第89話 目には目を令嬢には令嬢を

「セシリア様おはようございます。」

「おはよう。」


白銀のブロンド髪を靡かせ。完璧な微笑の笑顔でクラスメイトに挨拶をかわす。

その後ろに肌を露出させた薄着のドレス着る魅華竜ソリティアが付き添う。

魅華竜ソリティアは後ろで挙動不審にキョロキョロと警戒しながら周囲を見渡している。


「心配しなくてもここにはライナはいないわよ。」

「そんなこと言って!。いつ何処で出会すか解ったもんじゃないでしょう!。」


ソリティアは再び警戒感丸出しのぎらついた視線を学園中に巡らす。

セシリアははあっと何とも言えないため息を吐く。賭けの一件以来魅華竜ソリティアはオスであるノーマル種ライナに恐怖感覚えるほど臆病に疑心暗鬼に陥ってしまった。オスを誘惑する事に長けた魅華竜が。そのオスを苦手、恐怖するのだから何ともまあ皮肉な話である。

それほどライナに人化した自分に迫られたことが魅華竜ソリティアにとっては大きなトラウマになってしまったのだろう。


「お早うございます。皆様。」


セシリアは2年教室に入り上品な挨拶する。

一応2年生の間では優等生を演じている。あくまで表向きの話である。

セシリアとソリティアは自分の席にむかう。

隣席には無言無表情な令嬢イーリスとこの教室には場違いと思えるほどの侍の格好をした角と無精髭を生やした男ロゾンが席に座っていた。


「イーリス、おはよう。」

「········。」


コク

イーリスは無言で頷き返事を返す。


「よお、セシリアのお嬢とソリティアも元気良さそうだなと言いたいが。どうしたんだ?ソリティアの様子が何か可笑しいぞ?。」


挙動不審にキョロキョロと周囲を警戒するソリティアにロゾンは訝しげに眉を寄せる。


「ええ、ちょっとね。一年のアイシャ・マーヴェラスの騎竜ノーマル種のライナとね。」


原因は自分にもあるのでセシリアはばつ悪そうに言葉を濁す。


「ああ、ライナか。折角対闘訓練で血汗肉踊る戦いができようとしたのに。それを水を刺されて不愉快よ。」


剣帝竜ロゾンはシャービト族の騎竜の訓練で起こった怪我の一軒を不愉快に思っていた。


「ええ、それも兼ねて、イーリス。私はちょっと用をすますので少し席を離れるわね。」

コク 


セシリアの言葉にイーリスは何の疑問ももたずに無言で頷く。


コツコツコツ

セシリアは廊下側から三列目の後ろから二列目にあたるエリシャ・ハフバーレンの席へとむかう。エリシャは自分の小間使いの格好したみつ子の騎竜に扇やマッサージ、身嗜みの世話など手厚い歓待を受けていた。


コツコツ

セシリアは白銀ブロンドの銀髪を靡かせ。エリシャが座る机の前に立つ。美しくつき出された二つの膨らみをまるで見せびらかすように胸を張る。


「これはこれはセシリア様、ご機嫌麗しゅう。どうなされましたのですか?。」

「おはようございます。エリシャ。貴女に用があって参りましたの。」

「用?。」


エリシャは細い眉を上げ困惑する。

セシリアはニッコリと社交辞令な完璧な笑顔を浮かべる。

セシリアは手持ちのポシェットから手袋、ドラグネスグローブを取り出し。エリシャにそっとドラグネスグローブを何も言わさず投げつけた。

バサッ ポト

セシリアの丁寧に投げつけた手袋はエリシャの胸辺りに当たり静かに落ちる。


「私と決闘受けて下さらないかしら?。」


セシリアはニッコリと微笑む。

ざわざわ

2年教室にいた令嬢生徒達がセシリアが行った行為に口を半開きで唖然とする。

あのセシリア・サウザンドがエリシャ・ハフバーレンに対して決闘を挑んだからだ。2年間の学園生活で一度も決闘のような大それたことをここの2年令嬢生徒はしたことがない。しかしセシリア・サウザンドという高貴な令嬢はこの教室で今まさに決闘を挑んだのである。教室内にいた令嬢生徒達は殆ど意味が解らず。一体?どうして?何故?と疑問の言葉しか頭に浮かばなかった。

高貴で優雅な振る舞いをしていたエリシャ・ハフバーレンも額から汗がだらだらと流れだしす。動揺が隠しきれずに震え出している。エリシャは思った何故自分は決闘を挑まれているのか?と。セシリア・サウザンドは自分より権力も財力も人脈もある上流階級の貴族である。上流階級の貴族が自分に決闘を挑まれる理由が見つからなかった。貴族が決闘を受ける理由には恨みを買うか。相手の益を手に入れる為の手段として貴族は決闘を利用するのである。セシリアが欲しがるようなものはエリシャは持っていない。寧ろ逆にエリシャが欲しい宝石や貴金、装飾品類などはセシリア・サウザンドのほうが沢山持ち合わせているのだ。ならば他の理由として恨みを買った?。しかし恨みを買うようなことをセシリア・サウザンドにした覚えはない。この2年教室でセシリア・サウザンドに恨みを買うような無謀な令嬢はいない。セシリアという令嬢は強突張りで守銭奴の噂の絶えない令嬢である。そんな令嬢に恨みを買おうものなら全ての財産を奪われかねない。それほど恐ろしいのだ。セシリア・サウザンドという令嬢は。

エリシャは恨みを買う動機として考えたのは妹キリネ・サウザンドのことだ。しかしシャービト族を襲うときに自分の騎竜はセシリアの妹キリネ・サウザンドに手を出していない。


「······。」

「何か勘違いしているようだけど。私は頼まれただけよ。決闘の代理として。」

「代理?。」


エリシャは眉を上げ困惑する。


「そう、一年の噂になっているアイシャ・マーヴェラスという令嬢を知っているかしら?。」

「?。確かノーマル種を騎竜にしている没落貴族の令嬢ですよね?。」


エリシャにとって一年のノーマル種を騎竜にするアイシャ・マーヴェラスという令嬢も気に入らない存在である。

高貴なる令嬢が集まるアルビナス学園にノーマル種という下賎な竜を騎竜にするなど言語道断である。


「そのノーマル種の騎竜に頼まれたのよ。貴女に決闘を挑んで欲しいって。」


セシリアの唇が妖しくつり上がる。


「はあっ?何故?。」


全然意味解らない。貴族の令嬢ではなく。そのただの騎竜、特にノーマル種の頼みに何故セシリア・サウザンドという高貴なる令嬢がその頼みを聞き入れるのか。


「賭けをしたのよ。」


エリシャが疑問の渦のなかでセシリアは勝手に口を開く。


「賭け?。」

「そう、賭け。私はその賭けに敗けたの。だから貴女に決闘を挑むことにしたの。」

「そ、そんなのどうにでも貴女ならできたでしょうに!。」


賭けに敗けたから決闘を挑みに来た何て自分ならたまったもんじゃない。そんなのセシリア・サウザンドなら如何様にでも無下にすることが可能な筈だ。


「そうね。確かにそうなのだけど。正直、私は、貴女の、偏見とか、差別とか、全然、興味が、全っく、持って、全然、興味が、無いのよ。貴女が、どういう、価値観を、倫理観を、持って、どう、しようと、私には、全然、全く、知ったことでは、ないのよ。」


セシリアはまるでキーワードを繋げたような口ぶりて話す。


「な、何を言っているのですか····。」

「「「お、お嬢様·······。」」」


セシリアは動揺し。小間使いの格好したみつ子の騎竜はセシリアを庇うかのように身をていす。


「エリシャ、私の決闘を受けてくれないでしょうか?。もし勝てたなら私の財産、金銀財宝宝石類は全部貴女に差し上げましょう。」

「そ、そんなの無理に決まっているでしょう!。貴女の騎竜、魅華竜は私のみつ子の騎竜の天敵ですよ。オスである時点で私には勝ち目なんてないです!。」


エリシャは興奮して顔が真っ赤かに染まりながら言い放つ。決闘の勝利の条件はエリシャにとって魅力的だったが。セシリアの騎竜、魅華竜ソリティアが相手なら自分のみつ子の騎竜は勝ち目はなかった。ドラゴンを誘惑することに長けたレア種魅華竜には自分の騎竜であるオスのみつ子をいとも簡単に陥落することができるのである。そんな勝ち目のない決闘に自分が受ける訳がない。


「あら、大丈夫よ。私の騎竜のソリティアは今は訳あって再起不能なのよ。変わりに一年のアイシャ・マーヴェラスの騎竜ノーマル種のライナをかりることにしたの。」

「ノーマル種を?。」


セシリアのノーマル種という言葉に僅かにながら口許が揺む。セシリアの騎竜、魅華竜ソリティアなら勝ち目はなかったが。ノーマル種の騎竜なら勝機はある。噂ではエンペラー種やレア種を騎竜にする令嬢に勝っているというが。所詮はノーマル種。レア種やエンペラー種に勝てても家のみつ子のロード種には及ばないだろう。しかもセシリアが乗りなれてないノーマル種に乗るのだ。充分に勝ち目はある。

エリシャの表情はみるみる緩みだす。

もし決闘に勝利すればセシリア・サウザンドの財産である装飾品、宝石類、貴金属全てが自分の懐に入ってくるのだ。エリシャはセシリアが提示する決闘の見返りに上面に隠しきっていた欲をさらけ出しそうになる。


「わ、解ったわ。受けてたちます。で、でも決闘での貴女の益は何なの?。」


そう、エリシャの勝利の益は理解したが。まだセシリアが勝利した場合の益は聞いていない。守銭奴、強突張り、あん畜生というなの噂出のある令嬢だ。きっと相当な益を吹っ掛けてくるに違いない。

セシリアはニッコリと妖しげな微笑みをする。


「私の益はたった一つのお願いよ。」

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