終息と超獣の謎

 真っ赤な夕日がしずみかける頃。その夕焼けに照らされたボロボロのドワーフの集落の近くで、数多の魔導士達や魔術を体得している者達が寝転んでいた。全員が疲労困憊で息を荒げている。

 女王メリルの要請で派遣された彼等によって大火災は終息したが、広範囲の平原は焦土と化し、ドワーフ達は集落を壊滅させられたうえに多数の死傷者をだし、エルフ達は里と森の半分を焼失してしまった。各々に甚大な被害を受ける結果となったのだ。

 グランドドスは退治されたが、とても喜べるようなものではなかった。


「みんな、よくやってくれた。心から感謝する」


 疲れはてた魔導士達に声をかけたのはメリルであった。

 彼女も魔術には秀でるため、消火のために現場に来ていたのだ。そのため彼女も疲れており足元がおぼつかない様子。


「礼などいりません……これが我々の仕事ですから」


 女王の感謝の言葉に返答できたのは、元賢者のヨナだけ。

 それほどまでに、今いる魔導士達は疲れきっているのだ。

 そして、メリルは視線を別の場所に向けた。その目の先にいるのは、城に仕える魔導士達と同様に疲労しつくしたダークエルフや毛玉人やハーピィーといった、かつて亜人と呼ばれていた人間以外の種族達。

 そんな彼等にもメリルは礼を述べる。


「ありがとう、私の要請を受け入れてくれて。お前達がいなかったら、もっと被害は増えていた。感謝する」


 彼女の願い出に、多くの種族達も応じてくれたのだ。

 そして、メリルの感謝の言葉に返答するように何人かが息を弾ませながら笑みをみせた。

 おそらく数百年間、この国でなかった出来事だろう。

 これほど多くの種族が人間と協力して災害を乗り越えたのは。

 かつては差別的な関係によりお互い深い溝が作られていたが、その溝がわずかではあるが埋まってきている証拠であろう。

 ふと、小刻みな地面の揺れを感じてメリルは振り返る。そこに佇んでいたのは、常人の数倍の巨躯を誇る毛玉人であった。


「お前達もよくやってくれた。……いや、すまない。そんなことを言える立場ではないな。恩に着る、助かった」


 彼女は、その巨漢にも礼を言った。今回の最大の貢献者の一人であるオボロに。


「気にするな。宇宙生物との戦闘は、オレ達の役目だからな。別に礼なんぞいらんぜ、女王様よぉ」


 そう言ってオボロはメリルを見下ろす。身長が四メートル半を軽々越えてるため、どうしても会話の際にはこうなってしまうのだ。


「すまない……ところで」


 会話の最中にメリルは顔を少し赤くさせて目を閉じた。彼女だけでなく、この場にいる女性全員がオボロから目を背ける。

 なぜ彼女達がそんな表情をしたかと言うと、オボロの現状の姿に原因があった。

 

「……ああ、全部焼けちまってな」


 今ごろ気づいたかのようにオボロは頭をボリボリとかきむしった。

 灼熱の中で戦闘を繰り広げたのだから、服がすべて焼け落ちてしまうのは仕方ないことだろう。

 それにオボロのズボンは特注のため、すぐには用意できない。

 そのため、しばらくは全裸ありのままの姿でいるしかないのだ。

 すると、メリルはわずかに目を開き、オボロの下腹部のあたりを確認した。そして、また目を閉じてオボロに背を向ける。


「こんなことを聞くのは失礼かもしれんが。……お前、嫁はもてそうか?」

「……ぬぐっ!」


 彼女の一言に、オボロは苦しげな声を漏らした。

 ……確かに相棒は、怪物と言っていいほどに立派で、そして誇りだ。しかし、それが問題なのだ。

 オボロは、同族たる毛玉人達から見てもドン引きしてしまうような超人領域の相棒を持っているのだ。

 それはつまり、オボロが童貞みけいけんであることを意味している。


「……ふふ、さすが女王様だ。心がへし折られそうだったぜ」


 痩せ我慢するように、オボロは言葉をはっする。

 と、その時だった。上空から鋭い音が響いたのだ。

 皆が一斉に空を見上げると、そこには全長四十メートルはありそうな金属とおぼしきもので作られた飛行する物体があった。形はやや流線型に近く、両翼のあたりから青白い光を噴射している。

 それが数十機も隊列をくんで飛んでいるのだ。


「……あの男が、派遣してくれた輸送機とか言うものらしい」


 メリルは輸送機群を唖然と見つめながら言った。なぜ、あんな物が飛行できるのか理解できないのだろう。

 しかし、それのお陰で火災を速やかにしずめることができたのは確実であった。

 輸送機が上空を高速で縦横無尽に飛び交い、消火剤を散布することで迅速に火を消すことができたのだ。……おそらく魔術だけでは、こうも早く終わらなかっただろう。

 ふと、最後尾の輸送機が黒い球体を吊り下げて飛び去っていく光景が目にはいる。


「グランドドスの核か」


 オボロは、忌々しげに呟いた。運ばれている核は今だに明滅しており、怪物が生きていることを意味していた。

 おそらく、クサマから受け取ったのだろう。


(お前、火傷はどうした?)


 すると、突如オボロの頭の中に声が響いたのだ。無論のこと、こんなことができるのはニオンの師のみ。

 驚いた様子も見せず、揚々とオボロは返答した。


「あんくれぇのケガなら、たちまちだぜ。オレの体を侮るな」


 とは言うものの、明らかにおかしな話である。

 戦場は周囲の樹木が発火するほどの高熱だった、そんな環境で生きていられること事態が異常ではあるが、戦闘で負った火傷がこんな短時間で完治してしまうものだろうか。

 人類どころか、生物の概念を超越しているとしか言いようがない回復力である。


(……お前と比較したら、ニオンもおれも所詮はただの人と言うことか。なるほど、ギエイが目をつけるだけのことはある)

「ん、なんか言ったか?」


 男のコソコソ呟くような小声に、オボロは反応を見せた。


(いや、こちらの話だ。……それより、すまなかったな。あまり役にたてなかった)

「気にするな。それに、お前がいなかったらあの化け物は、倒せなかったはずだ」


 ニオンの師は、グランドドスとの戦闘のさいに適格な助言ができなかったことを気にしているのだろう。

 だが彼がいなかったら、グランドドスの弱点を見抜けなかったかもしれない。

 それをふまえて、オボロは気にしないようにと言ったのだろう。


「……さて、問題は」


 そう言うとオボロは、表情を厳しくさせて遠くに佇む漆黒の塊を睨み付けるように眺めた。

 グランドドスが纏っていた、膨大な量の甲殻である。

 全長九十メートル以上の巨体だったため、残った甲殻の量はとてつもない。その未知の物質と超テクノロジーの膨大な塊は、国家予算数年分の価値があるだろう。


「あいつは、どこを目指していたんだろうな?」 


 今現在分かっていることは、星外魔獣コズミックビーストは機械的に生成されるエネルギーや電磁波を感じ、そこに引き寄せられる性質をもつこと。

 だがしかしグランドドスは、何にも目をくれず北上をつづけていた。……本来なら、機械文明が発達しているゲン・ドラゴンを目指すはずだが。

 王都を襲撃したガンダロス以上に、行動の真意が読めなかったのだ。

 魔獣と超獣では何か違いがあるのだろうか?


「なあ、星外超獣ってのはいったいなんなんだ? 星外魔獣とは違うのか?」


 と、オボロが問うと返答が頭の中に入り込んできた。


(超獣は、極限まで成長した星外魔獣が変異を遂げた存在だ。個の魔獣が成長しきると、突然変異をとげで全く別の強大な怪物になるんだ。おれも詳しくは、まだ知らん。あまりにも情報が足りないのでな)


 そして、ニオンの師を語る男は重々しく言った。


(ただ一つだけ言えることがある。超獣は銀河系内を渡り歩き破壊と殺戮を繰り返す、この宇宙の知的生命体の絶滅の原因の大半は奴等によるものだ) 

「まったく、とんでもねぇ話だ」


 それを聞き終えると、オボロは北の方を眺める。


「北の果てに、何かあるのか?」

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