手紙

『初めて誰かを好きになりました。

 遙生君からその言葉を聞いた時、そんなところまで似ていなくてもいいのになって、そう思いました。

 嬉しかったです。生まれて来て良かったって、ここまで頑張って生きて来て良かったって、そう思いました。

 大げさだって言うかもしれないけど、私にはそれほど、遙生君のその言葉に救われました。

 あの時、私は駆けだして、遙生君に抱きついて、それからワンワン泣いて、遙生君に何もかもを言ってしまいたくなりました。

 でも、それをしてしまったら、きっと遙生君を困らせてしまう。遙生君に迷惑をかけてしまう。

 本当は、こんな風に手紙を残すことさえ、遙生君を困らせてしまうかもしれません。余計に悲しませてしまうだけかもしれない。

 でも、私は一つ、とても大きな事に気が付きました。だから、私はこうして手紙を書きます。

 私は不器用だから、伝えたいことを二つだけ、ここに残します。

 この手紙がちゃんと届くかも分からないけど、それでも、私はここに、遙生君に伝えたいことを残します。

 一つは、私は本当に、幸せだったということ。

 もう一つは、私も、遙生君のことが好きだということです。

 島を去って、病室で時間を過ごす様になってから、私は毎日のように泣いています。夜、島で過ごした日々を思い出して、遙生君のことを思い出して、泣いています。

 もう、私はあの日々を過ごすことは出来ない。遙生君に会うことも出来ない。

分かっていたけど、こんなに辛いだなんて思いませんでした。

 そうやって泣く日々のなかで、私は気が付きました。

 こんなにも悲しいのは、あの島での日々が私にとって本当に幸せな日々だったからだと。

 そのことに気が付いてからは、私は鳴くたびに「ああ、幸せだったんだ」って、思えるようになりました。

 そんな幸せな日々を私にくれた遙生君のことが、私は好きです。

 毎晩、あの日々と遙生君のことを思い出して泣くほどに、私は遙生君のことが好きで、幸せでした』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る