第42話 失敬なっ!
バサッバサッ
舞い降りた竜は透けるほど透明な翼をはやしていた。皮膚の鱗が鮮やかな青と白のコントラストとした独特な色柄をした竜であった。鶏冠の角がきらきらとエナメルのような輝きを秘めている。
美しい、綺麗という印象を受ける竜である。
透明な翼を生やした竜はそのままリストルアネーゼ・ベラ・ハフファーレ・ベイス(リス)というエルフの少女に守るように立ち塞がり身構える。
透明色の翼を持つ竜は警戒満ちた唸り声を上げた。
『リス、気をつけて!。この竜不埒で邪な心を持っている。』
「ナティ、この方達は邪悪ではありませんよ。シャービト族さえいるのです。シャービト族は邪悪なものにはなつかない種族よ。」
エルフのリスはナティという竜に優しく窘める。
『でも、リス!このドラゴンだけ邪な心を秘めている!。ドラゴンだけは邪よ。』
「········。」
俺は不快に竜顔をしかめる。
初対面早々失敬なっ!。俺の何処が不埒で邪な心を持っているというのだ!。俺はただ純粋にリスというエルフの少女の胸に宿る真っ白なこぼれんばかりの二つの雪見大福を我が竜の背中に押し付けて貰いたいと想っているだけなのに。
それが何処が不埒で!邪なんだ!。全く持って失敬だ!。本当に全く持って!全く持って本当に失敬だよっ!。
俺はうんうんと自分に納得してドラゴンの首が何度も頷く。
「ナティ、この方達は学園の関係者よ。きっとこの森に迷い込んだのよ。」
迷い込んだというよりは探検しに来たというのが事実だ。
『でも、リス、この森は立ち入り禁止区域よ。部外者は立ち入り禁止の筈。学園の生徒でも足を踏み入れたりしない。』
やっぱこの森立ち入り禁止区域だったかあ。
俺はばつの悪そうに竜顔をしかめる。
「それでも無下に追い返すのはエルフの礼儀に反するわ。すみません。私の相棒が貴女方に敵意を向けて。」
ギャアガアギャアガアギャアラギャガアギャア
「いいえ、この森に踏みこんだ自分達が悪いので。」
「ルゥ、ご免なさい····。」
俺と背中に乗せているルゥは素直に謝罪する。
「ナティ、今は矛先をおさめて。久しぶりに森に来訪してくれた客人よ。丁重に応対して。」
『ん~、リスがそういうなら····。』
ナティは不服そうに長首が項垂れる。但し俺に対して敵愾心満ちた警戒の視線は解いていなかった。
「私はこの森を守護するエルフ、そしてこのこは私の相棒のナティナーティ、妖精竜よ。」
ギャアガアギャアガアギャアラギャガアギャ
「どうも俺はノーマル種のライナです。宜しく。」
『ふん!。』
透明色の翼を持つ竜は機嫌悪くそっぽを向く。
うっわー感じ悪~。
俺は怪訝な竜顔を浮かべる。
「学園長と教師以外の来訪者は久し振りだわ。」
ギャギャギャガア?
「そうなんですか?。」
どうやらこの森は本当に関係者以外は足を踏み入れてはならぬようだ。
ならせめて立ち入り禁止の立札でもトンネルに吊るして置けばいいのに。無用心だな。
ギャアガアギャアラギャガアギャアラギャガアギャアガギャア
「すみません。トンネルに立ち入り禁止の立札がなかったもので。」
「立札?トンネルには寸なり通れたのね。ほらナティ、このドラゴンは邪悪じゃないのよ。トンネルを通れたのもその証拠よ。」
『でもこのノーマル種のドラゴンが邪な心は持っているのは事実よ。』
妖精竜のナティは願ななに俺が邪だと言い放つ。
さっきからよこしまよこしましつこいなあ。
俺は横島忠夫かっ!つうの!。
印象が最悪な妖精竜ナティを尻目に俺は質問してみる。
ギャアガアギャアラギャガアギャアガアギャアガアギャアラギャ?
「トンネルに寸なり入れたというと本当ははいれないんですか?。」
「ええ、トンネルには結界がはってあるの。入ろうとしてもすぐに元の入り口に戻る仕掛けになっているのよ。あのトンネルに通れるのは関係者か。森に繋がりを持つ者たとえばシャービト族。それと精霊と心通わせる者だけよ。」
ガア~ギャアガギャ
「へぇ~そうですか。」
ん?じゃ俺は何故入れたの?。精霊と心通わせた覚えもないし。普通のノーマル種だけど···。
カラン カラン
突然学園校舎屋上にある鐘が鳴り響く。
やばい!この鐘次の授業が始まる合図だ。
「るっ!ルぅ~。」
ルゥは俺の背中で気が動転したかのように真っ白な獣耳を逆立て尻尾を激しく揺らし焦りだす。
ギャギャアガアギャギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャガアガアギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャ
「す、すみません。俺達もう帰ります。学園の鐘が鳴ったので授業がはじまるようなので。次の授業が開始前にルゥを早く教室に送り届けないと!。」
「送りましょうか?。」
ギャアラギャガアギャアラギャガアガアギャアラギャ
「いいえ、道順は把握しましたから。ルゥ全速力で帰るぞ!。」
「ルゥ~~!。」
ひゅっ ドドドドドド!!
俺は全速力で土煙を起こしながらトンネル入り口目掛けて走り出す。
ノーマル種の竜とシャービト族の少女が去りエルフのリスは森の広場で静かに佇む。
「ナティ?気付いた。」
『気付いてる。何であんな邪なノーマル種にあの方の精霊達が一緒にいるの?。不愉快よ。』
透明色の翼をばたつかせ妖精竜ナティは不機嫌そうに鼻息を鳴らす。
「あのノーマル種があの方と関わりあるのかしら?。」
『そんなの知らない!。二度と来ないで欲しい!。』
「ナティ、何でそこまで邪険にするの?。ライナというノーマル種は良いドラゴンじゃないの。」
『リス、惑わされないで!。外見は良心的でも中身は不埒で邪な心の持ち主だから信用しないで。ナティは優しいから騙されやすいのよ!。』
「少し気になるわ····。久しぶりに学園登校してみようかしら。」
『本気!?。リスは学園は登校する必要性ないよ。リスはこの森の番人。何千年も生きるエルフに学園で学ぶことなんてないわ。』
「それでも気になるのよ。あの方の精霊と一緒にいるノーマル種が。」
『んむむ、全部あのノーマル種のせいだ。次逢ったら絶対懲らしめる。』
エナメルのような輝きを放つ鶏冠の角を持つ妖精竜はそう意気込む。
「ナティ······。」
リスは困った顔を浮かべる。
エルフのリスは精霊と心通わせる稀有なエルフであった。この学園の森の番人を任せられているのもその理由である。ノーマル種のライナに偉大なるあの方の精霊が付いていることに興味を抱いた。故にリスは久しぶりにアルナビス騎竜女学園に登校することを決めた。
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