片重い
綿麻きぬ
想い人
真冬の雪がシンシンと降る中、あなたはあの子と歩いている。嬉しそうな笑顔を浮かべて。
数週間前にはあなたの隣には私がいた。あぁ、なんであなたの横にはあの子がいるの? おかしいでしょ?
確かにあの子の方が愛嬌があって、可愛いけど。あの子より私の方があなたを見ているよ、愛しているよ。
私の愛よりもあの子の愛嬌と可愛さを選ぶのね? えぇ、そうでしょう。あなたはそういう人ですもの。そうやって直ぐにデレデレしてしまうのだから。
そういや、私が思えば思うほどあなたはどんどん離れていってしまうの。それさへ、私にとっては不思議だけど。きっとそういうものなのでしょう。
今だって、これほど思っているのに声一つ掛けられない。手を伸ばそうとしてもそれはスッと掠めてしまう。
お願いだからもう一度、聞きたいの。あなたの声で「愛している」と。でも、その囁きはあの子のものなのね。
きっとその一言を聞いてしまうともっともっとと願ってしまう。そう、もっともっとあなたが欲しいの。あなたの温もりを、声を、感情を私の物にしたいの。
でもあなたはそれらを全てあの子のものにしたいのね。えぇ、それぐらいは分かるわ。だって、あなたとどれだけ一緒にいたと思っているのよ。
あなたとあの子はジュエリーショップに入っていった。私の足はフラッとあなたに付いて行きそうになったけどそれは我慢し、そっと遠くから見ることにした。
あなたとあの子は楽しそうにネックレスやら、イヤリングやら、指輪やらを見ている。その時のあなたの笑顔といったら、それは幸せそうなのよ。そんな笑顔、私には見せてくれなかったのに。
そして一つの指輪を手に取った。
あぁ、あなたは私のことなど眼中になかったのね。今、分かったわ。それでも私はあなたのことを愛している。あくまで私の片思い。
指輪に対価を払っている間、あなたは私の存在など頭に過りもしないの。
その時、あの子は私を見つけた。そしてこちらを向いて笑顔を見せた。それは勝者の微笑みで、敗者への同情で、私を嘲笑った。
私の気持ちはそんなやつに負けたんだと思うと何を考えればいいのか、分からなくなった。
でも私はあなたの幸せを願って、笑顔で返す。
片重い 綿麻きぬ @wataasa_kinu
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