再会する少女達

 あまりにも異質だ。

 ハクラは山積みにされた焦げた木片やら機械的な部品を見ながら訝しさを感じていた。


「調査を開始して、数日程になりますが、今だにこれと言ったものは見つかっておりません」


 そう言いながら近寄ってきたのは、メリッサである。


「……そうか」


 ハクラは振り替えることなく応じた。

 屋敷に擬装した発電施設があった周囲を数日のあいだ多くの親衛騎士達に作業を当たらせたが、今だに何か決定的なものは見つかっていない。

 何故に、こんな異常な施設が設けられているのかの要因が。

 しかし、だからと言って作業は無駄ではない、ここにある発電システムの残骸は処分しなくてはならないのだから。

 調査だけでなく、機械部品の処理も兼ねてると言えよう。


「……どうしますか? 山中の殆どは調査しましたが。もっと探査をつづけますか?」

「いや」


 メリッサの作業継続の打診を聞いて、ハクラは首を横に振った。


「捜査範囲を拡げる。下山して、この山の周辺もくまなく調べあげるぞ」

「山の周辺ですか?……分かりました」


 そう言ってメリッサは部下達に伝えるべく、走り去った。

 普通なら、もう何も見つからないのだから調査など打ち切りにするべき、と思うだろう。

 しかしメリッサがここまで文句も言わず従順に従うのは、それだけ彼女も今の状況が重大すぎると理解してるからだろう。


「ここで発電して、いったいどこに電力を送っている?」


 ハクラは瓦礫から焼け焦げた樹木が虚しく佇む周囲へと目を移した。

 なんともこの擬装した発電施設は不可思議で怪しい作りだ。

 設置されてるものが太陽光電池とバッテリーだけ。

 発電施設なら普通どこかに電力を供給する送電網が構築されるはず。

 しかし外部に送電するようなケーブルなどは見受けられず、ただ単に発電した電力を貯えておくだけの作りになっているのだ。


「……ここで充電したバッテリーを、どこかに運んでいるのか?」


 もしそうなら、かなり非効率的で回りくどいが。

 もしくは、それほどに面倒な真似をしてでも電力を供給している先を知られたくないのか……。

 もしそうなら、どこかでよほど危険な研究や実験などが行われている疑いがあるが。


「報告します」


 と、やや慌ただしい様子でメリッサが戻ってきた。


「どうした?」


 彼女の様子で重要な報告であるのは確かだろう、ハクラは先程とは違いメリッサに振り替える。


「この山を管理していた者が分かりました。元国王……いえ、全ての人々を欺いていたエンドルです」


 それはかつて王都で大惨事を起こし、真の国王を暗殺し、そして国王になりかわり暗躍していた名前であった。





「……ここは?」

「私達は、あの後になにが……」


 異星人とアリシアの声で目が覚めたのだろう、ハンナとスティアもベッドから上体を起こし始めた。

 二人もアリシアと同じく疲労や痛みもないらしく、すんなりと床に立つことができた。


「ふむふむ、お二人も良好のようですな。ただいま領主様をお呼びしますので、しばしここでお待ちください」


 チャベックは食いかけのドーナッツを口の中に納めると、触手をクネらせながら医務室を出ていった。


「二人とも体は大丈夫そうね」


 こちらに歩みよってくるハンナとスティアを見て、アリシアは安堵したように息をはく。

 彼女達の足取りで、元気であることが分かる。


「私達、どのくらい眠っていたのかな?」


 ハンナは医務室の窓から外を見つめた。

 日の光が輝いている。おそらく半日以上は眠っていただろうか。

 そしてスティアは何かを探すように医務室内を見渡した。


「……ウェルシ様はいったいどこにいるのでしょう」


 さすがはメイドと言えよう、何よりも御主人たる姫君を最初に気にかけるのだから。


「きっと、この屋敷の人達が保護してくれていると思うわ。悪い人達ではないから、大丈夫なはずよ」


 アリシアは心配そうにしているスティアに応じた。

 自分達を助けてくれた人達だ、けして姫様に害を与えるようなことはしないだろう。

 だがしかし今の現状がどうなっているかが分からない。


「ひとまず落ち着きましょう。姫様の安全が確認できたら、この屋敷の人達から話を聞きましょう」


 やや混乱気味のハンナやスティアとは違い、アリシアは冷静に、しかし心中では姫様の無事を祈りながら二人に述べた。


「さすが異星人の医学、こんなに早く負傷を治しちゃうなんて」


 と、部屋の入り口から若い女性の声が聞こえた。


「……あなたは?」


 入室してきた眼鏡をかけた美女にアリシアは振り替える。

 そしてその美女に遅れて、長身……いや、もはや巨漢とも言えそうな白銀髪の美青年が姿を現した。

 美女と美男子の入室。そんな美しい情景に、ついつい見とれてしまいアリシアはやや呆然としスティアは頬を少し紅色に染める。


「……うっ」


 だがハンナは別の何かを感じたのだろう。白銀髪の美青年を警戒するように一歩後ずさった。


「私はこの辺境の地の領主、エリンダ・ペトロワよ。ひとまず当領地へようこそ、と言っておこうかな」


 エリンダは三人に何とも気軽そうな挨拶をした。緊張を解そうとしているのだろう。


「領主様でありましたか。私はギルゲスの王女ウェルシ・ランダース様に幼き頃より従えるアリシアと申します」

「私はハンナです。ウェルシ様に従える剣士です」

「スティアでございます。ウェルシ様の直属のメイドです」


 そして明るい雰囲気の領主に応じるように、三人も礼儀正しく挨拶を返した。


「私は領主エリンダ様の直属の剣士ニオン・アルガノス。門の前では挨拶ができなかったからね、改めてよろしくと言っておこう」


 ニオンも自己紹介をしながら彼女達の前に踏み出た。

 しかしいくら優しげな美青年とは言え、身長が二メートル近い男性が近づくと、やはり相応の威圧感があるのだろう。

 アリシアとスティアは思わず一歩後退し、やはりハンナは彼にただならぬものを感じるらしく頬に汗を伝わせた。


「この度は助けて頂いて、なんとお礼をしていいのか……」


 エリンダ達が非常に温和な人達であることを理解したのかアリシアは肩を下ろし、一党を代表するがごとく二人に礼を告げる。


「それと、早々で申し訳ありませんが、姫様……ウェルシ様は……」

「みんな! 無事でよかったですわ!」


 アリシアがもっとも重要なことを問おうとしたとき、その問題は医務室に駆け込んできた少女によって解決した。


「ウェルシ様!」

「スティア! ゴメンね、大変な思いをさせちゃって!」


 スティアは医務室に入ってきた小さな姿を目にすると表情を輝かせ、いきなり抱きついてきたその少女に腕をまわして引き寄せた。


「ウェルシ様!」

「……よかった」


 そして主君の無事が確認できたことで、アリシアとハンナもやっとのこと安堵の表情を見せた。


「ウェルシ様はずっと、あなた達三人のことを心配してたのよ」


 そう言ってエリンダは頬を緩め笑みを見せる。


「そうでしたか、あなた方のおかげです。こうして四人欠けることなく、無事でいられたのは」


 アリシアも笑みで返答する。


「……それで、ウェルシ様から話は聞いたわ。蛮竜が現れたそうね。それで国から脱出してきたのでしょ」


 だがエリンダのその言葉でアリシアとハンナの顔は再び暗くなった。

 そうなのだ。国が崩壊したから自分達は惨めにこの地に逃れてきたことを改めて認識する。

 そして穏やかだったエリンダの表情が、やや険しくなる。


「ところで、逃れてきたのはあなた達四人だけかしら」

「……えっ? それはどう言う……」


 領主の突然の問いにアリシアが戸惑った瞬間、凄まじい力で宙吊りにされた。

 そして同時にハンナも喉を捕らえられ空中に吊るされる。


「……があぁぁぁ!」

「がっ……ごっ」


 ニオンに頭を掴まれ持ち上げられたアリシアは頭蓋が潰れそうな苦痛で悲鳴をあげ、ハンナは喉を握られ持ち上げられてるため息がつまり脚を宙でバタつかせた。

 ニオンは右手でアリシアの頭を掴み握力で万力のごとく圧迫し、左手でハンナの喉を潰すかのように締め上げていた。

 対象が少女とは言え、片腕で人間一人を軽々持ち上げるなど、その筋出力ちからは明らかに人類ヒトのものではない。


「あなた達以外、誰も逃げてきてないの。……もしかして国の人達を見捨てて来たの?」


 ニオンに吊るされる少女二人にエリンダは詰めより、冷たげにそう問うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る