ガナット・レティー 4
これだからリーダーなんて嫌なんだ――なんて、そんな考えが頭をよぎる。
もともと性に合ってないし、バドはともかくこの二人をまとめるのは一苦労だ。押し付けられたとまでは言わないけど、ナチとオルトに強引に迫られなければ、俺はリーダーになんてなっていなかっただろう。
もう四年近く前のことだけど、いまだにあの時の判断を後悔することがある。
「ま、いまさらそんなこと言っても仕方ないか…」
俺がポツリと呟くと、バドがつるはしを振りながら不思議そうに首を傾げた。
「ガナットさん、なにか言いましたか?」
「ん? いや、何でもないよ」
後悔の念と共に過去の記憶を反芻して、少しぼーっとしてしまった。
オルトに圧力をかけた手前、こっちがサボるわけにいかない。
俺はバドに向けて小さく首を振ってから、気合を入れ直しつるはしを握る手に力を込めた。
その瞬間、渋々作業を再開していたナチがとうとう地面に倒れ込んでしまった。
「あ~、も~無理、ちょっと休まない? さすがに限界だよ」
俺がそんな暴挙をいさめるよりさきに、バドもよろよろとつるはしを振りながら小さく頷いた。
「そう、ですね……。正直、僕もちょっと休憩したいです」
「お、おぉ……、そうか?」
まさかナチだけじゃなくバドまでギブアップするとは思わなかった、しかも俺が気合を入れ直したこのタイミングで。
何事もタイミングというのは重要だ。
特にこういったやりたくないことをやらなきゃいけないような場面では、そのタイミングに作業効率が大きく左右されたりする。
そういう意味で、二人がギブアップを表明したのはまさに最悪のタイミングだったと言っていいだろう。
絞り出したなけなしのやる気が、一瞬にして霧散していくのを感じる。
「あー、そうだな……、仕方ない、ちょっと休憩にしようか」
俺はつるはしをゴトリと地面におくと、持ち手に寄りかかりながらため息をつく。ただでさえ疲労がたまったこの状態で、一度失ったやる気をすぐに取り戻すのは難しそうだ。
「やったー、きゅーけー」
「おいナチ、そんなところで寝転がるなよ」
俺が両手を上げ地面でごろごろしているナチにやれやれとため息をつくと、バドもつるはしを地面に置いてホッとした表情をする。
どうやら二人とも本当に限界だったようだ。
パーティーメンバーの状態を常に把握して、適切な判断を下すのもリーダーの仕事だ。それなのにメンバーの疲れ具合にも気付かないなんて、リーダー失格だと言われても仕方がないだろう。
普段ならそれなりにできているつもりなのだが、長時間の作業で感覚が麻痺していたのかもしれない。
いくら単純作業とはいっても、あまりに集中を欠いた状態では作業効率が悪いしケガにもつながる。流されるような形ではあるものの、確かにこの辺で一度休憩を挟むのは悪くなさそうだ。
「なんだ、休憩するのか? だらしねーな」
そんなことを言うオルトも、どこかホッとしているように思えた。
やはり俺の予想通り、相当消耗していたのだろう。
そんな様子に気付いてか、ナチがまたジトっとした目をオルトに向けるが、さっきのような刺々しさは感じない。
「しょうがないでしょ、こっちはずっと防具着込んだままつるはし振ってるんだよ。ホント、オルトも一回やってみなよ」
「なに言ってんだ、俺がやったら一振りで腕が壊れるぞ」
なぜか偉そうに胸を張り断言するオルトに、ナチが「虚弱だなぁ」と言いながらため息をつく。
そんな二人のやりとりを横目に、バドがつるはしを小さく振りながら苦笑いを浮かべた。
「僕としては、つるはしを振ってる方がいいですけどね」
俺にサーチが使えない以上、採掘班の俺たちとオルトのどっちの方が大変なのかは比べようがない。比べようがないけど、個人的には俺もバドと同じで体を動かしている方が性に合っている。
何日も何日もじっとしたまま周囲を警戒し続けるなんて、考えただけでおかしくなりそうだ。
本来なら不測の事態に備え、オルト以外もサーチなどの補助系魔法を覚えていた方がいいのだろう。しかし、ナチとバドは魔法の適性が皆無だし、俺もあまり覚えがいい方じゃない。
オルトから空いた時間に魔法を教えてもらってはいるが、基礎の基礎で躓いているような状態だ。
もっとも、俺の魔法習得が進まないのは俺の才能のせいだけじゃなく、オルトにも原因があるんじゃないかと思っている。
こいつはいわゆる天才肌というやつなのか、自分が簡単にできることが、なんで他の人にできないのか分からないってタイプだ。
教えるときも『こうすればできる』じゃなくて、『これをやれ』というのが基本だ。そして言われたことができないと、まず最初に罵倒される。
そんなわけでオルトに魔法を教えてもらっていると、後半必ずといっていいほど喧嘩になるのだ。
正直言って、こいつに教える才能は皆無である。
そもそも、厳密にはなにも教えてもらっていない。
「まぁ、防具を着込んだままっていうのは確かにキツイですけどね。これじわじわ効いてきますから」
「ホントそう、そこだよね! こんなの着けてなかったらもうちょっと頑張れるって。ホントもう脱ぎたくてしょうがなかったよ」
バドが疲れた顔で自分の胸をコンコンと叩くと、ナチがここぞとばかりに激しく同調する。
その意見自体には俺も賛成だ。確かに、防具を着けていなければもうちょっと楽に採掘を進められるだろう。
ただ、俺とナチがバドと同じ条件だというのは少し違う気もする。
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