超人と少女の交渉
「よし、いっちょあがりだ」
そう言って、オボロは手にした園芸用ゴテで地面をパンパンと打ち鳴らす。
ちょうど、爆破でぶちまけてしまった大便を地中に埋めて処理し終えたところであった。
ちなみに大便が埋められたのは、オボロの犬小屋のごとき仮住まいの隣である。
……するとなぜか、埋めた場所の土が突如として盛り上がりだし、モコモコと虹色のキノコが生えてきた。
「うおっ!」
いきなり生えてきたキノコに驚いたのか、オボロが声をあげた。
大便の滋養がよかったのだろうか?
なぜキノコがいきなり生えてきたかは原因不明であった。
「そうだな、こりゃあ観賞用にでもするか」
「ヘェアァ」
虹色のキノコをしばらく眺めてオボロが呟くと、霧吹きを片手にしたベーンがやって来て未知のキノコに水やりを始めた。
「すまんな、待たせたな」
そして、オボロは後ろに立つ者達に振り返った。
体重二十トンを越える巨体が動いたため、ズンと大地が揺れる。
振り向いた先に立つのは、ミアナとレオ王子を抱くアサムそしてムラトであった。
「それで、オレに用があるんだよな大魔導士のお嬢ちゃん」
そう言ってオボロは、ミアナに目を向けると一歩一歩重々しく詰め寄る。
そんな彼を見つめて隻腕の少女は顔をしかめる。目の前の男が常軌を逸する程に巨体かつ全裸であるからだ。
「……オボロさん、その格好でわ……」
その光景に、たまらずアサムが声をあげる。
はたから見れば、筋肉モリモリの変態全裸巨人が少女を追い詰めてるようにしか写らないからだ。
「ふふ、案ずることはない。オレは変態と言う概念を超越した存在だ。オレの裸を見てると、
もはや理解不可能な理屈をのべながら、暇になるとフルチンになる超人は謎のポージングを行うのであった。
それを見てムラトは無言であったが、もはや諦めを抱いている様子を見せる。
「……大武人……オボロ」
そんな数々の異常な光景を目の当たりにしながらも、ミアナは小さく言った。なるべく、オボロの
「大武人か、お前達の国ではオレはそんな異名をつけられているのか?」
「……あなたの異名は幾つもあるから。鬼熊を初め、大陸最強の生命体、生きた超兵器、魔の野獣、大陸の西方で大暴れしたすえに色々な別名をつけられたのよ……見る人によって、あなたは様々な形で写ったのだと思う」
ズシリズシリとオボロは歩み寄り、ミアナは背筋を凍らせながら人類の常識から外れた巨体を見上げる。
ミアナは知っている。熊の毛玉人は、非常に力強く、タフで、大柄であることを。
だからこそ彼女は戦慄しているのだ。
目の前に立つその体躯は、四メートル半を軽々こえ、二十トン近い高密度の骨格筋で構成されている。もはや熊型の毛玉人では説明がつかない。
そして全裸ゆえに威厳は失われているが、そのオボロの肉体がかもし出す重圧は熟練の猛者どころではない。
明らかに自分達とは別格の生物であることを裏づけている。
「その言いようだと嬢ちゃん、お前さん野獣大戦のことは知っているようだな」
「ええ、大陸の西方で勃発した西側の諸国と毛玉人達の戦い。その結果は、毛玉人の抵抗勢力の勝利。あなたと大賢者ムデロの活躍が最大の要因ね」
「ははっ、かの大賢者と肩を並べられるとはな。照れるぜ」
ミアナの話を聞いてオボロは照れくさそうに笑う。
しかし、ミアナが「そう、公表ではね」と言った瞬間、オボロの顔から笑みは消え去り、その場の全員が険しそうな表情を見せた。
「なるほどな、ならばオレが何者かも知っているな。ならば、聞こう」
「……」
そして鋭い目付きでオボロは、ミアナを見下ろした。彼女との身長差は三メートル以上、体重に至っては比較にもならない。
そんな怪物に見られているのだから、ミアナが息をつまらせるのも当然と言えよう。
「オレに、いったい何の用だ?」
威圧感が一層増す。さきほどまで下品なことをしてヘラヘラしていた男はそこにはもういない。
そこにいるのは紛れもなく、数多くの戦場を渡り続けてきた超人であった。
その人類を超越した生物を目の前にしミアナは緊張と恐怖で体が萎縮してしまう。
しかし、どうにか気を取り直し息を吐いて、深く吸い込んで口を開いた。
「……あなた達の力を貸してほしいの」
「それは、オレ達に依頼を出すと言うことか?」
「ええ、協力してくれるわよね」
ミアナは心臓をバクバクさせながら依頼の言葉を口にする。
そして、しばらく間をおいてからオボロは言うのであった。
「そうだな、報酬と依頼の内容によるな」
「今すぐには支払えないけど、必ず望み通りの報酬は出すわ」
「いや、報酬は二の次だ。一番の問題は依頼の内容だ。オレ達に何をしてほしいんだ?」
「……わたし達の国からゲイダー帝国軍を追い出して。奴等から王国を奪還してほしいの。あなた達の戦力があれば容易いことでしょ」
ミアナの依頼内容を聞いた瞬間、オボロは何も言わず背中を見せた。
そして、淡々と厳しく返答した。
「帰れ。そんな依頼は承諾できん」
その無慈悲な返答には、ムラトとアサムも異論を一切挟まない。二人とも分かっているのだから。
自分達は断じて、国家間の揉め事に介入してはならないのだから。
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