第208話 二投流

バァサ!バァサッ‼️


『お嬢様。なるべく狂姫から離れましょう!。私は何度か彼女とレースで戦ったことがあります。近づくのは危険です!。』

「でもカイギスはスピードタイプの竜じゃありません。大丈夫なのですか?。」


絶帝竜カイギスはスピード寄りの竜ではない。能力と防御を生かした特殊タイプである。


『問題ありません。我が魔法で狂姫とレッドモンドの距離を無かったことにすればよいことです。』

「解ったわ。」


絶帝竜カイギスは即座に詠唱を始める。


『我、深きもの、我、長きもの、我、硬きもの、完全たるその身に絶対たる力を求めん。我は絶対者、我は絶帝者、我は完全拒絶者。万物の理を用いて無限なる拒絶を求めん。無限拒絶解離魔法、メビウスアルマ(無限改絶)。』


カッ!

何重の魔法陣が展開され。絶帝竜カイギスの巨体が一瞬にしてレッドモンドとの距離に大きく離れる。


「いきなり飛ばしてきたな。どうするラチェ。」

「くくく、あッハハハハハッ!!。」


突然に背に乗っていた学園長が奇声のような高笑いする。


「やってくれるわね!。小娘!。だけどこの程度でわたしが怯むか!。ダボが!!。レッド。がんがん飛ばせや!。」

「やっぱこうなるか······。」


レース中性格がぶり返したようである。これが本来学園長、狂姫ラチェット・メルクライの性格である。好戦的且つ過激、狂姫ラチェット・メルクライが三大陸制覇を成し遂げたのもこの性格が災いしてのことである。強い奴ならどんなやつでも決闘、或いはレースをふっかける。それだけではなくレース以外にも闘技場に出場したりと闘いの場なら貪欲に首を突っ込んでいったりする。レッドモンドのパートナーになった由縁も利害の一致からであり。レッドモンドは己を鍛えるために。ラチェット・メルクライは貪欲に闘いを求める場所に。彼等は互いに馬が合うほど相性が良かった。


「さあ!、血が滾るわ!。血祭りの時間よ!。ヒィーヒィー言わせてあげるわ!。ひゃかっかっかっかっ!。」


学園長の口からひしゃぐれた高笑いがでる。


ギャアラギャアガアギャアラギャアガ····

(何あれ?。キャラ変わっているんですけど····)


突然の学園長の豹変ぶりに俺は白けるほどドン引きしてしまう。


「あれが学園長の狂姫ラチェット・メルクライの本性よ。好戦的且つ過激。それが彼女の本質よ。あれほど素をさらけ出す令嬢は私は今まで見たことはないわ。だからおしとやかな令嬢ほど彼女のファンが多いと聞くわ。」


セラン先輩は坦々と狂姫の説明をする。

過激ってあれどう見ても狂人危ない人なんですけど。いや狂人故に狂姫なのか。俺はそう勝手に解釈する。


「なんか憧れるね。ライナ。」


アイシャお嬢様は学園長の本性を垣間見て見惚れている。


いや、あれは憧れないと思いますけど····。


アイシャお嬢様にはあれは絶対真似しないで貰いたい。教育上あまり宜しくない。


「さあ、レッド。あれをやりな!。あの小娘とデカブツ竜に目にもの見せてやりなさい!。」

「おう。」


狂姫ラチェット・メルクライの指示にレッドモンドは大気の気を吸収し始める。


おっ!いよいよレッドモンドさんの加速飛行が見えるのか。俺の場合はおっぱいがトリガーで背中に押しつけ擦りつけることで作用するが。レッドモンドさんの場合はどうだろう?。レッドモンドさんのことだからトリガーは当然筋肉だろうけど。


レッドモンドの周囲の大気から黄色の光の粒子が集まりレッドモンドさんの筋肉の身体に吸収される。


「んんむふーー!むっほおおおーー!!。」


レッドモンドさん竜口から雄叫びが上がる。


パン!パン!パン!パン!


レッドモンドさんの身体の肉という肉の筋肉が膨張し膨らむ。それと同時に艶のある光を帯びる。竜口から蒸気をふきだす。

全身の筋肉という筋肉が漲る。


「筋肉引き締まっ。るっふぅ~~ん♥️。」


レッドモンドさんの顔色が色気付いたようにうっとりと酔いしれる。


き···気持ちわる·····(令嬢生徒一同)


観戦していた一年三年令嬢生徒達全員がドン引きするほど冷めていく。


レッドモンドの筋肉の肉体が光岳が増し。筋肉からオーラを放つ。


「キャーー!!。レッドモンド様!。最高です!。ピーピーー。ピーピーー。」


アーニャの父親マクス・ハウンデルは子供のようにはしゃぎ。口に二本の指をくわえて激しく指笛をならす。レッドモンドを褒めちぎりながら捲し上げる。


「ふええ。お父様!。みっともないから止めて下さい!。」


ふわふわ

グー グー


雲ような軽さを秘めた爆乳を揺らしながら奇行に走る父親をアーニャは懸命に止めようとする。

その隣で地土竜モルスは安心安全爆睡タイムを始める。


『ぶひゃひゃひゃひゃ!。流石は変態のよこしま竜の師です!。類は友を呼ぶとはこういうことをいうのです!。ぶひゃひゃひゃひゃ~♥️。』

「ナティ······、」


隣で妖精竜ナティが腹を抱え爆笑していた。

そんな隣でエルフのリスさんは困った顔を浮かべる。


俺は隣で嫌そうに竜顔をしかめる。

失礼だな。変態はともかくジャンヌと方向性は違うだろうに。


変態は反論しないが。レッドモンドさんとは

変態の方向性が違う。故に類は友を呼ぶの類には入らないと思う。ジャンヌが違うのだから。


びゅおおおおおおおーーーー!。


筋肉を漲らせたレッドモンドさんは物凄いスピードで加速する。絶帝竜カイギスの離れていた距離が既に目の鼻の先まで追いついていく。


「カイギス。もう追いつかれてしまいましたね。流石は強靭のレッドモンドですね。噂通りです。」


シャルローゼは素直に感動感心する。


『レースから離れていたとはいえ。身体を鍛えることに関して疎かにしていなかったようですな。』


昔のライバルが今でも現役にレースをこなし。健在であることに絶帝竜カイギスは少し安心する。


「カイギス。これからどうしましょうか?。私本心としては狂姫である学園長とは本気で戦いたいのですが。」

『戦っても善いですか。あくまで短期決戦は挑まないように。狂姫は全盛期ほどの力はありませんが。つくとするならば体力スタミナ切れを狙うしかありません。ここは狂姫に攻撃の隙を与えず攻撃し続けることが得策かと。』


シャルローゼは顎に手をあて考え込む。


「なるほど。攻撃の隙も与えさせない猛攻ですか·····。狂姫ラチェット・メルクライが得意中の得意としていた戦法ですね。ふふ。それを私がするとは·····。」

『どうかいたしましたか?。お嬢様。』

「いいえ。私の憧れだった狂姫と戦えて尚且つ狂姫のような戦い方ができるなんて私はとてもとても嬉しいのですよ。」


あの憧れであった狂姫とレースできたことがシャルローゼは大満足であった。

騎竜乗りを初めようとしたのも狂姫がきっかけだった。

確かに救世の騎竜乗りのおどきばなしを聞いて騎竜乗りに憧れてはいたが。それでも自分は王族の身分であり。騎竜乗りになる夢を半場諦めていた。

しかし幼少時に狂姫のレースを初めて観戦したあの日。狂姫の人間とは思えないほどの激し過ぎるレースの戦いに目を奪われた。

傷や怪我などものともせず。獣のように果敢に相手の騎竜乗りと騎竜に襲いかかる。

次々と騎竜乗りと騎竜をなぎ倒すその激情とも呼べる姿に私は初めて衝撃を受けたのである。

憧れ夢で終わらせようとした騎竜乗りを本気でなろうときっかけを与えてくれた方なのである。丁度王族直属近衛騎士団である薔薇竜騎士団の元騎竜乗りの経験を持つ副団長から引退を機に絶帝竜カイギスを譲り受けたのである。王であるお父様を何とか説得して。王族に伝わる弓術を生かし。カイギスの防御と事象をなかったことにする魔法、これ等を組み合わせて私は身分を隠しながらもレースを出場し続けたのである。風の噂で狂姫が騎竜乗りを引退して。東方大陸で学園の学園長をやっているということ聞きつけ。私は急いで王であるお父様を説得し。狂姫ラチェット・メルクライが学園長をやっているアルビナス騎竜女学園に入学したのである。その後三校祭の三校対抗レースであの忌まわしき無情という竜に出逢ったのだが。

シャルローゼは深呼吸をする。

気持ちの高ぶりを静め。冷静に戦闘を対処するためである。


カッと目を見開き。後方にいる狂姫にくるりと正面を向けて立つ。。


「ん?、ラチェ。気を付けろ!。あのお嬢さん何か仕掛けるぞ!。」

「ふふ、私に小細工など効くとでも!。全て受けて立たあーー!。」


青緑色の筋肉質の竜と老いなど微塵も感じられない狂姫が怯むことなく迫ってくる。


「武装解放!。」


ドラグネスグローブの手の甲に装着された宝玉が輝きだす。宝玉の光から弓形のシルエットが現れる。アーチェリーのような形をした弓が具現化する。真っ白なリムの部分に綺麗な金の装飾が施され。弓の両端に先の滑車が廻りだすと両端から糸のように光が伸び。繋がって弦となる。右手のドラグネスグローブの掌から魔力でできた光の矢が浮かびあがると。羽部分をつまみ弦にあてる。視線をこらし。コンパウンドボウのように装着した丸いサイトを迫ってくる狂姫とレッドモンドの姿に入れる。


ギギギギッ

魔力の弦を限界まで引っ張りあげる。

ギリギリに限界まで引っ張り上げた魔力でできた弦をシャルローゼは微動だにせずにスッと放した。


ヒュッ びん

放たれた光の矢は俊敏な速さで迫りくる狂姫と学園長の顔面と接近する。


「はん。」


学園長は瞬きもせずに顔面に向かってきた矢に反応し顔を逸らして回避する。


タン! タッタタン!


シャルローゼは巨体である絶帝竜カイギスの背中からアクロバティックな動きで側宙し。魔力できた矢を何度も放つ。


ひゅん ひゅひゅひゅひゅ ひゅん

シャルローゼ張りのある豊かな胸がアクロバティックに跳び跳ねる側宙のリズムに合わせて弾む。


「む?。」


ひゅ ひゅ ひゅ ひゅひゅひゅ

シュ ザシュ バンパパン


レッドモンドは放たれた無数の魔力できた光の矢を気を練り込んだ手刀ですべて全て弾き返す。

しかしシャルローゼの攻撃の手を緩めない。


「ラチェ。これ多分お前の戦い真似しているぞ。」


シャルローゼの攻撃の仕方が弓矢ではあるが。連続的に攻撃の隙も与えない彼女の得意である猛攻に似通っていた。

狂姫である学園長は不快に白い眉を寄せる。


「老いた肉体では昔の攻撃の仕方ができないという私の当て付けかしら?。やってくれるわね!。ここまで舐められたの初めてよ!。ギったんギったんしたる!。」


過激化し。狂気じみた学園長は好戦的に息巻く。


「いや、舐めているんじゃないと思うがな·····。」


シャルローゼという令嬢とはあまり面識はないが。戦法はライバルであった絶帝竜カイギスの入れ知恵であろう。老いて体力やスタミナのないラチェを猛攻により攻撃の隙を与えず。ラチェの体力とスタミナだけ削り取る算段であろう。今のラチェは全盛期ほどの体力スタミナはない。レースだって一組一レースが限界な位だ。しかしラチェのレースでの経験と技術力は此方が上。あの娘が勝るとするならば若さ故の体力とスタミナであろう。


「では、こちらも本気で相手してやるわ!。」

「いよいよ本気をだすか·····。」


ラチェのぎらついた瞳は全盛期のままである。

ラチェは古びた両手の甲にはまる宝玉のついたドラグネスグローブを翳す。本来なら武器を収納する宝玉は一つだけで片手だけに付いているものだ。しかし何故か狂姫ラチェット・メルクライのドラグネスグローブの両手の甲には二つ宝玉が嵌められてあった。それこそ三大陸制覇した騎竜乗り狂姫の由縁足らしめた一つである



「武装解放!!。」


パアアッ


両手のドラグネスグローブの甲の宝玉が発光する。二つ曲がった形状のシルエットが両側に浮かびあがる。

形状を現した武器と取手をガシッと両手で掴みとる。


ギャギャア······

(何だあれは·······。)


俺は絶句する。

それは紛れもなくアイシャお嬢様と同じ武器であるブーメランである。しかも一本ではなく二本のブーメランを学園長は両手に所持していた。


「あれが狂姫の固有武器である2対のブーメランよ。狂姫は独自の戦闘スタイルをもっているの。狂姫ラチェット・メルクライだけが扱う2対によるブーメラン戦闘法。名を二投流。」


セラン先輩は額から冷や汗が流れる。

狂姫ラチェット・メルクライが2対のブーメランを出したことは本気を出す証拠だからだ。


「二投流(にとうりゅう)······。」


アイシャお嬢様は真剣な眼差しで学園長の持つ2対のブーメランを釘いるように見いる。アイシャお嬢様はまだ見ぬ2対のブーメランの戦闘法を興味深く観察していた。


「お嬢様お気をつけ下さい!。狂姫は2対のブーメランを出しました!。」


カイギスは竜顔は険しく変わる


「学園長がいよいよ本気だすのね。」


シャルローゼは狂姫の恐ろしさよりもいよいよ狂姫の本気をみられることに胸踊る。


学園長はゆっくりと両手に持つブーメランを真下へ落とす。

ぎらついた鋭い眼光を放ち。

周囲には微かに白い光の粒子が舞っている。









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