第138話 レインの依頼

ふんふんふんふん

ゴロゴロゴロゴロ


俺はマーヴェラスの邸の庭を寝っ転げる。特にすることはないので寝っ転がる。トレーニングをサボっているわけではないのだ。ただよく考えたらドラゴンウィーク(竜の骨休め)という連休は騎竜を休ませる為にできた連休である。せっかく休みなのにゴロゴロ出来ないのは矢張勿体なさすぎる。昨日もレースを出てしっかりとした休みを取っていなかった。というわけで今日だけは絶対にゴロゴロする。羽目を外す。


ゴロゴロゴロゴロ

ゴロゴロゴロゴロ


俺はマーヴェラスの邸の草むらの庭を竜の巨体で何度も寝っ転がる。

マーヴェラス邸の庭の枝木を手入れしていたメイドのカーラさんはそんな俺の姿をさも鬱陶しそうに眺めながら作業している。


じいいいい

それにしてもさっきから物凄い視線を感じるんだが····。


視線の主は解っていた。マーヴェラス家で客人として迎えられた銀晶竜のソーラさんである。あのレースの一件以来俺のことをじっと視線を凝らし観察している。


俺なんかしたか?。

困惑するも今日だけは羽目を外したいので取り敢えず俺はソーラさんも無視して庭でゴロゴロを繰り返す。


ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ


「あっ!?ライナまたゴロゴロしている。今日はトレーニングしないの?。」


邸から出てきたアイシャお嬢様は俺に呆れた視線をむける。

俺はゴロゴロと庭で寝っ転がる行為を止める。


ギャラギャアギャアガアギャアラギャアギャアラギャアギャアギャアギャアガアガアギャアラギャアギャアガアガギャア

「はい、今日はゴロゴロする日と決めたんです。俺としては全然休みとってないから今日はゴロゴロする日と決めました。」


アイシャお嬢様に俺の心情を伝える。


「そ、そう、だからと言って家の邸の庭でゴロゴロするのはどうかと思うけど·····。」


アイシャお嬢様は俺に対して微妙な顔をしていた。


「全くですよ!。邸の庭でゴロゴロ、ゴロゴロと正直鬱陶しいです!。」


メイドのカーラさんはいつの間にか庭の枝木の手入れの作業を終え。アイシャお嬢様の隣で俺に対するクレームを伝える。


別にいいでしょうが。今日だけゴロゴロしても。貴女の方が俺よりも好き勝手に生きているんだから。俺はカーラさんに内心思っていることを。言葉にせず心の奥底で押し込める。

今日もマーヴェラス領では平和でのどかな日常が繰り広げられていると思っていた。



「アイシャ!アイシャ!。」


突然邸の外から慌てた声が飛びかう。


「あれ?この声って。」


アイシャお嬢様も門戸の外から聞こえた女性の声に聞き覚えがある。


「アイシャ!!。」


マーヴェラス邸の門戸から飛び出したのは友人であるスカーレット赤髪短髪を靡かせる騎士系の貴族レイン・ルポンタージュ嬢だった。レインは私服でかなり慌てた様子でぜえぜえと息を切らしている。


「あっ!?、やっぱりレイン。連休に遊びに来てくれたの?。」


アイシャお嬢様は状況を掴めていないのか。レインお嬢様に対してマイペースに聞いてくる。


「アイシャ!お願い!私と来て!。このままだとガーネットが!。ガーネットが!結婚させられるの!!。」


「結婚?。」

ギャア?

「結婚?。」


俺とアイシャは同時に困惑げに首を傾げる。

取り敢えず激しく取り乱すレインお嬢様を落ち着かせ。マーヴェラス邸の中庭のガセポで話を聞くことにした。


「どうぞ···」

コト

「どうもありがとう御座います。」


メイドのカーラさんから出された熱い紅茶を両手で一気飲みする。

熱いお茶なのによく一気飲み出来るなあ~。炎竜を相棒にしているからかなあ。感心したように俺はレインお嬢様のそんな様子をまじまじと眺める。中庭の少し離れた場所で銀晶竜のソーラさんが俺達の様子を窺っている。

カチャ

レインは飲み終えたティーカップ受け皿に置く。


「それでガーネットが結婚ってどういうこと?。確かガーネットは炎竜族の故郷である獄炎山リプカフラマっていうことろに帰郷してるんでしょう?。」


炎竜ガーネットは故郷のリプカフラマという活火山に里帰りしている。確かに炎竜は火山を住みかにするイメージはあるが。

レインお嬢様は落ち着きを取り戻し静かに話をきりだす。


「最初はガーネットの家族に私とガーネットが暖かく迎え入れてたの。だけどガーネットが食卓の席で自慢するかのように昔私とアイシャが出場したレースの話題を出してから雲行きが妖しくなったの。ノーマル種のライナの名を出して私を負かす素晴らしいオスだと。将来はツガイになるつもりだと。そう告げた途端ガーネットの家族である兄が激怒して。ガーネットの兄が決めた婚約者と結婚する流れにまでなって。」


レインはガセポの椅子で意気消沈したかのよつに俯く。


·················


何してくれているのですか?あの炎竜。

俺は嫌嫌気に竜顔をしかめる。

代々予想ができる。ノーマル種の俺の話を持ち出したこにより。炎竜族の家族に激怒され。ガーネットを強制的に結婚させる流れになったようである。

誇り高いと言っていた炎竜族が最下層のノーマル種に敗け。尚且つそのノーマル種と婚姻を考えていると言えば。そりゃあ家族全員激怒するわなあ。

レインはアイシャの両手を握り胸元まで上げる。


「お願いアイシャ!!。私と一緒に来て!。このままだと本当にガーネットが結婚させられる。そうなったらガーネットの騎竜との契約解消させられ。ガーネットは私の騎竜を辞めなくちゃいけなくなる!。私にはガーネットしか騎竜は考えられないの!。」


レインは赤い瞳を潤ませ訴える。


「解ったわ!。ガーネットを取り戻すために私も協力する!。」


アイシャお嬢様はニッコリと微笑みながら快くレインの頼みを承諾する。

俺はそれを嫌そうに横目で竜顔をしかめている。

はっきり言ってこれはガーネットの行いによるとばっちりである。多分俺まで出てきたら炎竜族の家族関係がより悪化し。泥沼化した未来しか浮かばない。

アイシャお嬢様の傍で控えるように佇むメイドのカーラさんもさも嬉しそうにニヤリと唇を緩んでいた。ああ、絶対この状況を楽しんでいるなあこの人。

カーラさんの心情をいち早く俺は察する。


「面白い話をしていますね。私も同行しても宜しいでしょうか?。」


突然横から白いベールに身を包む灰銀色の角と瑠璃色の髪を流す銀晶竜のソーラさんが口を挟む。


「この騎竜は?。」


初対面のレインは目の前の人化している騎竜に困惑げな眼差しを向ける。


「私は銀晶竜ソーラと申します。今はマーヴェラス家の客人として迎えられております。」

「銀晶竜·····。」


レインは銀晶竜という竜種の名に絶句したように顔色が硬直する。

どうやら銀晶竜という竜種は相当レアな種らしい。


「良いですよ。ライナも良いよね。」

ギャアギャアラギャアギャアガアガアギャアラギャアギャアガアガアギャアラギャアギャアガアガアギャアギャアラギャアギャアガアガアギャ

「アイシャお嬢様が良いなら俺も異存ないです。でも体の具合大丈夫ですか?。炎竜族の住みか獄炎山というからにはかなり熱そうですけど。」

「大丈夫です。私は見た目に反して熱さに耐性がありますから。」


銀晶竜のソーラさんはニッコリと笑顔で返す。


ギャアギャ·······

「そうですか······。」


こうして銀晶竜ソーラさんと一緒に俺とアイシャお嬢様はレインお嬢様にお願いされ。炎竜族の住みかである獄炎山リプカフラマに向かうことになった。


はあ·····行きたくねえ~

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