第157話 世界の息吹き

ザああああああーーーーーーー!!。

ガア

ライナは激しい強烈な海流に押し流されたが咄嗟に海底の岩石にしがみつく。アイシャお嬢様はドラグネスグローブの魔力による吸着効果で俺の背中にしがみつき。何とか耐えている。海中から流れでる鉄砲水並みの威力を持つ海流は俺とアイシャお嬢様を押し流そうと惜しみもせず流れ続ける。俺はそれを収まるまで耐え続ける。大自然の脅威として津波や洪水、濁流、土石流などあるが。この海王竜リヴァインが放った海流はそれ以上の威力があった。


ボコボコボコボコドドドドドドドーーーーーーー!!


流れる海流の強さが段々と薄まっていく。

やっと静んだか·····。

俺は咄嗟にしがみついた海底の岩石をから鉤爪の竜の素手を放す。

頭上斜め方向に海中を浮遊しながら普通に鎮座する海を統べる王、海王竜リヴァインを睨み付ける。


『ほう、耐えたか·····。海洋型の竜でも我の海流を耐えるものなどそうそういない。誉めて使わそう。』


上から目線の海竜王リヴァインはふてぶてしく笑みを浮かべる。


ギャアギャラギャガアギャアラギャガアギャアラギャ!

「そうかよ。なら、今度はこっちのを喰らって貰うぞ!。」

『さっきのわけの解らぬ力か···。二度目は通用せぬと知れ!。』


海王竜リヴァインは巨大な長い胴体をうねらせ身構える。


ギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャア!

「なら今度はあんたの弱点そうなやつをぶちかます!!。」


ごおおおお~はあああ~~~

俺は鉤爪の右の素手に気を塗り込み火の精霊を呼ぶ呼吸を行う。

赤い光の粒子が集まりだす。


『む!。』


ギャあああああーーーーーーー!!

「竜炎掌!!。」


俺は大きく右腕を振りかざした。


ボコぉッ!ボコボコボコッ!ボコッ


ライナの右腕から水泡が溢れだすように出現したが。そのまま何事もなく静まる。


·················

『何の茶番だ?。』


海王竜リヴァインは不快に眉間を寄せる。


だめか······。

矢張海中では火の精霊は扱えない。当然だ。海中は水だ。水の中で炎が出せるわけがない。海中で扱える精霊があるとしたら水と風と地だけだろう。他に光と闇があるだろうが。今の段階で俺は光と闇の精霊の本質を理解できていないから扱えない。

海王竜リヴァインにもしかしたら炎が効くかもしれないと思ったが生憎場所が悪い。

俺はもう一度仕切り直しに精霊を呼ぶ呼吸と気を練り込ませる。


あのノーマル種。周囲に微かにだが火精が騒ぎだしたが。気のせいか?。

海王竜リヴァインは首を傾げる。

海中なら矢張水の精霊が相性いいはずだ。

俺は水の精霊を呼ぶ呼吸法を行う。メルドリン家の家宝、求愛の貝殻繋ぎのおかげで海中でも呼吸が可能だ。名前があれだが。


すぅ~~はぁ~~~~~


右腕の素手を水色の光の粒子が集まる。

む?矢張気のせいではない。あのノーマル種に水精が集まっている。


「リヴァイン。少し様子がおかしくない?。水精様が騒ぎだしている。」


ファソラは眉を寄せ困惑する。

人魚族にとって水精様=水の精霊は特別な存在であり。知覚し身近に感じることができた。


ライナは気を練り込ませ水の精霊を集めた鉤爪の素手を大きく振りかざした。


ギャアああああああーー!!。

「竜水掌!!」


どぼッボコボコ!ボコ!ボコ!ドボドボボボボロボロボコゴボ!ゴボ!ロロロロロロッーーーーー!!!。


竜水掌は地上では大量の水を相手にぶつけるような技だが。海中だと水泡の泡が柱のように伸び。うねりを上げて強烈な水鉄砲、ハイドロブラスターのようになっていた。


『むっ!?。』


ボコボコボコボコドオオオオロロロロロローー!!


バシンッ!!

水泡が生き物のように真っ直ぐ伸び。海王竜リヴァインに向かっていく。

リヴァインは長い胴体をくねらせ長い尾っぽでそのうねり伸びたハイドロブラスターのような水柱をあしげももなく弾き飛ばす。


「な、何っ····今の?。あのノーマル種水精様を使役した······。」


海王竜リヴァインの背に乗るファソラは呆然とその光景を目撃する。


      ◇◇◇◇◇◇◇


『これはどいうことでしょうか!?。私は夢を見ているのでしょうか!?。人間族の騎竜であるノーマル種が水精様をあやついえ、使役しております!。あ、有り得ない。』


ざわざわざわざわ

実況ラームはスクリーンに起こった出来事に信じられないといった風に驚愕の眼差しを向ける。観客席に座る人魚達も水精様を操るノーマル種に皆言葉を喪い釘付けになっている。


『あはは、変な竜だと思っていたけれど···。ここまで奇想天外過ぎるなんて。もう笑うしかないわ。』


トラブルメーカーと言われた人魚族のネウでもはあるが。あの予測不可能ノーマル種のライナに対して敵わないと心から思った。


「何なのあのノーマル種?。水精様を使役したじゃと?。有り得ぬ。水精様は我等人魚族に力と恩恵と加護をあたえる存在。騎竜の中で矮小であるノーマル種が扱えぬ代物ではないのだ。」


人魚の女王サラス・アビラニスは得たいのしれないノーマル種に対して気味悪さと寒気を覚える。


「どうですか!。ソイリ。これがライナの真の力です!。」


レイノリアは力強く胸をはる。


「変なノーマル種だと知っていましたけれど···。まさか水精まで操れるなんて·····。」


水空竜ソイリはもう何が何やらついて行けなくなったので思考を停止することにした。

隣席の銀晶竜のソーラはじっとライナのレースの様子を観察する。


「まだまだですよ!。ライナの力はここから本領発揮するのです。!。」


レイノリアの自信に満ちた声でライナに声援を送る。


『水精を操るとはな····。貴様はただのノーマル種ではないとは解っていたが。貴様、本当にノーマル種か?。』


海王竜リヴァインはヒレを逆立たせ警戒する。

ギャギャア!

「次も行くぞ!。」


俺は左の素手に気を練り込ませ風の精霊を呼ぶ呼吸を行う。


ひゅうううう こぁおおおーーー

黄緑の光の粒子がライナの左の鉤爪の掌に集まる。


『むっ?今度は風精だと!?。』


ギャああああああーーーー!!。

「竜風掌!!。」


ボコボコボコボコドボオオオオーーー!

今度は泡として終るのではなく海中に空気の塊が現れ凝縮され。空気の塊が流れるように海王竜リヴァインに突撃する。


ドオオオオーーーーーーーン!!。

リヴァインは突撃する空気の塊が長い巨大な胴体にぶつかる。


「きゃああ!!。」


ファソラは凝縮された泡立つ空気の塊がリヴァインの胴体に触れると衝撃が走るように震動され思わず悲鳴を上げる。


ボコボコドオオロロロ!!


『ぬるいわ!。海流輪。』


ドオオオオーーーーーーー!!

リヴァインの周囲に渦を巻き上がり。長い胴体に触れた空気の塊は海中の渦に呑み込まれ押し潰されかき消える。風の塊は跡形もなく消える。


『どうやらノーマル種。貴様は精霊を使役できるようだな。水精だけでなく他の精霊も。』

「何ですって!?。」


海王竜リヴァインの言葉にファソラは驚愕な眼差しを向ける。


『妖精竜、精霊竜、或いは神足る竜でもない貴様が何ゆえ扱えるか知らぬが。その程度の力で頭に乗らんことだ。我は海を統べる竜。海の中ではこちらが有利であることを知れ!。貴様に何一つ勝ち目などないのだ。』


海王竜リヴァインはノーマル種ライナに威嚇の唸りを上げる。


ギャアラギャガアギャア!ギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャ!

「お高く止まるじゃねえよ!。あんたが海中で有利であることは百も承知だ!。」


竜水掌も竜風掌も効かないと言うことはさっきの戦闘で充分理解した。このまま逃げ徹するのもありな気がする。わざわざ奴のテリトリーで戦闘する必要性もないだろう。これはレースであり戦闘ではない。

俺は身構える。海王竜リヴァインを追い越す準備をする。


『では今度はこちらの番だ。海王竜の水精の本当の扱い方を教えてやろう!。』


さああああああーーー。

海王竜リヴァインのヒレが逆立ち嘶きに似た声が響くと。海中から膨大な数の水色の光の粒子が海王竜リヴァインにむけて集まる。

何だ?このおびただしい水の精霊の数は!?。

海王竜リヴァインが集めた水の精霊の数は俺が集めた精霊の数の非ではなかった。埋め尽くさんばかりの水色の光の粒子が海王竜のヒレを帯びた巨大な長い胴体へと集まる。


『これこそ。我が海を統べる王と言われた由縁よ。喰らうがいい!。』


『大海内波浪(だいかいないはろう)!!。』


ずぅうううごぉおおおおおおおザァーーーーーーーー!!。


それは巨大な波である。海中でありながら大波を起こしたのだ。空気などの物理法則などお構い無く。海王竜リヴァインは海中で津波レベル程の大きなの大波を起こした。


ざザザザザッザバああああああーーーーんん!!

海中で作られた大波は俺とアイシャお嬢様に迫り来る。

これは不味い!!。

俺は咄嗟に地の精霊を呼ぶ呼吸を行う。

むぅ~~~~ ほぉ~~~

地面があるのだから地の精霊も問題ない筈だ。


右の竜の掌に茶色の光の粒子が集まる。


ごぉおおおおおおおーーーーーー!!。

海中の大波は真空破のように伝い駆け巡る。


ギャアああああーーー!!

「竜地掌!!」


右の鉤爪の素手をおもいっきり地面に叩き付ける。

ドガッ!!ドガガガガガガガガガガガッッッ!!!


地面から次々と鋭利な尖った岩石が沸き上がり。針地獄の無数の大岩が折り重なり大きな防壁となる。

ずざああああああああああーーーーん!!

海中から繰り出された大波は大岩の防壁さえも削り取る。


「ら、ライナ······。」


海王竜リヴァインが繰り出す海中の大波の威力にアイシャお嬢様もなす術がなかった。海の領域では矢張海王竜の方が分がありすぎる。

岩が大波に削りとられ。少しずつ波の威力が伝わる。

バキッバキバキバキッざああああーーーー!!ボコボコボコボコッ


岩石の削り取られた隙間から威力を帯びた海流が流れ出す。


「きゃああっ!」

くっ!


波がうちつけるように一波、二波、三波と小刻みに強烈な海流が突き破ってくる。

海流が静まった頃には俺の竜地掌で作りだした針地獄の岩山が跡形もなく消え。丸裸されてしまった。


『ふん、地の精霊までも操るか····。しかしそれも無駄なようだったな。どんな精霊を使役できてもその扱う者のの能力が低ければたかが知れている。脆弱で下等な無能のノーマル種なら尚更だ。』


海底竜宮都市オーシャンパールに住む全てのものたちがノーマル種を敗北を疑わなかった。

ただ声援を送る人間族とその騎竜達は一人の令嬢と一匹の平凡な竜の勝利を信じていた。



「ライナ、これからどうする?。私も戦闘で加勢したいけど。あの海流は私じゃ太刀打ちできないよ。」


アイシャは援護したいが。海中戦は役にたてないことに知っていた。覚えた魔法も回復なら役に立つが。その他の攻撃魔法が相手に特に海の中で効くかは解らない。武器であるブーメランも海中では何の役にもたたない。

ライナは竜口を軋ませ思考する。

逃げに徹しても海流を操る海王竜には無意味である。直ぐにでも押し戻される。精霊使った攻撃でも奴の海王竜リヴァインの決定打にもならない。

海中では炎が使えない。矢張対抗するには強力な水の攻撃を喰らわすしかない。でもそんな魔法も技(スキル)も俺には有りはしない。


本当に万事休すなのか·······。

俺は何か対抗策がないか考えを巡らせる。


『ふん、万策尽きたか····。所詮はノーマル種。たかが精霊を使役できても上位の竜相手に手も足も出ぬのだ。身の程を知れ!。』

「良く善戦したわよ。ここまでリヴァインを追い詰めたのは久しぶりよ。誇ってもいいわ。」


海王竜リヴァインはヒレを逆立たせ勝ち誇る。背に乗る人魚族の王女ファソラは人間族とノーマル種に称賛と労いの言葉をなげかける。

彼らはノーマル種とその騎竜乗りの令嬢は諦めを宿していると思われた。


世界の息吹を感じて下さい······


突然俺はふと銀晶竜ソーラさんの言葉を思い浮かぶ。


世界の息吹······。


俺はスッと瞼を閉じた。何故瞼を閉じたかというと。閉じるとより鮮明に気の流れを感じとることができるからである。

そしてぱっと瞼を開ける。

ライナはスッと竜瞳の視線を地面の下に注ぐ。


··············っ!?。


視線の先に何万年を経て。海底の底に塗り固められた岩石の地面の裂け目から。微かにだが黄色の光の粒子が漏れ出していた。

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