巨大なる激闘
機械仕掛けの魔人と金属の怪物が臨戦態勢のまま睨み合う。
お互いの距離は、およそ五百メートル。
そして、シキシマはいつでも鉄拳を打ち込めるように、ヴァナルガンはいつでも電離体刀を振れるように、二体は身構えて大地を大きく揺らしながら少しずつ間合いを詰めていく。
パワーならシキシマだが、質量はヴァナルガンの方が上。
格闘戦となった場合、どちらが勝つかなど予想がつかない……。
そんな中、先に変化があったのはヴァナルガンであった。
しかしながら、その変化とは体の動きなどではなく、原子熱線砲の一撃を食らった肩部装甲の損傷箇所の形状が流動的に変形している、と言うもの。
「ガァオ!」
何かに気づいたのか、シキシマは突如駆け出した。
そして猛烈な勢いで接近し、超獣の間合いに入るなり殴り付けようと右鉄拳を振り上げる。
「ジュオォォォ!」
それに対しヴァナルガンも急接近してきた魔人を迎撃しようと、右の電離体刀を降りおろした。
とっさにシキシマは振り上げてない左腕で、その斬撃を防御する。
シキシマの左前腕とヴァナルガンのビームサーベルがぶつかり、バリバリと火花が散る。
「グオォォォン!」
もちろんのこと超獣の電離体刀がシキシマの装甲に接触しているわけではない。
電磁力場形成装置によって前腕部に電磁障壁を発生させ、その一種のバリアーで電離体刀を受け止めたのだ。
ヴァナルガンも電磁障壁で電離体刀を固定しているため、互いに反発しているのである。
しかしながら、ヴァナルガンの一撃は相当に重かったのだろう、シキシマの両足が地面にややメリ込んだ。
やはり、質量の差である。
「ガァオォォォン!」
だが怯まずにシキシマは反撃に出た。
その凄まじいパワーを遺憾なく発揮し、斬撃を受け止めている左腕で電離体刀を力任せに弾き飛ばす。
やはり単純なパワーは、魔人に軍配が上がった。
「ジュオ?」
その反動でヴァナルガンは大きくよろけた。
そしてその隙を見逃さず、魔人は超獣の胴体に鉄拳を叩き込もうとする。
狙いは、さきほどの拳による攻撃で大きくひしゃげている部分だ。
大きく損傷しているため、この一撃で完全に装甲を破壊できるだろう。
「ジュオォォォ!」
しかしヴァナルガンはとっさに足底部から推進力となるプラズマを一気に噴射させ、急速に後退してシキシマの鉄拳を回避した。
すぐれた判断力と反応速度に加え、巨体にあるまじき機動力である。
……そして、それだけではなかった。
それにナルミも気づいた。
巨体同士の一瞬のぶつかり合い、その最中に後退したヴァナルガンの損傷していた部位を見て彼女は驚愕する。
「……破損した箇所が」
シキシマの原子熱線砲と鉄拳によって破損していた肩部装甲と胴体部が流動的に変形しながら、再生を始めていたのだ。
そして頭の中にハクラの言葉が響き渡る。
(
機械的な見た目ながら、機械にあるまじき機能である。
機械であり生物なのか、あるいは生物でありながら金属なのか。
……超獣も生物である。
生命体を生命体たらしめる基準、と言うものが分からなくなってくる。
……それに現在戦闘中の建造魔人達だって、生物である。
だが今はそんな生命の真理を考えている場合ではない。
ナルミは傍らで誘導弾を装填し終えたクサマを見上げた。
「よおし、クサマ! シキシマを援護するよ」
懐中時計型コントローラを介さずナルミは声を張り上げた。
「ン゙マッ!」
言わずもがな、クサマはその指示に応じた。
両腕と片足を失ってはいるが、両肩部に備わる誘導弾発射器は健在。
十分に攻撃は可能である。
轟音とともに八機の誘導弾が発射され、音速を越えて吸い込まれるように超獣に向かっていく。
「ジュオォォォ」
だがヴァナルガンは鈍くはない。
接近してくる飛翔体を瞬時に察知したらしく、すぐさま頭部の電磁加速機関砲を連続発射させ、精密にクサマが放った誘導弾の全てを迎撃せしめた。
空中で無数の爆炎が上がり、黒煙に埋め尽くされる。
誘導弾は撃ち落とされた、しかしヴァナルガンに隙を作ることはできていた。
「グオォォォン!」
咆哮して駆け出したシキシマが黒煙の中を突っ切る。
そして誘導弾の迎撃によって接近戦への構えができていない超獣にタックルをきめた。
「うあっ!」
金属の巨体同士が激突する大音量に思わずナルミは耳を押さえる。
「……ジュオッ!」
そして、またヴァナルガンは大きく後ろに下がる。
その金属の両前腕部の装甲には亀裂が入っていた。
シキシマのタックルを再生途上の胴体に食らうのは不味いと考え、とっさに両腕で防御したのだろう。
シキシマとヴァナルガンでは質量に十倍以上の差があるのだ、それゆえやはり一撃で致命傷を与えるのは難しいものである。
「ジュオォォォ!」
そしてヴァナルガンはシキシマではなく、その海洋戦人の後方にいるクサマとナルミに顔を向けた。
支援攻撃を仕掛けてくる目障りな存在を先に始末したほうが得策と思ったのか、頭部の電磁加速機関砲の照準が二人につけられる。
「ガァオォォォン!」
それにいち早く気づいたシキシマは二人の元に駆けつけ、両腕を交差させ電磁障壁を展開しナルミを覆い隠すように身構えた。
牽制や迎撃用の兵装のためクサマなら耐えられるだろうが、ナルミは生身の人間。一発だって耐えられない。
そして轟音を伴いながら無数の砲弾が放たれた。
「グオォォォン」
しかしシキシマの電磁障壁は、より強力な破壊光弾を防ぐことができるのだ。
今さら電磁加速機関砲など、通用するはずもなく。
硬質徹甲弾は次々と弾かれる。
「ありがとう、シキシマ」
「ガァオ」
背後で礼を告げるナルミに、無機質な反応ではあるがシキシマは応じる。
「ジュオォォォ!」
するとヴァナルガンは機関砲を連射させながら足底部と背部のスラスターを噴射させた。
そして一気にシキシマに接近し、右フックで殴り飛ばした。
……さすがにシキシマと言えど、仲間を庇いながら戦うのには無理があった。
「ガァオォォォ!」
シキシマの巨体が左方向に吹っ飛び数百メートルにも渡り転がった。
超獣のスラスターの加速力の勢いも合わさり、五千トンにもなるシキシマが吹っ飛ぶ程の打撃力になったのだろう。
「シキシマ!」
心配のあまりナルミは吹っ飛んだ方を眺めて叫んだ。
だがシキシマは何事もなかったかのように立ち上がり、ヴァナルガンに顔を向けた。
装甲に傷などはなく、相当に防御力が高いのが分かる。
「ン゙マッ!」
すると突如、金属同士がぶつかる音が響き渡り、大地が大きく揺れ動いた。
ヴァナルガンがほぼ身動きがとれないクサマを蹴り飛ばしていたのだ。
やはり邪魔な支援攻撃を仕掛けてくる存在を先に潰そうと言う考えなのだろう。
「ジュオォォォ!」
そして今度は、その機械的に発光する複眼でナルミを見下ろした。
超獣の猛禽類のような巨大な金属の足が持ち上がる。
「……ヤバイ!」
踏み潰される、と咄嗟に判断したナルミはその場から跳躍した。
オボロやニオンのせいで隠れがちだが、ナルミも並外れた身体能力をもっているのだ。
案の定、巨大な足が大地に食い込む。
なんとか踏みつけを回避したナルミは地に着地するなり、超獣の巨体を見上げる。
「あっ!」
そして気づいた時には、もう既にヴァナルガンの電磁加速機関砲の照準を当てられていた。
その大男は一心不乱に夜の森の中を走っていた。
男は全裸で身体中に深い傷と重度の火傷がある。
全身余すところなくズタボロであった。
「ナルミ! クサマ! 今、助けに行くぞぉ、Fooooooooo!!」
夜の森に奇声が木霊する。
その男の突き進む姿の前では、猪突猛進と言う言葉さえ可愛く思えるだろう。
藪を吹き飛ばし、樹木を突進で根本からへし折って突き進む。
障害物など無意味としか言いようがない。
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