第三巻 第三章 源平の争い

〇入道姿の清盛(五十一歳)

N「仁安二(一一六七)年、太政大臣となって人心位を極めた平清盛は、翌年出家し、福原の山荘に移った」


〇博多の港

日本製の大型船や、宋の大型船が停泊している。波止場では、大勢の人夫が荷物の積み下ろしをしている。それを見て相好を崩す、清盛と従者たち。

宋の商人が清盛のもとへやってくる。

清盛「いつもの物は持ってきておるな」

宋の商人、うなずいて宋銭の束を差し出す。清盛、宋銭を手に取って

清盛「これからはこれが世の中を動かす」

N「当時、日本では貨幣を鋳造しておらず、宋からの輸入に頼っていた。宋との貿易を一手に握ったことが、平氏の力の大きな源であった」


〇平安宮、紫宸殿

高倉天皇(十一歳)、徳子(十七歳、建礼門院)に謁見している清盛(五十四歳)、重盛(清盛の嫡男、三十四歳)。

N「承安元(一一七一)年、清盛は娘の徳子を高倉天皇の中宮に立てる。平氏一門からは公卿十人以上、殿上人三十人以上が立ち、平氏は全盛期を迎えていた」

高倉「(苦々しげに)清盛、そちの一門の平時忠が」


〇酒に酔った平時忠

時忠「平氏にあらずんば人にあらずじゃ! はっはっはっ……」


〇平安宮、紫宸殿

清盛「(恥じ入って)一門の恥にございます……」

重盛「どこにもできそこないはいるものにございます」

高倉「……それはまあよい。それより、父上(後白河法皇)はいつになったら、私に政治を任せるつもりなのか」

清盛「……時をお待ちください。いずれ、我らが主上のお力となりましょう」


〇言仁親王(安徳天皇、一歳)を抱く清盛(六十一歳)

N「高倉天皇が成人し、徳子との間に言仁親王(安徳天皇)が産まれるに至り、親政を望む清盛と、政権を維持したい後白河との間は、次第に対立していく」


〇衛兵に付き添われて進む後白河の牛車

N「治承三(一一七九)年、清盛はついに後白河法皇を鳥羽殿に幽閉し」


〇安徳天皇(二歳)を抱く高倉上皇(二十歳)、その背後に立つ清盛(六十二歳)

N「翌治承四(一一八〇)年、安徳天皇が即位。高倉上皇の院政の形式を取りつつ、実質的な平氏政権が誕生した」


〇平氏全盛期の知行国・国守

N「平氏一門の知行は二十五ヶ国、国守二十九ヶ国に及び、まさに平氏の天下であった」


〇矢に当たって落馬する以仁王

N「しかし誰もが平氏の天下を喜んでいるわけではなかった。治承四(一一八〇)年六月、高倉上皇の兄である以仁王が、源頼政と図って挙兵しようとして発覚、討ち取られた」


〇伊豆、源頼朝配所の一室

源頼朝(三十四歳)、北条政子(二十四歳)、北条時政(四十三歳)らが以仁王の令旨(本来は皇太子・三后の命令だがこれに限りこう呼ばれる)を前に話し込んでいる。

N「以仁王の『平氏打倒』の令旨は全国の、源氏を中心とした武士たちに届けられていた」

頼朝「確かに平氏は父の仇。だが、挙兵など、考えてみたこともなかった……」

時政「しかし平氏はすでに、令旨を受け取った全国の源氏の追討に向けて動き始めております。ここに追討の軍勢が来るのも、時間の問題かと」

政子「どうせ死ぬのならば、戦って死のうとは思わぬのですか」

時政「地方の武士たちの間には、平氏に対する不満がたまっております。源氏の正嫡(義朝の正妻の長男)である頼朝さまが立ち上がれば、多くの武士たちが立ち上がりましょう」

頼朝、二人の顔を見る。真摯に決意を迫る二人の顔を見て、決意を固める頼朝。


〇水鳥の羽音に驚いて逃げ出す、富士川の平氏軍

N「八月十七日に挙兵した頼朝は、石橋山の戦いで一度は敗れるが再起、富士川の戦いで平氏軍を撃ち破り、関東一円を勢力下に置いた」


〇黄瀬川の陣

頼朝と義経(二十一歳)が手を取り合っている。

頼朝「弟のお前がはせ参じてくれたこと、誠に心強く思う」

義経「兄上に従い、平氏を討ち果たしましょう!」

頼朝「……ときに奥州の秀衡どのから、何か言付かってはこなかったか」

義経「(無邪気に)いえ? 別に」

眉をひそめる頼朝と、あくまで無邪気な義経。


〇鎌倉・大蔵御所

頼朝・時政・和田義盛らが会議している。

頼朝「……上洛はせぬ」

時政「平氏を討つために挙兵したのではなかったのですか!」

頼朝「まあ落ち着け。今上洛してどうなる? 院(後白河法皇)にいいように使われて、平氏と噛み合わされるだけだ。院のことは清盛公ですら扱いかねていたではないか」

義盛「しかし……」

頼朝「それより、平氏が支持を失ったのは、地方の武士たちをないがしろにしたからだ。我らが同じ事を繰り返してはならぬ」

時政「……なるほど。まずは坂東の武士たちの支持を固めるのですな」

うなずく頼朝の顔は、すでに政治家の風格である。

N「鎌倉に留まった頼朝は、自分に忠誠を誓った武士(のちの御家人)たちの土地を保証し、土地を巡る争いを解決し、戦功のあった武士に、これまでの戦いで手に入れた新たな土地を与えた。『御恩と奉公』という鎌倉幕府のシステムは、この時期からスタートしていた」


〇熱病で悶死する清盛(六十四歳)

清盛「(熱にうかされながら)頼朝の首を持て……平氏一門、百年の安泰のためじゃ……」

N「翌治承五(一一八一)年閏(うるう)二月、清盛は病死する」


〇角に松明をくくりつけた牛の大群に追われる平氏軍(夜)

N「寿永二(一一八三)年、信濃の木曾(源)義仲は、平氏の追討軍を撃ち破って京へ攻め上る」


〇都落ちする平氏と貴族たち

荷物を詰め込んだ牛車と、大荷物を担いだ従者たちが道を埋め尽くしている。

N「平氏は安徳天皇を連れて京を捨て、四国・屋島に拠点を構える」


〇平安京・都大路

義仲(三十歳)を先頭に、白旗を翻し、堂々入京する義仲軍。

しかし京は荒れ果て、所々に乞食然とした、衰弱した貧民達が転がっている有り様である。義仲、道の脇にむしろを敷いて転がっている貧民に声をかけ

義仲「平氏を追い払った源氏将軍、木曽義仲である。なぜ京(みやこ)人(びと)は、我らを歓迎せぬのか」

貧民「赤旗(平氏)でも白旗(源氏)でも構わねえ。早いところ戦を終わらせて、まともに飯を食えるようにさえしてくれたらな」

そっぽを向く貧民に、言葉を失う義仲。

N「折から飢饉の年でもあり、義仲の大軍の滞在は、平安京に深刻な飢饉をもたらした」


〇平安宮・院御所

義仲が後白河法皇(五十七歳)に謁見している。

後白河「京から平氏を追い払ってくれたこと、礼を申す。だが、三種の神器を持ち出されてしまったのは失態であったな」

義仲「いや、我らが入京した折にはすでに……」

後白河「いやいや、過ぎたことはよい。聞けば平氏は、屋島で勢力を回復しつつあるという。今のうちに叩き潰さねばならぬのではないか」

義仲「……我らはこの京で、兵糧もままならず弱っております、今すぐには……」

後白河「一日も早く三種の神器を取り返さねば、我らの帝(後鳥羽天皇)が即位できぬ。さすればその方たちは再び賊軍となり……」

後白河の口数に圧倒される義仲。

X     X     X

へとへとになった義仲が出て行くと、入れ替わりに院庁庁官・中原康定が入ってくる。

康定「院、お呼びで」

後白河「うむ。そちはすぐに関東へ行って頼朝に会い、上洛するように伝えよ」

康定「(驚いて)たった今、義仲どのを平氏追討に向かわせたのではなかったのですか?」

後白河「(苦々しい顔で)このまま義仲に大きな顔をされてみろ、平氏を追い出したあとに、源氏が座っただけではないか。義仲、頼朝、平氏。この三つを噛み合わせて互いの力を削ぎ、院の実権を取り戻すのだ」

康定「(感心して)なるほど……」

一礼して出て行く康定。

後白河法皇の顔は、すでに権力に取り憑かれている。

N「しかし平氏に敗れて帰京した義仲は、後白河法皇が頼朝上洛をうながしたことを知り、法皇を監禁する」


〇鎌倉、大蔵御所

頼朝(三十七歳)の前に源義経(二十五歳)がひざまずいている。

頼朝「院をお救い申し上げるのだ。義仲を討て」

義経「義仲どのを……平氏を討つのではないのですか?」

頼朝「いずれその沙汰も下ろう。まずは目の前の戦いに集中せよ」

義経「は」

頼朝「ああ、それから……院には油断するな。官位を授けると言い出したら、『兄にうかがいを立ててから』と返事するのだぞ」

何を言われているのかわからず、きょとんとした顔の義経。

N「後白河法皇から東国支配を公認された頼朝は、院救出と義仲追討のため、弟の義経を派遣する」


〇宇治川の戦い

N「後から派遣された兄・範頼と共に、宇治川の戦いで義仲を撃ち破った義経は、続いて平氏追討に向かう」


〇鵯越を馬で駆け下りる義経軍

N「義経は奇襲をもって、一ノ谷の戦いで平氏を敗走させる」


〇平安宮・院御所

義経(二十六歳)が後白河(五十八歳)に謁見している。

後白河「平氏追討の働き、見事であった。これより後は、検非違使として京の治安維持に当たってくれ」

義経「(喜ぶがはっと思い出して)いえ、それは、兄にうかがいを立てませぬと……」

後白河「従五位下じゃ。昇殿(内裏への出入り)を許すと申しておるのじゃぞ。源氏にとって、大きな名誉になろうかと思うが」

義経「(平伏して)そういうことならお受けいたします」


〇鎌倉、大蔵御所

義経からの手紙を読んで、怒って手紙を引きちぎる頼朝。

頼朝「あの愚か者が!」

N「怒った頼朝は義経の平氏討伐の任を解くが」


〇屋島の戦い

那須与一が扇の要を射抜く。

N「範頼が屋島攻略に苦戦したため、頼朝はあらためて義経を派遣。義経は平氏を敗走させ、壇ノ浦に追い詰める」


〇壇ノ浦

源平両軍が、壮絶な船戦をしている。すでに大勢は決し、赤旗を掲げた平氏の船の多くは炎上し、沈んでいく。源氏の白旗が、悠々と翻る。


〇平氏船上

二位尼(清盛の正室、六十歳)が安徳天皇(八歳)を抱いている。それに付き添う建礼門院(時子、三十一歳)。

安徳「どこかへ参るのか?」

二位尼「……波の下にも、京はございます」

建礼門院と二位尼、安徳天皇を抱いたまま海へ飛び込む。

N「この壇ノ浦の戦いで平氏(伊勢平氏)は滅亡する。建礼門院は命をとりとめたが、安徳天皇と、三種の神器のうち剣は失われた」

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