第77話 偽善の悪意

ドドドドドドドドドド!!


「待てえ~ー!そこのノーマル種!!。」


騎竜の三つ子の美少年は諦めもせず追ってくる。普通諦めるのだが何故かしつこく追い掛けてくる。

三つ子の人化している騎竜は木々の枝を身軽に飛び跳ね猿のように追いかけてくる。

何だこの三つ子達やたらとしつこいなあ。

普通虐めでここまでしつこく追い掛けたりしない。普通は諦める筈なのに。三つ子の騎竜は何故かしつこく俺とルゥを追い掛けてくる。

ひゅ バシ ひゅ バシ


「カシル兄さんあのノーマル種以外と速いですよ。」

「ノーマル種のくせに何であんなに脚が速いんだ?。」

「仕方ありません。魔法を使いましょう。」


リーダー格であるカシル兄の提案に三つ子の弟達は目を丸くする。


「本気ですか?カシル兄さんここは学園内ですよ。」


学園内では授業や訓練以外での魔法の使用は禁止されている。


「事故や訓練と言って誤魔化せばよいのですよ。ザズ、例え学園内でも問題になったとしてもノーマル種と我等の言い分では学園側はどちらを信じるとお思いですか?。」

「そうですね。カシル兄さん。我等は高貴なる貴族の騎竜。何も恐れることなどない。」


角を生やす三つ子の美少年はコクりと頷く。

三つ子の騎竜は詠唱を行い掌に魔力を込める。


「ファイアボール(火の珠)!。」

「ウォーターボール(水の珠)!。」

「ウィンドボール(風の珠)!。」


三つ子の騎竜はそれぞれ火、水、風の珠を掌から放つ。

火の珠と水の珠と風の珠はそのまま前方真下にいるライナに向かっていく。

マジかよ。あいつら学園内で魔法使うのかよ!?。

俺は動揺しながら森を駆ける

本来学園内で授業や訓練以外で騎竜が魔法を扱うことは禁止されている。もしその校則を破れば主人にも重い罰を喰らう。それなのにあいつら何の躊躇いもなく魔法放ってきた。

ルゥ~

ルゥは白い獣耳が垂れ。怯えるように背中にしがみつく。

これは単なる普通の虐めじゃないな。

俺はそう確信する。

普通の虐めでここまで大胆に貴族の騎竜が暴れたりしない。

主人に忠実な騎竜だからこそ主人に迷惑を掛けるような真似はしないのだ。

それならばあいつらは何かしらの目的で虐め行為をなしているのが妥当である。


ドォン パアン バシュ

三つ子の放った魔法は俺は駆けた地面に当たり。焼き消え、破裂し、かききえる。


「もう一度です!。」


リーダー格のヒレフ兄が指示すると再び兄弟達は木づたいを飛び越え詠唱を行う。


「ファイアボール(火の珠)!」

「ウォーターボール(水の珠)!」

「ウィンドボール(風の珠)!。」


三つ子の掌か再び火と水と風の塊が放たれる。

三つの魔法の珠がライナの背上に落とされる。

ライナは竜の腕を気を練り込み大きく後ろにむけて振り払う。


パン! パン! パン!

ライナの裏拳が放たれた三つの魔法を順番にかきけす。


「何だ!?。あのノーマル種私達の魔法を全て打ち消したぞ!。」

「信じられない。ただのノーマル種が我等の魔法を打ち消すなど。」

「カシル兄さん!。どうする?。」


三つ子のリーダー格の兄は眉を寄せる。


「信じ難いことですが。どうやらあの噂は本当のようです。致し方ありません。ノーマル種に構わずシャービト族だけ狙いを絞ります。」

「解ったよ。カシル兄さん。」

「解った。カシル兄さん」


三つ子の美少年の騎竜は狙いをノーマル種の背中に乗るシャービト族に魔法を向けられる。


これからどうするか。俺があいつらに手を出せば騎竜同士の暴力沙汰になり。主人であるアイシャお嬢様に迷惑が懸かる。かといってこのまま手をこまねればいづれスタミナ切れで追い付かれる。

何処か逃げ込めればいいのだろうが。生憎この森の駆けている方向は学園とは正反対であり反対方向である。Uターンしたら追い付かれる。

俺は竜の脚を止めることが出来ずこのまま森を真っ直ぐ駆け抜ける。 

地面に生い茂る草やぶが途切れたところで俺は大きくジャンプする。


「ライナ······。」

ギャア·····

「キリネ·····。」


ジャンプした真下にはポカーンと呆気にとられる男装姿のキリネがいる。


「今だ畳み掛けましょう!。」


後方の草やぶから三つ子の美少年が飛び出し。俺の背中にいるルゥ目掛けて魔法を放とうとする。


「っ!?。」


ひゅん ひゅん ひゅん


キリネは咄嗟に腰裏に隠し持っていた投げナイフを三つ子の美少年に投げつける。


ザス ザス ザス

投げナイフは魔法を放とうとした三つ子の掌に突き刺さる。


「「「ギャアーー!!。」」」


三つ子の美少年はナイフが掌に突き刺さり。地面に落ちてのたうち回る。

おいおい、キリネやりすぎだよ。

俺はその場を呆然と立ち尽くす。

貴族社会で貴族が他の貴族の騎竜を傷付けたら問題になるんじゃないかと心配になる。

七大貴族の権力は理解しているが。何処まで許されているのか解らなかった。まあ前科でアイシャお嬢様を傷付けようとして無罪放免になってはいたが。他の貴族の騎竜に怪我させたら問題になるんじゃないだろうか?。


「う、うああ。」

「い、痛いよ~」

「何をする!。」


三つ子はキリネを憎々しげに男装した令嬢キリネを睨み付ける。


「貴方は見ず知らずの騎竜にこのような残虐な行為をするのですか?。貴族として恥を知りなさい!。」


リーダー格である三つ子の騎竜のカシルが喰ってかかる。


「よく言うよ。ノーマル種を乗せたシャービト族を追い掛け回して。しかも君、本気でシャービト族に魔法をぶつけようとしたよね?。シャービト族はこの学園で貴族として迎え入れられた令嬢の一人だよ。貴族でもないただの騎竜がこの学園の生徒を傷つけるなど。そっちの方が問題じゃないの?。」


キリネは笑顔のままだったが。目は完全に嗤ってはいなかった。


「貴方には関係ないでしょ!。私達に高名な貴族であらせられるあの」

「待て!お嬢様学園に人間の男子がいるのはおかしい。服装が男装···まさか!?」


リーダー格である三つ子の兄はハッと何かを思い出す。


「キリネ・サウザンドだ。七大貴族の。」

「キリネ・サウザンドだって?。じゃ、2年のセシリア・サウザンドの妹?。」


ムッ

「姉様は関係ないだろ!。」


姉の名が会話に出てきてキリネの顔はふくめっ面になるほど機嫌が悪くなる。

姉さんと仲が悪いのだろうか?。


「これは不味いです。1年のキリネ・サウザンドと事を起こせばセシリア・サウザンドもでばってくる。お嬢様に迷惑をかけます。」

「だから姉様は関係ないって言ってるだろうに!。」


キリネは姉の名が再び出て更に不愉快に顔をしかめる。

セシリア・サウザンドの名が出て初めて主人に迷惑が懸かると言ったな。それほどキリネの姉であるセシリア・サウザンドが怖いのだろうか?。


「どうか致したのですか?。」

「あっ!、お嬢様。」


突如何処からか貴族の令嬢が姿を現した。

何処から出現したのか解らないが。まるで隠れ潜むようにその場に出現した。

上品な顔立ちをした令嬢は此方を優しく見据える。


「申し訳ありません。どうやら私の騎竜があなた方に無礼を働いたようで。私はエリシャ・ハフバーレンと申します。この子達は私の騎竜でございます。」


上品な顔立ちの令嬢は頭を垂れ謝罪し。ニッコリと微笑む。


「貴族として騎竜のしつけがなってないよ。以後気をつけることだね。」


キリネは不機嫌な顔であしらう。


「そうさせて貰います。」

「ルゥ~。」


ルゥは元気良く俺の背中から飛び降り。エリシャという令嬢の前にぴょんぴょんはね手を差し出す。


「な、何でしょうか?。」


エリシャは突然シャービト族のルゥが前に現れたことに戸惑い困惑する。


「仲直りの印。シャービト族は手と手を握る。それが仲直りの印。」


ルゥは満面な笑顔で説明する。

握手もこの異世界にあるんだなと今更ながら俺は思った。


「そ、そうですか····。」


エリシャはぎこちない手でルゥと握手する。


「ルゥ~、これで仲直り。」


ルゥの白い毛並みのある顔がニッコリと微笑む。


「ええ、仲直り。で、では私はこれで。貴方達もちゃんと謝罪して帰りますよ。」

「「「はい、お嬢様。」」」


三つ子の美少年の騎竜は頭を下げエリシャの後に続く。

俺はその時とある瞬間を見逃さなかった。エリシャという令嬢は帰り際ルゥと握手した掌をポケットから取り出した白いハンカチで素早く拭き取ったのだ。


「·········。」


俺は疑念の竜瞳の眼差しでエリシャという令嬢の後ろ姿を凝視する。


「ライナ、気をつけて。あの令嬢、裏があるよ。僕は貴族同士の付き合いで笑顔で大体解るから。」

「解っている·····。」


キリネの助言に俺はじっとエリシャという令嬢を疑わしげに睨み続けた。


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