第15話 英雄



「ぶっ! また増えたのかよ! 」


 魔導通信機の画面の向こうにいる沖田からの報告に、飲んでいたコーヒーを吹きこぼした。


 1月も半ばになり相変わらず執務室であーでもないこーでもないと悪魔対策を考えていたら、沖田から緊急の報告があると言われて出てみたらこれだ。


 上級ダンジョンが初級ダンジョンを生み出したって……もうこれ以上日本にダンジョンはいらねえんだよ。なんで日本ばっかこんなにダンジョンが多いんだよ。国土面積と人口に合ってないだろ。


『はい。池袋の鬼系の上級ダンジョンは挑める者が少なく苦戦していまして……それと……その……神戸の鬼系中級ダンジョンも上級に進化してしまいまして」


「ちょっ! 神戸!? あそこには十分な数のトレジャーハンターがいただろ! なんで進化すんだよ! 」


 池袋の上級はともかく、中級ダンジョンは間引きはできていたはずだ。それなのになんで進化すんだよ。


『確かに多くのハンターが潜っていました。下層にたどり着いたパーティもいたほどなのですが、突然進化を始めギルドの兵庫支店の者たちも困惑しているようです。現在原因を調査中とのことです』


「おかしい……上級ダンジョンはともかく、人気のあった神戸の中級ダンジョンがなぜ……」


 神奈川支店長の例の人為的な初級ダンジョンの進化事件とは違い、今回は間引きをしっかりやっていたダンジョンだ。それならダンジョンは地球から吸収した魔力を進化にではなく、魔物を召喚するために使うはず。それなのになぜ進化したんだ?


『わかり次第ご報告いたしますが、なにぶん我々よりダンジョンと長い時間を過ごしてきた帝国の資料を読み漁っても有益な情報は書かれておらず……むしろダンジョンを増やすための研究資料ばかりでして……』


「あいつらは資源のためにダンジョンを増やしたい側だったからな。前の世界は星の魔力が少なくて、中々ダンジョンが増えなかったかたらそっちの研究ばかりしてたんだろう。しかしこれで日本と台湾でダンジョンが40個か。4年前は37個だったのにな」


 これで上級ダンジョンは7から8に、中級は20のままで、初級は10から3個増えて1個進化したから12か。たった4年でこれかよ。


 うちだけじゃなくて世界中でも増えているらしいが、発見が遅れている物もあり正確な数はわからない。けど、4年前に全世界で360個あったダンジョンは、1割は増えていると見て間違いないと思う。


 これはちょっとヤバイな。他の領地はともかく、日本だけでもなんとかしてダンジョンの増殖を止めないと。


 ダンジョンは星から吸い上げた魔力を魔物を召喚するために使う。魔物を召喚し、ダンジョンが手狭になると魔力を溜めて進化する。上級ダンジョンだけはそれ以上になることはなく、近隣に新しく初級ダンジョンを生み出す。


 攻略することによりダンジョンは、魔物や人間が死ぬことにより放出され溜まった魔素を吐き出す。そのうえ階層ボスなど、召喚により多くの魔力を使う魔物を呼ぶために大量の魔力を使う。結果として進化なんかする余裕は無くなる。


 まず優先すべきことは、初級ダンジョンを生み出す上級ダンジョンを攻略することだ。


 一度できたダンジョンを消滅させる方法がない以上は、初級や中級ダンジョンは後だ。上級ダンジョンを攻略してまずはダンジョンの増加を防がないと。


 初級と中級ダンジョンはなんとかなる。今は徴用制度を始めて間もないため、東日本領のトレジャーハンターもそこまで増えていない。そうなると当然中級ダンジョンを攻略できる者も少ない。だが徴用制度でランクを得た者が増えれば、その中からトレジャーハンターになる者も必然的に増える。だからこっちは時間が経つにつれ解決していくはずだ。


 だから上級ダンジョンを優先して攻略すべきなんだけど、問題は攻略できる者がいないんだよな。そこまでの実力がある者は俺のパーティくらいだ。


 けど俺も恋人たちも領地とギルドの仕事で忙しい。さらに悪魔対策で今は手一杯で、前みたいに恋人たちを交代で連れていってダンジョンを攻略するのは難しい。今は休みの時に【魔】の古代ダンジョンへ経験値稼ぎに潜る程度しかできていない。


 あ〜この忙しい時にまた問題が増えたよ……どうしろってんだよこんなの。


 俺はまた悩みが増えたと、どんよりしながら沖田との通信を切った。


 しかし悪魔対策も急ぎだけど、これも放置できないな。


 どうすっかなぁ。


 弥七たち御庭番衆と親衛隊ならS+ランクが数人いるから、鬼系の上級ダンジョンなら行けそうもするが、間違いなく年単位で時間が掛かるだろうし死者も出ると思う。そんなに長期いなくなられても困るし、死なれるのもなぁ。蘇生できるとはいえ、アイツらの死に顔なんて見たくない。


 何人か伝説級のSS-ランクにならないと、死なずに上級ダンジョンの攻略とかは無理だろうな。


 やっぱ俺がやるしかないのかな。俺なら1ヶ月もあれば攻略はできる。けどそれだと途中の雑魚魔物をあんま狩れないんだよな。そうなると攻略しても時間稼ぎくらいにしかならないかも。


 雑魚をスルーしてボスだけ倒したら、ダンジョンは失った階層ボスを補充するのに注力できてしまうから、その分復活も早くなるかもしれないからな。


 何より一度攻略されたダンジョンは人気がなくなる。一番高価なアイテムが入っているボス部屋の宝箱がなくなるしな。現に以前攻略した福岡の竜系上級ダンジョンは閑古鳥が泣いている。


 デビルバスターズギルドのやつらに、旨味がないダンジョンに命をかけて挑めとも流石に言えないし。


 いや、そもそも今の俺たちが1ヶ月も領を空けるのも厳しいか。


「いや、マジでどうすっかな。トラブル覚悟で帝国の冒険者を誘致するか……ダンジョンの中でギルド員が殺されそうだな」


 帝国人は俺を恐れているし恨んでいる者が多い。今まで兵士を大量に殺してきたし、以前帝国の冒険者や貴族が日本のダンジョンに自由に出入りをしていた頃。結構な数の絡んで来た冒険者や貴族を殺したし。


 そのため恨んでる者もいるし、征服された身である地球人が公爵になって面白くないと思っている者も多い。そんな奴らを招致でもしたら、八つ当たりでギルド員を殺すかもしれない。ダンジョンの中は無法地帯だからな。バレずに気に入らない奴を殺すことは可能だ。その代わりバレたら死刑だけど。


 となると自前の戦力で攻略させないといけないんだが、今のギルドや軍のランクじゃまず無理だ。それこそ大量の犠牲者が出る。


 そもそも帝国人だって上級ダンジョンを攻略すれば貴族になれるくらいだ。そんな簡単じゃない。


「いっそリッチロードとデュラハンロードを大量に蘇生して攻略させ……やめておこう。また魔王と言われかねないな」


 リズが大喜びしそうだけど、俺のイメージは二度と回復できないほどにまで地に落ちるだろう。


「良いアイデアだと思ったんだけどな。古代ダンジョンの下層にいるような魔物なら、上級ダンジョンの攻略くらいできるだ…………待てよ? ダンジョンの下層……あっ、いた! 上級ダンジョンを余裕で攻略できる奴らがいた! ついでにティナに泣かれそうだけど奥の手も用意できる! 」


 これなら上級ダンジョン対策だけじゃなく、悪魔対策にもなる! そのうえギルド員への良い刺激にもなる! やべっ! 俺って天才かも!


 そうと決まればさっそく調べるか。


 俺はオリビアに連絡し、急いで調べ物をしてもらえるように頼んだ。




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「ありがとうオリビア。無理言って悪かった。魔帝に色々言われたろ? 」


 俺は5日前に頼んでいた資料を送ってくれたオリビアへ、魔道通信機の画面越しに礼を言った。


『いいんです。コウさんのお役に立てたのなら、陛下の質問責めくらいなんでもなかったです』


「アイツ家に帰れないから暇なんだよ。俺が電話した時もしつこかったし」


 でも一番肝心な情報が、皇家が保管している文献じゃないとわからなかったからな。色々理由をつけて見せてもらえるよう頼むしかなかった。


 しかしよく見せてくれたよな。断られると思ったんだけどな。


 なんかアイツ反乱以降、結構素直に俺の頼み事を聞いてくれるよな。この間も財政危機だから、公爵家で公債(公爵家が発行する債券)を発行させてくれてと頼んだらいいって言ってくれたし。帝国の商人は足元見て超高金利でしか貸してくれないからな。


 その公債を寄子の貴族どもに低金利商品として無理やり買わせ、ギルドや軍や領民たちに高金利商品として販売したら完売できた。おかげで財政がめちゃくちゃ楽になった。まあ借金なんだけどな。でもさっそく俺のマネをしてマルスとラウラも発行していたけど。


 おかげで貴族に金を貸すことで、権益を得ていた商人たちは俺に激おこらしい。商人たちを優遇していたオズボードも俺が滅ぼしたしな。ただでさえ嫌われて装備を高値で買わされているのに、これで敵扱いされたかも。


 多分これから今まで以上に戦艦や武器の値上げや、納品の邪魔をしてくると思う。


 まあそれが狙いなんだけどな。悪魔がやって来るっていう非常事態に、軍備を整える邪魔をすれば国家反逆罪に問える。こっちは帝国にダークエルフたちを大量に忍ばせてるんだ。さらにあと数ヶ月もすれば幻影部隊も送り込める。


 嫌がらせをしてくれればその証拠を押さえて、まとめて全部潰してやる。アイツら地球に潜伏していたロンチャイルド伯爵とかを囲い込んで好き放題してたからな。今までなかなか手を出せなかったが、これでスッキリする。



『ふふふ、陛下も魔界の門が見つからずお暇らしく話し相手が欲しかったようです。資料を複写している時も、色々と父の若い頃のお話をしていただけました』


「年寄りは昔話くらいしかネタがないからね。でも助かったよ。お礼に次のデートはオリビアが行きたがっていたサンリアピューロランドに行こう。いっぱいぬいぐるみを買ってあげるよ」


 可愛い物好きのオリビアは喜んでくれるはずだ。前から俺と行きたいって言っていたしな。


『え? いいのですか? コウさん恥ずかしくて行きたくないと言っていたのに……次のデートが楽しみです』


「あはは、ちょっと恥ずかしいけどまあ姿を変えるし、オリビアのためだしね。それじゃあ俺は仕事に戻るから。ありがとうなオリビア。愛してる、また今夜ね」


『はい。私も愛してます。今夜また』


 俺とオリビアはお互いにそう言って通信を切った。


 今夜はオリビアの日だからな。デートの前にいっぱいお礼をしないとな。


「さて、リストは手に入れたし、さっそくやるか」


 俺はオリビアからパソコンに送られた資料をタブレットに移し、【魔】の古代ダンジョンへと向かった。


 そして馬場さんたちとよく会合していたあの広場に行き、タブレットの資料を見ながらそこに書かれている名前を次々と読み上げていった。


「古代テルミナ帝国の英雄であり初代皇帝ベルンハルト・テルミナ。その騎士、ウォルフ・ロンドメル公爵。リチャード・バイエルン伯爵。エーリッヒ・キンケル伯爵……いるんだろ? 出てこいよ、『死者蘇生』! 」


 そして俺は死者蘇生のスキルを発動した。


 すると大量の魔力が抜けていき、俺の胸から4つの白い半透明の魂が現れゆらゆらと漂いながら目の前で徐々に人の形へと変化していった。


 そう、俺は2千年以上前にこの【魔】の古代ダンジョンンで命を落とした、帝国最強のパーティを呼び出した。彼らと交渉して俺の配下にするためだ。コイツらの骸は最下層のヴリトラの部屋にある。ダンジョンの魔素のせいか保存状態もいい。俺なら蘇生できるはずだ。


 しかし調べるのは大変だった。2千年以上も前のことだからな。初代皇帝のオリハルコンの鎧は確かに最下層にあったから間違いないとは思ったが、同行した貴族や他の時代の英雄と呼ばれた者たちの名前も調べたかった。


 だから帝城の歴史資料室に入る許可を魔帝にとったわけだ。魔帝は俺が帝国の歴史を調べることを訝しんでいたが、悪魔のことを調べるんだよと言って押し切った。


 俺がそんなことを考えていると、人の形に変化し終えた幽霊のうち40代くらいの鎧姿の男が口を開いた。


『ここは……【魔】の古代ダンジョンか? 』


「そうだ。お前たちが命を落とした古代ダンジョンの1階層だ。死者蘇生のスキルで、俺の中にいたお前たちの魂を呼び出した」


『なっ!? 死者蘇生のスキルだと! そ、その黒髪……まさか貴様は勇者!? も、戻ってきたのか!? 』


『『『ゆ、勇者!? 』』』


 俺を勇者だと勘違いしたのか、呼び出した4人は一様に青ざめた顔になった。


「ちげえよ。これは【冥】の古代ダンジョンで手に入れたスキルだ。というか今は帝国歴2754年だ。お前らが死んでから2700年は経っている」


 魔帝いわく、今から3000年近く前。先住民である人族との交配により人口が増えた魔人たちは、分裂しテルミナ大陸に複数の国を作っていた。ちなみにこの時代は魔界を追放され、力を失った魔神は眠っており加護とかそういうのは無かったらしい。


 そしてその中の一つであるテルミナ帝国は建国当初は共和国で、王はおらず複数の貴族による合議制で統治されていたらしい。


 しかし周辺の他の魔人の国との戦争が激しくなるにつれ、共和国は力のある貴族同士で内輪揉めを始めた。その結果、一人の貴族により統一された。その後はテルミナ帝国を名乗り、瞬く間に周辺の魔人の国を吸収していった。その貴族の名が初代皇帝ベルンハルト・テルミナだ。


『2700年だと!? 』


「そうだよ」


 俺は混乱している幽霊たちに、帝国がその後どうなっていったかを説明した。


 初めは俺が【冥】だけではなく、【魔】の古代ダンジョンも攻略したことや、帝国貴族のしかも公爵になったことも誰も信じなかった。


俺はそんな男たちに鑑定の銀板でステータスを見せた。そしたらやはり勇者ではないかと、再び青ざめた顔をした。特に滅魔と魂縛のスキルに怯えていたな。


 それからは俺の話を信じる気になったのか、黙って聞いていた。


 話しているうちに、最初に声を掛けてきた男が初代皇帝だということがわかった。自分のことを『余は』とか言ってるしな。まあなんとなく魔帝に似てるから、そうじゃないかとは思っていた。



『まさかアデン世界からチキュウに大陸ごと転移したていたとは……確かにアデンの魔素は薄かった。魔素の濃い世界を求め、デルミナ様のお力で異世界に移り住んだというのもあり得ぬ話ではないか……それにしても魔界への反撃のために必要な滅魔のスキルを人族に奪われるとは……む? 先ほど貴様は公爵になったと言っていたな? 滅魔のスキルを持っていてなぜ帝国を滅ぼさなかったのだ? 貴様の世界を侵略した敵であろう? 』


「色々事情があるんだよ。その話はまた今度だ。それより俺と取引しないか? 」


『取引だと? そういえばなぜ我らを呼び出したのだ? 』


「三度の飯より戦うことが好きなお前らを生き返らせてやろうと思ってな」


 まあ俺の配下にするためなんだけどな。コイツらは戦うことが何よりも好きだと文献に書いてあった。だから大陸を統一できたし、この【魔】の古代ダンジョンの最下層にも到達できた。


 文献によると初代皇帝のベルンハルトはSSS−ランクだった。つまりは蘇生してもSS+だ。ほかの者たちもSS+だったと文献に書かれていたから、蘇生してもSSだ。うちにはそれほどの戦士がいないんだ。こんな高ランクの戦士たちを死なせたままでいるのはもったいなさすぎる。


 うちで俺の次に強いのはティナだ。それでも魔力だけがSS−だ。しかしこいつらは違う。他のステータスもSSランクだ。コイツらなら、この【魔】の古代ダンジョンの最下層にたどり着いた英雄と呼ばれた男たちなら、上級ダンジョンの攻略くらい余裕だろ。


 それに対悪魔への戦力としても使える。2700年前なら、強い悪魔と戦ったことがあるだろうしな。


 別にいきなり蘇生させてもいいが、ちゃんと本人の意思を聞いて恩を着せて一生懸命働かせるためだ。当然こんな危険人物は魂縛のスキルで縛る。そこもしっかり納得させるつもりだ。


 やっぱ無理やり働かせるのと、取引で気持ちよく働かせるのとでは効率が違う。うちは就労条件だけはホワイト企業なんだ。



『余らを生き返らせる? そんなことができるのか? 勇者は肉体がないと蘇生はできなかったと聞いている。余らの肉体はもう無い。いや骸ならまだ最下層にあるやもな』


「わかってんじゃねえか。死者蘇生のスキルは骸からでも蘇生ができるんだよ」


『!? そ、それは誠か!? 』


『ア、アクツ殿! それは本当なのか!? 』


「こっちくんな! 本当だよ。俺の配下になるなら生き返らせてやる」


 俺は驚き興奮した表情で詰め寄ってきたベルンハルトたちから距離を取り、蘇生させる条件を提示した。


『貴様の配下にか……皇帝である余が先祖が滅した人族の配下に……しかし生き返ることができればまた戦うことができる……クッ……』


『陛下以外の者に従うなど……それも勇者と同じ黒髪に勇者と同じ能力を持つ者に』


『先祖が許してくれるだろうか……栄光あるロンドメル家に泥を塗ることにならないであろうか』


「オイオイ、お前らなに勘違いしてんだ? お前らは一度死んでんだ。あの黒龍のヴリトラに負けて死んだんだよ。その時にお前らの現世での身分も何もかも失ってんだ。しかも死んでから2700年経っていて、誰もお前らの名前以外知る者はいない。つまり生き返ったらただの平民なんだよ。お前らが初代皇帝だ公爵だ言っても、身分詐称罪で打首になるだけだ。ただの平民だからな」


 俺はいつまでも貴族のつもりでいるベルンハルトたちに、勘違いするなと諭した。


 いや、ほんと。コイツらが生き返って帝国で貴族を名乗っても、誰も信じやしない。それほどの時が経過してるんだ。肖像画くらいはあるだろうが、いくら似ていてもご先祖様が生き返ったなんて誰も思わない。


『なっ!? 余らが平民!? 帝国を建国した余らが……』


『『『そんな……』』』


 ありゃ? 揃いも揃って肩を落として下向いちゃってまあ……思ったよりショックを受けてるな。貴族のプライドってやつか?


 まあ俺が魔帝にコイツらの出生を話して口添えすれば、身分を保証してはくれるだろう。


 赤髪だろうしほかの貴族たちには、上位貴族の隠し子とかなんとかと説明すれば納得すると思う。よくある話だしな。


 ったく、しょうがねえな。平民になるくらいなら生き返らなくていいとか言われても面倒だし、適当な貴族の身分くらいはくれてやるか。


 そう思い口を開こうとした時だった。


 ベルンハルトとその配下の者たちの肩が震え始めた。


 俺は泣くほどかよと思ったその時。


『クッ………ククク………ククククク……ワハハハハハ! おい聞いたかウォルフ! 余が平民だと! この余が平民じゃ! 貴様もだ! 貴様も平民だ! 』


『ハハハ、いやこれは参りましたな。私が平民ですか』


『フフフ、しかしまさかこのような形で……陛下。夢が叶いましたな』


『うむ。幼き頃からの夢が叶ったわ』


「え? あれ? どういうこと? 」


 なんだ? 夢? 平民になるのが夢だったのか? 皇帝が? は?


『そのほう、悪魔公だったな』


「阿久津だよ! お前ら皇帝は初代から難聴なのかよ!? 」


 もうこのネタいいよ! 飽き飽きだよ!


『冗談だ。いちいち本気にするな。つまらん男だな』


「こ、この野郎……」


 このおちょくり方……コイツは間違いなくクソ魔帝の先祖だ。


『ククク、まあ良い。少し余の昔話をしてやろう。余は幼い頃からここにいる者と一緒に冒険者になりたかったのだ。若い頃は貴族の嫡男ではあったが、それに近いこともできた。しかし戦乱の世で父を失い、やむなく後を継ぎ父の仇を取るために共和国の有力貴族どもを皆殺しにした。そして混乱に乗じて攻め寄せてくる他国の者どももな。その後は精魔を大量に作り自爆した大国を滅ぼし、共闘した国も滅ぼした。気が付けば皇帝になっており、もう昔のように自由気ままにダンジョンで戦うことができなくなっていた。この【魔】の古代ダンジョンに挑むのも、後継者を決め後顧の憂いを無くしてようやくだったのだ』


「そうかよ。聞いてもないことをありがとよ。まあ、つまり平民になれることが嬉しいってことか。なら生き返るのにもう問題はないだろ」


『まあな。だが貴様のスキルがな……余の魂を縛るのであろう? まさか余と帝国を戦わせるつもりではないだろうな? 』


「ハッ! 笑わせるなよ。帝国ごときにお前らの力なんか必要ねえよ。俺一人であんな奴ら滅ぼせる。お前らはその間の領地の守りくらいしかやることがねえな。そんなことより上級ダンジョンの攻略と、魔界からやってくる悪魔だな。そっちで戦ってもらう」


 結界の塔さえできれば帝国なんか屁でもない。俺だけで滅ぼせる。


『あ、悪魔だと! この世界にも悪魔がやってきておるのか!? 』


「つい最近インプが現れた。1年以内に侵攻してくると思う。侵攻してきたら呼ぶから、それまでダンジョン攻略をしてもらう」


『なんと悪魔が……アクツよ、確かこのチキュウは魔素が濃いと言っていたな? 上級ダンジョンの下層とそう変わらないと』


「ああ、もともと濃いうえに俺が古代ダンジョンを2つ攻略したからな。魔人たちは体調がすこぶる良いらしいぞ」


 オリビアもリリアも体調が良いし、カーラも馬場さんたちも問題なく地球で生活できている。俺としては攻略したことで死者蘇生のスキルも覚えてメレスの母親を取り戻せたし、カーラとも馬場さんたちとも再会できたから良かったと思ってる。


 でもそのせいで強力な悪魔がやってくる。なかなかうまくいかないもんだな。


『ククク、そうか。それはなかなかに楽しめそうだな。うむ、よかろう。特別に英雄王である余が貴様の配下になってやろう。余らを好きに使うがいい。皆もよいな? 』


『『『ハッ! 』』』


「悪魔とそんなに戦いたいのかよ。脳筋というかなんというか……魂縛を掛けることにもうちょっと抵抗すると思ったんだけどな」


『どうせ逆らえば貴様の滅魔でアッサリ殺されるのだ。魂縛などあっても無くても同じよ。それよりも余はまた戦いたいのだ。いい女も抱きたいしな』


 戦いたい欲と性欲が勝ったということか。さすが魔帝の先祖だな。


『陛下、平民ゆえ金も地位もありせぬ。稼ぐか口説くかせねば昔のようにはいきません』


『おおそうだったな。冒険者だからな。まあ余の強さを見ればすぐに股を開くだろう。ククク、もう半魔を抱いても誰も文句は言わぬ。ヤリたい放題だな』


『それは確かに! 実は私は金髪の半魔を抱いてみたいと思っていたのですが、配下の者がうるさくできませんでした。これは楽しみです』


 なんだこの中年ズは……一番若く見えるのでも30代半ばっぽい見た目なのに、どこからこんな自信が出てくるんだ? 


 まあ2700年前の貴族の口説き方が通用すればいいな。まず話題からジェネレーションギャップ感じまくられて、ドン引きされんじゃねえか? 2700年て日本なら紀元前700年だろ? 奈良や飛鳥に古墳時代飛び越えて弥生時代じゃねえか。その時代の男が現代の女性を口説く? しかも見た目40過ぎの中年が? 


これは間違いなく面白い物が見れそうだな。


『ククク、貴様も相変わらず好きものよな。む? 身体が消えていく? これは? 』


「あ〜幽霊でいられる時間はそんな無いんだ。今日は生き返る気があるかだけ確認したかっただけだから。一週間後くらいに骸がある最下層でまた呼ぶからさ、生き返るのはその時だな」


 まだこのあと呼ばないといけない人間がいるしな。


『む? そうなのか。では十二神将も頼む。ここにいる者とそう変わらぬ能力ゆえな』


「やっぱ一緒にいたか。名前を教えてくれ」


 俺は紙とペンを取り出し、消えそうになるベルンハルトから十二神将の名前を聞いた。


 そして三人の名前を聞いた所でベルンハルトたちは俺の中に戻っていった。


「ふう、あとは呼び出して本人に残りの名前を聞けばいいな」


 文献には十二神将の記述が無かったんだよな。それに名前も残ってなかった。皇帝なら必ず連れていってると思ったんだけど、ベルンハルトがダンジョンに入る前に後継者を決めていたと書いてあったから、そっちに護衛として残してるのかと思ってた。


 しかしあのウォルフというロンドメル公爵と仲良さそうだったな。初代だから当たり前か。


「よし、じゃんじゃん呼び出して交渉するかな」


 それから俺は十二神将を呼び出し、ベルンハルトと同じように交渉した。その結果、彼らは皇帝を守れなかった無念を晴らすために今一度蘇りたいと即答した。


 十二神将と一週間後に再会を約束した俺は、次に別の時代の英雄たちを次々と呼び出した。駆け落ちした貴族や冒険者など、様々な理由があってこの古代ダンジョンに挑んだ者ばかりだった。


 そしてその全ての人たちから、配下になることを承諾してもらえたのだった。


 よし、これで一週間後に最下層にまた行けばいい。地図はあるしまあ間に合うだろう。

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