世は超人を中心にして回る
……神々は何故に世界を作り上げ、そこに多種多様な生命を生み出したのか?
ある神は娯楽のためにであった。
世界を作り上げ、そこに勇者、冒険者、魔王、モンスターを生み出して解き放った。
彼等は駒のごとく、戦い、冒険し、勝ち、負け、死んでいく。
そして神は気分にまかせ、そんなちんけな駒達に干渉して、助けたり、殺したりもする。
まさに
また別の神は己と交流するに足る知性体の誕生を望んで、資格ある優秀な者に恩恵と試練を与えて育もうとしていた。
……しかしそんな中、とある邪神は異端な事をしていた。
彼は唯一所有する世界に、あらゆる存在をぶちこんで、かき混ぜて、煮込んだ。
無論その世は混沌に至り、そして遂には神でも制御できない異常世界に変わり果ててしまった。
その結果、転生者は世と共存できない魔族に成りはてると言う世界の仕組みの異常がおき、そして邪神すらも危険視する程の戦闘能力をもった制御不能の宇宙の怪物が発生した。
……しかしそんなになっても邪神は目的をはたすため、あの手この手を企てた。
彼の目的はただ一つ、究極の生命体を誕生させることであった。
『優秀な戦士は鍛練によって作られる。偉大なる英雄は神によって生み出される。……だから何だと言うんだ。俺が求めるのは、魔王を打ち負かし世界を救う勇者ではない。……神々の戦力となりうる究極とも言える戦闘生物の誕生だ!』
『最低でも丸腰で魔王数百体なぶり殺しできるような強さを持った存在でないと駄目だ! そして、それからが成長の始まりだ』
『幾度も英雄や魔王を作って競わせたが、まるで進歩がない。……どうしたものか、時間が無制限にあるわけでもないんだぞ。……ん? なんだ、あの熊の毛玉人は』
『面白いなぁ。あの毛玉人、見込みがありそうだ。……そうだ! 良いことを思い付いた。次に生み出す魔王に飛びっきりのチートをくれてやろう。そして、その魔王の勢力が全盛期に至った時に当て馬としてあの毛玉人にぶつけてみるか』
『……この
レッサーパンダの少女は必死になって幾度も詠唱を行った。
魔力を持つ者の特権たる魔術を行使するためにも。
……だがしかし。
「……はぁ……はぁ……どうして? 何で魔術が発現しないの」
ミアナは疲れて両膝を地につけた。けして魔力を大量に消費したから疲弊したのではない。
ただ幾度も無意味な大声を張り上げていたからなのだ。
(もう、やめておけ。体力と時間の無駄だ)
少女の頭に響き渡るは冷たげな言葉であった。
(諦めろ。お前は、体内のオド=ナトロムを……つまりは魔力そのものを破壊されたんだ。お前は、もう魔術士としては終わりなんだ)
ハクラが伝える現実の言葉。それは彼女にとって、死刑宣告にも近いような重い内容であった。
ミアナは、その言葉に何も反論できない。
科学的な理屈など分からないし、信じたくもない。
しかし実際に魔術の発現はおろか魔粒子の収束も起きてないのだ。
それはつまり魔術士としての自分は死んだ事を意味しているとしか言いようがない。
「……くっ……うぅ……」
少女は悲しげに声を震わせた。
心に押し寄せるのは、得体の知れなさによる困惑と魔力を失った挫折感が入り交じったものであった。
今まで一心不乱に磨きあげていたもの全てが壊されたのだ。
「ミアナ、お前はもう帰ってろ」
そんな落胆するミアナの様子を見て、オボロはそれしか言えなかった。
自分は魔術士ではないのだ、だからこそ今の彼女の気持ちを全て理解するなどできない。
なら余計な励ましなど無用であろう。
(迎えは呼んでおいた。オボロの言う通り、今は帰った方がいい)
「オボロさん……あの、これはいったい?」
そうハクラの言葉が終えると、タイミングを見計らったように可愛らしい声が響いた。
声がした方に振り向くオボロとチャベックの視線の先にいたのはベーンに股がったアサムであった。
「アサム、何でここに?」
「いきなり頭の中に言葉が響いて、ここに来てほしいと」
オボロの問いにアサムはベーンの背中から降りながら答えた。
「あの……これはいったい?」
そして地に足をつけると困惑した表情でチャベックと座り込むミアナに目を向ける。
異星人と力なくうつ向く少女魔導士、さらにとおくでは宇宙の魔獣を回収しようとしている巨大な揚陸艇が二隻。
そんな光景を見れば誰だって唖然とするだろう。
(アサム、だったな。……数少ない
するとまた頭の中に言葉が響き渡る。
先程アサムが言っていた頭の中に言葉が伝わってくると言う現象、今そんなことができるのは彼ぐらいしかいないだろう。
(創造の女神が消滅した時の余波による災禍)
するとハクラのその言葉を聞いてアサムは驚いたように声を震わせる。
「どうして、それを? あなたはいったい」
「さっきから何を言ってるだ?」
二人のやり取りを聞いてオボロが不意に口をはさんできた。
(いや、今は関係のないことだ。アサム、その魔術士のお嬢ちゃんを連れ帰ってくれ)
しかしハクラは超人の問いには答えず、アサムに淡々と指示を告げた。
そして部下である頭足類型の異星人にも。
(チャベック、そろそろ作業が終わるだろう。船に戻れ)
するとチャベックが持っている小型端末から電子音が鳴り響いた。どうやら作業が終わり出発の準備に入ったことを報せる合図のようであった。
「そろそろ、出発のようです」
チャベックは応急キットを触手で掴むと、オボロに目をむける。
「それでは、わたくしはこれで。このご恩は次の世代にも語り次がせてゆきます」
「あ、待て!」
一礼して立ち去ろうとする異星人。するとオボロはいきなり彼を制止させた。
「ベーンあれをくれ。今回ばかりは、お前達に助けられた。ほれ、これを持っていけ礼だ」
オボロはベーンから何かを受けとると、それをチャベックに手渡した。
「何ですかなこれは?」
種族の恩人から手渡された物は布で包まれていた。
チャベックは、それを興味ありげに見渡す。
「この都市でのみ手にはいる秘伝の酒だ」
オボロが語った秘伝の酒。
……後に、この酒が異星人達に地獄を見せようとは誰も思いもしなかった。
皆が立ち去ってかれこれ三十分程経過しただろうか。
周囲は静寂に包まれていた。夜明まではまだ早いらしく月が輝いている。
その月光で照らされる大地には幾つもの巨大な陥没跡があった。
魔獣との激戦との傷跡である。
オボロは一人全裸でその光景を落ち着いた様子で眺めていた。魔獣の破壊力がどれ程のものなのか、それを教えてくれる。
そして境界付近に現れた超獣もムラトによって倒されたことをハクラから聞いたため、今回の件は一先ず一件落着と言えるだろう。
(オボロ、聞こえるか)
すると唐突に言葉が響き渡った。
「ああ、聞こえるぜぇ」
だが驚いた様子もなくオボロは返答した。
そして話題を先に切り出したのはオボロの方であった。
「すまんなぁ。今回ばかりは助けられた。甘える気はねぇとかデッカい口を叩きながら、面目ねぇものだ」
(いや、単純な戦力なら魔獣よりもお前の方が上だった。……ただ状況が状況だったからな)
都市の近辺と言う不利な位置、さらにはミアナの乱入と言う不慮の出来事。
それらによってオボロは上手く本来の強さを発揮できなかったのだ。
ハクラの言う通り、けして魔獣よりも超人は劣っていたわけではないのだ。
(それよりも、そろそろお前に重要な話を伝えなくてはなぁと思ってな)
「重要な話だと?」
(そうだ)
ややためらったかのように一拍置いてハクラの言葉は続けられた。
(オボロ、今この世界はお前を中心にして回っている)
それを聞いてオボロは何も返答しなかった。
いや、理解することができなかったのだ。
「……な、何を言ってるんだ?」
オボロが言葉を出せたのは、しばらくしてからであった。
……そして。
(今すぐに全てを理解しろとは言わん。だが伝えておく)
ハクラは困惑するオボロをよそに話を続けた。
(邪神たるギエイは、お前を究極の生命体へと仕上げようとしているんだ。今まで起きた一部の揉め事はギエイが仕組んだことだ。サンダウロでの戦い、王都での動乱、魔王軍との戦争、その他にもだ。全ては、お前ただ一人をより強くするために作られたシナリオなんだ。超人を成長させるためのな)
オボロは口を開くことができなかった。
あまりにも言ってることが理解できないからであった。
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