第三巻 第二章 院政の発展

〇朝議の席

後冷泉天皇(二十一歳)、尊仁親王(後三条天皇、十二歳)、藤原頼通(五十四歳)

ほか、親王や公卿たちが朝議している。

N「藤原氏の全盛期を築いた道長の死後、その嫡男の頼通も関白として権勢を誇った」

頼通「主上(後冷泉天皇)はまだ十分にお若うございます。後朱雀天皇は、尊仁親王を東宮(皇太弟、次の天皇)にとご遺言されましたが、主上に男子がお生まれになれば、争いの元ともなりかねませぬ」

思わず口を挟もうとする尊仁だが、頼通に一にらみされて黙る。

後冷泉「……頼通の申すことももっともではあるが、父上のご遺言である。それに、朕に万一のことがあった時に、東宮がおらぬでは、それこそ争いの元である」

尊仁に微笑みかける後冷泉。ほっとする尊仁。

頼通「主上はまだお若く、お元気ではございませぬか。何もそのような……」

後冷泉「何しろ末法の世である。何事が起こるかわからぬ世の中、備えておかねばな」

頼通、悔しそうだがそれ以上反論はせず、憎々しげに尊仁をにらむ。縮こまる尊仁。

N「頼通は娘を後冷泉に入内させ、男子が産まれることを期待した。しかし……」


〇平安京、紫宸殿

後三条天皇(三十五歳)が公卿たちを睥睨している。

N「後冷泉と頼通の娘の間に男子は誕生せず、治暦四(一〇六八)年に後冷泉天皇が死去すると、尊仁親王が即位し、後三条天皇となった」

後三条、頼通を一にらみする。歯がみする頼通。

後三条「……国庫が空っぽなのは、違法な荘園がまかり通っているからである。そこで荘園の管理を国司に任せるのをやめ、記録荘園券契所を設けて、朝廷が自ら管理することにする」

頼通「それは……ずいぶん急な話にございますな」

後三条「(笑って)まさか、太政大臣ともあろうお方が、違法な荘園を所有しているわけもございますまい。何か問題が?」

もう一度歯がみする頼通。

N「後三条天皇は積極的に親政を行い、藤原氏の影響を排除していった。藤原氏はその後も朝廷に大きな地位を占め続けたが、全盛期のような力を振るうことは以後なかった」


〇清涼殿の一室

病床の後三条(三十九歳)を見舞っている、貞仁親王(後三条の息子、白河天皇、二十歳)と陽明門院(後三条の母、六十歳)。陽明門院は実仁親王(白河の弟、二歳)を抱いている。

後三条「貞仁よ、そちに皇位を譲るに当たって、一つ条件がある」

貞仁「は」

後三条「東宮に実仁を立てよ」

貞仁、驚きとショックを飲み込んで

貞仁「……承知いたしました」

貞仁(M)「私の息子は、皇位を継げぬということか……」

N「延久四(一〇七二)年、後三条天皇は白河天皇に譲位。翌年亡くなった」


〇清涼殿の一室

病床の実仁(十五歳)を見舞っている白河天皇(三十三歳)と陽明門院(七十三歳)。

N「しかし実仁親王は十五歳の若さで病に倒れる」

実仁「(苦しい息の下で)私の次の東宮は、弟の輔仁に……」

実仁の手を握ってうなずく白河。それを見て微笑んで、意識を失う実仁。胸をなで下ろす陽明門院。


〇紫宸殿、朝議の席

白河天皇(三十四歳)、善仁親王(堀河天皇・八歳)を朝臣一同に紹介している。

白河「次の東宮は、我が息子、善仁とする」

陽明門院、立ち上がって

陽明門院「主上は、『次の東宮は輔仁に』と、実仁に約束したではありませんか!」

白河「(とぼけて)はて? 身に覚えがございませぬ。誰か、朕がそのように申したのを聞いた者がおるか」

沈黙する一同。白河、陽明門院を見据えて

白河「東宮を定めるは、治天の君(天皇ないし上皇・法皇)のみの権利。余計な口出しはおやめいただきたい」

歯がみする陽明門院。

白河「そして朕は、本日をもってこの善仁に譲位する」

ざわめく一同。


〇平安宮、院庁の一室

家臣たちと会議をしている白河上皇。

N「白河天皇は、上皇(のち出家して法皇)となることで、摂政・関白などの、既存の朝廷に左右されず、自由に政治を行う力を得たのである」


〇院庁を警護する北面の武士たち

その中に平忠盛の姿。

N「院は『北面の武士』と呼ばれる武力さえも持っていた。その中には平清盛の父・忠盛も加わっていた」


〇白河法皇と鳥羽法皇

N「白河法皇(上皇)は堀河・鳥羽の二代に渡り院政を敷き、その死後は鳥羽法皇(上皇)が崇徳・近衛の二代に渡り院政を敷いた」


〇鳥羽離宮の一室

鳥羽法皇(四十九歳)、崇徳上皇(三十七歳)、藤原頼長(三十六歳)、雅仁親王(崇徳の弟・近衛の兄。後白河天皇、二十九歳)らが朝議している。

N「崇徳上皇は鳥羽上皇の命により、弟の近衛天皇に譲位した。その近衛が若くして亡くなると」

鳥羽「さて、次の帝であるが……」

崇徳(M)「当然我が息子、重仁(しげひと)であろうな……」

鳥羽「雅仁親王とし、東宮に守仁親王(後白河の息子、二条天皇)を立てようと思う」

衝撃を受ける崇徳と雅仁。

崇徳(M)「では私は、生涯治天の君(天皇ないし上皇・法皇、最高権力者)にはなれぬと言うことか……」

雅仁(M)「せっかく気楽な親王暮らしを満喫していたのに、えらいことになった……」

両者、全く異なる理由で青ざめる。

N「こうして後白河天皇が即位。その翌保元元(一一五六)年、鳥羽天皇は亡くなった」


〇鳥羽離宮の一室(夜)

崇徳上皇(三十八歳)が側近たちと会議している。そこに飛び込んでくる伝令。

伝令「頼長さまが反逆者とされ、追捕令が出ました!」

衝撃を受ける一同。

崇徳「雅仁め……我らが立ち上がる機先を制したつもりか……!」

N「鳥羽離宮を脱出した崇徳上皇の一行は、白河北殿で源為義・源為朝・平忠正(清盛の叔父)らを中心とする源平の武士を集め、挙兵する」


〇平安宮、紫宸殿(夜)

武装した平清盛(三十九歳)・源義朝(三十四歳)らが、後白河(三十歳)・守仁(十四歳)・信西(五十一歳)らの前に平伏している。

後白河「清盛どのが来てくれたので、百人力じゃ」

清盛「ありがたきお言葉にございます。作戦ですが、上皇方の仕度が整わぬうちに、夜襲を仕掛けるべきかと」

義朝「拙者も同意見です」

信西「うむ。戦のことは全てその方らに任せる」

清盛・義朝「はっ!」


〇白河北殿(夜)

崇徳・頼長(三十七歳)が源為義(六十一歳)・源為朝(十八歳)・平忠正(中年)らを

謁見している。

為朝「帝方もまだ準備が整っていないはず。今すぐ夜襲すべきです!」

頼長「……これは治天の君を決める、壬申の乱以来の大戦である。正々堂々と戦って決めねばならぬ」

為朝「しかし……!」

と、遠くで火の手があがり、雄叫びが聞こえてくる。伝令が飛び込んで来て

伝令「帝方の夜襲です!」

頼長「(愕然として)何と……!」

衝撃を受ける一同。しかし武士たちはすぐに立ち直って、防戦の準備のため飛び出して行く。

N「勝敗は一晩で決した。頼長は逃亡中に討たれ、投降した崇徳上皇は讃岐に配流、源為

義・平忠正は死刑となる」


〇清盛(中年)UP

N「この保元の乱で、武士の力を誰もが知ることとなった。その四年後に起こった平治の乱の鎮圧にも清盛は活躍し、平氏政権の成立の基礎を築く」


〇伊豆に護送される頼朝(十四歳)

N「平治の乱で敗れた源義朝の嫡男・頼朝は、まだ幼かったので死罪を免れ、伊豆へ配流となった」


〇藤原秀衡(五十六歳)に謁見する義経(十九歳)

N「さらに幼かった牛若丸(義経)は鞍馬山に預けられるが、脱出して奥州藤原氏の保護を受ける」


〇法住寺殿

後白河法皇(四十一歳)に謁見している清盛(五十歳)。

後白河「……余はそもそも、治天の君になぞ、なりとうなかったのじゃ」

意外そうな顔をする清盛。

後白河「じゃが、なってしまえば、余自身と、余のまわりの者たちのために、小汚い陰謀にも手を染めねばならぬ。兄上と戦ってでもな」

後白河、清盛の目をじっと見て、

後白河「清盛、そちにはわかるであろう。平氏一門の命運を一身に背負っているそちには」

清盛「……心中、お察し申し上げます」

N「この時点では、後白河院政を平氏が支えるという協力関係は損なわれていなかった」

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