大人の悪魔再び
ここは薬局前。
そして店の前では、レオとウェルシの護衛役たるミアナとアリシアが周囲警戒を怠らず待機している。
レオをつれたアサムと、ウェルシ、ハンナ、スティアは店内で買い物中。
賑やかではあるが平和で問題が起きそうな気配はないが、万が一のことも考えて君主が利用している建物の周辺を警護するのは護衛役としては当然のことだ。
……だがしかし、アリシアは落ち着いた様子で周囲を警戒するなか、それとは反対にミアナはただならぬ何かがいるかのように慌ただしくビクビクとした様子であった。
「……さっきからどうしたの? 護衛のために警戒してるんでしょうけど、いくら何でも落ちつきがなさすぎるわ」
彼女の不安げでビクビクしている状態に見かねたのかアリシアは呆れたように口を開いた。
出発前のミアナは、あれほど冷静で勇敢な様子だったのに、今は何とも見る影もない程に取り乱している。
とんでもない醜態だ。
「あなたには、何も分からないのよ。……ここには得体のしれない領域に繋がる場所があるのよ」
と、やはり凄まじく何かを警戒し落ちつきがない口調でミアナは薬局の隣の店に目を向ける。
……ピンク色の店舗。
かつてレオ王子のおしゃぶりを購入するために、ここに寄った際に入店してしまった。あの時の記憶が鮮明によみがえる。
そして置かれていた製品を手にし、アサムにその用途を尋ねたことも。
「……恥ずかしくて、記憶から消したい」
何かを振り払うかのようにミアナは頭をかきむしる。
どんな店か分からなかった、ので仕方はないが。
しかし、そんな淫らな領域に入ってしまったのは事実。
そして訊いたあげくにアサムから道具の使用方までも教えてもらった。
……そんなことをやらかして、彼や周辺の人々から、自分はどう思われているだろうか?
一国の君主の護衛役でありながら、そんな醜態をさらすなど。とんでもない羞恥だ。
そして悪魔が再来した。
「ようっ! お嬢ちゃん、また来てくれたのか?」
「うぎゃあぁぁぁぁ!!」
いつの間に奴は接近していたのか。
背後からいきなりに声をかけてきたのは、
そんな魔の者の突如の出現に、ミアナは振り返りながら女とは思えぬ叫びをあげた。
そう紛れもない、この男はあのピンクの店の店員であった。
「……うあぁ! な、何者だ!」
そして彼女だけでなく、そんな異質すぎるものにアリシアも慌てて肩にかけていた弓を手にしていた。
「ま……魔物かっ……い、いやっ」
ひきつった口調でアリシアも、その男の姿を確認する。
魔物ではない。しかし魔の世界の住人であることは間違いあるまい。
普通の者がパンイチで往来を出歩くわけがないのだから。
今ならミアナがなぜにあれほど取り乱していたかが良くわかる。彼女はこれを警戒していたのだろう。
いずれにせよ緊急事態だ。
「何者か、だって? 俺は『
少女達が怯え慌てるなか、狼毛玉人は彼女達に堂々と応じる。まるで後ろめたいことなどないかのように自信に満ちた様子で、そう名乗った。
だがしかしそれでも不審者としか見られてないのだろう、ミアナは杖を両手で握り、アリシアは弓を構えたまま。
いつでも戦闘、いな怪しい動きをすればすぐに撃退ができるような体勢である。
「……ど、どうしたんですか? カズヤさん」
すると薬局の方から可愛らしい声が響いた。
どうやら買い物がすんだのだろう、アサムが店の中から出てきたのだ。
「「「工工工エエエェェェェェェエエエ工工工!!」」」
そして彼に続いてウェルシと買った荷物を持つハンナとスティアが姿を見せる。
しかしカズヤのありさまを見た瞬間に、三人はドン引きするような奇声を響かせた。
突如の変質者出現ゆえに。
「ア、アサム……その方は誰ですの?」
そんな中、いらぬ勇気を振り絞りウェルシ姫が恐る恐ると尋ねる。
「……え、えっとー、この方は薬局の隣のお店の店長さんなんですけど……」
問われたアサムは戸惑うことしかできない。
カズヤの店が何を取り扱っているのか、説明するなど彼女に悪影響だからだ。
カズヤの店は大人の玩具や性に関するあらゆる物がそろう場所。なんと言っても、あのオボロがしょっちゅう訪れる店なのだ。
ウェルシ姫はまだ子供。そんな無垢な少女に大人の、それも変態的なことを教えるわけにはいくまい。
「おう、お嬢ちゃん。いいことを聞いてくれたな、俺は職人だぜ、こう言うものを開発して販売してんだぜ!」
と言ってカズヤはズカズカとウェルシに近づき、左手に持っていた張形を見せつけた。
「子供に、そんな
アサムは青ざめるウェルシの間に割り込み、カズヤから遠ざけた。
「姫様から離れなさい!」
「ぐふぅ!」
激怒しアリシアは背後からカズヤの金的を蹴りあげる。
主君の身を守り、変な物をとりはらう。護衛役としては正しい判断と言えよう。
ブーメランパンツの狼は怯むと、身を屈めながら後ずさった。
無論、彼に悪戯する気はなく、ただ聞かれたから真面目にウェルシに応じただけなのだろう。
しかし子供に行きすぎた性教育はダメなことである。
「……それでカズヤさん、僕達に何か用なんですか?」
して一息付きアサムは下腹部の苦痛がおさまったカズヤに問いかける。
これ以上、大人の変態的世界をレオ王子やウェルシに見せまいと、やや身構えた様子で。
「ああ、今日はオボロの旦那はいないのかい? 新しい製品ができたから、ぜひとも使ってもらいたくてよ」
「……うっ」
アサムが小さい悲鳴をあげるのは仕方あるまい。
オボロに使用してほしい品物、そんな物の大半は変態的な道具でしかないからだ。
「じゃじゃーん! こいつを見てくれ」
してカズヤは手にしていた張形をパンツの中にしまうと、どこからともなくピストン式の菅(注射器)を取り出して、アサム達に見せつける。
「な……なにそれ?」
また下品な物が飛び出すのでは、とミアナは警戒していたが、でてきたのは一見別に不吉そうな物ではなく、普通の医療器具のような製品であった。
しかし、とても大きく、なぜか全体が赤く塗られている。注射器と用いるには、いくら何でも容量が多すぎるが。
「容量多すぎない? それに何で赤いの?」
思わず呆気にとられたようにミアナは問いかけた。
「通常の三倍の量が入るように容量をデカくした浣腸器、その名も『ウォッシャア・アナルズブ』だ」
と言ってカズヤは特大浣腸器を秘宝のごとくかかげるが、やはり下品な代物と分かりアサム達は表情をゲンナリさせた。
「でだ、オボロの旦那は今日いるかい? すぐにでもこいつを試してもらいてぇのよぉ」
「……オ、オボロさんは、ただ今重要な任務中です。また今度の機会にしてもらえないでしょうか」
あまりにも不快な内容ではあるが、アサムは丁寧に伝える。
そして頭の中をよぎるは、もしこの製品をオボロが受け取ったら地獄絵図になるのではないかと言う不安であった。
「そっかー……あ、そうだ!」
新製品がすぐには被験できないと分かり、カズヤは落ち込むように耳を垂れさせる、しかしすぐさま何か妙案を思いついのかピンッと耳を立てた。
「アサム、お前さんが使ってみたらどうだ?」
「……えぇっ」
カズヤのとんでもない提案にアサムは恐怖と不気味さのあまりに後ずさる。
だがそれでミアナがキレた。
人の知恵と技術は凄いものだ。ちょっとした道具を合わせることで、魔法に近いことができるのだから。
ミアナはどこからか取り出したライターを左手に、スプレー缶を右手に持った。
この組合せ、即席火炎放射器とも言える。
ミアナは魔術は失ったが、だからと言って火炎攻撃ができないわけではないのだ。
「ぬわーーっっ!!」
放射された火炎はカズヤの股間を炙り、断末魔らしき声を響かせた。
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