第187話 風車杯
ヨーロレイヒー
ヨーロレイホー
アルプスの民謡のような歌が何処からか流れてくる。
「ここが風車杯が開催される地、風の谷ウィンドヒルよ。」
風車杯の出場経験を持ち。優勝者でもある二年先輩のセランお嬢様が風車杯の開催地を説明する。
谷なのにヒルなんですね。
俺は突っ込み所が満載な地名に心の中でそう突っ込む。
「あはははは、やっぱここ風が強くて気もちがいいなあ!。」
前もきたことがあるようでセランの相棒である風竜ウィンミーが嬉しそうに耳の片翼をパタパタさせ。ウィンドヒルの野原をはしゃぎまわる。
「こら!。ウィンミー。レース前にはしゃぐんじゃないの!。レースに支障がでるでしょう!。」
主人であるセラン先輩は激しく相棒である風竜ウィンミーを叱咤する。
「はあ~い。」
ウィンミーは適当に返事を返すが。そのまま走りまわって遠くに行ってしまう。
「全く!もう····。」
セラン先輩は腰に両手をやり不機嫌に眉を寄せる。
俺としてはあまり風竜のウィンミーに関わりたくない。アイシャお嬢様に事情を聞かされ。セラン先輩にふっ吹き飛ばされた元凶は全部が全部あの風竜のウィンミーのせいであるからだ。トラブルを起こすというよりはトラブルに巻き込ませるタイプの竜(ドラゴン)である。あまり関わりたくはない。
びゅうーーーー びゅうーーーー
ゴ ゴゴゴゴゴ
風の谷ウィンドヒルは風が強く。周囲の景色は丘や山脈に囲まれ。谷の草原の大地は沢山の強大な風車のプロペラが風の力でゆっくりと動いている。
びゅーーーーーーーーーーう!!
「凄い風ね。ライナ。」
ギャアガアラギャア
(確かにそうですね。)
びゅうーーーーーーー~ ふわふわふわ~
びゅうーーーーーーー~ わふわふわふ~
風車杯の開催の地であるウィングヒルはやたら突風が吹いている。止むことない風のおかげでアーニャお嬢様の雲のような軽さを秘めた爆乳が右から左に風がながれれば左へふわふわと揺れ。左から右に風が流れれば右へふわふわと揺れる。
どういう重力してるんだろう?。
「風の谷ウィンドヒルの土地は風が止むことがないそうよ。風の精霊が集まる特別な土地とされ。ここの人々にとって神聖な場所なのよ。風車杯も風の精霊の感謝祭も兼ねてやっているのよ。」
ギャア~
(へえ~)
ぐう~ ぐう~
アーニャお嬢様の相棒である地土竜モルスは風の谷ウィンドヒル入ってから爆睡し始めてしまい。俺が背でおぶって運んでいる。
「ふええ、ライナさん。も、申し訳ないです。」
主人であるアーニャにすまなさそうに俺に謝罪する。
ギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャアガアギャアラギャギャ
(いえ、騎竜を背中に乗せるのには特に気にしてませんよ。寧ろ幸せです。)
現に人化した大人姿のモルスの胸の膨らみが背中にあったってとても心地よいのである。
「うへへ、ライナの背中良い寝床。むにゃむにゃ。ずずずううう~~。」
背中から涎が垂れを啜る音が聞こえる。
ギャ ギャアラギャガアギャアラギャギャア
(ちょ、ちょっと、俺の背中で涎垂らさないでよ。)
地土竜モルスは俺の背中で気持ち良さそうに眠りながら涎を垂らしていた。
会話風車杯のレース会場に到着する。
ここが風車杯が開催される地か····。
風車杯のレース会場はレースをやるというよりはお祭り騒ぎである。出店や出し物などがあった。
「風の谷ウィンドヒルにようこそ!。私はこの風の谷ウィンドヒルの村に住むハイジーと言います。皆様はレースの出場者ですか?。」
アンデスの民族衣装のような身なりをした元気のよい少女が声をかける。三つ編み束ねた髪が左右に垂れ下がり。手持ちのバスケットには真っ赤なリンゴのようなものが入っている。
「ええ、そうよ。」
風車杯の先輩であるセランは言葉を返す。
「やっぱりそうですか!。歓迎します!。これはこの村で採れた特産品のアッポールです。どうぞ。」
風の谷ウィンドヒルの村娘から特産品のアッポールを手渡される。セラン先輩とアイシャお嬢様とアーニャお嬢様にアッポールを手渡される。ご丁寧に騎竜分も含まれていた。
「はい、ライナ。」
アイシャお嬢様は俺の竜口に2つ貰った一つのアッポールを差し出す。俺は器用に竜口で真っ赤なリンゴのようなほぼリンゴであるアッポールを丸飲みし口内で噛食する。
むしゃむしゃ
うむ、このほんのりとした甘酢っぱさがなんとも·····。
俺は特産品のアッポールの味を堪能する。
カリ
アイシャお嬢様は一口噛る。
「本当に美味しいね。」
アイシャお嬢様もアッポールを気に入ったようである。
ガリ
「久しぶりにここの特産品のアッポールを食べたわね。」
セラン先輩は昔を懐かしむようにアッポールをほおばる。
ふわふわ
「はい、モルス。」
アーニャお嬢様は俺の背中で爆睡している筈のモルスに貰ったアッポールを差し出す。モルスはそのまま眠りながら差し出されたアッポールを一口噛りモグモグと咀嚼していた。
爆睡しながら食べているよ。この地土竜。
俺は微妙な竜顔を浮かべる。
「風車杯頑張ってください!。応援してますね!。」
風の谷ウィンドヒルの村娘のハイジーは営業スマイルのような笑顔で俺達にとびっきりの声援を送る。
ハイジーのアンデスの民族衣装に包む胸からつきだされるLLサイズのアッポーの膨らみが激しく揺れる。
おおー!あなた様のそのアルプスでのびのび実った見事なAPooー!を我が竜の背中に押し付けて貰いたい!。
俺はそう内心強く渇望する。
風の谷ウィンドヒルの村娘のハイジーから歓迎を受け。レース会場内にあるスタート地点に脚を踏み入れる。風車杯のスタート地点は騎竜と騎竜乗りが沢山集まり混雑していた。
「風車杯はスリーマンセルのレースだげど。参加はエントリーじゃなくて自由参加なのよ。だから外から飛び込みもOKだから。結構な強豪の騎竜乗りと騎竜が集まるのよ。他の大陸から渡って来るものもいるそうよ。」
風車杯優勝経験者であるセラン先輩が説明する。
「凄いですね。」
「ふええ、勝てるでしょうか?。」
後輩二人は風車杯のスタート地点に集まる強豪そうな騎竜乗りと騎竜の熱気に圧倒されてる
「いい、クラブ。貴女は我がポーカー家次期頭首としてお家を継がねばなりません。私達はこのレースを境に引退します。」
「私達はそれぞれの名のある家系の貴族に嫁ぎます。私達の飛行よく観察し学びなさい。」
「貴女は私達の騎竜であるレア種の黒竜三頭も全て引き継がねばなりません。しっかりと私達の勇姿を目に焼き付けて下さい。」
「はい!、お姉さま方。」
13歳位の少女は笑顔で姉である三人の騎竜乗りに元気よく返事を返す。三人組の姉の後ろには真っ黒な漆黒に身を包んだ黒竜が控えている。
「それで、クラブ。どの学園に入学するか決まったの?。ここ東方大陸のアルビナス騎竜女学園かしら?。それとも中央大陸の王都にある王立シャンゼルク竜騎士校?。或いは西方大陸にある帝国のバザルニス神竜帝国大学?。」
末の妹でありポーカー家の次期頭首はまだどの学園に入学するか決めかねていた。
「いえ、まだ決めておりません。ハートお姉様。」
「貴女の将来です。どの学園に通うかで騎竜乗りの腕の上達に関係します。今後の将来にも関わることです。しっかり考えなさい。」
「はい!ダイヤお姉さま。」
「私達がいなくなってもしっかりポーカー家の騎竜乗りとして頑張るのですよ。」
「はい、スペードお姉さま。」
主人である四姉妹の令嬢の会話をよそに後ろには控えていた黒竜三兄妹がとあるチームに注目していた。
『おい、兄者!。観ろよ!。あのチームにノーマル種がいるぜ!。』
黒竜次男のエルゴは鼻で笑う。
『ふむ、本当だな。チーム数が足りなくて数合わせだろ。』
黒竜長男エルゴはさも興味無さげにノーマル種を入れているチームを見据える。
『あんちゃん。馬鹿だよね。スリーマンセルのレースで一番弱いノーマル種を入れるなんて。命取りなのに。』
黒竜三女スムは憐れを帯びた竜瞳の視線をノーマル種が入るチームにおくる。
『全くだな。スリーマンセルのレースでは誰一人一頭も欠けてはならず。ゴール到着するにも三人三頭同時にゴールに到着しなければならない。それなのにチームにドラゴンの中で一番弱いとされるノーマル種を騎竜に迎え入れるなど。そのチームにとって大きな足枷にしかならんのにな。』
『全くだぜ。兄者。でも兄者。あのチームのなかにいる水色の髪の髪止めしている人間の女、何処かで見たことないか?。』
黒竜次男のエルゴはノーマル種を騎竜に入れているチームのリーダーのような立ち位置にいる水色の髪止めの人間の女に何処か見覚えがあった。
『んっ?。』
黒竜次男エルゴの言葉に黒竜長男コルトは水色の髪に髪止めをしている人間の女に目を凝らす
『なっ!?。』
コルトは竜口を開いたまま絶句する。
『あれは!?。風姫!。』
『風姫って兄者!。この風車杯を五連覇した経験持つ強豪の騎竜乗りじゃねえか!?。』
『ああ、風の精霊の恩恵最も受けるというこの風車杯の中で右に出るものがいないというあの風姫だ。てことは必然的に相方の風の悪戯も来ているだろうなあ。』
黒竜長男コルトは難しげな竜顔を晒す。
風姫と風竜の風の悪戯はこの風車杯のレースでは有名である。この風車杯を五連覇し。風を自由自在に操る強豪の騎竜乗りと騎竜である
風姫とその相棒の風の悪戯がこの風車杯に出場しているのならば優勝は更にが難しくなる。
いや·····、しかし·····待てよ······。
黒竜長男コルトは風姫がいるチームの中にいたノーマル種に竜瞳をやる。
『兄者·····。』
『兄(あん)ちゃん······。』
兄の姿に黒竜の弟と妹は心配そうに顔色を窺う。
『これはチャンスだぞ!。弟よ妹よ!。』
黒竜長男コルトは不適な竜の笑みを浮かべる。
『何がチャンスなんだ?。兄者?。』
『兄(あん)ちゃん何なの?。』
兄弟の黒い竜首が揃って傾げる。
『あの有名な風姫と風の悪戯がいるチームを負かすことが出来れば主人達の株も上がり。ポーカー家に貢献できるというものだ。』
『でも兄者。あの風姫と風竜の風の悪戯がいるチームだぜ。俺等で勝てるかどうか····。』
黒竜次男エルゴはあの風車杯を五連覇した経験を持つ風姫と風竜の風の悪戯には勝てる自信など正直ない。
『何を言っているのだ弟よ。何のためのスリーマンセルのチーム制だ?。チームが一人一頭も欠ければ敗北になるのだぞ。ならばあの風姫がいるチームに一人一頭欠けさせればいいだけの話だろうに。』
『まさか!?兄者·······。』
黒竜次男エルゴはハッと兄の思惑に気づく。
『あのノーマル種と騎竜乗りを俺等で一網打尽にすればいいのだよ。ふふふふ。』
黒竜長男コルトは不適に不気味に嗤う。
『兄(あん)ちゃん。何か悪い顔してる。』
そんな様子を黒竜三女であるスムは呑気に見つめている。
三匹の黒竜は一匹のノーマル種に対して悪巧みを始める。
わいわい がやがや
『どうやらここが風車杯のスタート地点のようだな。』
「迷わなくて良かったな。」
全身が鱗と筋肉に覆われ。頭部に二本の角を左右に生やす竜と一緒に素肌を晒すような鎧を着て。背中には強大な大剣を背中に背負っている騎竜乗りが風車杯のレース会場にあるスタート地点に姿を表す
「やっぱり不味いですよ!。大学に黙ってレースに出場するなんて。」
付き添いには二人の女子が二匹の竜を引き連れていた。一人は相方である騎竜の背中に乗って眠りこけている。
「何を言うミャルナ。後輩であるお前達は実際実戦不足だろう。大学の訓練だけではレースの実戦経験は身に付かんだろうが。だからこうして一年であるお前達を東方大陸のレースに誘ったのだろうが。」
「だからといって大学に許可もとらずに強引に連れだすんだから。はあ、何かあってもしりませんよ。ベローゼ先輩。」
「ふん。」
ベローゼ先輩は不機嫌に鼻をならす。
「ようはレースに勝てば大学も文句言わないだろうが。まあ、こんな田舎のちんけなレースに早々強豪が揃ってるとはおもわないけどな。」
ベローゼはレース会場内のスタート地点で辺りの騎竜と騎竜乗りを値踏みする。
まあそこそこ強そうな騎竜乗りや騎竜は揃ってはいるが。私の我怒羅に対抗できる相手はいなさそうた。ベローゼはつまらなそうな顔で風車杯の他の出場者を観察する。
「ん?あれは·····。」
ベローゼはふと一人騎竜乗りに目が止まる。水色の髪と髪止めをした令嬢を目にするとベローゼはふっと笑いが込み上がる。
『どうした?ベローゼ。』
ベローゼの相棒の武羅鬼竜、我怒羅はそんな主人の様子に気付く。
「我怒羅、風姫がいる!。」
ベローゼは嬉しそうな笑顔を浮かべる。
『何?風姫だと!?。このレースに出場しているのか?。』
「そうみたいね。他に一緒にいるやつは知らないが。多分うちらと同じく一年の後輩を連れているんじゃないか?。」
『そうか·····それは楽しみだな···。』
グルルル
武羅鬼竜„我怒羅の赤い竜の瞳孔が細くなり。竜口が歓喜を秘めたうすら笑みを浮かべる。
「つまらない田舎のレースだと思ったけど。これは楽しめそうだな。」
『ああ、本気だしてレースを滅茶苦茶にしても構わぬよなあ?。』
我怒羅は鱗に覆われた筋肉が引き締まり上気を発する。
周囲にいた騎竜と騎竜乗りは我怒羅のただならぬ気迫に気圧されその場を離れていく。
「ええ、構わないぞ。レースが滅茶苦茶になるほど暴れようや。」
ベローゼは鬼のような騎竜に夜叉なような凍てついた冷笑を浮かべる。
「きゃははははは。」
レース会場内を風のようにはしゃぎ回る。片翼の耳をパタパタさせ。上機嫌にセランの相棒である疾風竜ウィンミーが駆け回る。人だかりなどなんのその風のように人と人の合間をすり抜け楽しむ。
「きゃははははは。」
レース前であるのにお気楽にはしゃぎ回るウィンミーを何者かの視界が捉える。
『あれは····ウィンミー!?。』
『あの不届き者!。ここにいたのか!。』
『親方様に無礼を働いたこと。今度こそきっちり落とし前をつけさせる!。』
怨恨込もる鋭い眼光がお気楽にレース会場内を走り回る疾風竜を強く捉える。
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