第144話 婚期の怖さ
『おおっと!今度は村長の家の大黒柱でもあるエンペラー種、暴炎竜フォトンが相手だああーー!!』
わーーーーー!!わーーーーー!!
「気を付けて!。ライナ。フォトンさんはボルゲンさんほどではないけれど。どちらかと言えばガーネットの三姉弟達よりも強くはないけれど。それでも実力は折り紙つきよ。炎竜族の中で堅実な闘い方から婿養子に選ばれたくらいだから。」
なるほど。父親はガーネットの家族の婿養子として迎えられたのか。どうりで他のガーネットの肉親とは真逆な性格だと思った。
祖父や姉弟も好戦的であるが。父親だけは物静かで大人しい雰囲気をしていた。
『ガーネットが望むなら私は反対はしない。姉弟は反対するだろうが。君が本気なら我が娘ガーネットを君に託しても良いと思っている』
·············
試さるにも何も俺はガーネットととツガイになるつもりないんだが。
アイシャお嬢様の親友レインお嬢様の頼みで来ているだけなんだが。それが本当に何故だか変な方向に向かっている。ガーネットを取り戻す計画が。何故だか炎竜ガーネットの婚姻の試練に変わっている。何処をどう間違えたらこうなるんだよ。
俺はゲンナリとした竜顔でガックリと肩を落とす。
寡黙な雰囲気のガーネットの父親である暴炎竜フォトンは臨戦態勢をとる。
俺は竜の素手に気を練り込む。
バァサッ
暴炎竜フォトンは赤い竜の素手を軽く流す。
『暴流炎!。』
フォトンの鉤爪の掌が振り払われると同時に巨大炎の波が現れる。炎の波は荒波のように波打ちライナを覆う。
ギャアラギャアガアギャア!
(くっ、いきなり大技かよ!。)
開始直後に大技をだすとは思わなかったので俺は虚を突かれたように対応が遅れる。
「ガード・フレイ(炎の盾)!。」
ぶああああ
ドバアアツ
背に騎乗するレインお嬢様が魔法を唱えると炎の盾が目の前に現れ炎の大波を遮る。炎の大波はそのまま地上のマグマの底へと流れ落ちる。
暴炎竜フォトンはレインお嬢様に攻撃魔法を阻害されたことに不満を露にする。
『レインお嬢様。手出ししないで貰いたい。私は彼の力量を図りたいのです。』
「申し訳ありませんがフォトン様。それはできかねます。私は敗ける訳にはいかないので。」
レインお嬢様は真っ直ぐな視線を暴炎竜フォトンに向ける。
『貴方の事情を察しますよ。しかし我が息子次男のスプロスは頑固故にそう簡単に自分の意志を曲げたりしません。』
「それも重々承知です。ですが、私にも退くわけにはいかないのです。ガーネットは私の大切な相棒です。手放すつもりは毛頭ありません。」
レインお嬢様の真剣な眼差しを一瞥するとフォトンはスッと竜の瞼を閉じ見開く。赤い粒子がいつのかにフォトンの周囲に集まっている。
『致し方ありませんね。荒療治でいきましょう。これを退けることができれば私はこのレースを退きましょう。元々ガーネットが惚れたというノーマル種ライナ、君の実力を確かめたかっただけですから。』
暴炎竜フォトンは竜の両手を大きく掲げる。
『これを防いでご覧なさい。ライナ。』
そう言うとフォトンは掲げた竜の素手を振り下ろす。
『大炎暴流!!。』
膨大な炎の大波がライナの目の前に忽然と現れ。炎の波はそのままライナの緑の竜身を飲み込もうとする。
糞!全然遠慮がねえ!。
炎竜族は殆ど豪快なスキルや魔法が多いが。攻撃そのものに遠慮がなかった。
俺は右の鉤爪の手に気を練り込む。
炎の大波はライナ自身を襲う。これほど多量で膨大な炎の大波をレインお嬢様1人だけで魔法で防ぎきれようがない。
目の前の膨大な炎の大波に俺はそっと竜の右腕を差し出す。
ギャああーー!!
「竜気掌!!。」
鉤爪の掌が膨大な炎の大波の一端に触れる。
パンッ
膨大な炎の波は一瞬で打ち消された。
炎の大波であったこと原型は止めず跡形もなく消えていく。
『これは·······。』
ガーネットの父親暴炎竜フォトンそんなライナの起こした現象に呆然となる。
『これは凄い!。フォトンさんのあの膨大な暴炎の波を全て打ち消したああーー!!。何だあのノーマル種!?。なんでこんな芸当ができるんだあーー!!。』
『消えます消えます。』
実況と解説のメラとはバーナーは驚嘆する。
観客席に座る炎竜族の村の者は皆口をあんぐり開けて固まっている。
ごおおおお
フォトンはじっとライナを静かに見据える。
『なるほど。これがガーネットが言っていた魔法とスキルを打ち消すという力ですか。』
フォトンは納得したように竜顎が何度も上下に動き頷く。
『確認しました。では私はここで辞退しましょう。ライナ。後は我が娘と息子、長女と次男が相手になるでしょう。私は陰ながら応援しますよ。将来の婿よ。』
フォトンはニコッと軽く会釈をして飛び去る。
残された俺とレインお嬢様は何とも言えない空気がながれる。
いや、勘弁してください。応援とか結構ですから。本当にまじで。勘弁してください。
俺は再びげんなりとした竜顔を浮かべる。
親に認められるとかそういう主旨で来たわけじゃないのに。
俺はどんどんと取り返しのつかないところまで来てるんじゃないかと危機感を持つ。熱い活火山の場所なのに寒気を感じる。
「やっぱり私の認めたライナだ。」
「お姉ちゃん。あのノーマル種のお兄ちゃん凄いね。お父さんの大技打ち消したよ。」
「そうだろ。そうだろ。あれが将来の私の旦那様になるのだよ。」
きゃきゃ うふふふ
観客席で炎竜族の末の姉妹は勝手に盛り上がっている。
バァサッ バァサッ
さて残りは長女と次男だったか。強さの序列では早生まれの長女の方が強そうに思えるが。いや炎竜族はオスの方が強いかなあ?。偏見とかじゃないが大抵竜とかはメスよりオスが強いというイメージがある。これは性別的な観点というよりは生物的な観点からである。
バァサッ バァサッ
『邪魔したる邪魔したる邪魔したる邪魔したる邪魔したる邪魔したる邪魔したる邪魔したる邪魔したる邪魔したる邪魔したる邪魔したる邪魔したる邪魔したる邪魔したる邪魔したる!。』
獄炎山リプカフラマの中間地点を過ぎ火口見える直後にそれは聴こえた。
何度も何度もその言葉を繰り返され。おどろおどろしいほどの気持ちがその邪魔したるという言葉につめ込められていた。まるで僻み妬み恨めしいという気持ちが集大成としてその言葉に込められたようであった。
俺の竜の背中に寒気と鳥肌が立ってきた。背中にはレインお嬢様の柔らかな胸の感触が感じているのだが。それさえもその邪魔したるという言葉一つに悪寒と恐怖と旋律を俺の背中に与えてくるのだ。
目の前にメスの炎竜は立ち塞がるように陣取り。目がかなり据わっている。そのメスの炎竜の身体からもかなりの怒気が放たれている。俺に対する怒りというよりは全てのリア充というか。ツガイに対しての激しい嫉妬心と妬みと僻みから来るものであり。血走った竜瞳がギョロリとこちらに視線を向けてくる。
ヒィ~と俺は思わずチビりそうになる。
「ライナ、気をつけて。ガーネットの一番のお姉さん噴炎竜のブローよ。ボルゲンさんの家族のなかで一番の実力を持つ炎竜よ。」
案の定どうやら炎竜族の家族の中で彼女が一番に強い炎竜らしい。
『何で何で何で、どいつもこいつも私より先にツガイ結婚するかなあ~。親友もお隣さんも同級生も先輩も皆んなああああああーーー!!。』
ギャうわあああああああああーーーー!!!
そこにはいきおくれしてしまったとてつもない激しいメスの激情が入っていた。
『今度は妹が私より先に結婚するですってえ?。ふざけんじゃないわよ!。妹なんかに私よりも先に結婚させるものか!。邪魔したる!邪魔したる!邪魔したる!邪魔したる!邪魔したる!。UREEEEEEEEEEリリリリリリリ!!。
最早最後の語尾が可笑しいことになっている。
はあ~本当に帰りたい。
俺は目の前に憐れというか妬みにかられる炎竜のメス竜を前にして本気でそう想ってしまう。
『ここは通さなあいいい!。ガーネットには私と同じ気持ちをあわせたる。ツガイはみな離別してシマエエエエエエエエエ~ーーーーー!!。』
これほど負の感情を露にするメス竜は初めてである。
いきおくれの怖さを初めて俺は実感する。目の前の嫉妬心にかられた激情に堕ちた炎竜族のメス竜を俺は対峙する。
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