謎の美女
肉感的な青肌の美女はピンク色の髪をなびかせながら、オボロとニオンの顔をうかがうかのように見つめた。
普通の異性なら彼女に見とれてしまうかもしれない。しかし、オボロもニオンも普通の存在ではない、ましてや百戦錬磨の猛者。こんな状況で美女に見とれるような未熟な思考は皆無である。
「君が言う我が
ニオンは冷静かつ穏やかに言った。
「遺伝子情報を利用して滅びた種族を復活させるなど、高度な科学力が必要だ。それができるとなれば、先生しかいない」
遺伝子情報だけで滅びた種を復活させるなど、高度な科学技術を持ってないとできるものではない。
そんなことがなせる者は、一人しか思い付かなかった。
「はい、その通りです。その方の命で、あなたがたを待っていたのです」
青肌の美女は頷き、ニオンのその端整な顔に目を向けた。
彼のその目は優しげだが、まるで油断はない。そして、なんら躊躇いのない冷酷さも感じられる。
もし少しでも敵意や殺意を見せたら一瞬にして首を断たれるだろう、と言う考えがよぎった。
「私について来てほしいのです。大事なことを伝えたく」
落ち着いては言うが、女性の背筋は凍り付いていた。それだけ目の前の二人が怪物なのだ。
「……隊長殿、よろしいですか?」
そう言ってニオンは、オボロの巨体を見上げた。
「大丈夫か? こんな得体の分からねぇ奴に、ついていって」
オボロは青肌の女性に疑うような目をむけた。
この美女は魔族に祈りを捧げたり、殲滅された都に一人でいたなど不審な部分が多い。
ゆえに迂闊に信じていいものか、それに彼女が敵でないという確証もない。怪訝に思うのも当然である。
「彼女が嘘を言っているとは思えません。ここは私に任せてくれませんか?」
「……ああ、分かった。さっきから、お前達の話の内容は
ニオンの提案を聞いて、少し考えた後オボロは返答した。
すでに話の内容についてこれないため、ここはニオンに任せるのが一番。オボロは、そう考えるのであった。
しかしオボロは厳しい目付きで青肌の女性を見下ろした。
「だが変なまねはするなよ。女を傷つけることは性に合わんが、敵なら別だ」
「……
するといきなり女性は、そう呟いた。
その言葉は宇宙から飛来する生物群の総称であった。
そして、オボロの表情が鋭くなった。
「成る程。その名を知っているってんなら、話す必要はありそうだな」
「ついて来てください。なぜこの都に規格外の
女性は、そう言って魔王の城がある方角に歩き出した。
そして二人は無言のまま、彼女の後に続くのであった。
彼女の行動は、やはり怪しいものであった。
道端に倒れる毒ガスで果てた魔族達を見かけては、悲しげな表情で彼女は祈りを捧げるのだ。
そして不愉快そうにオボロはその姿を眺める。
「気になったんだが、そんな連中に祈りを捧げるなんざ間違ってるんじゃねぇか? こいつらは世界を壊す有害な存在なんだぜ。忌々しい奴等なんだぞ」
そう言ってオボロは、地面に横たわる死体を不快そうに見下ろす。
彼等は別世界の存在で、この世に転生して魔族となった者達である。
そして自分達の理想の世界を作ろうと争い事をおこし、そして生きてるだけで毒をまく存在。
存在事態が侵略と汚染の塊と言えるだろう。
「……たしかに彼等は許される存在ではありません」
祈りを終えた青肌の女性は立ち上がり、悲壮な顔をオボロに向ける。
「しかし体は魔族でも、彼等の心は人なのです。だからこそ魔族としてではなく、人として祈りを捧げているのです。……そもそも全ての原因は、わたっ……神々にあります」
そう言って彼女は、曇った上空を見上げた。
「この世界を作り上げた神であるリズエルとギエイは世界にあらゆるものを投げ入れて、かき混ぜました。その結果この世は異常をきたして、全ての転生者は例外なく魔族となる過酷な掟ができてしまったのです。この運命は、もう神の力でも変えることはできません」
「……なぜ神は、そのようなことをしたのかね? 世界に不可逆な程の異常をきたすようなことを」
物悲しげにかたる女性にニオンは問いかけた。
「……そ、それは……」
「どうでも良いがよ」
女性が言葉に戸惑っていると、話にオボロが割り込んできた。
「魔族ども、いやっ、異世界の奴等はその神によって強制的にここにつれてこられたのか? それなら多少の同情の余地はあるだろうがな、望みもしねぇのに転生されたわけだからな」
「……一部を除けば強制的ではありません、彼等は望んで転生したのです。ギエイに「ただ死後の場に向かうか」、「あるいは別の世界でやり直すか」、と誘われたのです。無論のこと元の世界で夢や理想を得られなかった者は後者を選ぶことがほとんどです」
オボロの問いに美女は答えた。
それを聞いたオボロは、顔を歪めて舌打ちをした。
「ちっ、なら同情などできんな。やはり不快な奴等だ! 結局は現実で望みが叶えられず、別の世界でそれを見出そうとした腑抜けじゃねぇか! 夢だの理想なんてもんはな、現実で成し遂げてこそ意味がある。神なんぞに頼って得た物なんざ本物じゃねぇ、全て紛い物なんだよ」
オボロは声を荒げた。
それに対して青肌の女性は、また悲しげな表情を見せた。
「たしかに彼等は腑抜けです、そしてひ弱な存在です。しかし、その弱さこそが人の
彼女はそう言って会話を切り上げると、再び歩き出した。
そして彼女の背中を眺めながらオボロは呟いた。
「それに比べ、オレ達は怪物とでも言いたいのだろうな」
「私達が、そのように思われるのは百も承知です。それに人として何かが欠けていることも。しかし、怪物にならなければ
オボロに賛同するようにニオンも言った。そして、最後に聞き取りにくい小さな言葉を発した。
「これから現れるであろう、銀河系規模で滅亡と破壊を繰り返す
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