第八巻 第五章 高度経済成長と『革命の時代』

〇昭和三十一(一九五六)年度『経済白書』表紙

N「一九五六年度の経済白書の序文には『もはや戦後ではない』と書かれた」


〇握手する鳩山一郎(首相、七十四歳)とニキータ・フルシチョフ(ソ連共産党第一書記、六十三歳)

N「同年、鳩山一郎首相の尽力によりソ連との国交が回復。十二月には日本は国際連合の加盟国となった」


〇四頭立ての馬車でパレードする皇太子明仁親王(二十七歳)と美智子妃(二十六歳)

N「昭和三十四(一九五九)年四月十日、皇太子明仁親王と美智子妃がご成婚」


〇公団住宅の一室

その光景をテレビで見ている四人(父母・息子・娘)家族。

N「その中継を見るべく、テレビが一気に普及した」


〇国会議事堂を取り巻くデモ隊の群れ(夜)

デモ隊は「安保反対」「闘争勝利」のプラカードを掲げ、多くの参加者はヘルメットを被り、タオルでマスクをしている。

議事堂の門をこじ開けようとするデモ隊と、それを阻止しようとする機動隊が、激しくもみ合う。

N「昭和三十五(一九六〇)年、日米安保の自然延長を阻止すべく、学生を中心としたデモ隊が国会前に詰めかける。機動隊との衝突の中で死者も出たが、日米安保は自然延長となった」


〇池田勇人(首相、六十二歳)

池田「私はここに、国民の所得を倍増させることを約束します!」

N「安保騒動の責任を取って退陣した鳩山内閣の後を受けた池田内閣は、『所得倍増計画』をぶち上げ、経済政策に力を入れる」


〇ヘドロで汚れた海

N「だが経済成長の陰で、水俣病をはじめとする公害問題も大きくなっていった」


〇東京駅ホームに入ってくる新幹線

N「昭和三十九(一九六四)年十月一日、東海道新幹線が開通。新幹線は随時延伸され、現在は九州から北海道までをつないでいる」


〇東京オリンピック(昭和三十九(一九六四)年)開会式

聖火ランナーの手によって、聖火が灯される。

わっと沸く観客たち。

N「十月十日には、東京オリンピックが開催される。日本は金十六個を含む、計二十九個のメダルを獲得した」


〇安田講堂

いくつもの赤い旗がひるがえる安田講堂に、放水車からの容赦ない放水が浴びせられる。窓から顔を出した学生、メガホンで

学生「東大を解体せよ!」

その顔に放水が直撃し、もんどり打って倒れる学生。

N「昭和四十四(一九六九)年、ベトナム戦争や安保延長に対する反発を背景に、学生たちが東大を封鎖、機動隊が突入して排除する事態となった」


〇大阪万博開会式

太陽の塔の前をパレードが行く。

N「昭和四十五(一九七〇)年には大阪で万国博覧会が開催され、六千五百万人の来場者を集めた」


〇雪の浅間山荘

多数の機動隊が包囲している。

N「昭和五十四(一九七九)年二月、指名手配を受けて逃走していた過激派・連合赤軍のメンバーが、長野県軽井沢の浅間山荘に、人質を取って立て籠もる」

警察の装甲車から、犯人の親たちがスピーカーで説得する。

犯人の親「世間様にこれ以上迷惑はかけないでくれ! せめて女性だけでも解放して……」

山荘から、ライフルで装甲車を銃撃する犯人。首をすくめる一同。

先端に鉄球を付けたクレーン車が山荘に接近、銃撃を受けながらも天井と屋根に穴を開ける。

N「警察官二名、民間人一名の犠牲を出しながらも、人質は無事救出され、犯人は全員逮捕された。しかし国民をさらに驚かせたのはその後の裁判だった」


〇裁判所・法廷

証言台に立つ永田洋子(連合赤軍新党・副委員長、二十八歳)。

N「浅間山荘事件に先立って連合赤軍が起こした、山岳ベース事件についての証言である」

永田「革命に必要な強さを身につけさせるため、メンバーに『総括』を行った」

検事「『総括』とは、具体的に何をさせたのか」

永田「反省をうながし、革命家としての自覚を明らかにさせるため、自己批判をさせながら、全員で殴り、そのまま屋外に放置した」

検事「外は氷点下であった。メンバーが死亡する可能性は考えなかったのか」

永田「(顔色一つ変えずに)死ぬか革命家としての自覚に目覚めるかは、本人次第である」

慄然とする傍聴人たち。

N「『山岳ベース事件』では、メンバー同士のリンチで、実に十二名が死亡していた。それまで国民の間にあった、過激派に対する同情心は一掃され、『革命の時代』は終わった」

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