犯罪組織を殲滅せよ

「魔術を使おうとしてやがるな」


 魔術の詠唱を触覚で感知したため、俺は副長達のやや後方に上半身だけを飛び出させた。

 地中に潜んでいたのには理由がある。

 それは俺の巨体が目立つからだ。それゆえに敵対象に発見されやすい。

 そうなると殲滅対象のねぐらにたどり着く前に発見されて逃亡を許してしまう可能性がある。だから地中に潜って移動していたのだ。

 地中に飛び出た俺は廃墟を見下ろす。そこに映るのは、狼狽するならず者達。

 どうやら俺が地中から出た時の震動や土煙が原因で魔術の行使は失敗したようだ。

 そして、この隙をみんなが見逃すはずがない。


「ひ、ひぃぃ!」

「竜……バカな!」

「食らえ!」

「ポウッ!」 

 

 ならず者達が驚愕している隙に、ナルミとベーンが近間の二人の男に吹き矢を放った。

 ナルミとベーンのことだ、放った矢に何か仕込まれてるはずだ。

 そして矢を受けた男達の声がもれだす。


「ふげぇ……」

「ぐっがっ……ごぼ、がっ!」


 ナルミは即行性の麻酔薬を塗っていたようだな、片方の男は即昏睡。

 ……ベーンは一体何を使ったんだ? 喰らった男は両眼から血が溢れ、体の穴という穴から血泡が吹き出て絶命した。

 おそらく猛烈な毒だとは思うが……とてもひどい死に方だ。


「……や、野郎!」

「こなくそ!」


 一瞬の出来事に、ならず者達は怒号をあげながらあわてふためく。


「ナルミ殿、あとは私達が引き受けた。先へ」

「了解!」


 ナルミには別の役割があるので、先に行くようにニオン副長が促した。

 彼女は戦闘を止め、朽果てた建物を踏み台にしながは廃墟中央にある大きめの建築物を目指した。

 彼女が向かっているその建築物こそが組織の薬物製造場になっており、そこに組織のボスと構成員がいるのだ。

 つまりナルミの役割は組織の頭目を引っ捕らえることだ。

 情報によると組織の連中は戦闘経験もなく、ただの一般人と変わりないそうだ。だからこそ、ならず者達を薬で洗脳したんだろうが。

 その程度の奴等なら、ナルミ一人でも容易く相手できるだろう。

 ナルミの後を追いかけようとした奴等がいたため、腕を伸ばしてまとめて叩き潰す。

 地が揺れてクレーターが発生するほどの一撃、とどめの確認は必要ない。

 すると、獣のような声が響いた。



× × ×



「うごあぁぁぁ!」


 雄叫びをあげながら、巨大な斧を持った男がベーンに向かって来た。

 しかし男は冷静さを欠いているらしく、攻撃が大振りすぎる。

 そんな攻撃などベーンに通用するはずがなく、繰り出される攻撃を余裕に回避してみせた。

 そしてベーンは仕返しとばかりに握りっ屁を男の顔面に喰らわした。それは常軌を外れた激臭だ。


「うがぁぁ!」


 男は悲鳴をあげて悶え苦しむ。

 嗅覚が壊れてしまう一撃だった。吐き気もするし、頭痛もする。

 握りっ屁を利用した攻撃、下品ではあるが敵を怯ませるのには効果的ばつぐんである。

 ふとベーンは足元に空きビンが転がっていることに気づいた。そして、それを拾い上げる。

 ならず者達が飲んでポイ捨てした酒ビンだろう。

 もちろん、ベーンは意味もなく拾い上げた訳ではない。


「フンガァ!」


 ベーンは拾ったビンを大きく振りかぶると、屁の臭いに苦しむ男の頭部を思い切りビンで殴り付けた。

 ビンが割れ破片があちらこちら飛散する。


「ぎゃあぁぁぁ!」


 殴られた男は頭から血を流しながら絶叫した。

 ベーンは、そこら辺にあるものを武器として利用するほど頭が回るのだ。

 そしてベーンの攻撃が、この程度で終わるはずがない。相手が動かなくなるまで徹底的に攻撃を加えるのはいつものことだ。

 割れたビンで何度も男の顔面を引っ掻きまわした。


「ぎゃ! ぐぅ! がぁ!」


 男の顔面は出鱈目に裂けて、真っ赤にそまり激痛の声を響かせる。

 そしてとどめにベーンは割れたビンを男の股間部に突き立てグリグリと下腹部をえぐった。


「ぐぬぅぅ……ぐぼぉ!」


 金玉たま陰茎さおをズタズタに引き裂かれた男は、つまったような呻きをあげで地面に吐瀉物を撒き散らす。そして、バッタリと倒れた。

 死にはしないが地獄の苦しみであることには違いないだろう。 

 そして、またベーンのもとに別のならず者が近寄ってきた。

 しかしベーンは、慌てた様子も見せず地面に散らばるビンの破片を拾い始めたのだ。


「……な、何してだ? コイツ」


 ベーンの奇妙な行動に気を取られてしまったのだろう、男は用心もせずにベーンの間合いに入ってしまった。

 その瞬間ベーンは凄まじいスピードで間合いをつめ男の顔面を鷲掴みにする。あまりの速さに対応などできなかった。

 ベーンの握力は凄まじく振りほどくことは不可能。


「ぐがぁぁぁ!」


 男は叫び声を響かせた。頭を万力に挟まれたような痛みを味わっているのだ。

 するとベーンは先ほど拾い集めたビンの破片を、無理矢理に男の口腔内にねじ込んだ。そして男の頭と顎を掴み、力に任せて口を閉じさせた。


「ぐごおぉぉ!」


 男は口から破片と血液を撒き散らしながら悲鳴をあげる。しかし口内も舌もズタズタに裂けて、まともな声が出ない。

 それでもなんとか反撃しようと、うまく機能しない舌でどうにか詠唱を始めた。男の手の中に火の玉を形成されていく。

 するとベーンはいつも持ち歩いているポーチをまさぐり、オレンジ色の玉を取り出した。

 それを振りかぶって男に投げつけた。

 玉の中身は焼夷剤ナパームだった。玉が割れて男は頭から燃料まみれになりはてる。

 そして自分の手の中で形成していた魔術が火種となり男は業火に包まれた。


「うああぁぁぁ……!!」


 男は火だるまとなり転げ回った。

 たとえ水があっても消火は困難。

 あとは、生きたまま焼かれるだけである。


× × ×


 ベーンの奴め、相変わらずにえげつないことをやる。

 ただ殺すのではなく、あっさり死ねず苦痛が伴う攻撃ばかりだ。

 もちろん俺もしっかり戦闘を行っている、とは言え虫でも潰すかのように平手で圧殺してるだけなのだがな。


「みんなー! 親玉は捕縛したよー!」


 廃墟にナルミの声が響きわたる。彼女は製造場の天辺で声を張り上げていた。

 どうやら敵ボスの捕縛に成功したようだな。なら、もう遠慮の必要はない。


「ナルミー! ここいら一帯から離れろー!」


 俺は彼女に廃墟から離脱するように伝える。ナルミは俺の声に頷くと、駆け出し廃墟から遠ざかっていく。

 そしてニオン副長とベーンにも、離れるように告げる。

 

「副長達も、ここから離れてください。一気に殲滅します」

「ああ、分かっている。あまり、やり過ぎないように」


 副長は自分の横にいた男に裏拳をかましてから、俺を見上げて告げた。

 ニオン副長の裏拳を喰らった男は、顔面が陥没して両眼球が飛び出していた。

 刀をあれほどの速度であつかうのだから、たとえ素手でも十分な凶器だ。

 今回は敵の数が少数だったためか、細かい技巧ではなく対象を両断する剛剣だった。

 その証拠に防具ごと胴体を寸断された死体がゴロゴロしている。

 すかさず光線を撒き散らして、副長とベーンが離脱するのを援護する。

 男達は光線から身を隠すように、瓦礫の影に逃げ込んだ。

 とは言え瓦礫など容易く溶かして貫いてしまう。


「ぎゃっ!」

「ぐぅっ!」


 障害物ごと穴を穿たれた連中の悲鳴がかすかに聞こえた。

 みんなが廃墟から離れたことを確認すると、地面から這い出て男達を見下ろした。

 あまりにもの巨体に圧倒されたのか、連中は俺への攻撃を止めて唖然と立ち尽くしていた。

 さて、最後の仕上げだ。

 俺が口を大きく開くと、ならず者達はブレス攻撃が来ると察したのか、急いで逃げ出そうとしていた。


「うわぁぁ! ブレスだぁ!」

「逃げるんだぁぁぁ!」


 しかし、もう遅い。

 火力を抑えても飛竜とは比較にならない火炎だ。

 その猛炎で周囲をなぎ払った。

 爆音と共に高熱の爆炎が朽ち果てた建物を吹き飛ばし、一帯が融解していく。

 廃墟も、ならず者も、親玉以外の構成員達も灼熱の中に飲み込まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る