怪獣は心を読む
女王様との情報のやり取りを終えて、一先ず今回の仕事は一件落着だ。
送った情報をもとに、おそらくメガエラ様やサハク王国も何か行動を起こしたり対策などをはかるだろう。
近隣国が崩壊したのだ、この国も何もせずにはいられまい。あまりにも異常かつ危険な事態としか言えんからな。
この短期間に二つの国家が崩壊、まったく今この世界でいったい何がおきてるやらだ。
「……魔獣や超獣の対処でクソ忙しいてっえのに」
思わず小言をぼやいてしまうが、仕方のないことか。それが俺達に与えられた使命だからな。
「さっ、ウェルシ・ランダース様。あなたもご一緒に」
と、そう聞こえた方へと目を下ろした。
どうやら領主様の屋敷まで案内しようとアサムがギルゲスの姫様に声をかけているところであった。
ちなみにアリシアとハンナとスティアは、ニオン副長とチャベックさんにカプセル型の担架に乗せられて一足先に出発している。
今の姫様をアサムに任せるのは適任だろうな。
現在進行形で彼女は周囲の人々を恐がり警戒している。それを解きほぐせるのはアサムしかいないだろう。
「……あ、ありがとう」
「その前にウェルシ様、一つよろしいですか?」
アサムに連れられウェルシ様が門をくぐろうとしたとき、俺はあることを確認するために彼女を呼び止めた。
「……ひぐぅ! な、何ですの?」
「ム、ムラトさん……あまり刺激しないように」
迂闊すぎたな。最初程ではないにしろ、やはり姫様は俺を恐れている。
これにはアサムに注意されても仕方あるまい。
(す、すまなかった。……ウェルシ様、あなたの国で何があったのか調べさせてもらいます。ギルゲスが崩壊したことはここまでの道中でアリシアから聞きましたが、その原因までは探っていませんでしたからね)
姫様を見下ろして謝罪を告げ、話の内容を続けた。表沙汰にはしたくないので精神感応で語りかける。
「……し、調べるって?」
訝しさと恐怖ゆえか、ウェルシ様が後ずさる。
そして思念ではなく声の返答が来る。精神での会話になれてないがゆえに仕方ないか。
「ムラトさん、事情確認は今すぐではなく、落ち着いてからでも……」
「大丈夫だアサム、すぐに終わる」
俺が姫様から情報を引き出そうしてることを悟ったアサムにそう言って、ウェルシ様に目を向け意識を集中させる。
精神感応によって会話だけでなく、対象の思念や記憶も読み取ることができる。
……かつて俺達人間がなぜ怪獣に手も足もでなかったのか。
そもそもいくら怪獣が強大な破壊力を持つからと言って、わずか一年もかけず
それは恐らく、人類が認知していない能力をいくつも隠し持っていたからだ。
この精神感応がまさにそうであろう。
まず普通に考えても怪獣が精神感応を有してるなど思いつきもしない。
俺は怪獣と一体化したからこそ、そんな力を持っていることに気付くことができたが。
……もしこの能力で怪獣が人類側の思考を一方的に読み取っていたら、どうだろうか。
随時、人間達の行動や軍の戦力や作戦などの情報を読み取っていたら。
だが今は、その能力が役に立つ。異世界の人々を助けると言う目的で。……なんとも皮肉。
そして俺の脳内でウェルシ様の記憶の情景が鮮明に映し出された。
予測どうりの蛮竜どもがギルゲスの人々を無惨に食い殺す光景が。
そして彼女達がここまでに到達するまでの苦しい旅路も。
野生の小動物を狩って食い繋ぐ日々と飢え、常につきまとう魔物に遭遇しかねない恐怖、アリシアやハンナやスティアに迷惑ばかりかけていたと言う罪悪感。
……まだ幼い姫には過酷な旅であっただろう。
「事情は全て理解した、やはり俺の予測どおりだったか」
記憶を読み取り情報処理するまでに五秒と、かからなかった。
「ムラトさん、いったい何をしたんです?」
と、アサムが尋ねてきた。
まあ無理もないことだ。記憶を読み取り、わずか数秒で事情の確認を済ませたなど、普通に理解できるはずがない。
「姫様の記憶を読ませてもらった」
「……勝手に人の頭の中を覗くのはいかがなものかと」
まあ確かにアサムの言うとおり不謹慎かもしれんが俺達は常に時間と情報量が重要になる。
あらゆることを想定して備えておかなければならない。
もし出遅れれば、それだけで多大な犠牲が出かねないからだ。
「すまんな状況が状況だ、それに必要以上の記憶は探ってはいない。許してくれ」
「……それで原因とは?」
アサムに原因を告げたいところだが、まずは得た情報を副長とエリンダ様に共有すべきだろうか。
「情報をまとめたら後で伝える。今は姫様のことを頼む」
「わ、わかりました。では後で」
アサムは素直に頷くとウェルシ様とレオ様を連れて都市の中へと消えていった。
……さて、やはり崩壊原因は蛮竜だったか。
俺は姫様から得た情報を頭の中でまとめあげる、数多くの人々を食い一国を滅ぼした程だあの暴食の化け物どもの数は、千ではきくまい、多分二千かそれ以上だろうな。
数ヵ月前にも数百もの数で襲撃してきた、またここを襲う可能性も十分にありえるだろう。
「ミアナ様、先程は大変もうしわけありませんでした。感情的になって、とんでもない暴言を」
「いいのよ、気にしてないから。……それに、あなたが言ったことは大体は事実だから。わたしは何の役にもたてなかったから」
と考え込んでいると背後から声が。
怪獣の感覚器により振り返らずとも分かる。
納得がいかないながらも騒動を止めた難民の毛玉人がテントへと戻っていくなか、ミアナと彼女を罵った犬の青年が会話していることに。
「しかしながら、やはりギルゲスを許したくはありません。……奴等が侵攻さえしなげれば、国も国王様も失われず、我々も平和に暮らせていたはずなのに」
青年の涙を堪える悲痛な声が聞こえた。
「その気持ち分かるよ。でもね、怒りや憎しみをぶつける相手を違えないで。そんなことをしたら感情まかせに暴れ狂う野蛮な存在と同じになってしまう」
「……そ、そうですね。誰彼構わずに怒りをぶつけていては愚かです」
あれほどの騒動と罵りの嵐。
もしかしたら今後、ミアナと避難民の間に険悪なムードが続くんじゃないかと思ったが、その心配はなさそうだな。
こっちはこっちで一件落着と言ったところだろう。
× × ×
豪華な西洋風の屋敷。
その中には厳選された材料で製作された家具、廊下には見事な壺や絵画が飾られ、綺麗なシャンデリアが並び、技能に優れる使用人やメイド達がもくもくと仕事をする姿も。
まるで、ちょっとしたお城としか言いようがない。
だがしかし、そんな領主の屋敷の医務室はやや異質であった。
広めのその部屋にあるのは、薬品棚や四角いテーブルやベッド、それらは別に不思議なものでない。
それらに加え、いくつもの電子機器が並び人間一人が十分に入れそうな円柱型ポッドが四台も備えつけられていたのだ。
そして、その内の三台は使用中であった。
「……こ、これで三人は元気になりますの?」
ポッドの小窓を覗きこみながらウェルシは心配げに尋ねる。
三台の奇妙な装置の中は謎の溶液で満たされており、各装置内で酸素ボンベをつけたアリシアとハンナとスティアが眠りについていた。
「大丈夫でございますよ。この医療装置の中でしばらく安静にしていれば、あらゆる傷は完治し疲労なども取り払われます。ゆえにご安心ください」
そして、そんな機材を持ち込んだで本人であろうチャベックは甲高い声で自信ありげに返答するのであった。
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