第18話 憧れの人
——スイス北東部の都市 チューリッヒ 四魔将軍 鋼鉄のジャマル ——
コンコン
「入れ」
「失礼します」
接収した屋敷の中でテレビという魔道具に映る周辺地域のニンゲンの恐怖に染まる表情を見て楽しんでいると、副官のナンシーが部屋へと入ってきた。
「ジャマル様。先遣部隊の同胞が戻ってまいりました」
「なんだと? 先遣部隊の奴らがなぜ戻ってきた? 確かドイツを制圧してポーランドって地域にいたんじゃなかったのか? 」
ただひたすら東に進軍しろと命令していたはずの先遣部隊が、命令を無視して戻ってきた?
「はい。それが信じられないことに、先遣部隊は2頭のドラゴンにより壊滅したようなのです」
「なっ!? ドラゴンだと!? そんなものがチキュウにいるなんて聞いてねえぞ! 間違いないんだろうな!? 」
「複数の者に確認した所、ファイヤードラゴンと氷を吐くドラゴンがいたと全員が口を揃えて答えていました。そのことからどうやら間違い無さそうです」
「氷を吐くドラゴンだと? そんなドラゴン聞いたことねえぞ……」
「私も聞いたことがありません……恐らく見間違いではないかと」
ナンシーも困惑しているな。
見間違いか。しかしファイヤードラゴンを見間違えるやつはいねえだろうから、それがいたのは間違いねえだろう。
だがチキュウになぜドラゴンが? まさかアシュタロト族の奴らが俺の邪魔をするために送り込んできた?
いや、それはありえねえな。魔王様の命令を無視してドラゴンを送り込むなど自殺行為だ。ドラゴンを送り込むなら、俺が失敗するか
だがそれだとチキュウになぜドラゴンがいるのかわからねえな。
「ジャマル様。チキュウにあるダンジョンには、ドラゴンが生息するダンジョンがあります。恐らくなんらかの原因で外に出てきたのではないかと」
「ダンジョンから出てきたドラゴンだってのか? だがシヴァの角笛はそれを吹いた者と同系統の種族にしか効果がねえはずだ。それ以外にダンジョンの呪縛から解き放つ方法があるってのか? 」
鬼族の王であるサイクロプスに吹かせたから、ダンジョンにいる鬼族の呪縛を解くことができた。こっちにドラゴンがいない以上は、ドラゴンの呪縛まで解くことはできねえはずだ。
「わかりません。もしかしたら私たちに知らされていない能力が角笛にはあるのかも知れません」
「そんなものがあるわけねえと言いてえが、ドラゴンがいる以上は否定ができねえか」
もしかしたら魔王様も知らなかった可能性もあるな。なにせこの角笛を使うのは初めてだからな。
「はい。それともう一つ重要な報告がございます」
「なんだ? 」
「先遣隊の最前列にいた者の証言なのですが、そのドラゴンは魔人の乗る飛空艦には攻撃をせず、我が軍にだけ攻撃してきたそうです」
「なんだと!? 」
俺の軍にだけ攻撃してきた? まさか野良ドラゴンじゃねえってのか?
「これは私の個人的な見解ですが、恐らく魔人の中にアシュタロト族と同じように魔獣を使役する能力を持つ者がいるのではないかと」
「魔獣を使役する能力だぁ? あの何の能力もねえ魔人がそんなことできるわけ……」
俺は種族魔法が無く、ただ数が多いだけの魔人にそんな能力があるわけがねえと否定しようとした。が、一つだけ思い当たることがあり言葉を途中で止めた。
「……スキルか」
「はい、恐らくは……」
「だがドラゴンですら使役できるようなスキルが本当に存在するのか? 」
アシュタロト族ですらドラゴンを使役できるのは一部の者だけだ。それをスキルなどで、しかも魔人ごときができるとは考えにくい。
「はるか昔に偵察に来たサキュバスが書き記した書物に、ダンジョンには無数のスキルが有ると。魔人ですらそのすべてを把握はしていないと書かれていました。そのことから可能性はゼロではないかと。それにダンジョンにある魔道具やアクセサリーには魔力を増幅する物もあるそうです。それらとスキルを使えば魔人でも使役をできるのかもしれません」
「なるほどな……だとしたらそのスキルを持つ奴をなんとしてでも確保しねえとな」
ドラゴンを使役できるようになれば、アシュタロト族など魔人よりひ弱な悪魔に成り下がる。このチキュウを制圧したあとの勢力争いのためにも、ドラゴンは是非手に入れたい。
「確かにドラゴンを我が軍に編入できれば大きな力となりますね。ですがその前にドラゴンの動きを止めなければなりません」
「フンッ、ドラゴンがいるとわかればどうとでもなる。
「はい。アシュタロト族が横槍を入れてきた時のために持ってきております」
「だったらこの街を放棄し、下がって山脈地帯で待ち伏せだ。そこで一気にドラゴンとスキル保有者の捕獲をする」
2頭のドラゴンならなんとかなる。俺も何度か戦ったことがあるしな。アシュタロト族と争っていた時代に先祖が考案し作らせた魔鉄製の網と、それを射出する大型弩弓を高い山で囲まれた場所で撃てば簡単に動きを封じることができる。そこに俺が率いる精鋭部隊で突撃すればドラゴンを狩ることも可能だ。
「はい。急ぎ手配いたします」
「地上の部隊には、こっちの用意ができるまで時間稼ぎをさせろ。どれだけ消耗しても構わん。ドラゴンが手に入ればそれ以上の戦力になるからな」
「はい、そのように命令をいたします」
ナンシーはそう言って部屋を出ていった。
「まさか魔人ごときがドラゴンを手懐けるとはな」
ドラゴンは速く強力なブレスを吐くが、罠にかければどうとでもなる。2頭ということはアシュタロト族と同じく二人の術者がいるはずだ。その二人とドラゴンだけはなんとしても確保しなきゃな。
「ククク、ダンジョンから出てきた鬼族どもを吸収して進むだけのつまらねえ戦いだと思っていたが、なかなかどうして楽しませてくれるじゃねえか」
ここは気合を入れて俺も派手に暴れるとするか。
♢♢♢♢♢♢♢
《アクツ様。進軍準備が整いました。ご命令を》
「わかった」
ヴリトラの上でイヤホンからフォースターの報告を聞いた俺は、目の前に停泊している120隻の飛空艦隊と竜の群れを見渡した。
昨晩カーラと恋人となり愛し合った俺は、朝食時に恋人たちにカーラとのことを話し受け入れてもらった。ティナとオリビアは予想通りという顔をしていて、メレスとリリアは少し驚いていた。リズとシーナはというと、飛び上がって喜んでたよ。カーラと仲がいいからな。
もちろんラウラにも連絡した。彼女もこれでアクツ家も安泰ねと喜んでくれた。
そんな感じで皆がカーラを快く迎え入れてくれたあと、俺は一晩で現れた5万のゾンビたちに盛大にビビっている軍に出発準備をするように命令した。そして今、その準備が終わったところだ。
本当は魔帝に号令をかけさせたかったんだけど、アイツは今ここにいない。というのも、今朝俺は魔帝にルシオンがメレスに放った言葉をチクった。そしたら火竜で焼き殺してやるとか言って、逃げるルシオンを追いかけていった。今頃どこかで焼かれてるんじゃないかな?
そんな魔帝を待つのもダルいから、俺はフォースターに言って先に出発することにしたわけだ。アルディスさんはメレスの竜にいるしな。
俺は無線機のマイクを手に取り、地上に停泊している艦隊へ向けて口を開いた。
「これより我が軍は皇軍と共にスイスへ向け進軍する! スイスに到着するまでは連戦が続き、まともに休む暇はないだろう。それにより疲れで命を落とす者も出てくるだろう。だが安心しろ。死んだら俺が生き返らせてやる」
俺はそこまで言って背後に展開している5万のゾンビへと視線を移した。
すると飛空艦隊から盛大な悲鳴が聞こえてきた。
竜の上にいる恋人たちは苦笑している。
「あはは、冗談だ。ちゃんと人間として生き返らせてやる。その代わり仲間が魔獣に食われたら消化される前に倒して遺体を回収しろ。進軍が遅れようがそんなことは構うな。いいか? なによりも仲間を優先しろ! 」
《《《オオオォォォ!! 》》》
「よし。なら行くぞ! 死を恐れぬ不死の軍団よ! 進軍せよ! 」
《進軍開始! 皇軍に遅れを取るな! 》
俺の号令に一斉に飛空艦が離陸を始め、次いで竜騎士団と恋人たちも上空へと飛び立った。
それを確認した俺はゾンビたちに進軍するように命じた。
俺の命令にゾンビたちは頷き、1万体のガーゴイルと1500体のアバドンは空へと飛び立ち、4万体のゴブリンやオークにオーガ。そして10体のケルベロスと2体のベヒーモスは、全速力でスイスへと向かった。
その後を追うように俺を先頭に恋人たちの乗る竜と竜騎士団。そして陸上部隊を乗せた阿久津公爵軍飛空艦隊と皇軍が続くのだった。
さて、ここからが蹂躙の始まりだ。
―― ドイツ東部 テルミナ帝国皇帝 ゼオルム・テルミナ ――
「アグノールよ! ブレスを吐くんじゃ! 」
眼下に広がる数万体の魔物の群れに対し、余はアグノールへブレスを吐くように命じた。
アグノールは余の命令に高度を一気に下げ、地上すれすれを飛びながらブレスを吐きオークやオーガ共を焼き尽くした。
しかしアグノールがブレスを吐き終わり再び上空へと高度を上げようとすると、側面からケルベロスが余の乗るドラゴンの背に向かって飛び掛かってきた。
「ウンディーネ! 水竜となって敵を噛み砕きなさい! 」
だが余の隣にいたアルディスが発生させた水竜により、ケルベロスはその
ケルベロスは断末魔の声をあげた後に、目や口や耳から内蔵を飛び出させ息絶えた。
相変わらずエグイのぅ……
余はアルディスの一切容赦のない攻撃に身震いをしつつ、アグノールに高度をさっさと上げるよう命令した。
アグノールの反応が鈍くなってきておるな。結構な数のブレスを吐かせたからの。そろそろ休憩させるか。
「あら? アグノールはもう疲れたの? 」
「もう昼前から6時間は戦いっぱなしじゃ。いくらグレータードラゴンといえども魔力がカツカツじゃろ」
今から6時間前。ルシオンに文字通り焼きを入れ終え、奴をドラゴンの足に吊るしながらドイツに向かい魔王と合流した。
するとそこには既に大量の魔物が待ち構えておった。どういうわけかガーゴイルやアバドン族の者たちはおらなんだが、それでも地上には7万から8万ほどの魔物がおった。
魔王は魔物の軍勢に艦隊の対地魔導砲を一斉斉射させた後、ゾンビ共と余とアルディスの乗るアグノール。そして竜騎士団をぶつけた。当然それは上手くいき、魔物の軍団が半分近くまで減ったところで魔王の地上部隊も突入した。
しかしそこで両側面から各3万。合計で6万ほどの魔物が迫って来た。
余は魔王に泣いて頼まれ仕方なく皇軍を連れ、左側面から来る群れとこうして戦っておるというわけじゃ。
魔物の数こそ多いが、まあ正直言って余裕じゃ。なぜか今回はドラゴンに怯えて逃げる魔物が少ないゆえなかなか減らぬが、こうして空から急降下してブレスを吐かせればいいだけじゃから楽なもんじゃ。
しかしそろそろ日が傾いてきた。魔物の増援もないようじゃし、後は地上部隊に任せて休憩したいのぅ。
「確かにアグノールも疲れたと言ってるわね。そろそろ本隊も落ち着いた頃だと思うし、メレスロスたちと交代する頃かしらね」
「なんじゃと!? メレスを戦場に出すくらいなら余が地上で戦うわ! アグノール! 高度を下げよ! 余は地上に降りる! 」
余の可愛いメレスを危険に晒すなど、そんなことをさせるくらいなら十二神将と共に地上で戦ってくれる!
余はアグノールに高度を下げるよう命令したあと、地上にいるはずの十二神将を探した。
「まったくこの人はしょうがないわね。いいわ、私が守ってあげる。あっ! あそこで魔物をなぎ倒しながら進んでいる集団が十二神将じゃない? アグノール、あそこに向かって高度を下げなさい」
「む? しかし十二神将にしてはマントの色が……それに数も多いぞ? 」
余はアルディスが指差す方向に視線を向けたが、そこには十二神将が羽織っておる赤いマントではなく黒のマントを羽織った40名ほどの集団がいた。
「あら? 確かにマントの色が違うし多いわね……あっ、ケルベロスを一撃で真っ二つにしたわ! 隣のトロールも! えっ!? 全部一撃!? ちょっと強すぎじゃない!? 」
「うむ。確かに強い。十二神将ではないことは確かじゃ」
とてもではないが、Sランクの動きではない。そんな動きをする者が40人以上も……魔王の配下か? しかし髪の色は赤と金とオレンジじゃ。どう見ても帝国の貴族とその従者に見えるが……
余は眼下の集団のあまりの強さにこんな貴族などいたか? などと思いながらアグノールを集団のすぐ横へと向かわせ、地上スレスレの所でアルディスとともに飛び降りた。
そして剣を抜き集団から少し離れた側面をアルディスと共に並走した。
そこで初めてこの集団の者たちの顔見ることができたのじゃが、視界に映っている全員が銀や黒の仮面で顔の半分近くを隠していた。
「あら? あの仮面……コウ君が言っていた新戦力の帝国人ね。ニホンでダンジョンから出てきた魔物の掃討に活躍していた人たちだわ」
「ぬ? やはり魔王の子飼いじゃったか。いったいあれ程の実力のある者たちをどこから集めてきたんじゃ? 」
金髪の男の横におる深紅の髪のおなご。あそこまで濃い色の髪は、どう見ても高位貴族の娘じゃろ。あれほどの美女と会って余が忘れるはずがないのじゃが……いったいどこの家の娘じゃ?
余とアルディスは正面の魔物を鎧袖一触で薙ぎ払いながら、横で戦う集団を観察していた。
そうしている内に恐らくこの集団を指揮している者じゃろう。最前列でその圧倒的な武力によって前方をふさぐ魔物を次々と切り裂いてはスキルで焼き、後方の味方が通る道を作っている赤髪の男たちの横までたどり着いた。
「ぬおっ!? いきなり悪趣味な仮面集団になったのう」
余は魔鉄の全身鎧を身にまとい、金色の装飾過多の仮面を装着している15人ほどの男たちを見てドン引きした。
「よく見ると結構な数の宝石まで散りばめてあるわね……派手にすればいいってもんじゃないでしょうに」
「センス0じゃな。まるで派手な羽を広げ異性を誘う鳥みたいじゃな」
仮面が光に反射して、まるでミラーボールのようで目がチカチカするのう。
「とりあえずは目の前の魔物どもを片付けるかの」
余とアルディスは黄金仮面の集団に呆れつつも、まずは目の前の魔物を片付けることを優先した。
そして1時間ほど進んだ所で魔物の群れを抜けた。
横を見ると仮面集団も余らの存在に気付いていたのだろう。反転して魔物の群れに再度突入することはせず、余らの方に顔を向け待っているようだった。
余とアルディスは剣をしまいながら仮面集団へと歩み寄った。
すると深紅の髪にひときわ派手なマントと、黄金仮面をした壮年の男が話し掛けてきた。
「皇帝か……まさかここで会うことになろうとはな」
「なんじゃ貴様! 余を皇帝と知ってそのような口をきくとは何事じゃ! 魔王の配下とはいえ帝国人じゃろ! ならば皇帝である余を
なんじゃこの身体と同じく態度もデカイ男は! 周囲の者もまったく跪こうともせん! それどころか、なぜか生暖かい目で余を見ておる。
これは魔王の臣下になったからと、虎の威を狩る狐とかいうのになっておるな。
クッ、魔王の配下でなければこの男を無礼討ちにして、見せしめにしてやったのにのう。
「我に跪けと? 貴様こそ身の程を知らぬようじゃな」
「あらあら……なんだか面白い展開になってきたわね」
「なっ!? 貴様! 誰に物を言っておるのじゃ! 」
余は目の前の男のあまりの無礼な振る舞いに剣を抜き斬り掛かった。
皇帝である余を妻の前でコケにしおって! もう我慢できん! 無礼討ちにしてくれる!
「ククク、ならば少し遊んでやろう」
黄金仮面はそう言うが否や、一瞬で剣を抜き余の剣を受け止めた。
「ぐぬぬ……悪趣味な仮面をしておるくせに、余の剣を受け止めるとは……やるではないか」
「貴様! 悪趣味とは何じゃ! 金を持っているように見えるじゃろが! おなごを口説くには効果てきめんなんじゃ! 」
「フンッ、おなごなど掃いて捨てるほどおるじゃろが。黙っておれば寄ってくるものじゃ。そして飽きたら捨てての繰り返しじゃろ」
「ゼオルム? 何か言った? 」
「い、いや冗談じゃ」
余はアルディスが水のハンマーを構えたゆえ、少し弁解した。
「ククク、おなごなどに尻に敷かれておるようではまだまだじゃの! 剣の腕もほれっ! ほれっ! なかなかやるが、我ほどではないの」
「ぬおっ! クッ……」
余は黄金仮面の速く、そして読み難い剣戟に防戦一方となった。
強い……なんじゃこの剣筋は……このような剣は見たことがないぞ。
それから余は何度か反撃の機会を得たが、あと少しという所で
そして目にも止まらぬ速さの剣戟により、余の剣は遠くへと弾き飛ばされた。
「こんなもんじゃな。まあ今まで我が戦った中では一番強いかの。皇帝になっても鍛錬を怠っておらなんだことがわかる。合格としておこうかの」
「ハァハァハァ……余に向かって偉そうに……」
余が負けるとは……こんな悪趣味な仮面をしている無礼者に余が……
「驚いた。ゼオルムを純粋な剣術だけで負かすなんて先代皇帝以来見たことがないわ。貴方何者なの? 領地では見たことがないのだけど、本当にコウ君の配下なの? 」
「うむ。我とそこにおる有象無象どもは、アクツ公爵直属のエインヘルヤル部隊じゃ。我らの存在は秘匿されておるからの。特にメレスロスとその母であるそちには知られないように言われておった」
「私とメレスロスに? それはどういうこと? 」
「我らから正体を明かすことは禁じられておる。ふむ……残りの魔力が少々キツくなってきたの。隠蔽のスキルを少し解除しようかの」
「なんだか知って欲しくてたまらなそうね。いいわ、興味があるし見させてもらうわ。『鑑定』。さて、まずは名前ね……え? ベルンハルト……テルミナ? え? うそ……」
「なんじゃと!? ベルンハルトじゃと!? 」
余はアルディスの呟いた名前に驚き、慌てて鑑定のスキルを発動した。
そこには確かにベルンハルト・テルミナという名が記されていた。
な、なんということじゃ……初代皇帝と同じ名でSS+ランク。そして見たこともない剣術と、余を負かすほどの強さ。まさか……本当に初代様なのか?
「ぬ? おっと、我としたことが鑑定をされたことに気付かなんだとはな。年かのう。じゃが知られてしまっては仕方がないの。これは不可抗力というやつじゃな。まあそういうことじゃ。我らは【魔】の古代ダンジョンの最下層で眠っていた所を、アクツによって生き返らせられたんじゃ」
「ま、【魔】の古代ダンジョンの最下層で魔王がじゃと……」
まさかそんなこと……いや、奴ならできる。アルディスを蘇らせてくれたあの男なら。
「そういうことだったのね……これはコウ君に一杯食わされたわね。あの子、私たちにドッキリをするつもりだったのね。やられたわ。まさかゼオルムが憧れ、尊敬してやまない初代皇帝を生き返らせるなんてね」
「ゼオルム。我が子孫よ。よくぞ我らが建国した帝国をここまで繋いでくれた。礼を言うぞ」
「は……ハッ! もったいなきお言葉! 」
余は膝を付き深く頭を垂れ、初代様のお言葉に答えた。
初代様が余を労ってくれた……あの初代様が……
「ゼオルム……良かったわね。ずっと初代皇帝のようになることを目指していたものね」
「ククク、我のようにか。美的センスはイマイチじゃが、武に関してならば見込みがある。引き続き精進するのじゃぞ」
「ハッ! 初代様に少しでも近づけるよう、より一層精進いたします! 」
初代様に見込みがあると言ってもらえた。余が初代様のようになれる可能性があるとご本人が……
「あらあら、子供のように目を輝かせちゃって。コウ君はこの姿が見たかったのね。ふふふ、残念だったわねコウ君」
「うむ、ではゼオルムに余の剣術を伝えようかの。我がダンジョンで命を落とした時は、やっと産まれた後継者の息子はまだ幼かったからの。ずっとこの剣術を伝える者を探しておったんじゃ」
「よ、余にでございますか!? 」
なんと! 古文書に書かれていた、大陸を統一した世界最強の初代様の剣術を余が!
「そうじゃ。子々孫々まで伝えよ。我はもう平民じゃからの。ゼオルムから伝えるのじゃ」
「ハッ! 必ずや! 」
「ではまずは近くで我の剣を見ておくのじゃ。ちょうど魔物がたくさんおるからの。ゼオルムよ、我とともに来るのじゃ! 」
「ハッ! 」
余は急いで剣を拾い、背を向け走り出した初代様の後を追いかけた。
幼い頃から古代の書物を読み漁り、武勇伝を読んでは憧れ尊敬してやまなかった建国の父である初代様の背を……余は必死に追いかけた。
この日。余はまるで子供の頃に戻った気持で、初代様と共に剣を振るうのだった。
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