謎の美少女一党
まさか魔物の群れだけでなく、変異性魔物まで現れやがるとは危なかったぜぇ。
「……ギリギリセーフだった」
長距離からの光線照射でメガロバットの群れと変異性魔物の
あともう少し遅れていたら、少なくともメイドさんかお嬢ちゃん方は間違いなく死んでいただろう。
アリシアとハンナとか言う二人には感謝せんとな。その彼女達が魔物どもを相手に粘ってくれたから、どうにか間に合ったものだ。
「ほほう、これが例の生体性のレーザー砲ですか。記録媒体で確認したとおり、かなりの高出力ですな」
そう甲高い声をあげるの頭の上にいるチャベックさんだ。しかも用意周到と言わんばかり遮光眼鏡を装備してる。
どうやらある程度、俺……いや怪獣の力を心得てるようだな。でなきゃ、あらかじめ
おそらく連合軍が、今までの怪獣の戦闘や行動の情報を密かに収集していたんだろう。
「わたくしからは視認できませんが、魔物に着弾しましたかな?」
「もちろんです。精密に照準をつけていましたから、一匹残らず殲滅しましたよ」
俺の視覚ならかなりの距離が離れていても目標を正確に視認できるが、普通の人達では当然ながら豆粒よりも小さくしか映らんだろう。
そのぐらいの長距離狙撃だった。ここまで感覚器が高機能だと、望遠鏡だ狙撃眼鏡だなど不要になる。
無論、視覚だけでなく他にも色々な能力で目標を捉えることはできるが。
「……やっぱり、あなたのその力は恐ろしいよ。ムラト」
頭の上にいる異星人とは正反対に、震えるような声を漏らしたのは俺の右手の上に乗ってるミアナ。
「……
何と言っても、この光線でミアナの友人達を粉微塵にし、そんで彼女の本物の利き手を切り飛ばしたんだ。
ミアナは、その全てを間近で見ていた。払拭できない心の傷として、一生彼女に的わり続けるだろう。
そのトラウマ……分からなくもない。
だが光線を利用しなければ、もっと言うとそんな能力を備える怪獣である俺がいなかったら確実にメイドさん方は死んでいた。
「……助けるにも、これを使うしかなかった」
「それは……分かってるわ」
恐怖を圧し殺すかのようにミアナは左手で右腕を握りしめた。
どうもこうも仕方ないことなんだ。
俺は言葉を返すことはできず、メイドさんらの所に向かうことにした。
「ひとまず彼女達のもとに向かう。あちらさんは、もう俺の姿をとらえている。……メイドさんが、顔面真っ青でこっちを見てらぁ」
彼女から見れば、遠く離れた小山の天辺から怪獣の顔が覗いてるようにしか見えんだろう。
魔物の群れに襲われて殺されかけ、魔物が突然全滅したかと思えば、今度はいきなり百メートルを越える巨大な怪物の出現。そんな風にしか感じてないだろう。
恐怖と驚愕の連続、顔から血の気が引くのは同然か。
「オボロ様だけでなく、ムラト様も研究対象に付け加えておきましょう。魔族との戦闘以降に成長なされた現在のデータは、まだ不足しておりますからな。いずれにせよ、当初よりも各生体機能は向上したはずです」
と、甲高い声。
ミアナとは違い、チャベックさんはハイテンションだ。
もう少し空気を呼んでほしいものだが、これが彼等の種族的特性ゆえに、仕方ないこと。
……どこの世界でもどこに行っても、仕方ない、どうすることもできない、で埋め尽くされているものだ。
そんな正解が無いことを考えながら、俺は足を急がせる。
「バイナルからの避難民じゃないな」
毛玉人達の難民かと思っていたが、助けたのは人間達だ。何があったかは知らんが、ひとまず保護して事情をうかがうか。
「……はぁ……ひぃ」
案の定、ゆっくりと接近する俺を見上げながらメイドさんは声にもならない悲鳴をあげ目を大きく見開きながら歯をカタカタとならす。
「やぁ……いやぁ……こんなところにも竜がぁ」
そして彼女にすがる十歳の女の子も恐怖ゆえにだろうポロポロと涙を流す。
汚れてはいるが高貴そうな服を着用してメイドさんを従えてるあたり、どっかのお嬢様だろうか?
「……よ……よるな野蛮な竜めぇ……その方に近寄るなぁ!」
そう息絶え絶えにお嬢様と俺の間に入ってきたのは、弓を持った少女ことアリシア。
翼妖獣の攻撃で受けたダメージが相当に聞いてるらしく、口角から血を溢し足を引きずっている。
呼吸音から察するに、胸骨と肋骨が数本ほどイカれているな。
「……ち、ちくしょう……こ、今度はこんなデカい化け物と」
そして剣を持っていたハンナと呼ばれていた少女も俺の前に立ちはだかる。
変異性魔物の怪音波の影響で今だに強烈な目眩がするのだろう、転倒しそうになっている。
この場にいる四人とも可愛らしい容姿だ。まさに絵に描いたような美少女達と言えるだろう。
「大丈夫だ、俺は敵じゃない。お前達を救助に来たんだ」
少女達から数十メートル程離れた位置で足を止める。
……さしあたり、まず彼女達にこちらには敵意が無いことを伝えねば。
「……りゅ……竜が喋った! 何を言ってるの、化け物を前に何が大丈夫よ」
「……敵じゃないだと……何をバカな……そんな図体で何を言ってる」
いきなり喋った俺を、アリシアとハンナは驚愕の表情で見上げてきた。
やはりな、いくら人の言葉が分かるとは言えこんな容姿じゃあ信じてくれんわな。
まあ、だからこそ彼女に来てもらったわけだ。
少女達を警戒させないように俺は、ゆっくりとしゃがみこみ右手を地面に置いた。
「安心して、本当に助けに来ただけだから」
「さあ、負傷部をお見せください応急処置をほどこしますゆえに」
ミアナと頭部から移動したチャベックさんが、手のひらから降りるなり少女達のもとへ駆け出す。
「……毛玉人、それとあれは何?」
既知の種族であるミアナを見てアリシアは一瞬落ち着いた表情をするが、だがやはり異星人たるチャベックさんには驚きを見せた。
まあ、蛸と海月を合わせたような生き物が触手をワラワラさせて地面を走ってきたら、そうもなるだろうな。
「混乱は起きてるが、実際負傷者が出たわけだから随伴を頼んだのは正解だったな」
本当なら混乱を巻き起こさないためにもチャベックさんをつれてくる予定ではなかったんだが、負傷者が出るかもしれない理由で随伴を頼んだわけだ。
「何なの、この生き物!」
「寄らないで!」
「わわわわ! ご安心ください処置をいたしますので。武器をおさめてくださいまし」
だがアリシアとハンナは近寄ってきたチャベックさんに武器を向けて威嚇する始末。
これには、せっかく処置のために来てくれたチャベックさんもたじたじだ。
「……アリシア、ハンナ、武器をおさめてくれ」
そう俺が告げると、アリシアが驚愕の表情で俺を見上げてきた。
「どうして私達の名前を?」
「お前達が魔物と戦闘を繰り広げていた時の声を察知していたんだ。……分かるだろ、お前達の危険を察知したから俺達は助けに来たんだ。もし俺達が本当に外敵だって言うんなら、お前達が魔物に襲われていることを知ったところでワザワザこんな場所まで来たりはしない。それに野蛮な化け物が、お前達の名前を覚えて呼んだりもしないだろう」
すると、名前を呼ばれたことでどこか安心感を得たのだろうか二人の少女は武器をおろした。
「……本当に信用しても良いのね?」
「ああ、俺達は敵じゃない。今はおとなしく処置を受けてくれ」
ハンナにそう返すと、二人は疲れきったように座り込みチャベックさんの処置を受け始めた。
「あなたはもしかして!」
と、突如大きな声をあげたのはミアナであった。
彼女はメイドさん達の方へと駆け寄っていた。
そしてメイドさんにしがみつく女の子見て……。
「……あなたはギルゲスの姫様」
ギルゲス! それはミアナにとって因縁深い国名であった。
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