巨大な者達
副長に呼ばれ、俺はオボロ隊長をつれてメルガロスの王都までやって来た。どうやら、この国が抱えていた差別的な問題がある程度解決したようだ。
でなければ人間至上のこの国の城に、亜人と呼ばれる隊長や竜である俺が招かれるはずがない。
そして、俺は王都であることをした。それは、謝罪。
メルガロスの王都正門付近で、俺は両手をつけて何度も頭を地面にぶつけた。ニオン副長に頭を下げているのだ。
「副長! 申し訳ありません! 俺の考えが浅はかだったがために……」
ドワーフの集落で魔王軍と戦う前、俺は上空から異常な存在を感じとっていた。まさかその異常な存在の正体が、宇宙の化物だとは思いもしなかった。
もしその存在の事を、一早く副長に報告しておけば、こんなことにはならなかったかもしれない。
王都はひどいありさまであった。
多くの建物が倒壊し、都の一部はもはや廃墟と言ってもいいぐらいだ。……恐らく瓦礫の下には、まだ多くの遺体が埋もれているだろう。
これは俺が報告を怠ったせいで招いた結果だ。
「申し訳ありません! 副長!」
「わ、分かったから、まず落ち着いてくれたまえ! 頭を地面にぶつけないでほしい」
副長の返答を聞いて、俺は状況を理解した。
十万トンを越える俺が頭を叩きつけていたがために、地面が大きく陥没していたのだ。
それに合わせ震動も凄まじかったのか、副長の周囲にいるメルガロスの騎士達が頭を抱えてしゃがみこんでいた。
……また悪いことをしてしまった。
「ムラト殿、君のせいだけではない。
俺と同じく副長も後悔しているようだ。
だが、まさか魔族が機械文明を独自に発展させているなど思いもしなかった。
しかし、なぜ魔族どもはそんな科学知識などをもっていたのか?
……まさか。
ふと、あることを思い出した。魔王軍幹部のハルが言っていた「自分は転生者」であるという言葉を。
もしや彼女のような転生者が前世の知識を生かして科学技術を発展させたのだろうか?
色々と考えていると、ニオン副長が不思議そうに見上げてるのに気づいた。
「君も随分と大きくなったようだね」
「やはり、分かっていましたか」
九〇メートルだった俺の肉体は、ついに三桁代の一〇五メートルとなり、そして体重は推定十万五千トンにまで達していた。つまり二万トン以上も増加したのだ。
魔王軍との戦いで大量のエネルギーを得たためと思われるが、だがどうしても理解できないところがあるのだ。
それを副長に尋ねてみることにした。
「副長、俺が巨大化したことについてなんですが、物質を供給していないにも関わらず体積や質量が増大したのです。……いったい、これはどういうことなのか? こう言ってはなんですが、俺自身も自分の肉体には理解できない部分があるので」
「ふむ、無から有は作り出せないし、質量保存の法則は絶対だと思う。いずれにせよ、肉体の素材となる物質をどこからか供給したとは思うがね」
そう言って、副長は考えるように俯いた。
体重が二万トン以上も増加したのだ、いったいそれほどの質量をどこから得たと言うのか?
すると考えこんでいた、ニオン副長が頭を上げた。
「……まさかとは、思うが」
「何か心当たりが?」
「確実とは言えないが、実験をしてみれば分かるかもしれない。事が終わりしだい、試してみるよ」
ニオン副長がそう言い終えた時、王都の正門から二つの姿が現れた。
屈強な巨体の熊と高貴な衣装を纏った女性だ。
その女性が俺を見上げてきたため、彼女の顔を確り確認することができた。幼い顔つきで、額にバッテン状の傷がある。
この人が、メルガロスの女王か。
「……城から見えていたが、近くで改めてみると、なんと言う大きさだ」
この方の名は、たしかメリル様だったかな。
「メリル様、このたび乗用の竜を務めさせていただくムラトです」
「うわっ! 人の言葉を理解しているのか。これはすごい」
軽く挨拶をすると、メリル様は驚いたような表情で返答した。さすがに、俺が人語を使えるとは思っていなかったのだろう。
「人語が使えるあたり、その巨体とは裏腹に高い知性を持っているのだな」
「恐れ入りまし」
まあ、意識事態は人間のものだから不思議なことではない。
今の俺は人間の意思を持った巨大怪獣だからな。
「女王様よ、確り掴まっていろ!」
「うわぁ!!」
メリル様と一緒に正門を潜ってきた巨大熊ことオボロ隊長は、いきなり彼女を軽々と剛腕で抱えると跳躍した。隊長が蹴った地面は陥没し、女王を抱き抱えた巨体が俺の頭の上に着地した。
もはや隊長の身体能力は人類の範疇ではない、跳躍しただけで俺の頭上までに到達したのだから。
「……女王様」
「メリル様」
周囲にいた騎士達が不安そうに声をもらした。
俺は隊長の頼みで、これから二人だけをとある場所に送り届けなければならなかった。
つまり隊長と女王様と俺の二人と一匹っきりになるわけだ。騎士達が心配になるのも仕方ないだろう。
「安心したまえ、間違っても女王様に危害など加えない」
心配そうにしている騎士達を見て、副長は彼らを落ち着かせようとしていた。
「ようし! ムラト、出発だ」
「分かりました」
隊長の指示に従い、俺は足を進めた。
巨大化に伴い肉体的能力も向上したのか、俺の歩行速度は時速八〇~九〇キロまでになっていた。つまり移動能力が上がったのだ。
そして頭の上に意識を向ける。
今、俺の頭の上ではオボロ隊長があぐらをかき、その膝の上にメリル様が座っている状態だ。
父と娘のようなありさまに見えるが、実はメリル様は隊長よりも年上らしい。
どう見ても十五か十六ぐらいの女の子のようにしか見えないのだが……。
王都を出発して、しばらくたつが今だに二人は無言状態だ。
そんな中、初めて口を開いたのは女王様だった。
「オボロよ、メルガロスを去った後に何があったのだ。なぜ、そこまで大きくなった?」
「そうだな……上等な飯を食って、体を鍛えてたからだろうな。
「……
隊長も俺と同じく魔王軍との戦闘でかなり肉体が発達した。
三七〇センチ程だった身長は、今や四五八センチと大きめの魔物とほとんど変わらないサイズだ。
だが一番とんでもないのは、身長ではなく体重のほうだ。
オボロ隊長の以前の体重は推定一五〇〇キロだったが、今回巨大化してからは体重が二十トンを越えているのだ。
もはや、なんと言えばよいのか……。
隊長はドワーフの集落で食事をしていたとき体の容積を越えるほどに食料を摂取していた。おそらく摂取した物のほとんどが、肉体に転化されてしまったのだろう。
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