第159話 水龍の如く

水音に流れて 大地の嘆きを知り

海の恵みさえも 消えゆく灯火


世界の~意志は~何処にあるの?。


繁栄か?(繁栄か?) 

滅びか?(滅びか?)


2つの痛みを知る。


·······世界の答えを····示す·······


アイシャお嬢様が精霊歌を唄ったことにより。海底一面が水の精霊で埋め尽くされる。日の光が届かない薄暗い印象の海底だが。今は辺り一面水色に発光するネオン街のように輝いていた。


「これほどの数の水精様を呼び出すなんて····。あの娘一体何者なの?。」


人魚の王女ファソラは呆気にとられる。


『あの娘、矢張救世の騎竜乗りなのか?。精霊を呼び寄せるなど。一般の人間にはできない所業。しかし何故にあの人間の娘はプロスペリテはなく下等なノーマル種を騎竜にしているのだ。』


海王竜リヴァインは理解出来なかった。何故神足る竜の担い手である救世の騎竜乗りが最も最弱なノーマル種を騎乗しているのかと。大いなる使命を宿すと言われていた者が。最もみすぼらしい平凡な竜の乗り手をしていることに理解が追い付かなかった。


これならばスフィアマナン(世界の通り道)を利用した技が放てる。

俺はニヤリと笑みをつくり。静かにゆっくりと気の練り込んだ鉤爪の掌を空を撫でるように返す。水色のネオンのように輝く静寂に満ちた海中にまるで舞い行うようにゆっくり撫でる。


『あのノーマル種何をしている!?。』


奇妙な動きをするノーマル種に海王竜リヴァインは眉間を寄せ困惑する。

ライナが舞うように空を撫でると同時に水色の光の粒子がまるでライナの掌に呼応するかのようにかざす方向へと流れる。真下の塗り固められた地面の裂け目からも多量の黄色の光が漏れだす。


『あれは·······馬鹿なっ!?。スフィアマナン(世界の通り道)だと!?。有り得ぬ。スフィアマナンはプラスペリテ、神足る竜でなくては扱えぬ代物。ノーマル種に扱える筈が······。』


海底の地面の裂け目から黄色の光の粒子わきあがり。ネオンの水色に輝く光の粒子と交じり合う。ライナは鉤爪の両手を上下に高々に掲げる。両の手首を人魚の王女ファソラと巨大な長い胴体をくねらせ海中に鎮座する海王龍リヴァインに向ける。


ギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャア

「リヴァイン。お高く止まるのもここでしまいだ。久しぶりに地に脚を着けてみるといい(脚はないけど)。」


俺はニヤリと竜口で不適な笑みを浮かべる。

ギリッ

海王竜リヴァインのくちばしは強く軋ませる。頭部のヒレが逆立っているので鶏冠にきいているのは確実であった。


『きっ···貴様······。』


リヴァイの長い巨体が怒りでふるふると震え出す。

俺が何故リヴァインを煽ったのかというとこの技は命中範囲が限りなく広くなく。精度も毎度訓練も練習もしていない(できない)ので高くない。ほぼぶっつけ本番である。避けられたり回避されない為にも逆に俺に攻撃するように仕向けたのである。案の定、海王竜リヴァインは俺の策に乗ってくれたようだ。


『頭に乗るな!!。ノーマル種!!。貴様がプラスペリテではない!。神足る竜は世界の意志。お前ごときが触れて良い領域ではないのだ!!。』


何かの導火線に触れたのか?。海王竜リヴァインは激しくいきりたち。怒気を放つほど逆鱗に触れ激昂していた。


「ちょ、ちょっと、落ちついてリヴァイン。あの人間族の娘とノーマル種はきっと何かする気よ。」


勘の鋭いファソラは怒りに身を任すリヴァインを宥めようとする。


『止めるな!。ファソラ。所詮ノーマル種がすることだ。水精の力を借りたところで何もできん。スフィアマナンさえもノーマル種ごときが扱える筈がないのだ。』


ファソラの忠告も聞かず。リヴァインは大きく長首を動かす。獰猛な縦線の青い竜瞳が開く。


『良いだろうノーマル種。我が全身全霊を持って貴様を潰してやる。五体満足生きられると思うな!。』


集めた水色の光の粒子が海王リヴァインに寄っていく。海を統べるとあって全部の水の精霊がこちら側に味方すわけではないようだ。それでも構わない。大技がくるなら回避することは考えないだろう。俺が龍脈、スフィアマナン(世界の通り道)力を充分に発揮できるように気と水の精霊を練りこむ。


ぎゃ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼~~

俺は極限まで精神統一する。


『くたばるがよい!!。ノーマル種。これこそ最強の海の統べる竜の力よ。』


一斉にリヴァインのヒレが逆立つ。


『神海流波嵐(しんかいりゅうはらん)!』


海中が激しい海流によって蠢く。流れさえも一定に流れず。渦を巻き、曲がり、うねり、まるで海中が生き物のように蠢く巨大な嵐となった。一定に定まらない生き物のように蠢く海の嵐は徐々にアイシャとライナににじりよってくる。


『おおっと!リヴァイン様の最強のスキルが放たれる。それほどあのノーマル種はリヴァイン様の怒りに触れたかーーー!。』

『アイシャ!ライナ!敗けるじゃないわよ!。あんたたちに全額賭けているんだから!。 』

『て、どさくさに紛れて賭けてたんかい!。あんた。』


人魚族の実況ラームは冷めた軽蔑な眼差しをネウに向ける。


「これであの人間の娘もノーマル種も本当に終わりよ。海王竜リヴァイン様の大いなる力を前にしてなすすべなどない。水精を出したことには少し驚いたが。よくよく考えればこんなところに救世の騎竜乗りがおる筈などないのだ。ましてやノーマル種を騎竜にする騎竜乗りなど。あの伝説の救世の騎竜乗りである筈がない。」


人魚の女王アニスは高台の珊瑚礁の玉座で勝ち誇る。


「アイシャ······。」


パール一同は固唾を飲んでアイシャ達のレースの行く末を見守る。



ごおおおおおおお ズズズズ

猛りくる氾濫する海流の嵐をライナは静かに見据える。

高々に上下に掲げた鉤爪の両手を維持し。好機の瞬間にタイミングを計る。


『終わりだ!!ノーマル種!。』


ごおおおおおおおーーー!! 

ズズズズズズズズズズーーー!!


徐々に迫りくる海流の嵐を前に臆することなくライナは掲げた上下の鉤爪の掌を180°回した。


ぐるりん!!


ぎゃ嗚呼嗚呼嗚呼あああああああーーーーー!

(水龍天昇(すいりゅうてんしょおおおおーーーーー)!!)


ギィええええええええーーーーーー!!

海底の地面から金切りに似た咆哮が響き渡る。海底の地面から沸き上がるように水色の鱗に帯びた龍がリヴァイン目掛けてつきすすむ。。一匹、二匹、三匹、四匹と順々に次々現れ。まるで螺旋を描くように海王竜リヴァイン目掛けて長い巨体をくねらせ襲いかかる。。


『馬鹿なっ!水龍だと!?。』



海王竜リヴァインは西方大陸に生息するという龍をノーマル種が出したことに絶句する。


「ノーマル種が龍を出した!?。何よこれ?。」


背にファソラもまるで状況を掴めず呆気にとられる。


ギィやあああああああああーーーーーーー!


先に昇った一体の水色の龍が大口を開け襲いかかる。長い髭を靡かせ。海王竜リヴァインの懐に飛び込む。


『水龍程度我は倒れん!!。』


襲いかかる一体の水色の龍を海流を使いいなそうとする。しかし二体三体四体と水色の龍は巨大な海王竜リヴァインの長い胴体を噛み付いたまま放さない。


『ぐぬうう、こんなことが····。』


四匹の水色の龍はリヴァインの長い胴体を噛み付いたまま上へ上へと押し上げていく。


「こんなことってあるの?。リヴァインがおされるなんて····。」


海王竜リヴァインが苦戦するところなど。人魚族の王女であるファソラは見たことはなかった。それが目の前の人間の少女の唄の力と龍を何処から出したか解らないノーマル種に敗北しようとしている。ファソラはおとぎ話の世界にいるのではないかと錯覚を覚える。それほどあの一人と一匹の行為が有り得ないことだったのだ。


『信じられません!。あのノーマル種何処からか龍を出したぞ!。まるで召還魔法のようだ!。』


実況のマームは召還魔法を扱う賢者や召還能力を持つ召還竜を彷彿させた。平凡なノーマル種がそんなものを扱える筈がない。実況マームは口を開いたまま絶句して固まる。


『はは、もう私、色々付いていけないわ。』


解説のネウももう考えることを止めることにした。


「レイノリア、あのライナというノーマル種、龍を出せるの?。」

「いえ、私も今初めて知りました。でもライナなら可能だと思います!。」


水空竜ソイリは茫然自失となり。レイノリアは何度も頷き納得している。


「救世の騎竜乗りと·····神足る竜····。」


門番のシェークはそんな光景を垣間見てふと世界を救った少女と竜のおとぎ話を思い出す。


「何じゃ!。あの娘はなん何じゃ!。あのノーマル種は!。龍を出すじゃと!?。反則じゃ!。こんなことがあってたまるかー!。」


人魚族の女王アニス・アビラニスはスッと立ち上がり。あまりにもの非常識な1人と一匹のノーマル種の光景にヒステリックまがいに喚き散らす。


「まさか··まさか···あの娘!。本当に··本当に救世の騎竜乗りなのか!?。」


人魚族の女王アニスはノーマル種の背にいる人間の娘が本物の救世の騎竜乗りだと信じ始める。そのタイミングを合わせたかのように近くに座っていた銀晶竜ソーラが口を開く


「良かったですね。人魚の女王よ。もし彼女を亡き者にしていたならプラスペリテの怒りに触れ。貴女はただではすみませんでしたよ。」


びく

銀晶竜ソーラのそんな一言に人魚族の女王アニスはギョっと顔を強張らせ絶句する。カタカタと歯を震わせ。そのまま力が抜けたようにへなへなとへたりこみ。珊瑚礁の玉座のなかでぐったりと項垂れる。


隣でスクリーンに写る親友と相棒の騎竜のレースの様子をパールは緊張した面持ちで静かに見守る。


『我がこんなところで敗けぬわーー!。』


水色の龍を海流で弾き飛ばそうとする。噛み付いたまま離れない水龍を一匹二匹三匹と引き離していく。最後の一匹の龍を放そうとした瞬間。


『これで我の勝ちよ!。』


最後の一匹の水龍を放たれと思った直前に目の前に緑色の鱗に覆われた平凡な竜が飛び込む。


ぎゃ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ーーーーーーー!!

鉤爪の右の掌に膨大なスフィアマナンの気が流れ集まる。


『何だとっ!?。』


ライナは膨大なスフィアマナン(世界の通り道)に流れ出した気を集めた鉤爪の右掌をリヴァインの懐に撃ち込んだ。


ギャアあああああーーーーー!

「竜破掌!!」


ドゴゴオオオォッーーーーーーー!!!

ボコボコボコッ


『馬···鹿····なっ!······。』


強烈な水音と衝撃音が流れ。溢れんばかりの水泡が上空へと舞い上がる。リヴァインの青い竜瞳が白目を向き。そのまま奈落の海底の底へとゆっくりと落ちていく。

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