大怪獣現わる

序章

 いにしえの巨獣は何を思うのか。


 文明と科学を武器に大地と空と海を我が物にした人類に鉄槌を下す、それが原始の荒ぶる魂の役目なのか。



 ……『怪獣』 



 空想の存在、ただの着ぐるみ、現実的に考えればそれが当然だった。


 だが想像上の生き物では、なかった。


 現実にその姿を現したのだから、否定しようがない。


 学者は言う「人智を超越した唯一無二の巨大な変異種」と。


 信者は言う「堕落して自然や神々にたいする恩恵を忘れた者達への怒りと憎悪」と。


 人々は言う、「絶滅の根元」、「地上の裁断者」、「滅亡の獣」、「人類の終着点」、「神罰の化身」、「地球ほしの頂点」と。


 とても、その存在は断定できない。


 見た人達によって、さまざまだった。







 西暦二〇二八年。


 日本は、かつてない災厄に見まわれていた。


 それは、突然の出来事であった。なんの前触れもなく怪獣やつが現れたのだ。




 体高:九〇メートル、体重:八万四千トンの巨大生物。




 人類の英知でも、その存在は解明できない生命体であった。


 それだけ計り知れない謎と力を秘めた生物……いな、生物を超越した怪獣。


 人類の科学技術が編み出した最新鋭の兵器を寄せ付けぬ不死身の肉体。


 一吹きで数多の命を焼き払う猛烈な火炎。


 高速の飛翔体をも容易に撃墜する光線。


 強大なパワーで全てを粉砕せしめる。


 それは、まるで地球の覇者であることを示すかのような強大すぎる力だった。


 その巨大な超生命体の前では自衛隊も米軍も踏みにじられ、日本の各都市は壊滅し、数えきれぬ人命が失われた。


 その脅威度は全人類の存亡に関わるとされたため、国連により多国籍軍も編成されたが、棺桶と鉄屑が増えるだけの結果となった。


 それほどまでに怪獣の破壊力は圧倒的であったのだ。


 それは、もはや闘いですらなかった。


 怪獣が姿を現して一年もたたずに日本は滅亡の淵に追いやられた。







 そして政府は、ついに最後の決断にいたった。日本を放棄し国外への移民計画を。


 生き残った人々を被害の少ない東京に集結させ、東京湾から避難船に乗船させようとした。


 ……現時点で日本の総人口は一千万人未満。


 ほとんどの日本人は、怪獣の犠牲となった。


 国を棄てなければ、もはや生存することは不可能だった。

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