第13話 ニートの魔王
「あっ、いたっ! レオン中佐! 仙台市の地下鉄の『八木山動物公園』駅の近くの線路上にオークとオーガの反応がある! 至急軍を向かわせてくれ! 」
俺は探知に引っかかった地下にいる魔物の反応を魔導無線でレオンへと伝えた。
《おうっ! ミリーの中隊を向かわせる! 》
「仙台市周辺の地下にいる魔物はこんなもんだろう。仙台にいる部隊にも終わったら仮眠を取らせてくれ」
《わかった! 》
「ふぅ……やっと全国を回り終えた」
レオンとの通信を切った俺は近くのマンションの屋上に降り立ち、月を見上げながら一息ついた。
「この二日間はキツかったな……」
二日前に魔帝との通信を終えたあと、俺はヴリトラに乗りカーラとリリアと共に東京、仙台、名古屋、神戸、岡山のダンジョンを周った。そしてそこで死んだ魔物を次々とゾンビ化させダンジョンに帰していった。
岡山のダンジョン前だけはリズが必要以上に魔物を消し炭にしちゃったから、ゾンビ化できた魔物は少なかった。そのお陰で山の中にまで入って仁科や和田たちが倒した魔物をゾンビ化する羽目になった。
その後はリズに引き続きダンジョンから出てくる魔物を狩るように言いつけて、俺はヴリトラに乗るカーラとリリアと別れ岡山の都心部に潜む魔物を探知のスキルで探し始めた。
普通の探知のスキル持ちの兵では、空から地下深くの魔物は見つけることができない。だが、魔素を介して探すことのできる俺ならそれは可能だ。だから俺が一人で飛翔のスキルで飛びながら、遮蔽物の多い都心部を回ることになった。
その間、ヴリトラはカーラとリリアとともに横浜上空を周回させている。
最初はティナの乗る風竜王の『ファロス』と一緒に東京を周回させてたんだけど、ヴリトラは俺がいないことをいいことにファロスの後ろをずっとついていっていたらしいんだ。
ティナからファロスが嫌がっていると聞いて、カーラに命令させて横浜に移動させた。ヴリトラはものすごく嫌がって抵抗したみたいなんだけど、俺がカーラの命令に従えって言ってあったから魂縛の効果が発動し、渋々横浜に移動したらしい。
アイツ本当に風竜が好きだよな。幻獣界で風竜の恋人でもいたのかね?
まあそんな感じでヴリトラや他の竜たちに都心部の周回をさせている間に、俺は岡山、神戸、名古屋、東京、仙台の都心部を中心に丸二日の間探知の旅に出て今やっと終わったところだ。
途中、各都市にいる恋人たちの所で一緒に仮眠を取ったとはいえ、さすがにダンジョンから魔物が出てからのこの三日間は働き詰めで疲れた。
でもその甲斐あって都心部の魔物はその殆どを殲滅できたと思う。郊外に逃げた魔物も民兵やレオンやケイトたち獣王連隊に御庭番衆。そして幻影大隊やエインヘルヤルたちの連携によってかなりの数を狩った。
夕方あたりから魔物を見つけたという報告がないことから、民間で対応できる数まで減らすことに成功したんだと思う。
しかし幻影大隊はこういう時にめちゃくちゃ役に立つな。岡山の山奥で仁科たちの隊が80匹のオークの群れを見つけたと聞いた時はさすがだと思ったよ。でもなんで仁科じゃなくて飯塚からの報告だったんだろうな? 別に仁科は怪我をしていないって言っていたけど、飯塚のやつなにか隠してる感じだったんだよな。
まあ無事なら別にいいか。
それよりもそろそろ軍を引きあげても大丈夫そうだな。各ダンジョンには風竜とギルド員を残しておけば大丈夫だろう。あと幻影大隊を郊外に待機させておくか。オークやオーガが現れた時に巣を見つけやすくなるしな。
早くマルスを助けに行きたいが、さすがに休息なしでってわけにはいかない。今夜は皆を休ませて明日の早朝に集結させた方がいいな。
そう考えた俺は、日本海にいる艦隊を指揮しているフォースターと陸軍を指揮している荒川さんとレオン。そして公爵家直轄部隊であるエインヘルヤルの各隊へ連絡し、翌朝に軍と特殊部隊を成田の飛空艦発着場へ集めるように命令した。
その後、軍への命令を伝え終えた俺は恋人たちとアイナノアにも集まるように伝え、ティナの待つ東京へと戻るのだった。
そして翌朝。
俺は成田の飛空艦発着場に呼び寄せた飛空宮殿の東塔の艦橋で、各地のダンジョンに残した20人のエルフの竜騎士とギルドからの定時報告書を確認していた。
「アクツ様。全軍集結いたしました」
するとフォースターがやってきて、全軍が揃ったと報告に来た。
「ご苦労さん。それじゃあみんな行こうか」
報告を受けた俺は椅子から立ち上がり、艦橋の奥のソファーやテーブルに座っていた恋人たちへと声を掛けた。
「いよいよね」
テーブルに座っていたティナが開いていたパソコンを閉じ、モニターの光から目を守る眼鏡を外しながらそうつぶやいた。
「ウシッ! あたしたちの領地を、コウの故郷を好き放題荒らしてくれたんだ。アタシの最強の火竜王の『イグニス』で片っ端から焼き殺してやる」
SNSに投稿された火竜王に乗る自分の姿が撮られた動画を、片っ端から拡散していたリズがソファーから立ち上がりスマホをしまいながらそう言った。
「ですです。亡くなった方や、オークによって地獄を見た女性たちの敵を討ちますです」
そのリズの向かいで、彼女が拡散した動画を公爵家の名で片っ端から削除依頼を出していたシーナがスマホを片手にそう意気込んだ。
リズの腰にしがみついて、涙目だった自分の姿を領民に見られたくないのだろう。
「まさか伝説の悪魔と戦うことになるとね。長生きはするものね」
つい先程まで新たに取り付けた飛空宮殿の結界をチェックしていたカーラが、入口の横で腕を組みながらそう口にした。
「やっと戦い甲斐のある魔物と戦えるのね! コウ君、早く行きましょ! ベヒーモスと一騎打ちとかしてみたいわ! 」
アルディスさんは飲んでいたコーヒーをテーブルに置いて立ち上がり、レイピアを腰に差しながら我慢ならないといった感じで俺にそう言った。
「お母様! お父様がポーランドで戦われているのですよ? まずはお父様を助けないと! 」
そんなあるディスさんへ、大事なことを忘れていると言わんばかりに魔帝の救出が最優先だとメレスが言う。
「あっ! そうだったわね。うーん、久しぶりにゼオルムと一緒に戦うのもいいわね」
アルディスさんは忘れていたと言わんばかりの態度で、少し考えてから魔帝と共闘するのもいいかもと口にした。
そういえばマルスだけじゃなくて魔帝もいたんだったな。俺も忘れてたわ。
「お父様……どうかご無事で」
そんな彼女たち横で、オリビアがマルスの無事を祈っていた。
「大丈夫だオリビア。今の所ガーゴイルの侵攻を防いでると言っていた。俺たちが着くまで持ち堪えられるさ」
そんなオリビアに近づき、俺は彼女の肩を抱きながらそう言って安心させた。
この三日間でドイツは完全に悪魔軍に制圧され、隣のポーランドに先遣部隊のガーゴイルが侵攻してきているらしい。だが魔帝とマルスの軍はそれをことごとく跳ね返しているそうだ。もうすぐ地上部隊もやってくるらしいが、魔帝もいて士気が高いらしいから俺たちが着くまで持ち堪えられるだろう。
「よし、みんな外に出よう」
そう声を掛けると皆はうなずき、俺のあとに続いて飛空宮殿を降りた。
飛空宮殿から降りるとその左右にヴリトラを始め、エルフの乗る30頭の竜と御庭番衆。そしてエインヘルヤルが並び、正面には成田の発着場を埋め尽くすほどの日本領と帝国領の飛空艦隊が停泊している。その数は八個艦隊80隻にも及び、全ての飛空艦の甲板に乗組員が整列して立っている。
その飛空艦の前。俺の正面にはフォースターを先頭に陸軍が3万人ほど整列しており、その横では各テレビ局がカメラを構えている。
俺はティナたちを後ろで控えさせ、用意されている壇上に登った。
そして整列する兵たちを見渡した。
皆の目は鋭い。特に日本人だけで構成された、荒川さんの率いる第1師団のニート連隊や歩兵連隊に魔導機甲連隊の兵たちからは殺気さえ感じる。
当たり前だ。故郷の土地を荒らされ、同胞をあれだけ殺され犯されるのを最前線で見てきたんだ。怒りに震えないわけがない。
そんな彼らに対し、俺は目の前に設置されたマイクに向かって口を開いた。
「阿久津公爵軍の精鋭たちよ。この三日間の諸君らの奮闘に感謝する。皆も知っての通り、現在この地球は魔界の悪魔による侵攻を受けている。奴らは特殊な方法でダンジョンにいる魔物たちの呪縛を解き、地上へと解き放った。俺たちの領地にだ! 」
あの法螺貝のような音色。あれは一度だけではなくこの三日間、毎日同じ時間に鳴り響いた。
恐らくダンジョンの呪縛から解き放っても、再びダンジョンが魔物を外に出さないように再度縛り付けるのだろう。それを防ぐために定期的にあの音色を流しているのだと思う。
だとしたらあの音色を流しているであろう道具を破壊すれば、ダンジョンからもう魔物は出てこなくなるはずだ。
俺の言葉に日本人だけではなく、獣人も険しい表情を浮かべているのを見渡し再び口を開いた。
「しかしそれも諸君らのおかげで領内に散った魔物はあらかた片付いた。まだ低ランクの魔物は残っているだろうが、それらは民兵とトレジャーハンターとデビルバスターズで対応できる。ダンジョンも竜がその出入口を見張っているので魔物が出てきても大丈夫だろう。今日中に領民たちもシェルターから出ることができ、通常の生活に戻れると思う。本当にご苦労だった。諸君らのおかげで日本領に平和を取り戻すことができた。よって、ただ今をもって領内の魔物殲滅の任務を解く」
そこまで言って俺は一旦言葉を区切り、ニヤリと笑ってから再び口を開いた。
「それでは解散……ってわけにはいかねえよなぁ? なあ? あの悪魔どもはこの土地で何をした? お前たちがよく行く飲み屋の店員にコンビニで働く学生たち。いつも笑顔で出迎えてくれた定食屋の夫婦と看板娘に、美容室で働く女性たち。都心ではファッションセンスゼロのニートや軍人に、優しい声と笑顔で高い服を売りつけるしたたかな洋服屋の綺麗なお姉さん。そんな人たちとの平和だった日常を……俺たちの領地を! 故郷を! 全てめちゃくちゃにしてくれやがったあの悪魔どもを! お前たちはこのままにしておくのか!? 」
『『『『『否! 』』』』』
「そうだ! 答えは否だ! そんなことできるわけねえ! 俺たちはもう帝国に征服された時のような無力な人間じゃねえ! やられたら百万倍にしてやり返す! 俺たちにはそれができる! そうだろうみんな! 」
『『『『『『おうっ!!! 』』』』』
「ならこれから向かう場所はただひとつ! 悪魔の本隊とボスのいるスイスだ! 殺るぞ! 一匹残らず悪魔どもをこの地上から消滅させる! そしてこの地に手を出したことをその命をもって償わせる! 」
『『『『『オオォォォォォォ!! 』』』』』
「総員乗艦せよ! まずは最前線の地、ポーランド西部へ向かう! 」
『『『『『了解! 』』』』』
俺の号令とともに兵士たちは各指揮官の指示のもと、後方の部隊から順に停泊する飛空揚陸艦へと搭乗を始めた。
エルフたちもそれぞれが各自の竜の背にまたがり、俺の恋人たちにアルディスさんとカーラも、それぞれが各自の竜のいる場所へと向かった。
そして目の前にいた荒川さん率いる第1師団も、後方にいる飛空揚陸艦へと移動しようとしていた。
ちょうどいい機会だしちょっと話すか。
「ああ、三田! ニート連隊はここへ残ってくれ」
俺は移動を始めようとする三田へここに残るように言った。
「え? あ、はい。連隊はここで待機せよ! 」
三田は少し驚きつつも連隊の皆に待機するように命令した。
そして俺は連隊長である三田を先頭に休めの姿勢をしている800名の隊員の顔をゆっくりと見渡し……
「ぷっ! ククククク……」
ついつい笑ってしまった。
「あ、阿久津さん? 」
いきなり笑い出した俺に対し、三田が不思議そうな顔を浮かべ声を掛けた。隊員たちもどうしたのかという顔をして俺に視線を集中させている。
「ああ、悪い悪い。いや、みんなの顔を見ていたらさ、俺のビデオメッセージを見て桜島にやってきた時のことを思い出してな」
もうあれから3年以上経つ。
あの時はみんな腕や足を欠損していて、それでもこのままでいるのは嫌だって俺を真っ直ぐ見つめてさ。池田なんていまよりずっとデブで運動神経悪く顔もニキビだらけだったのに、それが今じゃ分隊長だ。まあそれでも小太りでニキビ痕は残ったままだけど。
でもそんな池田もこの間池袋で女子高生を助けたらしく、その女子高生がSNSで必死に探しているほどモテモテだ。まあ、本人はエルフとケモミミにしか興味がないみたいだけどな。さすがアニオタなだけはある。
後ろにいる津田なんて犬耳娘と恋人になりたいんですって目をギラギラさせてたっけ。
あんな弱っちかった皆が、今じゃ全員がBランク以上だ。
ニートだったんだよなみんな……でもあの悪法によってニート狩りにあい地獄を見て、軍に入ってからもダンジョンや敵対する貴族軍。そして領内にいるマフィアと戦い続けた。
数々の修羅場をくぐり抜けてきた戦士たちだ。あの時とはもう面構えが違う。
そんなギャップがついついおかしくなって笑ってしまったと説明すると、皆は恥ずかしいのか顔を背けたり顎を掻いたりしていた。
「どうだみんな。俺は約束を守っただろ? 」
あの時、ビデオメッセージでした約束を。
俺の所へ来いと。社会の奴隷から皆を開放し、理不尽に打ち勝つ力を与えてやると。そしてケモミミとエルフと仲良くなれると。
『『『『『はいっ! 』』』』』
俺の問いかけに皆は満面の笑みを浮かべ返事をした。
みんなダークエルフやケモミミ娘をゲットしたみたいだしな。
「そうか。けどまだ元ニートという呪縛からは開放されてないんだろ? 」
『『『『『…………』』』』』
俺の言葉に皆は浮かべていた笑みを消し、暗い顔となった。
「日本をモンドレットやロンドメルと戦って取り返し、治安を乱していたマフィアを命がけで排除したのにな。今回だって真っ先に都心部に行き多くの人を救った。それでも俺たちのことを元ニートだと悪く言うやつがいる」
もちろんSNSで、しかも匿名でだ。それはかなり前からあったことだし、今この時もどこかの掲示板に書き込まれている。恐らく被害を受けなかった地域の人間だろう。
俺たちがあの地獄にいた時に、声を上げなかったことへの負い目からくる恐怖なのか嫉妬なのか。いや両方だな。以前、あまりにも酷い書き込みは沖田に言って特定させた。その結果、ニート連隊のことを悪く言うのは戦前に高学歴だった者たちばかりだった。
ああ、もちろん代償は払ってもらった。徴用の対象年齢じゃないやつを徴用対象にしてやったりしてな。
帝国との戦争により世界が変わり、失業者が激増し経済は崩壊した。学歴なんて何の役にも立たない世の中になった。それによって一番割りを食ったのはお勉強だけできる者たちだ。
彼らは社会のゴミと呼ばれていた元ニートたちが、テレビやネットでもてはやされるのを我慢できないのだろう。
そんな負け犬は放っておけばいいが、それに便乗する者も多い。それらは俺たちがダンジョンに入れられていたことを知りながら、他人事だと声を上げれなかった者たちだ。こいつらはその負い目と、いつかされるかもしれない報復への恐怖心からニート連隊を過小評価したくてしょうがない。そんな奴らが結構な数がいる。
そういうのを皆は目にしたんだろう。だから俺がもう変えてもいいって言っても、未だに部隊名をニート連隊という自虐的な名称のままにしている。きっと元ニートだった自分たちを社会に認めて欲しいんだろう。だがそれはつまりニートだったという過去の呪縛に縛られたままということだ。
多くの人はたかがネットの書き込みだと。ニート連隊は日本のためによくやっている。気にすることはないと言ってくれるだろう。
だけど誹謗中傷をする人間がたとえ少数であったとしても、言葉は時に人を殺せるほどの凶器となる。
働き過ぎたり気を使いすぎて心が壊れた者や、身体的特徴を
いくらランクアップしても、心まで強くなるわけじゃない。身体的に強くなったことで自信がつくということはあるが、根っこの部分は皆ニートだった時のままだ。
戦前のどこかの大国のように、ネットを監視して言論弾圧をすればそれらは防げる。けどそんな息苦しい社会を俺もここにいる者たちも望んでいない。
しかしそれじゃあコイツらを、俺の大切な仲間を救うことはできない。
なら……
「なら、そいつらを黙らせるくらいの事をして見せてやろうじゃねえか。さっき自分で認めたろ? お前たちには理不尽に打ち勝つ力があるって。だったらその力で世界を救えよ。世界中に災いを振りまいているスイスにいる悪魔どもを倒し、世界を救ったニートになれよ」
『『『『『!? 』』』』』
世界を救ったニート。そこまで突き抜けた者を悪く言えるわけがない。それはすなわちニートを誹謗中傷していた奴らへの……
「それがそいつらへの最大の復讐……いや、そんなチンケなもんじゃない。これはニートを社会のゴミだと決めつけた日本社会に対しての、俺たちニートの逆襲だ! そうだろうみんな! 」
『『『『『う……うおぉぉぉぉぉ! 』』』』』
『やってやる! やってやるさ! 俺たちを馬鹿にしたやつらに! 世界を救って見せつけてやる! 』
『ニートでも世界を救えるんだってな! お前たちにできるのかって言ってやるぜ! 』
『影でコソコソと俺たちを元ニートだと笑う奴らに、世界を救って見せつけてやろじゃねえか! 』
『ククク、社会のゴミだと言っていたニートに救われた奴らがなんて言うか楽しみになってきたぜ』
「ハハハ、そうだ。それでいい。さあ行こう! 世界を救いに! それが俺たち元ニートの逆襲だ! 」
『『『『『了解! 我らがニートの魔王! 』』』』』
「ちょっ! なんだよニートの魔王って! すげー響きが悪いじゃねえか! まだ魔王の方がいいわ! 」
ニートの王ならまだわかるが、ニートの魔王って引きこもってネットで極悪なことをしていたみたいじゃねえか!
『あっはははは! では連隊は飛空揚陸艦に搭乗せよ! 駆け足用意……駆け足! 急げ! 我らがニートの魔王に遅れるな! 』
『『『『『了解! 』』』』』
「お、おいっ! だからニートをつけるのはヤメろって! 聞いてるのかよ三田! 田辺! 」
俺は背を向け駆け出そうとする三田たちに、不本意なあだ名を付けられたことへ抗議をした。
しかし三田たちは振り向くことなく、楽しそうに『イチ、ニ、魔王、イチ、ニ、ニート』と掛け声をかけながら去っていった。
夏も真っ盛りの8月のこの日。
新たにニートの魔王というワードが誕生したのだった。
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