第16話 エインヘルヤル




「ようクリス、エレン! 二日で出てくるなんて早かったじゃないか! 」


 弥七と共に【魔】の古代ダンジョン入口で佇む集団へと、片手をあげながら声を掛けた。


「アクツさん! いやぁエレンが『離脱の円盤』で4と5を引いて僕もビックリしましたよ」


「ウフフ、ラッキーでした」


「それは凄いな。うちのリズも引きがいいんだ。後で紹介するよ。それより1800年振りの実戦はどうだった? 」


「ええ、問題ありませんでした。皆との連携もすぐに思い出しました」


 クリスは後ろにいるパーティメンバーに振り向き、爽やかな笑顔で俺にそう答えた。


 相変わらず爽やかイケメンだな。これでエレン一筋ってんだから好感度持てるわ。あの勘違い初代皇帝中年ズとは大違いだな。



 初代皇帝ベルンハルトと交渉をしてから十日ほど経った頃。


 俺は2日前に古代ダンジョンの最下層で蘇生させた、1800年前の帝国最強の冒険者パーティ『帝国の勇者』と再会した。



 十日前にベルンハルトや十二神将。それにクリスや他の時代の貴族たちと蘇生の交渉を終えた俺は、家に帰り恋人たちに過去の英雄を復活させると説明した。


 ティナは驚きつつもその手があったわねって手を叩き、リズなんてスゲー! それって最強部隊じゃんって大喜びしていた。オリビアやメレスもとんでもないことを考えたのねって驚いていたよ。


 それでみんなと相談して翌日からシーナを連れて91階層の階層転移室に行き、そこから一週間かけてダンジョンの最下層へと向かったんだ。


 シーナしか連れて行けなかったのはギルドも公爵家も今は過去最高に忙しく、リズもティナもオリビアもまとまった時間を取れなかったからだ。


 正直ギルドはシーナの方が必要なんだけど、『離脱』のスキルを持っているのは彼女だけなのでリズを置いてきたという訳だ。


 ギルドの職員は育ってきており、東日本にも派遣したりしているくらいなのでリズがいなくてもなんとかなるとは思う。けど、悪魔がいつ現れるかわからない以上は、実質ギルドのトップであるリズが必要だ。リズはずっとブーブー言ってたけど。まあその辺はダンジョンに入る前日の夜に、しっかりねっとり愛し合って機嫌をとったから大丈夫だ。


 メレスとリリアは連れて来れない。確実にアルディスさんが付いてきちゃうからな。あの母娘は毎日のように九州のあちこちに日帰り旅行に行ってるし、引き離すのもね。さすがに一週間も魔道通信で顔を見せなかったら魔帝も気付くだろうし。


 まあそんなこんなでシーナをおんぶしながら全力で飛びつつ、立ちはだかる上位竜たちを瞬殺しては空間収納の腕輪へ投げ込んで最下層へとたどり着いた。


 シーナは終始ご機嫌だったよ。ずっと二人きりだったし、夜も毎晩彼女が気絶するまで愛し合ってたし。でも相変わらず魂縛のスキルを掛けて欲しいとか、電気椅子やらを取り出して俺を困らせるけど。


 ああそれと最下層にはヴリトラはいなかった。最下層のボスの復活は、初級ダンジョンで3ヶ月。中級で1年。上級で10年らしいから、まだ復活には時間が掛かる。


 なんとなく古代ダンジョンクラスだと、100年とか掛かるんじゃないかと思ってる。その辺は70や80階層のボスが復活する時期で計算できると思う。


 そんな無人の最下層に一週間掛けてたどり着くと、ボス部屋はあの日俺がヴリトラと戦った時のままだった。


 周囲の壁には100近くのむくろが転がっており、俺が最初にマジックアクセサリーを頂戴した手を繋いだまま生き絶えた男女の骸もあった。


 俺はあの時のことを思い出し、よく生きて出て来れたよななどと感慨にふけりつつ、まずはクリス率いる『帝国の勇者』パーティを霊体で呼び出した。


 最初に呼び出したのが初代皇帝パーティじゃないのは、あの中年ズを先に蘇生したらうるさくなると思ったからだ。それにクリスとエレンは話していて感じが良かったし、個人的に二人を気に入っていたというのもある。


 クリスは当時最強の冒険者パーティのリーダーだった。貴族になる道もあったが、彼は下級貴族になることに魅力を感じなかった。そんなものになっても公爵令嬢であるエレンと結婚できないからだ。


 そこで彼はエレンと駆け落ちし、世界を手に入れることのできるスキルを得て皇帝になろうとした。しかしあと一歩という所でついて来てくれた仲間と、愛するエレンと共に最期を迎えた。


 この話を聞いた時は、思わずその悲恋の物語に涙ぐんでしまったよ。


 登場人物の名前や目的は違うが、帝国にはこの話に酷似した悲恋物語があるらしい。小説や演劇で古くから題材にされているそうだ。


 俺に呼び出されたクリスとエレン。そしてパーティメンバーの6名は俺に挨拶をした後、1800年振りに戻ってきた部屋を見て苦い表情をしていた。死んだ時の記憶が蘇ったんだろう。


 そんな彼らに俺は蘇生させる条件を再度説明した。


 その条件とは


 ○『魂縛』のスキルを受け、俺の配下となる。

 ○生前の地位は捨て平民として生きる。

 ○生前に装備していた武器防具。そしてマジックアイテム等の所有権を放棄する。


 の三つだ。


 魂縛に関しては裏切りを防ぐためということで、渋々だが受け入れてもらっている。


 生前の地位を捨てるのはまあ当たり前だな。帝国で主張されても困るし。

 最後に生前に装備していた物の所有権の放棄は、この部屋で俺が得た物を返せと言われても困るからだ。売ってしまった物もあるし、愛用している物も多い。マジックアクセサリーなら全部返してもいいけど。


 以上のことを説明した後、彼らに自分の骸がどれか教えてもらった。


 クリスたちはユラユラと自分が死ぬ直前の記憶を頼りに部屋内を彷徨い、そして自分の骸の前に立ってこれだと教えてくれた。


 俺はクリスとエレンが立っている場所にある骸を見て、やっぱりそうだったかと納得した。


 そこには手を繋いだまま息絶えた二体の骸があった。


 最初にマジックアクセサリーを盗ん……いや失敬した骸の主がクリスとエレンだったとはな。これも運命か。


 そうなんとなく感慨深く感じた俺は、シーナに二人の骸に毛布を掛けるように言ったあと、クリスとエレンから蘇生した。


 死者蘇生のスキルを発動すると二人の魂は骸へと吸い込まれ、骸の側に散らばっていた骨が集まり徐々に肉をつけていった。それはまるで時間が巻き戻るかのようで、あっという間に金髪と赤髪の男女の姿になっていった。


 蘇生が終わると二人はゆっくりと目を開け、俺を見てから隣にいる恋人に視線を移した。そしてお互いの名前を呼び合い、大粒の涙を流しながら口づけをした。


 死ぬ時に固く繋いでいた二人の手はそのままに。


 俺は隣でもらい泣きしているシーナの肩を抱き、二人を暖かい目で見ていたパーティ仲間の蘇生を行なった。


 クリスのパーティはエレンを入れて男6人に女2人だ。


 無事全員生き返った彼らは、お互いに抱きしめ合い肉体を得ての再会を喜び合っていた。


 俺はそんな彼らに約束どおり『魂縛』のスキルを掛けさせてもらうと告げた。頷いた彼らに、ちょっと苦しいけど悪く思うなと言ってから発動した。


 感じの良い奴ばかりだったけど、この辺は非情にに徹せさせてもらった。うちの領で一番強い人間が8人もいるわけだし。


 スキルの発動を終え、落ち着いた彼らに用意していた服と装備と食料の入ったマジックバック。そして彼らが生前に身につけていた停滞の指輪を含む、3等級の各種マジックアクセサリーにマジックテント上級を渡した。そしてテントの中で着替えてくるように言った。


 装備は特殊能力の付いていないミスリル製の剣や槍に、うちの職人に作らせたミスリルのハーフプレイトメイルに竜革の鎧を複数用意した。サイズ調整をしやすく改良してあるので、多分大丈夫だと思う。


 彼らがマジックテントに入っていく姿を見届けた俺は、次に1200年前に皇子に連れられてここに来た者たちを呼び出した。


 ルーベルト・マルス以下、ハマール公爵家とローエンシュラム公爵家の子息たちだ。


 ルーベルトたちは、当時の各公爵家が皇子の護衛に差し出した最強の騎士たちだ。


 彼らの実力もさることながら、次期皇帝になりたい皇子が帝城の宝物庫から盗んできたマジックアイテムと装備により、この最下層までたどり着いたそうだ。


 そう、実はゲートキーと、時が止まっているマジックバッグ特級とマジックテント特級。そして俺の装備している伝説級の黒龍の革鎧とマントは、この皇子が帝城の宝物庫から持ち出した物だ。うん、あの時のエロ本も含めてありがとな皇子。


 だけどその皇子は蘇生しない。幽霊として呼び出してもいない。記録に書いてあったランクは低かったし、ルーベルトたちから疎まれていたしな。当時の愚帝同様、相当な馬鹿皇子だったらしい。


 ルーベルトたちは若い時に命を失ったので、いま一度人生をやり直したいと言ってた。馬鹿皇子を守るために死んだことを後悔しているようだ。


 そんなルーベルトたち公爵家の子息とその騎士たち9名の霊体を呼び出した後は、約束ごとを再度説明し納得してもらった。そのうえでクリスたちと同様に自分の骸の前に立たせ蘇生した。


 そして喜び肩を叩きあっている彼らに『魂縛』を掛け、服と装備とマジックアクセサリーとマジックテント上級を渡し着替えてくるように言った。


 その後クリスたちが着替え終えて出てきたタイミングで、俺はベルンハルトたちを呼び出した。


 呼び出した時にクリスたちがいることに、なんで余が最初じゃないのだってまあうるさかった。


 クリスはなんだこのおっさんみたいな目で見ていたけどな。


 そんなうるさいベルンハルトを蘇生させようとした時、問題が発生した。


 どうも俺がヴリトラに吹っ飛ばされた時に粉砕した骸がベルンハルトの骸だったようで、死者蘇生が発動しなかったんだ。


 死者蘇生のスキルの発動条件は、肉体が残っているなら身体の50%残っていれば蘇生できる。しかし骨からだと80%は必要だ。つまりベルンハルトの骸は俺が破壊し吹き飛ばしたせいで、その条件をクリアできなかった。


 ベルンハルトは死者蘇生のスキルが発動しないことに愕然としていた。生き返れると、自分の骸は間違いなく完全体で残っていると思っていたからだ。現にクリスたちやベルンハルトの配下のウォルフやリチャードたちの骸は、条件を満たせるほど残っていた。


 俺は自分が粉砕したことは黙っておき、ショックを受けているベルンハルトに残念だったなと神妙な顔で告げたあとウォルフたちを蘇生させた。


 そして十二神将まで蘇生させた時。ベルンハルトはクリスやエレンからの憐れみの視線と、かつての配下たちの申し訳なさそうな視線を受けとうとう泣き出した。それはもう部屋中に響き渡るほど盛大に。


 不可抗力とはいえさすがに罪悪感を感じた俺は、ダメもとで生き返った者たち全員で周囲の骸をかき集めさせた。俺もシーナが可哀想っていうから、記憶をたどり吹っ飛んだ腕とかを探したよ。確かヴリトラに踏みつけられそうになり、何か打開策を考えてる時に骨しかねーじゃねえかって投げつけたんだよな。どこに投げたっけ?


 それからたまたま腐食したベルンハルトの衣服の破片が付いている腕を見つけ、他の者たちも俺が渡したテープでパズルのようにベルンハルトの骸に骨をくっ付けたりしてそれらしい骸ができあがった。


 形だけは整ったその骸の横で、ベルンハルトが魔神に祈りを捧げ始めたのでまた失敗するぞと言ってやめさせ再度死者蘇生を行なった。


 すると今度はちゃんと発動し、ベルンハルトの蘇生に成功した。


 生き返ったベルンハルトは、骨をかき集めてくれた人たちに涙ながら感謝していた。俺は礼を言うベルンハルトに、もうみんな仲間なんだから当然のことだと優しく声をかけた。ベルンハルトは感動していたよ。やっぱ魔帝そっくりだなコイツ。


 まあ、結果オーライということで、SS−ランク以上の者たちを33名蘇生させることに成功したわけだ。


 ちなみにベルンハルトとクリスのステータスはこんな感じだ。




 ベルンハルト・テルミナ


 種族: _人族


 体力:SS+


 魔力:SS


 力:SS+


 素早さ:SS+


 器用さ:SS


 取得ユニークスキル:【契約】【飛翔】


 取得スキル:


【身体強化 Ⅴ 】.【 暗視Ⅴ 】.【 探知Ⅴ 】.【鑑定 Ⅴ 】.【 隠蔽 Ⅴ 】

【硬化 Ⅴ 】.【鷹の目 Ⅴ 】.【遮音 Ⅴ 】.【地図 Ⅴ 】.【追跡Ⅴ 】

【危機察知 Ⅴ】.【ミドルヒールⅤ】.【ラージヒールⅤ】

【炎槍Ⅴ】.【炎壁Ⅴ】.【豪炎Ⅴ】.【灼熱地獄Ⅴ】





 クリス 


 種族: __人族


 体力:SS


 魔力:SS-


 力:SS


 素早さ:SS


 器用さ:SS-


 取得ユニークスキル:【飛翔】


 取得スキル:


【スモールヒール Ⅴ 】. 【ミドルヒール Ⅴ 】

【鑑定 Ⅴ】. 【探知 Ⅴ 】. 【暗視 Ⅴ 】. 【身体強化 Ⅴ 】. 【豪腕 Ⅴ 】

【追跡 Ⅴ 】.【硬化 Ⅴ】.【鷹の目 Ⅴ 】.【遮音 Ⅴ 】.【 隠蔽 Ⅴ 】

【危機察知 Ⅴ 】.【地図 Ⅴ】【風刃 Ⅴ】.【竜巻刃Ⅴ】.【圧壊 Ⅴ 】

【氷壁Ⅴ】.【氷槍 Ⅴ 】.【氷河期 Ⅴ 】



 素晴らしい。蘇生したことによりランクが1つ落ちてもこの強さだ。


 ベルンハルト以外のステータスは、だいたいみんなクリスと同じだ。SS−を下回るテータスは一つもなかった。さすが自力で最下層まで来ただけある。元貴族たちは魔人と相性の良い、炎系のスキルばかりだったけどな。平民の冒険者の方がスキルのバリエーションは多かった。


 それとラージヒールは各パーティに一人は取得していた。ほかにはこのダンジョンの70か80階層のボス部屋にあった、『飛翔』のスキルもパーティリーダーが取得していた。


 スキルの熟練度も申し分ない。ステータスが上回っている俺でも、滅魔が無ければベルンハルトのパーティを相手にしたら余裕で負けると思えるほどだ。


 そんな彼らと同じくらいの実力があるであろう骸が、まだこのヴリトラの部屋には50体ほど残っている。


 しかし残念ながら身元がわからない。文献に書かれていなかったし、ベルンハルトたちがこの部屋で戦っていた時も骸があったというから2700年よりさらに昔の戦士たちだろう。俺の持っている神話級の魔鉄の剣や鎧は、彼らの持ち物なのかもしれないな。


 他にも【魔】の古代ダンジョンの90階層や80階層で命を落とした、ベルンハルトの配下やクリスの仲間に貴族の配下たちも蘇生してくれと頼まれている。既にその彼らの霊体も呼び出して交渉済みだ。


 彼らはベルンハルトたちが地上に出てきたら、順次蘇生させると約束している。ただ、彼らは全部で10人いるんだけど、蘇生したらS+ランクになりそうなのであまり戦力としては計算できない。でも仲間と再会したい気持ちは分かるので蘇生してあげるつもりだ。


 生き返って喜ぶベルンハルトたちに魂縛のスキルを掛けたあとは、さっさとマジックテントの中で着替えるように言った。


 出てきたベルンハルトはさっきまでの感謝の気持ちはどこへやら、『余が使っていたマジックテント高級ではないのか。ショボかったな』とかブツブツほざいていた。俺は頭に血管を浮き立たせながら、やっぱ蘇生しなきゃよかったと後悔した。


 ベルンハルトたちが着替え終えてからは、蘇生した者たちを3つのパーティに分けた。時代ごとに分けるとベルンハルトが16人、クリスが8人、ルーベルトが9人と偏りがあるので、ベルンハルトのところから十二神将を4人ほど引き抜いて振り分けた。


 そして各パーティに『離脱の円盤』を貸し出し、紙に書き写したダンジョンの地図も渡し、これを使って91階層の階層転移室まで行って地上に出てくるように言った。


 シーナの離脱のスキルで、ここにいる全員を地上に連れていくことはできないからな。あのスキルはせいぜい7~8人が限界だ。『離脱の円盤』は1日に一度使えて、1〜5階層上の階にランダムで転移できる。階層転移室を飛び越えることはないから、運が良ければ2日で地上に出て来れるはずだ。


 ベルンハルトはどんな根拠があるのか知らないが、余が一番に出れるなと自信満々だった。そんなベルンハルトを見たシーナが、フラグが立ったですとか言っていた。


 初めは蘇生していきなり90階層の上位竜と戦えるか不安だったけど、彼らのステータスなら問題ないだろう。


 俺は移動用のホークⅡを予備も含めて人数分渡したあと、簡単に使用方法を教えた。そして高級マジックバッグをあるだけ貸し出し、倒した竜は丸ごと回収するようにだけ言ってシーナと地上に帰った。


 家に帰ってからは寂しがっていた恋人たちと熱い夜を過ごし、今日は朝からオリビアの大きなお尻に向かって頑張っていた。そしたら弥七から念話で古代ダンジョンから出てきたパーティがいると報告を受け、こうして迎えにきたわけだ。


「ウフフ、あのホークという乗り物。とても楽しかったです。クリスと一緒に火竜に追われながらダンジョンを飛び回ったり、とてもスリリングでした」


 エレンがハンドルを握る仕草をしながら楽しそうに言った。


「アハハ、エレンが風竜に突撃した時は肝が冷えたよ。さすがハマール家のおてんば姫だ」


「あの時はそうした方が良かったと思ったからしただけです。私はおてんばなんかじゃありません。クリスったら酷いわ」


「大丈夫。現代のハマール家もその血を受け継いでるから」


 ラウラも今はおとなしいけど、前はエレンの比じゃないレベルだったからな。


 しかしラウラと似てはいないが、エレンもすごい美人だよな。


 クリスとその仲間たちは20代後半て感じだけど、エレンは半ばくらいかな。長い艶のある赤髪を後ろでまとめていて清楚な印象を受ける。クリスいわく戦闘時は片手剣を持って真っ先に斬りかかるらしいけど。


「妹の子孫かしら? あの子は気性が荒かったから心配です。でも遠くからでもいいので一度見てみたいですね」


「しょっ中ここに来るからそのうち会えるよ。すごくいい子なんだ。良かったら友達になってあげてよ」


 ラウラは友達が少ないからな。うちの恋人たちとは打ち解けているけど、それ以外とは壁を作ってるし。エレンなら先祖だし、ラウラより強いから友達になれるだろう。


「あら、それは楽しみです」


「じゃあ俺の家に案内するよ。クリスも十二神将の二人もまずはゆっくり休んでくれ。ベルンハルトたちが出てきたらこの世界の常識とか教えるからさ。それまでは身の回りの世話にダークエルフを付けるから、外に出る時は必ず彼らを連れて出てくれ」


 俺は最短で出てきたクリスたちにそう言って、デビルキャッスルの東塔に併設されている騎士居住区へと連れて行った。


 デビルキャッスルは基本男子禁制で、西塔の居住区には雪華騎士たちが住んでいるんだけど仕方ない。こんな浦島太郎たちをいきなり港のマンションに住まわせるわけにはいかないし。クリスたちは大丈夫だと思うけど、ベルンハルトたちが不安なんだよな。西塔には近づかないよう命令して、くノ一たちに監視させないとな。



 クリスたちが出てきたその翌日。ルーベルトのパーティがダンジョンから出てきた。そしてさらに二日後にベルンハルトのパーティがダンジョンより出てきた。


 ベルンハルトたちの装備はボロボロで、みんな疲れ切った顔をしていたよ。まさか五日も掛かるとは思っていなかったようだ。


 どうも離脱の円盤の発動は全てベルンハルトがやったらしい。それが見事に1とか2とかばかり引いて、次こそは次こそはとで結局1、2、2、1、3と引いたらしい。出てきた時に配下の者たちがベルンハルトに向ける目はとても冷ややかだったな。


 シーナの言った通り見事にフラグを回収したようだ。俺はそんなベルンハルトに妙に親近感が湧いた。


 こうして無事出てきた過去の英雄たちに、弥七たちから現代で過ごすためのあらゆる教育を受けてもらった。


 しかしそこは浦島太郎。初っ端からベルンハルトがダークエルフなんぞに物を教わる? 冗談だろとか言っていたので、速攻で魔力を抜いてアイアンメイデンDXの中に入ってもらった。その瞬間、教室代わりの会議室にベルンハルトの絶叫が響き渡った。


 その様子を見て青ざめるクリスたちに、再度エルフや獣人たちはもうお前たちの奴隷じゃないと言い聞かせた。そして親衛隊には逆らうなと命令をして、弥七の授業を受けさせた。ああ、その日はベルンハルトにはアイアンメイデンの中で授業を受けさせたよ。


 彼らの教育期間中に、俺は約束通り80階層と90階層に彼らの仲間をシーナを連れて迎えに行った。そして合流させ一緒に教育を受けさせた。


 そうして一般常識の教育が終わったあと、幻影大隊同様に公爵家直属の部隊。『エインヘルヤル』を創設した。


 エインヘルヤルとは北欧神話の戦死した勇者の魂。または死せる戦士たちとも言われている。彼らはラグナロクに備えヴァルキューレによってヴァルハラの館に集められ、毎日朝から互いに殺し合い死んでも夕方には生き返りまた殺し合って腕を磨いている者たちだ。


 一度死んだのに生き返ってまた戦いの日々を送るベルンハルトたちには、ピッタリの名称かなと思ってエインヘルヤルという部隊名にした。


 部隊は三つに分けてそれぞれ別のダンジョンに挑ませ、お互いに競わせる予定だ。ダンジョン内にいても外と交信できる念話のイヤーカフと、離脱の円盤を各リーダーに持たせるので、地上で何かあってもすぐに出て来れるだろう。ベルンハルトには離脱の円盤を使わないように言ったし大丈夫だと思う。


 せっかく生き返ったのにいきなりダンジョンに入れというのも酷なので、故郷を見たいという彼らに監視付きで休暇を与えた。


 二週間ほどゆっくりしてもらった後は、上級ダンジョンに挑んでもらう予定だ。


 エインヘルヤルたち以外にも今回用意した奥の手もあるし、これでダンジョン対策と悪魔対策は完璧だ。


 軍の増強も兵の錬成も順調だし、もしもの時の領民の避難場所も地下鉄やデパートの地下などを改修している。家庭用シェルターも地方限定で格安で販売してもいる。


 これに結界の塔ができれば、ほぼ確実に日本と台湾は守れる。


 俺は考えうる最高の対悪魔対策が用意できて満足していた。



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