第88話 オス竜恐い

ひらひらひらひら ふりふりふりふり

ギャお~~ん♥️ ギャアお~~ん♥️


魅華竜ソリティアの誘惑から数分が過ぎた。俺にとっては数時間の感覚だった。魅華竜ソリティアは竜のお尻をつきだし。尻尾をくねらせ。翼を扇ぎ。甘い鼻腔をくすぐる香りを放つ花びらを散らしながら喘ぎ声というなの竜の嘶きを放つ。

互いに牽制するかのように双方は距離を保つ。

そんな拮抗した二匹の姿を息を飲んでキリネとラナシスは見守る。


『ふぅ、少し疲れましたね。』


魅華竜ソリティアは自分の誘惑に対して微動だにしないノーマル種ライナを前にして疲れを感じていた。



「紅茶でも飲む?。」


セシリアお嬢様はソリティアを気遣い。テーブルに用意された紅茶を薦める。


『あっ!ありがとう。気が利くわ。』


ソリティアは嬉しそうにドラゴンの誘惑を中断して。紅茶のあるテーブルにむかう。

ライナは頭がボーっとしていた。目の前のメス竜を襲わぬように自制心を保ち続けていたのだ。

欲情も欲求も欲望も目の前にいるメス竜に断じて行為なさぬという覚悟と忍耐と自制を持って抗っていたのだ。


しかし魅華竜ソリティアはテーブルに置かれていた人間用のティーカップを取る為に人化に戻ると。ライナの何かがプッツンと弾け飛ぶ。



魅華竜ソリティアの露出度の高い薄着のドレスからこぼれでる汗だくとなった肌の胸の膨らみを垣間見て。ライナの理性は一気に吹き飛んだ。


ギャ~ギャ~ギャ~ギャア~ギャ~

「メえ~ス~メえ~ス~メえ~ス~。」


メスという言葉を連呼し。ライナはゆっくりとした脚どりで紅茶を口に含んでいた人化したままの魅華竜ソリティアに夢遊病の如くゆっくりと歩んでいく。


「ライナっ!?。」

「ライナさん!。」


キリネとラナシスらライナの豹変に激しく動揺する。


「えっ!?。」


ソリティアは振り返り。ライナが魅了されたことに喜びというよりも困惑と戸惑いを感じていた。


「な、何で·····。」


ソリティアはライナに魅華竜の誘惑を放っていない。効果は持続するが。実行するよりも効力は弱いはず。誘惑されて耐えていたのに今更何故·····。


「なるほど、ライナの好みは人間の姿だったのね。これは誤算だったわ。ソリティア、今がチャンスよ。ライナと既成事実を作りなさい。」

「せ、セシリア!何を言っているの!?。」


魅華竜ソリティアは主人の突拍子もない信じられぬ発言に絶句する。


「何って?ライナとそのまま人化したままおやりなさいと言っているのよ。」


セシリアの言葉にソリティアの頬からたらりと冷や汗が流れ落ちる。


「何を言っているのよ!?。できるわけ無いでしょう!。何で人間のままドラゴンとやらなきゃいけないのよ!。私は変態じゃないわよ!。」


オスと経験豊富な魅華竜ソリティアだったが。人化したまま竜とやった経験などない。人化は人化、竜は竜と言った交尾経験はあるが。人化×竜という交尾はソリティアの経験上有り得ないことである。


「何を言っているの?。別に貴女は人間じゃないんだから。人化したままでも別に良いじゃない。」

「姉様·····。」


妹であるキリネでも姉に対する倫理観などあったもんじゃない問題発言にドン引きしてしまう。


「ムリムリムリムリムリムリ!、ムリよ!。私は確かにオスとの交尾経験は多様にあるけど。人化とドラゴンとじゃ。絶対に無理!。」

「いいから、しのごもいわずに襲われなさい。ノーマル種のライナもあんなにやる気じゃない。」


椅子に腰掛けているセシリアはライナの欲情した竜の姿に流し目を送る。


ギャ~ギャ~ギャ~ギギャ~~

「メス~メス~メス~。メえ~ス~。」


ゆっくりと竜の脚どりでジリジリと魅華竜ソリティアににじり寄り迫ってくる。


ギャ~ギャ~ギャ~ギャ~ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ ギャ~~~ア~~~~

「メス~メス~メス~メス~メスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメス。めえ~~~すう~~~~。」


ライナはメスの言葉を呂律が回らぬほど連呼し。獲物の定めたような竜瞳をソリティアの人化した姿に一点集中する。


ギャガア~~~~~~~

「めえっすぅ~~~~~~。」


ソリティアの目前にライナの緑の鱗に覆われた竜体がたち塞がる。


「いっ!! やあっ~~~~~~~~~~~~~~~っ!!。」


サウザンド家の別荘に人化した経験豊富で大人びた絶世の美女のこの世とは思えぬほどの絶叫というなの悲鳴が邸中に木霊する。


   ・・・・・・・・・・・・


はっ!

俺は竜瞳を見開き我に返る。

周囲を見回す。

椅子に優雅に腰掛けるキリネの姉であるセシリアお嬢様と俺の姿を複雑な表情で見つめているキリネとセシリアさん。そして誘惑相手である魅華竜ソリティアは何故かドラゴンの姿のまま部屋の隅っこで後ろ向きでうずくまってぶるぶる震えていた。


『オス竜恐いオス竜恐いオス竜恐いオス竜恐い。』


ソリティアはローズ色の竜顔は真っ青に青ざめ。ぶつぶつと呪文を唱えるかのように何かを呟いていた。

まさか·····、俺はやってしまったのか?。ドラゴンと·····。

俺は顔面蒼白になり茫然となる。


転生してドラゴンとやるのは問題ないだろう。だけどそれでも俺はドラゴンとはしたくなかった。人間であることは捨てたけど。それでもドラゴンとして生きていくことにまだ覚悟は足りないのだ。

この歳になってドラゴンと子作りしてしまった。童貞を捨ててしまった。童貞に童貞という概念があるのか無いのかしらんけど。

俺は落胆し。ゆっくりと竜の視線を決闘条件を提示したセシリアお嬢様に向ける。

セシリアお嬢様は俺の竜顔を見るとはあっと力を抜けた深いめ息を吐く。


「私の敗けよ。エリシャ・ハフバーレンとの決闘を請け負うわ。」


俺は竜瞳を見開き驚く。

俺はてっきり魅華竜ソリティアの誘惑に屈したと思っていたからだ。


ギャアガアギャギャガアギャアガアラギャガアギャアガアギャギャラギャガアギャアガアラギャギャアギャアガアギャ·······

「俺はソリティアの誘惑に敗けたんじゃないのですか?。自我が保てず意識が飛んだことは記憶に残っているのですけど······。」


俺はソリティアに人化に戻った際に事切れたように誘惑に屈してしまった。記憶が飛んで曖昧になっているのはその証拠である


「ソリティアが貴方とやろうとしないのよ。だから賭けは私達の敗けよ。このまま既成事実を作るつもりだったのに·····。」


不満そうな視線をうずくまって震えている魅華竜ソリティアに向ける。


『オス竜恐い!オス竜恐い!オス竜恐い!オス竜恐い!オス竜恐い!ひぃ~~ぶるぶるぶる。』


魅華竜ソリティアのドラゴンの背から尻尾がぶるぶると震える


「だから約束通りエイシャ・ハフバーレンとの決闘を請け負うわ。」

ギャガアギャアギャ

「ありがとうございます。」


俺は竜の頭を垂れお礼を言う。


「あら?礼を言われる筋合いは無いわよ。何故なら貴方も決闘に出るのだから。」

ギャ!?

「はっ!?。」


俺の竜瞳が点になる。


「今のソリティアのこの状態だと暫く再起不能なのよ。だから貴方に変わりに私の騎竜になって貰うわ。」

ギャア?

「はい?」

「姉様!!。」


キリネはキッと姉を睨む。


「大丈夫よ。貴女のお気に入りの騎竜は取らないから。ただかりるだけよ。でもノーマル種ライナの主人のアイシャ・マーヴェラスにはちゃんと承諾をとらないとね。」

ギャガアギャガアギャガアギャアラギャガアギャ

「その事は俺からアイシャお嬢様に事情を伝えます。」


後々後で恐いが······。

アイシャお嬢様の威圧満ちた憤怒の表情が容易に想像できる。

そして俺はキリネの姉である7大貴族のセシリア·サウザンドを乗せてエイシャ・ハフバーレンに決闘を挑むことになった。

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