科学者再び

 赤い夕日は綺麗だ。それは、この異世界でも変わりない。

 仕事帰りの夕日は、とくにいい。しかし、やってきた仕事が極めて血生臭いため、何とも複雑な気分にもなるが。

 だが、仕方のないことだ。それが俺達の仕事なのだから。

 それに、あの領主や麻薬組織を野放しにしていたら、もっと悲惨なことになっていただろう。

 そんな夕方の帰り道である。

 そしてゲン・ドラゴンが見えてくると、南門付近に蒸気機関車のような乗り物が停止していることに気づいた。


「……なんだ、ありゃ?」


 ゆっくり近づいてみると、機関車の付近でエリンダ様とスチームジャガーでお世話になったマイルさんが何やら会話をしているを発見。

 マイルさんは、この機関車のような乗り物でゲン・ドラゴンにやって来たのだろうか?


「ただいま戻りましたエリンダ様。ところで、なにをなさってるんですか?」


 帰還報告に加え、何をしているのか二人に聞いてみた。

 機関車の方に目をやると、後部に大型の荷車が連結されておりパラボラアンテナのような物が四つ積まれていた。


「おお! ムラトくん。おかえりなさい。蛮竜対策の秘密兵器が完成したらしくてね。マイルちゃんとマエラちゃんが持ってきてくれたの」

「わたくし達が発明した対空兵器。その名も対生物電磁加熱放射器たいせいぶつでんじかねつほうしゃき冥座亞メイザアです!」


 と、まあ良くわからないが二人いわく蛮竜用の兵器らしい。性能はどれ程か分からんが。


「ムラト、下におろして。あの乗り物を見てみたいの」


 ナルミは機関車に興味があるようだ。

 ゆっくりとニオン副長と一緒に降ろしてやった。あと手の中にいる雌の陸竜も。


「この乗り物は、なんて言うんの?」

電気駆動貨物車でんきくどうかもつしゃ頭魔住とうますよ。これのおかげで重量物を高速で運ぶことができるの」


 ナルミはマイルさんから貨物車の説明を受けはじめた。

 この変な乗り物、車輪じゃなくて無限軌道キャタピラだ。

 これなら、あらゆる地形を走破できるな。……なぜか車体の前部が人のニヤケ顔になっている。その見た目は人面機関車と言えるだろう。

 俺もマイルさんの説明を聞いてみることにした。

 話によると材質は強度に優れるマガトクロム合金だそうだ。高性能電動機と特殊な蓄電池が搭載されていると言う。

 見ため的に蒸気駆動かと思っていたが、電気駆動なのか。 

 それとマエラさんが来ていると言っていたが、どこに?

 ふと本部の玄関付近に目をやると、そこに彼女がいた。

 なんか棒でデカイ毛玉をつついてる……あれは隊長だ。

 マエラさんの実験がトラウマになっているのか、オボロ隊長は丸まって震えていた。いったい、どういう状況なのか……?

 恐るべき発明家と脅えるデカイ熊。その絵面は、まさに恐怖のワク○クさん状態である。

 副長が、それを無言で眺めている。助けてあげないのだろうか?





 冥座亞を荷車からおろすと、飛竜達に頼んで都市の中へと運んでもらった。

 話によると、あの冥座亞とか言う兵器はかなりの瞬間大電力が必要な物らしく技術的課題が多かったらしい。しかし、どうにか開発に成功したと言うのだ。

 どうやって解決したのか?


「マイルさん。あの兵器の動力は、どうなっているんです?」

「ああ、えと……ごめんなさい。実験をしていて分かったことなんだけど、君の細胞の中から未知の蓄電物質が発見できてね。それを利用して開発してもらったの、勝手なことしてごめんね。頭魔住の動力も同じものよ。君から取り出された物質は、ものすごい蓄電量を持つことが分かったわ」


 謝罪するかのごとく語るマイルさん。

 そう言えば怪獣コイツは電気が活動源だったな。なら彼女の言うとおり蓄電する物質が細胞から発見されても不思議な話ではない。

 まあ好奇心もあったのだろうが、それを使って都市の防衛兵器を開発してくれたのだ責めるつもりはない。


「つまり俺の細胞から取り出した物質を直接利用して大容量の蓄電池を作ったんですね」

「いや、直接は利用してないよ。それに、作ったのはわたくし達じゃないの。じつはね蓄電池を作ったのは、ニオンさんなの」

「……ん?」


 えーと、つまり副長が作ったと?


「あら、聞いてないの? 彼はエリンダ様の直属の剣士であると同時に、優秀な科学者なのよ。ただ、扱ってる分野が超科学オーバーすぎて、ついていけないんだけどね」


 ……いやいや、ちょっと待ってくれ。あの人、スペック反則すぎないか。剣術だけでなく、科学者としても優秀だとか。


「彼の話によると、君の細胞から取り出された蓄電物質の構造を分析して、それと同じ構造の人工物を利用して電池を開発したらしいの」


 もう、なんと言っていいのやら、言葉もでない。

 凄すぎるとしか言いようがない。とても、ついていけない。





 作業も終わり、マイルさんとマエラさんは頭魔住に乗り込み帰っていた。みんなで見送る。

 マエラさんがいなくなったため、隊長はやっと毛玉形体を解き、安堵している。アルマジロみてぇだな。

 すると、何やら足に擦りついてくるものがいる。助けた雌の陸竜だ。


「安心しろ。ここでなら、お前は幸せに暮らせるからな」

「おや! ムラトくん。女の子を口説いてきたのかな?」

「いやっ、エリンダ様。俺はそんなつもりでは。この子が酷い仕打ちを受けていたので、助けただけです」

「でも、その子は君のことを気に入っているみたいだね。そうだ、たまには竜舍に来てね。蛮竜の一件以来から乙女の竜達が君を魅力的に感じているみたいなの。リズリ君と一緒に女の子達を癒してあげてね」


 いつのまにそんなことに。

 気持ちはありがたいが、どうしたものか。

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