魔人達の反撃

 至るところが焼け焦げた強靭すぎる肉体から血を滴らせて超人は、ヴァナルガンを指差した。


「さあ、往生しやがれ。オレの巨根いちもつに懺悔しな、ふぃ~っ、ひ、ひ、ひ、ひ」


 大気圏外から生身で落下したことで、身体だけでなく頭にも相当なダメージが来ているのだろう。

 オボロの左目は焦点が合わずあらぬ方向を見ており、口角がつり上がりヨダレを垂らしながらヘラヘラと笑っている。

 そして意識がハッキリしているのかも分からない言動であった。


(オボロ、来るぞ!)


 そんなありさまなのだ、ハクラの言葉も届くはずもなく。


「ジュオッ!」


 ヴァナルガンの右肩部装甲に備わる砲口から、青白く輝く塊が一発放たれた。

 殺したと思っていた、しつこい難敵が無防備すぎる姿で後方に突っ立ているのだ。

 今度こそ息の根を止めるためにも、躊躇なく超獣が破壊光弾を発射してくるのは当然である。


「Fooooooooo!?」


 射出された高熱プラズマの塊はオボロの間近に着弾。

 発生したすさまじい爆炎と爆風によって超人の身体は上空へと舞い上がる。

 普通なら跡形もなく粉微塵になるのだろうが、オボロは悲鳴ではなく奇声をあげる程度のダメージしか受けなかったようだ。


(今が好機だ、攻撃しろ!)


 そして吹っ飛ばされたオボロのことなど気にした風もなく、二体の魔人の人工頭脳にハクラの言葉が響き渡る。

 後方にいたオボロを攻撃したと言うことは、ヴァナルガンは魔人達に背を向けていることを意味している。

 この隙を見逃す程、誰も間抜けではない。


(クサマ、誘導弾発射!)

「ン゙マッ!」


 遠く離れたナルミからの声紋コントローラによる指示に従い、クサマは両肩部の装甲を展開して十機近い誘導弾を発射した。

 クサマの人工頭脳による脳波で制御された誘導弾は音速を越えて正確に超獣に向かう。


「ジュオォォォ!」


 しかしながら超獣の反応速度と敏捷性も凄まじいもの。

 複数の誘導弾の接近を瞬時に察知して、ヴァナルガンは六万トン以上の巨体でありながら素早く振り返り、両腕を交差させて防御姿勢をとる。

 クサマから発射された複数の誘導弾は迷うことなく超獣の交差させた腕へと着弾し、爆炎をあげながら轟音を響かせる。

 しかしヴァナルガンの前腕部とて装甲に覆われているのだダメージなど殆どない。

 だが本命はクサマの誘導弾ではなかった。

 この第一波の誘導弾は超獣の動きを封じるためのもの。

 ……そして。


「ジュオッ!」

 

 クサマが発射した誘導弾から少し遅れてやって来た第二波の飛翔体に向けて、ヴァナルガンは迎撃の電磁加速機関砲を連続発射するが徹甲弾は全て飛翔体に弾かれる。


(無駄だ。シキシマの拳は特に強固に作り込んである)


 ハクラのその言葉が誰に向けられたものかは分からないが、彼の言う通り第二波の飛翔体はシキシマの高速の分離鉄拳(所謂ロケットパンチ)である。

 シキシマの装甲材質はアストロチタニウム合金と言うもの。

 別天体に存在する希少物質を含有させ、さらに特殊な環境で精錬された合金であり、恐るべき程に堅牢なのだ。

 ゆえに通常兵装はおろか、強力な電磁加速砲でも傷つけることさえ不可能である。

 今までヴァナルガンの攻撃を受けても一切ダメージがなかったシキシマの防御力の秘密は装甲コレである。

 そして、その超堅牢な右鉄拳も電磁加速砲の砲弾を弾き返しながら超高速で超獣の防御している腕に激突する。


「ジュオォォォアッ!?」


 響き渡るは大気を揺るがす破壊音と超獣の叫び。

 超獣の強固な装甲も、さすがに魔人の鉄拳には勝てずに砕け散る。

 しかしシキシマの攻撃はまだ終わらない。

 腕は二つあるのだ。つまり次に飛来したのは左の鉄拳である。

 さきの右拳による攻撃でヴァナルガンの両腕は滅茶苦茶に破壊されているため、もはや防御することは叶わない。


「ジュオッ!」


 少しでもまともな直撃を避けるためか、ヴァナルガンは身を傾けた。

 そして、また破壊音。金属を引っ掻くような甲高いものが混じる。

 シキシマの左鉄拳は、超獣の右脇腹を大きく削ぎ落とした。

 破損したヴァナルガンの脇腹から、無機質な機械的な内臓はらわたが飛び散る。


(再生を許すな、破損した部位を狙え!)


 そしてすぐさまハクラの的確な指示が告げられる。

 超獣の全身は高強度な装甲で覆われている、なら損傷して装甲がなくなった部位を狙うのは当然である。


「ガァオォォォン!」


 返事するがごくとシキシマは叫ぶと、飛翔して帰還した両拳を再装着。

 そして腹部のシャッターのような部位を開放する。

 そこから機械音を鳴らしながら頭を出したのは、大型の魚雷。


(対巨獣水陸両用魚雷!)

「ガァオン!」


 ハクラの言葉に合わせてか、シキシマは発射準備を整える。


「ジュオォォォ!」


 しかしヴァナルガンもノロマではない。

 あの巨大な弾頭を破損した部位に食らうのは不味いと考えたのだろう、足底部スラスターを噴射させた。

 両腕が破壊されたことで防御が困難ゆえに、素早く動き続けて損傷部が修復するまで回避に専念する魂胆なのだろう。

 だが、それをハクラが許すはずもなく。


(オボロ、援護を頼む)


 その頼みの先は、吹っ飛ばされて地面に転がっていた全裸の熊。


「まかせておけ。巨漢だいのおとこの武器は遥か昔から、度胸と我慢とチ○ポて決まってんだ。いえぇぇぇぇアッ! チン○ンを足らしめる三種の神器は、陰茎さお陰嚢ふくろ金玉たま、これ鉄則!」


 オボロはムクリと立ち上がるなり、ハクラの指示に従うように走り出した。

 巨根をブラブラさせながら超獣に向かって。

 ……しかしながら、今だに思考は異常をきたしているようである。


「Fooooooooo !!」


 駆けるオボロは奇声を響かせるなり大きく跳躍。

 ヴァナルガンの後頭部に取りついた。

 そして手足の爪を装甲のわずかな隙間に引っ掻け、壁を這う蜘蛛のような動きで超獣の顔面へと移動していく。


「ジュオォォォッ!?」


 なにかが、へばりついていることを感知したのだろう。

 ヴァナルガンは頭部を振ったり、体を激しく動かす。


「こんちわー」


 そして暴れる超獣に振り払われないようにしがみついてオボロは奴の顔面に到着するなり、紅く輝く複眼を覗き込むなり殴り付けた。

 ヴァナルガンに痛覚はないため痛みで怯ませることはできないが、しかしその動きを阻害するには十分であった。


(よぉし、クサマ! あたし達も援護するよぉ!)

「ン゙マッシ!」


 気合いの入ったナルミの命令を受け、既に装填済みであった誘導弾を五機放つクサマ。

 精密に制御された誘導弾は狂うことなく、ヴァナルガンのスラスターである足底部付近と、ついでに頭部に着弾した。

 爆発の影響でスラスターの噴射が停止し、頭部の着弾で一瞬とは言え超獣の動きが止まる。


「プギャアァァァァァ!!」


 ……そしてヴァナルガンの顔面にへばりついていたオボロは悲鳴をあげながら吹っ飛んだ。

 誘導弾の直撃で死ぬような御人おかたではないため、ナルミもクサマも躊躇せずに攻撃を加えたのだろう。


「ガァオォォォン!」


 もはや十分すぎるほどにヴァナルガンの動きは妨害できている。

 あとは整えた兵装をシキシマが撃ち出すのみ。

 いつでも発射可能を伝えるかのように魔人は叫ぶ。


(いようし、魚雷発射!)


 そしてハクラの発射指示を受けて、その巨大な兵器が炎を噴射して放たれた。

 迷うことなく葉巻状の物体が超獣に向かう。

 大型の上に魚雷のためか、速いとは言え音速には及ばない。

 ハクラがオボロに援護を依頼したり、ナルミとクサマが追加で攻撃したのは十分に納得がいく。

 何も無しに発射しようものなら、間違いなく避けられたか、迎撃されていただろう。

 そして大型魚雷はヴァナルガンの損傷部である脇腹に着弾。

 クサマの誘導弾を遥かに凌ぐ爆炎、爆音、爆風を生み出し、超獣の体の一部たる無機質な生体部品を大量に飛散させた。

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