謎の男と邪悪な神
魔王を始末した男は、彼女のバラバラの遺体をもう一度見つめとバイクに股がった。
そして男は静かに口を開いた。
「ギエイ、見ているのだろう。お前がたぶらかした娘に言うことはないのか?」
そうは言うが、この場にはガスマスクの男以外は誰もいない。
……しかし。
「まったく、随分と恐ろしいやりかたをするな。ルキナが輪切りになっちまったぜ。脳味噌、目玉、
愉快そうな声が響きわたる。ガスマスクの男に、そう返答したのは神であるギエイであった。
しかし魔王と会話していた先程のテレパシーのような脳間での情報のやり取りではなく、原始的な音波を用いた伝達であった。
「相変わらず、忌々しい奴だな」
「まあ、邪悪な神だからな。俺にとっては誉め言葉だ」
男のくぐもった声に、ギエイは楽しげに返した。
「俺の計画の方向性はある程度まとまった。もう魔族は不必要、そして英雄どもは失敗作と化した。あとは、あいつを仕上げるのみ」
「……まったく、とんでもない野郎だ」
「まあ、そんなこと言うな。手段は違えど最終的な目的はお互い同じだろう。じつに長い道のりだった。リズエルの封印から解かれてから、ここまでに至るのに千年以上もかかっちまった」
ギエイは千年以上にわたる記憶を思い返した。
「リズエルが消えてから、アーカイブにわずかに残っていた情報をもとに俺は計画を練り実行させた。独自のやり方だがな」
「やり方が気にくわんな。魔族どもを転生させて、この惑星の人類と戦わせ、目的となる存在を作り出そうとするなど」
「仕方ねえさ。時間が無制限にあるわけでもないし、それにこうでもせんと効率が悪い。どのみち強い敵を送りつけて戦わせんと、この惑星の奴等が強くなるのに膨大な年月がかかる。……まあ、結局のところ全部失敗に終わったがな」
その話を聞いて、男はガスマスクの中で息を吐いた。
「そのために、この世界の仕組みを利用したわけか。別の世界からやって来た存在たる転生者は、高い戦闘能力を持つかわりに世界と共存できない魔族に必ず成りはてるという仕組みを」
「そのとおりだ。だが、知ってとおりその仕組は故意によるものじゃない……」
ギエイは一度言葉を止め、再び語りだした。
「俺達が色々とやり過ぎて、そのような異常な仕組みができちまった。まあ、ある種の不可逆性の世界の不具合だな。二つの神が一つの世界を創造し、あらゆる存在をぶちこんでかき混ぜて煮込んだから、こんなになっちまったのかね?」
「さあな。いずれにせよ、お前は世界を完全に制御はできていないのだろう」
「ああ。この世界が異常をきたしすぎて、もう制御はしきれていない。それこそ、この先何が起こるなど予測不可能だ。星外魔獣が何よりの証拠だな」
「……星外魔獣か」
ガスマスクの男は、そう呟くと愛車を起動させた。
「メルガロスに現れたガンダロスは恒星系外からやって来た個体だ」
「ああ知っている。まさか、そんな領域から飛来してくるとは思っていなかったぜ。神である俺の超知覚をもってしても奴等の動きを探ることはできんからな。それに世界の異常のせいで隅々までこの世を把握することもできなくなっている、感知できるのは限られた範囲だけ。それに俺が封印されている間の情報も、ほとんど残っていないしな。何かするにも、手探り状態だぜ」
「……呑気なこと言ってる場合じゃないぞ。飛来してきたのはガンダロスだけではない。今、この惑星はかなりまずい状況にある」
「どう言うことだ?」
「それほど強大な星外魔獣になると、単独で惑星を壊滅させる。それが二体もメルガロスのどこかに潜んでいるんだ」
「……はは、マジかよ。恐ろしい程の成長速度だな」
男の話を聞いて、ギエイは苦笑いをもらすことしかできなかった。
そしてガスマスクの男はバイクのモーターの回転を確かめるためか、アクセルを三回捻った。
「話が長引いたな、おれはいくぞ」
「あ、まて、二つばかり聞きたいことがあるんだ!」
去ろうとする男を、慌ててギエイは引き止めた。
「なんだ?」
「魔王をしとめた、その刀はいったいなんなんだ? ルキナの肉体どころか、岩ごとバラバラに、しかも抵抗なくだ」
そう尋ねるギエイ。
すると男は腰から刀を抜き取り、それを見せつけるように真っ暗な上空に向けてかざす。
「斬る瞬間に刃から強力な電磁的光子を発生させることで接触した物体の分子間の静電結合力を中和させる仕組みになっている。それにより抵抗なく対象を切断できるんだ」
「お前が開発したのか。相変わらず、とんでもないものを作る」
「とは言え何でもとはいかん。刀に供給されるエネルギー量や斬る対象の密度によって切断の速度や効率が左右されるからな。さっきの非対称性シールドもそうだが作るには、特殊な環境でしか製造できない電磁メタマテリアルや、この惑星には存在しないレアメタルが必要だ」
そう言い終えるとガスマスク男は、腰に刀を戻し上空を見上げる。
「それで、二つ目の質問はあれについてか? ギエイ」
「そうだ、あのバカデカい竜のような生物についてだ。あれがどこから来たか分かるか? 転生でも転移でもない。俺がこの世界に呼び寄せたわけではないからな、あるいは別の神が関与してるのか」
ギエイの言葉を聞いて、ガスマスクの男は少し考え込み。
「悪いが、おれもまだあれについてはよく分からん。解明するにも、かなりの時間が必要だ。しかし、これだけは言える。あの生物……いや、怪獣は自力で次元の
「怪獣? それが生物としての名称か」
「名は、たしかムラト。他の奴等からそう呼ばれていた」
「その怪獣とやらが次元移動する能力を持っている、と言うことか。しかしよぉ、ただの生物にそんな真似できるのか?」
「あれを、ただの生物と呼んでいいのかどうか。おそらく自力で次元を渡ってきたためだろうか、怪獣はこちらの世界の規範には束縛されていないようだ」
それを聞いてギエイは、息がつまるように言い出す。
「……ふふ、やっぱりな。まったく恐ろしいぜ。敵には回したくないないものだな。……許してくれるだろうかね? サンダウロの戦いを仕組んだこと」
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