この世界の真実

 声を用いらない精神での意思伝達。

 それによる俺の問いに、マエラさんは一拍おいてから答えてくれた。


(やっぱり気づいちゃったか……とは言え、あんなものが設置されていたんじゃ、そりゃ気づくか)


 そう言って彼女は、今だに煙がくすぶる破壊されつくした迎撃兵器にへと目をやり、降参するかのように頭を横に振る。


(ええ。そりゃあもう、大口径カノン砲だのロケット発射装置だの、あきらかに……)


 以前俺がスチームジャガーを訪れたときは、熱機関を搭載したぎこちない二足歩行重機の試運転や旧式大砲の試射(俺の体を使って)を行っていた。

 つまり、そのレベルの開発技術しかなかったはずなのだが、今現在目の前に広がるこの近代兵器の数々の設置は明らかにテクノロジーが行きすぎている。

 これ程の兵器を開発して設置できる人がいるとするなら、大陸中どこを探してもニオン副長か、あるいは異星人の集団たる連合軍の関係者くらいとしか思いつかない。

 そしてニオン副長はスチームジャガーの管轄者ではない、となればこの街に連合軍から技術提供を受けている重役がいると予想できる。

 そんな連合軍との関わりがあるとおぼしき人物は、この科学の街で権限を持って開発設置ができる立場であり優れた技術者でもあるマエラさんくらいのものだろう、と言うか彼女ぐらいしか思いつかない。

 ……なんと言っても、早期に俺が異世界存在であることを見抜く程の人なんだから。


(とは言え、ここにある迎撃システムも異星文明から比較すれば原始的のものだよ。彼等が有する、高出力電磁加速砲やレーザー水爆や宇宙合金装甲にはとても及ばない)

(……しかし超獣や大型魔獣は……それすら上回る)


 それほどまでに奴等は強大で危険。

 高度な文明と長い戦闘を続けた結果、奴等は戦闘対象にあわせ効率的に成長や変異を繰り返し、やがて手のつけられない化け物と化していく。

 ……ん? なんだ、なんか頭が少しボンヤリするな。気のせいか?

 一瞬、思考の混濁を感じたが、取り合えず俺達は話を続けた。


(その通り、小型や中型の魔獣なら今の連合軍でも対処はできるけど、大型ともなれば建造魔人でもなければ無理ね。……超獣クラスともなれば太刀打ちは不可能よ。そして、そいつらが現在になって異常に活発化してきている。連合軍が発足されてから、大型魔獣や超獣との戦闘は今までなかったんだけど……やっぱり何かこの世界にとんでもない異常が起きてるのかしら?)

(大型魔獣や超獣が頻発して出現するようになったのは、ここ最近のことでしたね。……この惑星に何かとんでもないことが隠されてるのではないかと俺は最近思うのです。この星で創造の女神リズエルが消滅し、そして三道魔将と呼ばれし超高度次元から送り込まれた自律兵器が極希に活動しているのですから)

(……ムラトくん、君はいったい何を言っているの?)


 俺の言葉にマエラさんは、キョトンとした顔で見上げて来た。

 まあ、それも仕方ないこと。彼女達が知らないことを俺は理解しているのだから。

 なぜかは分からない。だが、しかし分かるのだ。

 説明は難しいが、俺が知らなかったこと、本来は知りえないことも、なぜか知識と記憶が分からないうちに存在してきている。どこからか情報がもたらされるように。

 今まで理解不可能だったことが分かるのだ。彼女達が知らないことも。

 なんだろうか? この感じは。精神領域の融合が進んでいるのか、怪獣との。


(……どうやら、この体の精神の最深層部に存在しているであろう怪獣自身の意思が俺の知らぬ間に、この異世界せかいを観測して情報を集めて分析していたと思われます。その記録の一部が俺の意思にも共有されているのかもしれません)


 時々ではあるが意思はハッキリしているのに、俺でありながら俺でない存在が勝手に話していると思うときがある。

 今も、そうだ。俺の中に、もう一人の俺がいて、そいつが勝手に喋っているようにも感じられる、なんとも言葉にできない感覚なのだ。

 精神が混濁しているような……不快感はないが、分かるのは俺達は徐々に一つになってきていること。

 俺は怪獣になりつつあり、そして怪獣は俺になりつつある。

 自分でも何を言っているか、よく分からないが。


(……ムラトくん、お願い……少し聞かせてくれないかな。その話を)


 俺の発言を聞いてマエラさんは、精神感応による言葉を震わせた。

 そして俺は、すこし間をおいて頷く。


(ええ、答えられる範囲であれば何でも)

(さっき言った……三道魔将について聞かせて)


 それらはこの世界に神出鬼没に現れては、大災厄を振りまく正体不明の三つの怪物達と認知されている。

 そしてそれらは三道魔将と呼ばれる。しかし、それはこの世界での呼び名である。


(三道魔将とは、あなた方がつけた呼称でしたな。しかし正式名称は天達超機動兵バベル・マシン。とある存在によって女神リズエルに送られた三つの超越兵器です)

(……誰が……いえ、どんな存在がそんな物を?)


 マエラさんが震えた言葉で返してきた。


(俺には分かりません、しかし怪獣は知っているようです。天達超機動兵がこの世界に召喚された理由は、機動兵達を送った存在と神々の戦力となりうる生命体を誕生させることです)

(……神々の戦力?)

(はい。マエラさん、あなたはまだ知りませんね、この世界の真実を。いずれ訪れるであろう絶大なる脅威に対抗するために女神リズエルと邪神ギエイは強力な戦力を求め、この世界を創造し、数多くの生命を生み出し、そしてあらゆる事象をコントロールして実験し、神々の戦力となりうる超生命体の開発あるいは誕生を企てたのです)


 それを聞いてマエラさんは、顔面蒼白で何も言わなくなった。

 それは、そうだろうな。言うなれば神々が生体兵器を生み出す目的の実験場として、この世界を創造し、そしてそこに存在する万物は被験体として生み出されたと言うこと。

 つまり人間も毛玉人もエルフやドワーフや異星人達さえも生体兵器開発目的の実験体として存在しているのである。


(……して続きですが、天達超機動兵は……)

(ムラトくん、もう十分よ。……今はもう、続きはまた今度に……少し考える時間がほしいの)


 ここでマエラさんは話を中断した。

 やはり真実を理解し受け入れるので、もう思考が追い付かないのだろう。

 ……なんだか、また意識が……。


(分かりました。一先ずは、これにて。……この情報は今の俺自身にも行きすぎています。この記録は精神の深層部へと隔離します)


 ……ん? あれ俺はマエラさんと何を話してたんだっけ?

 ……意識が混濁していたような。


(あ! そうだった、マエラさんも銀河連合軍の一員だったと言う話だったな)

(む、ムラトくん? 急にどうし……)


 と、戸惑った様子でマエラさんが俺を見上げてきた。どうか、したのだろうか?


(あいえ、すみません。なんか少し頭がボンヤリしたもんで)


 まあ、一先ず話の続きだ。


(ところでマエラさん、異星人であるチャベック隊員がこの領地に容易に迎え入れられたのも、あなたが色々と段取りをしていたためですか?)


 しかしその問いに彼女の返答はなかった。

 ただただ困惑しているように俺を見つめてくる。


(大丈夫ですかマエラさん?)


 応答がないので、もう一度語りかけてみた。


(……あっ! うんそうよ。彼をエリンダ様に紹介したのは私よ、今後のことを考えて異星人達との協力は重要になると思うからね。司令の許可のもと彼にはこの領地で医療や各作業とうにあたってもらうことにしたのよ)


 と、少し間をおいてから作り笑みで返してくれた。

 なんかやっぱり様子がおかしい。いったい、どうしたのだろうか?

 とは言え、あまり女性を詮索するものではない。

 それに、まだ気になることがあるしな。


(それとマエラさん、もう一つ聞きたいのです。現在どこかで活動を停止している超獣について)

(……この銀河系最悪の超獣のことね)


 このアズマ銀河系で最も文明と生命を滅ぼしてるであろう超獣。

 恐らく、単独で銀河系の半分を滅ぼしたとされる存在。

 オボロ隊長やニオン副長も俺の知らぬ所で連合軍とは接触している。無論、その時に得た情報は俺も共有している。


(はい。大凶獣だいきょうじゅうジェノラについて) 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る