破壊の雷
相手が大型魔獣ゆえに通常兵器では、ほとんどダメージが与えられないことは分かっていたが……。
「これじゃあ、飛び道具みたいな遠隔攻撃が通用しないじゃない」
予想を上回る魔獣の力にマエラは忌々しげに、モニターを見上げる。
「パァオォォォン!」
まるで人類の発明品を嘲笑うかのようにエンボルゲイノは無傷の体で地上を見下ろして咆哮していた。
星外魔獣のような超絶生物は、人類や魔物や延いては魔族のような通常生物とは違い既存の武器や兵器での打倒はかなり困難を極める。
しかもそれは、あくまでも小型の魔獣までの話。
大型魔獣や超獣ともなれば、もはや今の人類では太刀打ちなど不可能である。
奴等になぜ通常兵器が通用しないのかは、いくつか理由がある。
その一つとしては、ずば抜けた生命力に加えて、個体によって差はあれど凄まじい再生能力を有しているからだろう。
仮に損傷を与えることができても、たちまちに体組織を修復してしまうからだ。
そして最もな要因は、その肉体の強靭さゆえに通常兵器では傷付けることができないことである。
魔獣も超獣も肉体の構成主成分が異質なもので、通常生物とは全く異なっているのだ。
「……どうしよう、もう」
マエラはなすすべなく頭をかきむしる。
治るし、堅いし、それに加えてバリアのような障壁を展開するなど。
ここまでの生体防御システムを有していようとは思いもしなかった。
ダメージが与えられないのはまだしも、これでは痛みなどで怯ませることすらできない。
だが、しかし今は嘆いている場合ではない。
「通用しなくてもいいから、どうにか気をひいて足止めしなくちゃ」
もとより倒すことなど無理なのだ。
星外魔獣と対等にやりあえるのは、オボロのような超体質の
そんな奴等はこの惑星どこを探しても、石カブトだけである。
なら今やるべきは、彼等が到着するまでエンボルゲイノを足止めすることだ。
「反撃される前に!」
そう言ってマエラは、またコンソールをいじくり各砲台や発射装置に再攻撃命令を出した。
して再びモニターに映し出されている魔獣は爆炎と黒煙に包み込まれる。
無論のこと、一切ダメージは与えられてないだろうが。
「……足止めが持つといいんだけど」
と、いきなりに制御室内に警告音が鳴り響いた。
それは危険を報せるものではないが、しかし突如として勢いよく火を吹いていた迎撃兵器がおさまった。
「しまった、弾切れ!」
あれだけの砲撃を矢継ぎ早に行えば、弾薬もすぐにつきてしまうものである。
「くそう私としたことが、もう少し考えて撃つべきだった。とにかく給弾を」
ただただ全砲で継続して砲撃するのではなく、交互に砲撃を繰り返し、互いの迎撃システムの再装填時間を確保し続けるべきだった。
「……やっぱり、戦闘にはなれてないわね」
言い訳になるかもしれないが研究員のため、戦闘の訓練や経験の不足は仕方ないものだ。
それに何よりも、あまりにも魔獣が予想外すぎたからであろう。
魔獣が姿を遮蔽しての襲来など予測できるはずもなく、もっと事前に魔獣の接近が察知できていれば、万全な備えもできて冷静に立ち回れたはず。
すると、そんな切羽詰まっているなか部屋の自動扉が開き小柄な女性が入室してきた。
「マエラ! こんなところで何してんの、早くシェルターに……何この部屋?」
彼女のその容姿は成人でありながら、幼い女の子にしか見えない。
それはマエラの姉であり、この街の最高責任者であるマイルであった。
いきなり入ってきた幼女のような女性は、マエラが密かに設置した室内を困惑気に見渡した。
「ちょっ! 姉さん、この部屋に入っちゃダメって言ったでしょ」
ガボガボの白衣を引きずりながら寄ってくる姉を一声叱責すると、マエラはそれどころではないと言わんばかりに慌ててコンソールを制御する。
リロード中だと言うのに、エンボルゲイノが何か行動を始めようとしていたからだ。
魔獣の全身の大半は発電細胞で構成されているのか、その巨体から青白い火花が散っている。
「……せ、星外魔獣。空をとんでるの?」
モニター越しに初めて大型魔獣を視認したマイルは驚愕の声をあげる。
……あれほどの巨体が、いかなる原理で浮遊しているのかと。
「……たぶんイオノクラフトよ。強力なイオン風を発生させて静音で飛行しているわ」
マエラは給弾が終わるのを今か今かと思うなか、姉の問いに答えた。
すると、モニターに映るエンボルゲイノがパッと眩い光を発した。
そして次の瞬間、ブツンと電源が落ちたかのようにモニターが消え、稼働していたコンソールや周辺機器が停止し、照明もなくなり室内は暗闇に包まれた。
「ひぃっ!」
いきなりに真っ暗になったためか、マイルは思わず小さな悲鳴を上げて妹の腰の辺りにしがみつく。
「……まさか
マエラはしがみついてきた姉を宥めるように小さな頭を撫でながら暗闇の中で表情を歪ませる。
高度センサーを掻い潜る隠密性、遠隔攻撃を無効化にするバリア、そして今度は電子機器に致命的な損傷を与える電子的な攻撃であった。
魔獣は確かに通常生物には見られない特殊能力を有した個体がほとんどだが、ここまで高い複合的な能力を持つ魔獣は初めてである。
もはや電子機器等は機能しないだろう、おかげで部屋の自動扉も駄目になり二人は室内に閉じ込められることとなった。
パルス状の大電流を発したエンボルゲイノは、ゆっくりとした様子で地上へと着陸した。
いかに低速で降りたとは言え、六十メートルもの巨体が大地に接触するわけだから一帯に振動が伝わり、鈍い大音量が響き渡る。
「ピィギャアァァァァ!」
集中砲火はもうないため、エンボルゲイノの鳴き声が鮮明に空間を駆け巡る。
先程まで激しく砲撃していた、砲台やロケット弾発射装置は動力を断たれたが如く虚しく沈黙していた。
電磁衝撃波によって電子機器を破壊されたそれらは、もう稼働することはない、こうなればもはやただの的である。
「パァオォォォン!」
エンボルゲイノが再び咆哮すると、頭部に備わる先端が二股に分かれた触覚から轟音とともに枝分かれした閃光が放たれた。
魔獣の触覚から放たれた大電流は目の前のロケット弾発射装置に直撃し粉々に爆散せしめた。
して今度は顔の向きを変え砲台に大電流を放つ、これもまた爆炎とともに消え去った。
「ピィギャアァァァァ!」
するとエンボルゲイノは背部からワイヤーの様に細い三対の触手を伸ばすと、それらを周囲の砲台や発射装置に巻き付けた。
そして、その細い触手を通して強力な電撃が送り込まれた。
途端に迎撃兵器は粉微塵に爆散、そしてそれが合図になったが如くエンボルゲイノは頭部触覚から放電砲を連続で放ち、触手を巻き付けての電撃も合わせた攻撃により、周囲に展開されていた迎撃システム群の全てを破壊し尽くした。
たちまちに辺り一帯が紅蓮の炎に包み込まれる。
「パァオォォォン!」
そして燃え盛る炎の中、一キロ程先にある街に目を向ける。
目的地……いや獲物であろう、そこを目指してその巨体を前進させた。
もはや獲物に逃げ道はないと考えたのか、イオノクラフトで飛行することもなく、一歩一歩重々しく詰め寄る。
そして炎上する中を通り抜けた時であった、突如として地面が揺れだした。
「ピィギャアァァァァ?」
いきなりのことゆえにかエンボルゲイノは動きを止める。
して次の瞬間、魔獣の前方の大地が引き裂け、轟音とともに大量の土砂が舞う。
「ゴォアァァァァァァ!!」
その雄叫びは魔獣よりも大きく、地面を叩き割り土煙を纏いながらエンボルゲイノを凌ぐ、暗緑色の巨体が現れた。
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