大輝に何もかもをぶつけてしまいそうだった。

初めてできた親友という存在を失う事が怖いのだ。


「そうか。大変だな。勉強頑張れよ?」


一瞬不思議そうな顔をした大輝はすぐに表情を戻し、重いとも軽いとも言えない冗談を放った。


「お前もやらなきゃヤバいだろ……」


大輝の成績はあまり芳しくなく、下の上といった所だ。


それで自分のレベルより高い所を受験すると豪語しているので、かなり頑張らないと不味いはずなのだが……


「俺はちゃんとやってるからな。この前の模試の結果も良かったし。」


……杞憂だったようだ。


それに、今は大輝の進路より自分の進路の方の心配をしなければならない。

ならないのだが………


(流石に堪えるなぁ……今は何もやる気が起きない。)


早川さんとの一件は、到底すぐには忘れられそうになかった。


「はぁ………」


僕は気怠げな溜息をつく。

この時期に勉強をしないという選択肢は無いのだ。


「受験、ヤバいのか?」


大輝が少し心配そうな顔で聞いてくるが、絶望的という訳では無い。

安全圏まで達していなくても、ちゃんと合格圏はキープしているので問題ないはずだ。


「……いや、勉強だるいなぁ。と思って。」


 大輝は、そうだよなぁと呟き、


「今日も塾で自習するが、拓海もくるか?」


「いや……遠慮しておくよ。」


申し出はありがたいのだが、今は勉強しても何も頭に入ってこない気がした。



***



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