邪神が来たる
それは、まさに夢の動力源と言えるだろう。
空間を膨大なエネルギーに変換することで、事実上無尽蔵にエネルギーを供給することが可能なのだから。
しかし空間からエネルギーを汲み上げる機関など、そんなものは本来、机上の空論、夢のまた夢の技術、としか言いようがない。
高度なテクノロジーを誇る異星人達から見ても、現実的でない空想的なものとしか思わないのだ。
……だがしかし、実在するのであれば、いやっ現実に存在してしまった以上、妄想の産物とはもう言えない。
ゆえに、ハクラも副司令もリミールも驚きを隠せないのだろう。
「オボロ様の、あの常識を超越した生命力と肉体と戦闘能力の秘訣は、このエネルギー生成機能によるものです」
それに引き換え、チャベックは喜びと興奮する様を崩さない。好奇心と知識欲ゆえにだろう。
薄暗い部屋の中、モニターに映るハクラ達を見ながらチョコクッキーを掴む触手を大きく振って語る。
「それによって生み出される
そう言ってチャベックは触手で持っていたクッキーをサクサクと食す。
「だが、いくら超人とは言え、個の生物にそこまでの能力が……」
モニターに映るリミールが、やや重々しげに口を開く。
ある種の相転移炉。そんな夢のような半永久機関が実在していることも驚愕ものなのだが、やはり注目すべきは、そのようなエネルギー生成機能を生体領域で有していること。
彼女は、そのことを取り上げたいのだろう。
「うむ、たしかに信じがたいことではありましょうが、解析の結果が全てであり事実でございます。おとなしく、現実を受け入れるとしましょう」
唖然とするリミールをモニターごしに確認しても、やはりチャベックは高揚した口調。
お互い知的生命ではあるが、この温度差はやはり性質の違いからである。
無論、どちらもけして悪いわけではない。
リミールは自分達の技術水準を超越したことを、肉体で発現していることに愕然としているだけ。
チャベックは新しい発見に喜んでいるだけ、なのだから。
「まあ、いずれにせよ。引き続き、オボロの分析と研究を頼むぞ、チャベック」
そして気を取り直したのか、モニター向こうのハクラが顔をあげ、くぐもった声を発する。
オボロの超人の秘密について、今はそれについて議論してる場合ではないのだ。
今やるべきことは、ヴァナルガンの分析やそれらの後始末。無論、オボロの分析等は継続するが。
それは、みな理解していた。
「だが、得られた情報は厳重管理だ。いいな」
「了解でございます、司令」
してチャベックは、その指示を承諾した。
意気揚々とした様子ではあるが、もちろんのこと彼はけして新しい発見に、ただ浮かれているだけではない。
チャベックも自分なりに重く受け止めているつもりである。
この情報が外部に露見すれば、何が起きるか分からない。
人が間違ったことをしなければ、科学技術は悪さをしない。
しかし原理が分からないものを表沙汰にして良いわけがないのだ。仕組みが理解できないとは、制御の仕方が分からないと言う意味合いなのだから。
……それだけに利益にも危険にも繋がる。重大な任務なのだ。
「それにしても、これは本当に素晴らしい」
そして一先ずは連絡のやりとりを終え、安堵したようにチャベックは再びクッキーを口に運ぶ。
「チャベック、あなたさっきから何を食べてるの?」
一応のこと話題が収まったがためか、リミールも落ち着きを取り戻したようでモニター向こうから問いかけた。
容姿や性質は違えど、ハクラの組織に拾われた者同士。今は二人とも仲間なのだ。
ゆえに任務外の会話も普通にあるものである。
「これはクッキーと言う、焼き菓子でございます。アサム様の手作りで、とても美味なるものです」
「興味深いな。よかったら今度、持ってきてほしい」
「分かりました、アサム様に頼んでみます。……ところで」
チャベックはクッキーを食べる触手を止め、そしてモニター向こうのハクラ達に問いかけるのであった。
「後ろにおられるのは、どなたですかな?」
いつからいたのだろうか?
モニターごしのチャベックの言葉を聞いて振り返った三人の視線の先にそれはいた。
ブリッジの出入口の自動開閉式扉の傍らの壁に寄りかかり、腕を組む姿が。
「侵入者か!」
瞬間、ハクラは腰から拳銃を抜きその銃口を佇む不気味な姿に向ける。
咄嗟のことに副司令とリミールが硬直するなか、さすがは司令官と言えるだけの判断の早さであろう。
常在戦場の心構えがあってこそ、できそうなことだ。
「貴様は何者だ!」
カチャリと音を鳴らしてハクラはトリガーに指をかけた。
彼が使う拳銃は見た目こそ
そしてハクラはいつでも発砲可能な状態で、その存在に問いかけた。
……その姿、既知のどの異星人とも当てはまらない。ましてや、この惑星の種族でないのも確実。
佇むその容姿は、あまりにも禍々しいものである。
全身は漆黒の表皮なのかあるいは何かの生体的スーツを着ているのか、その身の長は二メートル半はあり筋肉質な体型、そして骨質のような仮面と外殻で顔と体の各所が覆われていた。
「……いったいなんなの? まるで悪魔」
その姿を見て副司令が初めて漏らした言葉。
彼女の言う通り、その存在の容姿を説明するなら、ドクロの悪魔が妥当であろう。
「ふっ、お前にそう言われるとはな」
そのドクロの悪魔は鼻で笑うと、骨質の仮面の眼窩の奥で真っ赤に輝く目を副司令に向けた。
「……うっ」
そのあまりにも禍々しい姿に視線を向けられたのだ、思わず副司令は後ずさる。
気配と言えばよいか、あるいは言葉にできないある種の重圧か、そのドクロの悪魔が普通の存在でないことを証明しているのだ。
「……お前まさか」
副司令とリミールが悪魔のごとき存在感で身を震わせるなか、ハクラは落ち着いた様子で拳銃を下ろした。
その声と言葉で、このドクロの悪魔が何者なのか理解できたのだ。
「ギエイか」
その名が告げられた時、一気にその場が氷ついた。
「まさか!」
そして耐えきれないように思わずリミールは声をあげた。
ギエイ。その名を知るのは、極一部の者達だけ。
ハクラは高度なテクノロジーを用いることで超存在との接触を実現したとは言うが、それでもそれについて信じる者は今だに少ない。
リミール自身も、その件はただの冗談と思っていた。
司令官は偉大な科学者にして指導者、しかし神秘などの非科学的な要素も重んじる変わり者の面もある、それが連合軍内での見方である。
無論、それでもその実績やカリスマ性ゆえにほとんど者達は彼に絶大の信用を寄せていることにはかわりないが。
「……神だと」
リミールは声を震わせる。
そんな非現実的なものが存在するなど、認めたくないように。
「そうだ、俺は神だ。とは言え、悪しき邪神だがな」
そう言ってギエイは、今度はリミールに視線を向けた。
その目は赤く発光しているが、まるで底が見えない闇のようである。
科学で説明できない力でも発揮されているのかように、邪神の目を見たリミールは金縛りのごとく動けなくなった。
「ギエイ、直接的に対面するのは初めてだな。今になって、どういうつもりだ?」
二人が氷つくなかハクラだけは、いつも通りの様子で拳銃を腰に戻し、邪神に向かって一歩進みでた。
まるで対等の者同士が会話を交わすような様子で。
「情報の提供に来たと言っておこう、何故にこうも大型魔獣や超獣が多発的に出現したのかを」
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