エピローグ



 ――東日本 横浜地区 紫音学園 探索者養成学科 3年A組 佐藤 大輝だいき ――




《……であるからして探索者養成学科の諸君は、C−ランクになれば無条件でデビルバスターズギルドの一員となれます。未だ人族の少ない、かのギルドに入れるよう、そして日本の未来のために公爵様の目に止まる存在となれることを願います。その際は胸を張ってここ紫音学園の卒業生であることを名乗って欲しい。諸君を育てた教育者として、これほどの喜びはありません。諸君の未来と日本の未来を願い、祝辞を終わらせていただきます》


《学園長ありがとうございました。以上をもちまして、紫音学園探索者養成学科第3期生の卒業式を閉会致します。卒業生の皆さんはこの後、各トレジャーハンターギルド長との会食を行い……》


「あ〜終わった終わった! 奈津美、帰ってダンジョンに行くぞ」


 俺は長ったらしい卒業式が終わり、真っ先に席を立ち隣に座っていた奈津美へとそう声を掛けた。


「ああ、行こう」


「げっ! 急ごう。学園長がこっちに来る」


 俺は近づいてこようとする学園長から逃げるように、奈津美を連れて講堂を出た。


 ったく学園長め、こっちを見ながらずっとしゃべりやがって。アクビができなかったじゃねえか。エスティナ様に俺たちが呼ばれてからというもの、やたらと色目を使ってきやがって。


 知らなかったとはいえ、中級にランクアップする危険があるダンジョンに俺たちを放り込んんで、辛うじて処罰を免れたから汚名返上に必死なんだろう。


 次は神奈川支店長のようにダンジョンに放り込まれかねないしな。それでエスティナ様に面識がある俺と奈津美に期待してるんだろう。まあ学園の名前なんか一切出す気はないが。


 そう、俺と奈津美とりんは、昨年の12月に阿久津公爵家ナンバー2のエスティナ様に領城のある桜島に呼ばれた。そしてそこでエスティナ様に会い、2年生のダンジョン実習の護衛をした時に失った左腕を再生してもらった。


 デビルバスターズギルド員でもなく、軍人でもない俺が再生の治療を受けれることは過去に例がない。


 良かった。腕が元に戻って本当に良かった。


 あのままじゃ上のランクを目指せないからな。何より今回エルフの女性をたくさん間近で見れて、反応を知れたのは本当に良かった。みんな俺のことをいい男と言っていたから、エルフの美的感覚が正常だという噂は本当のようだ。


 それにしても俺たちを迎えに来た南日本総督の秘書のエルミアさんも、そしてエスティナ様も超絶美女だった。あんな女性と公爵様は毎日エロいことをしてるなんて……羨ましい。


 俺も早くデビルバスターズギルドの一員となり、支店ではなく本部のある桜島で活動したい。そしてエルフにダークエルフにケモ耳の女の子たちとパーティを組みたい。


 組みたいんだが……


「大輝、りんからメールが来た。校門で待っているようだ」


「アイツ本当に退学したのかよ……」


「ああ、昨日退学届を出したと言っていた。まったくあの子は……いくら大輝と離れたくないからとはいえ、もう1年待てなかったのだろうか」


「そ、そうだよな……」


 今回俺たちが卒業してトレジャーハンターになるんだが、3年生に今度なる燐は待てなかったようで、退学して俺たちのパーティに入ると言い出した。俺と奈津美はDランクになったから、18歳未満の燐を連れてダンジョンに入ることができる。それを見込んでのことだろう。


 ここまでするのは奈津美と離れたくないだけじゃない。俺とも離れたくないからだ。


 そう、俺には奈津美と燐という二人の恋人ができてしまった。


 あれだけ俺を嫌っていた燐が恋人になったきっかけは、例の2年生のダンジョン実習中の事故。いや人災が原因だ。


 神奈川支店長の愚かな欲から、魔物が飽和状態になったダンジョンが実習中にランクアップした。突然壁が移動し始め、パニックになっている下級生たちをまとめていたら、燐が転移トラップに引っ掛かった。そして奈津美が彼女を助けようとそのトラップに飛び込んだ。


 俺は消えていく二人を目の当たりにして、一瞬頭が真っ白になったがその後すぐに転移トラップに飛び込んだ。


 しかし遅れてトラップに飛び込んだからか、俺は同じ場所に飛ばされなかった。そこで緑熊などと戦い、ここより下に二人が飛ばされていたら危ないと思い、下層へと二人を探しに行った。


 入ったのが魔獣系ダンジョンという事と、途中で宝箱を見つけ水弾のスキル書と4等級のポーションを手に入れたのは運が良かった。そのおかげで3階層下にいた彼女たちと合流したあとも、なんとか生き延びることができた。


 しかし彼女たちを見つけた時は危なかった。既に二人とも傷つきDランクの灰狼の群れに食い殺されようとしていたんだ。俺は咄嗟に体を張り、左腕と引き換えに彼女たちを救うことに成功した。


 その後は数日の間、地上に向け進む過程で死闘に次ぐ死闘の連続だった。ギリギリの日々を送っていた俺たちはかなり追い込まれていた。そんな時、生物としての本能だろう。小部屋で俺と奈津美と燐は結ばれた。俺は一度に二人の子と初体験をしたんだ。


 その後は多田道場の奈津美の祖父たちが助けに来てくれて、俺たちは無事ダンジョンを出ることができた。その日の夜も俺たちは助かったことの喜びから、三人で朝まで愛し合った。


 彼女たちとエッチなことができたこと自体は良かった。奈津美の引き締まりつつもモデルのような体型と、燐のムチムチした身体と爆乳は最高だった。毎日でもしたいと思っている。


 そして当然の流れというべきか俺たちは恋人同士になった。奈津美とは前からそういう雰囲気だったし、あんなに俺を嫌っていた燐は助けに行った時からデレまくりだ。俺もそんな燐を可愛いと思っている。


 しかしだ。そうなるとエルフとケモ耳をハーレムに入れる難易度が上がる。奈津美はあの時あの状況で、さらに燐だから受け入れてくれた。が、基本独占欲が強い女だ。俺がエルフに見惚れていた時も尻をつねられた。そんな奈津美を説き伏せて、異種族ハーレムを作れるとは思えない。


 だが二人を手放してエルフになどとも微塵も思わない。


 俺は全部手に入れたいんだ。そのために強くなりたいんだから。だからなんとかして、奈津美と燐にエルフとケモ耳を受け入れてもらわないと。茨の道だがやるしかないんだ。



「しかしこれでやっとダンジョンに自由に出入りできるな。私たちなら3人で入っても大丈夫だろう。中級ダンジョンの下層で生き延びてきたし、エスティナ様と公爵様からの贈り物で装備も充実しているしな」


「まあもらい過ぎな気もするけどな。デビルバスターズギルドに早く入れるようになれって事なんだろうな」


 腕を直してもらった時のエスティナ様は上機嫌だった。どうも俺が取った行動が、公爵様がエスティナ様やほかの恋人の女性を助けた時に似ていたようだ。あの時はイギリスのダンジョンに行っていなかった阿久津公爵も俺のことを気に入ってくれたみたいで、全員にマジックポーチとマジックアクセサリー。そしてスモールヒールや水刃・土壁・火矢・火球・炎槍にと、大量にスキル書をもらった。


 さらには希少なマジックテント初級までポーチに入っていた。これは公爵様から俺へのプレゼントらしい。中を見てびっくりしたよ。だってトイレ・バス・キッチン付きの1LDKの部屋だったんだから。しかもダブルベッドまであってさ、俺は泣くほど感謝した。


 ここまでよくしてくれたのは、期待の表れだ。俺は公爵様のその期待に応えられるよう絶対に強くなる。そしてエルフとケモ耳ハーレムを作ってみせる!


「大輝せんぱーい♪ 」


 俺は校門で大きく手を振離、満面の笑顔の燐に手をふり返しながら固く誓うのだった。




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「コウ、起動成功よ」


「すごいな……」


 俺は高さ10メートルほどの尖塔から射出され、上空に青白い光を放ちながら滞空している直径1メートルほどのひし形の物体を見上げながらそう呟いた。


 そのひし形の物体からは、地平線の彼方へと白い膜が伸びている。


 これが結界……日本と台湾地域を守る命の結界。




 5月に入りだいぶ暖かくなってきた頃。


 カーラに結界の塔が完成したと報告を受け、デビルキャッスルの裏にあるカーラ専用の研究所の実験場にやってきていた。


 実験場の周囲には建設用の重機のほか、助手というか肉体労働専門のムキムキの獣人たちが結界の塔を見上げている。


 彼らはカーラに言われた通りに塔を建てるだけの人員だ。誰一人として錬金の知識はない。俺もだけど。


 しかしこれだけの物を、本当に半年にも満たない期間で作ってしまうなんてな。


「フフフ、どう? この世界の材料でもなんとかしたわ。もちろん耐久性は帝国の結界よりは高いわ。魔石はAランクの魔石が複数必要になるけど、及第点はもらえるわよね? 」


 カーラは俺が驚いている姿を見て、満足げにそういった。


「及第点どころか合格も合格。大合格だよ。こんなに早く作ってくれたうえに、帝国の結界以上の耐久性があるなんて想像以上だ」


 確か核ミサイルも防いでいたよな? 戦艦の主砲も10艦隊くらいの一斉斉射でも防げると言っていた。塔内の魔石が尽きるまで張り続けられる、あの帝国の結界の塔より強力な物を作ってしまうなんて及第点どころじゃないだろ。


 しかも、帝国の300メートルはある塔よりもずっと小型だ。


 ああそうそう、この塔は実験場にはコアになる尖塔の先の部分しかないが、結界の塔は実際は50メートルほどになる。土台の部分は去年から設置する予定の場所である、青森と東京と四国の香川に建設中だ。それももう少しで完成する。完成したらこのコアの部分を取り付けて終了だ。


 それにしたって帝国のよりずっと小さい。それなのに耐久性が上だ。普段部屋を散らかしまくって裸同然で寝転がっているカーラだけど、さすが古代王国の大魔導士というところか。


「まだまだこんなもんじゃないわ。これより耐久性はかなり落ちるけど、戦艦用に小型の結界も作ってあるわ」


「ええ!? 艦隊用のも作ったのか!? 」


 マジか! これよりかなり耐久が落ちるといっても、主砲くらいは防げるはずだ。なによりこの結界は全方位結界だ。前面と後方しか守れない現在の魔力障壁の弱点を補ってくれる。


「フフフ、以前戦艦は前後面しか守れないと言っていたでしょ? だから全方位を守れるようにと思って作ったの。仕組みは同じだからたいした手間じゃないわ。量産もコアの部分だけ私が作って、あとは工場の人にやらせればできるわ。でもコストだけは下げられなかったの。この世界の材料じゃ私が昔作った増幅装置ほどの出力が出ないのよ。この結界の塔ほどじゃないけど、B +ランク以上の魔石が必要になるわ」


「それはなんとかするさ。空の魔石に俺が魔力を入れていけばいいだけだからな」


 B+だとそこまで余裕はないからな。魔石一つでどれほど保つかによるが、俺が魔石に魔力を補充することになるだろう。戦争の度にとんでもない仕事量になりそうだけど、それで皆の命が守れるならどうってことない。


 いける。結界のおかげで魔界から悪魔どもが日本にやってきても領民を守ることができるし、戦艦もそうそう堕とされることは無いだろう。


 何より領地を守る必要がないなら、全艦隊で出撃できる。まあその前に俺が魔界の門をぶっ壊しに行くけどな。それでも保険はあればあるほどいい。


 日本領の新設の2艦隊の編成も終わり訓練も順調だし、帝国本土の5艦隊もなんとか使えるようになった。陸上部隊も増設した。


 これで飛空艦隊が10艦隊に、地上部隊が3師団だ。そのうえランク持ちで戦える民兵が全国に数十万人いる。守る分には十分な戦力だ。


 万が一結界を張る前に強力な魔獣を送り込まれても、エインヘリヤルたちがいるし奥の手もある。


「そうだったわね。普通の魔石に魔力を注ぎ込めるのだったわね。それってとんでもないことなのよ? 私がいた王国の技術でもできなかったんだから」


「そうなのか。カーラのいた世界ならできそうなもんだけどな」


「魔石は謎が多いのよ。まあその話はまた今度しましょう。それよりご褒美が欲しいわね。今夜どこか連れて行ってくれないかしら? 」


「お? カーラが外に連れて行ってくれなんて珍しいな。何か欲しい物があるのか? 何でも言ってくれ。借金してでも買ってあげるよ」


 領債を発行しまくってるからな。公爵家の金庫は余裕がある。借金だけど。


「私が欲しい物はお金で買えないからいいわ。ただどこかで二人っきりでお酒を飲みたいだけよ」


「そんなんでいいのか? 」


 二人で飲むだけ? それがご褒美?


「正攻法で行くことにしたの。このままじゃどんどん増えていっちゃうし」


「正攻法? 」


「なんでもないわ。こっちの話よ。ご褒美はお酒を何回か付き合ってくれればいいわ。さあ、お披露目はおしまいよ。エスティナにちゃんと言って出てきてね。待ってる」


「あ、ああ。わかった」


 何だ? 何か話したい悩みでもあるのか? まあいいか。カーラと飲むなんて初めてだな。


 なにはともあれ防衛の目処はついた。後は悪魔たちがやって来るのを待つだけだ。


 守るものを心配する必要がないならこっちの物だ。魔界の門が現れた瞬間にぶっ潰してやる。


 さあ、いつでも来い悪魔ども!

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