第57話 黄泉がえり

 


 カーラを蘇生した後。レミアたちメイドに彼女の服や生活用品を揃えるように頼んだ。


 そしてティナとオリビアにカーラの事を頼み、俺はリズとシーナを連れこの戦争の最後の仕事をするために港へと向かった。


 夕焼けに染まる港の倉庫に着くと、避難所から戻ってきた大勢の獣人たちが倉庫の中にいた。彼らは皆、倉庫に安置している遺体の前で悲しみに暮れていた。


 ここに安置されているのは、今回の戦争で艦隊戦や帝都侵攻で命を失った者たちだ。義勇軍の遺体は数が多いためオズボード領に安置していてここにはない。


 俺は家族や友人や恋人を失い悲しむ彼ら彼女たちに倉庫から出てもらい、彼らへこれから起こることの説明をリズとシーナに頼んだ。そして誰もいなくなった倉庫で、遺体を包む氷から魔力を抜いた。


「さて、お前らのことだ。この世に未練たらたらだろ? 今生き返らせてやるからな……『死者蘇生』 」


 俺は聖剣を取り出し、死者蘇生のスキルを4人づつ掛けていった。


 ぐっ……滅魔で魔力を補充しながらとはいえ、毎回この大量に魔力が抜けていく感覚はキツイ……でも遺族の涙を見ちゃったらな。


「これでラストだ。死者……蘇生……うぐっ……ハァハァハァ……終わった……あ~キツかった」


 俺は最後の3人にスキルを放ち、その場で大の字で寝転がった。


 これは身体が持たないわ。今度からは1日20人までにしよう。


 そんなことを考えて倉庫の天井を見ていると、60cmから1mほどの青と緑の霧状の物体が俺の視界を横切った。


 よく見るとそれは人型で、青と緑に分かれ追いかけっこをしているようにも見えた。


 おいおい……これってもしかして精霊か? 


 俺は見覚えのあるその姿と微弱な魔力に、エルフの契約精霊なんじゃないかと思った。


 精霊は今まで魔力を渡して、落ち葉や砂や水をまとってもらわないと俺には見えなかった。それは精霊が霊的な存在に近いからだ。


 そんな存在である精霊がなぜ急に俺に見えるようになったのか? まあ間違いなく死者蘇生しまくったせいだろうな……


 すると突然倉庫の角から何やら強い視線を感じ、俺はゆっくりと顔を向けた。


 そこには半透明の長い黒髪の女性が恨めしそうな顔でこっちを見ていた。


「!? せ、『聖炎』! 」


 俺は明らかに悪霊の類いにしか見えないそれに寒気がして、咄嗟に聖属性のスキルを放った。


『ぁぁぁぁぁ…………』


 足もとから光の炎に包まれた女性は一瞬苦しい表情をしたあと、その姿を消滅させていった。


 どうやら成仏したようだ。


「マジか……陰陽師になっちまった」


 霊が見えるとか……こんなのリリアに知られたら避けられる。俺は何も見なかった。うん、何も見なかった。


 げっ! あそこにも!? む、無視だ無視! 取りあえず今はコイツらを起こさないと!


 俺はさらに天井の片隅からじっと見つめる男の霊を無視し、恐らくウンディーネと思われる青い精霊の集団に話しかけた。


 すると飛び回っていた青い精霊たちはびっくりして、皆が指で自分を指し『私に言ったの? 』と言う感じで俺の方に視線を向けた。


「ああ、ウンディーネだろ? どうやらみんなが見えるようになったみたいなんだ。ちょっと頼みがあるんだけ……おわっ! ちょっ! タンマタンマ! 」


 俺の言葉にウンディーネたちはお互いに顔を見合わせたあと、一斉に俺に飛びかかってきた。


 別に俺の身体に彼女たちが触れられる訳じゃないんだけど、シルフらしき緑色の精霊も後に続いて50体近くの精霊に視覚的に襲われればビックリもするさ。


 そんな彼女たちは俺にまとわりつきながら皆が両手を差し出し、何かを欲している仕草をした。俺はそれが何なのかを察し、空間収納の腕輪から魔力水を取り出した。その瞬間、彼女たちの表情が満面の笑みに変わった。


「わかったわかった。はい、魔力水。一列に並ばないとあげないぞ? いい子だ。ああ、飲んだら瓶を返してくれよ? あとウンディーネはそこで寝ている奴らに水を掛けて起こしてくれ」


 俺は一列に並んで魔力水を受け取っていくウンディーネに、蘇生した獣人たちを起こしてもらえるように頼んだ。


 ウンディーネたちはうなずき、魔力水をおいしそうに飲んだあと各人が獣人の顔に水を掛けていった。


「ありがとう。じゃあまた遊んでおいで」


 そう精霊たちに遊んでいるように言うと、彼女たちはまた倉庫の天井付近で追いかけっこを始めた。


 そんな無邪気な彼女たちを眺めていると、寝ていた者たちが動き出した。


『ん……冷てっ! な、なんだここは……俺は確か死んだはず……なぜこんなところに……』


『なんだよ誰だよ俺に水をぶっかけやがたのは……え? 水? 俺は確か……飛空艦が墜落して……』


『あれ? 胸をえぐられたはずなのに傷が消えてる……』


『俺もだ……まさか生きてるのか? いやそんなはずは……俺は間違いなくあの時……ならここは天国? 』


『天国か……それにしちゃ薄暗いが、待機場所的なとこかもな』


「あ~やっぱ死んだか……まあ、あれじゃ死ぬよな』


『女房は今ごろ悲しんでんだろうな……』


『そうか……福岡の明美ちゃんにもう会えないのか……』


『レンタル彼女店にもう一度だけ行きたかったな……あと少しで口説けたんだけどなぁ』



「ククク……おはようさんみんな。気分はどうだ? 」


 俺は傷一つ無くなっている自分の身体を見て、天国にいると思っている獣人たちに話しかけた。


『なっ!? ボ、ボス? なんでボスがここに!? 』


『マジか! ここは天国じゃなかったのかよ! 』


『なんで魔王がここに……俺はなんも悪いことしてねえってのにあんまりだろ……』


『終わった……これから俺たちは魔界のダンジョンで悪魔に八つ裂きにされ、そして魔獣に喰われてを永遠に繰り返すことになるんだ。ボスが俺たちにやったように……』


『そんな……真面目に働いて借金を返したってのにまた……』


『い、嫌だ! 俺はもうあんな思いはしたくねえ! みんな逃げよう! ここから逃げよう! 』


『ベーン、無理だ……魔王からは逃げられねえ……諦めろ』



「この野郎……『灼熱地獄』 」


 俺は額に血管を浮かばせながら、人の顔を見るなり魔王だの言って勝手に絶望している奴らに弱めのスキルを放った。


 その瞬間獣人たちの足もとから膝ほどの高さの炎が湧き上がり、皆の足を焼いた。


  》》》


「お前らが俺をどう思っているのかよーくわかったよ……チッ、いいかよく聞け。ここは桜島の港の倉庫だ。お前らは生き返ったんだよ。俺が新しく覚えたスキルでな」


『へ? 生き返った? そ、それは本当ですかボス……』


『この痛みは確かにリアルだけど……』


『でも生き返らせられるスキルなんて聞いたことねえぞ? 』


「なら証拠を見せてやるよ」


 俺はそう言ってリズに念話を繋いだ。


 《リズもういいぞ》 


 《待ってたぜ! 》


 ガラララッ


「あっはははは! みんな生き返ってやがる! そら! 感動のご対面だ! 」


 倉庫の扉が開きリズが入ってきてそう叫ぶと、一斉に倉庫内の照明が点灯した。


 そして後ろに控えていた遺族たちが恐る恐る中へと入ってきた。


『うそ……コニー? コニーなの? 』


『お、お袋……』


『ああ……コニー……コニーーーーッ! 」


『あ、あんた……』


『ミリット……』


『あんたぁぁぁぁ! 』


『サ、サムなのか? 』


『ダン……マジか……本当に生き返っちまったみたいだ……ハハハ……マジか……ボスやべえな』


 生き返った者たちの家族や友人たちは、恐る恐る近づきお互いの存在を確認し合ったあとに抱きしめ合っていた。


 リズもシーナも知り合いの所に行き、肩を叩いて嬉しそうにしている。


 死んだと思っていた家族や友人が生き返ったんだ。嬉しいに決まってる。


 俺はそんな彼らの姿をしばらく眺めたあと、リズとシーナに先に帰っていると念話をしてその場を離れた。




 ♢♢♢♢♢




 港の倉庫から離れた俺は、【魔】の古代ダンジョンの1階層にある広場の真ん中に座っていた。


 ここに来るまでに火蜥蜴やヴェロキラプトルには襲われていない。この広場には何度も一人で来ているし、スキルの実験やらなんやらで虐殺しまくったからな。いくら知能の低いアイツらでも、さすがにもう俺に襲いかかって来ようとは思わないようだ。


 そんな魔物の全くいない広場の中央で、俺はいつものように酒を片手に一人晩酌をして飲んでいた。


「馬場さん、浜田。仁科に和田にみんな……俺さ、死んだ人間を生き返らせることができるようになったんだ……」


 俺は目の前の空間に視線を向け、このダンジョンで失ったかつての仲間たちに話しかけた。


 もちろん返事なんてない。見えるようになった霊すらもいない……ダンジョンと魔物に魂を吸収されちまったからな。


「あの時、俺にこの能力があれば……ごめんみんな……もう生き返らせてやれないんだ……蘇生するには身体と魂が必要でさ……みんなを生き返らせることができないんだ……ごめん」


 羨ましかった……生き返って家族や仲間と再会できた獣人たちを見て、俺は羨ましくて寂しくて……


 俺も馬場さんや浜田と再会したかったよ。


 でもそれはできない……馬場さんたちの身体と魂はもうどこにも無いんだから。


「あの時に生き残った三田に田辺や鈴木も強くなったよ。あいつらもうB-ランクになってさ。全員恋人もできたんだぜ? ポメリが15になるまで三田もよく我慢してさ、まあ俺たちからすればアウトなんだけどな。法律は帝国法だからまあそこはな。俺も重婚しまくる予定だし」


 鈴木も虎人族のララと戦ってOKもらったみたいだし、みんな生き生きとしてる。まあ鈴木はララに負けたんだけどな。アイツ好きな子を傷つけるなんてできないってさ、無抵抗でずっとサンドバッグになってたんだ。


 最初舐めんなってぶち切れてたララも、その姿に心打たれたらしい。男だよな。あんなに頼りなかった奴らが変われば変わるもんだ。


 俺も変わっちまった。魔王と呼ばれるくらいに……


 俺は権力者になり、必要なこととはいえ領民を徴兵して結局はあの屑どもと同じ事をしている。別に俺たちがダンジョンに無理やり入れられた事に無関心でいたからと報復をしてるわけじゃない。そうしなければならない理由はちゃんとある。でもそれでもやってることは奴らと同じだ。どんなに万全の研修をしても、十分な装備を貸与しても、無理やりダンジョンで戦わせていることは同じだ。


 俺は、あんなに憎んだ奴らと同じ人間なんだ。


 はぁ……駄目だな、ここに来るといつもネガティブなことを考えちまう。仕方ないことなんだって納得してるつもりなんだけどな。


「会いたいなぁ馬場さん……あの時みたいにいつまでも悩むなって叱ってくれよ……浜田も阿久津さんが決めたことなら間違いないですって俺をヨイショしてくれよ……寂しいんだ……俺も会いたいんだよみんなに……」


 俺は手に持ったコップの酒を飲み干し、地に頭をつけながら静かに泣いていた。


 みんなと一緒に戦っていた日々が、夜の宿舎で必ず生きてあそこから出て復讐をしようと誓い合ったあの日が懐かしいよ。


 しばらくそうしていた俺は、ふと一つの可能性が思い浮かんだ。


 そしてその場で立ち上がり、空間収納の腕輪から聖剣を取り出した。


 わかっている。肉体と魂がなければできないってことは……でも、もしかしたらダンジョンに吸収された魂や遺体がどこかにあるかもしれない。


 そんな話は聞いたことは無い。でも、ダンジョンには未だ謎が多い。なら可能性はゼロじゃない。


 俺はそう考えて馬場さんと浜田を想い、死者蘇生のスキルを発動した。



『死者蘇生』



 スキルを発動した瞬間、大量の魔力が俺の身体から抜けていった。


 俺はまさか本当に? と、期待をした。


 が、しかし目の前に魔法陣は現れなかった。


「やっぱ駄目か……そりゃそうだよな。わかっていた……わかっていたけど……」


 俺はスキルが失敗したことに、わかっていた事とはいえ肩を落とした。


 だがその時。


 胸から白い半透明の玉が二つ現れ、ゆらゆらと漂いながら2mほど先で止まった。


「え? 」


 俺が突然の出来事に何が起こっているのかわからず混乱していると、その白い玉は徐々に大きくなり人の形に変化していった。


 その人型の身体はボロボロの服の上に見覚えのあるプロテクターを付けており、その顔は俺がずっと会いたかった人そっくりで……


「ば、馬場さん……に浜田? 」


 《やっぱり阿久津だったか》


 《阿久津さん! やっぱりあの声は阿久津さんだったんだ! 》


「あ……ああ……ばばざん……はまだ……」 


 俺は頭の中に直接語りかけてきた声に、溢れ出る涙を拭うことなく声にならない声で二人の友人の名を呼んだ。


 《阿久津……俺たちとの約束を守るために苦労させたな》


 《阿久津さん。ずっと聞こえてましたよ。阿久津さんが約束を守って復讐をしてくれたこと。誰かを守るために戦っていた心の声が》


「ばばざん……はまだ……あいだがった……ずっとあいだがっだんだ……」


 俺はその場で膝をつき、ぐちゃぐちゃになった顔で二人の姿を見上げずっと会いたかったんだと伝えた。


 《俺もだ阿久津。まさか出てこれるとは思わなかった。こうして話せるともな》


 《阿久津さん。僕たちは阿久津さんの魂の中でずっと心配してたんですよ》


「え? 魂……? 俺の中にずっといた? 」


 俺は二人が何を言っているのかわからなかった。確かにさっき俺の身体から出てきた白い玉が二人の姿になったし、浜田がずっと俺の声が聞こえていたと言っていた。


 でも馬場さんたちの魂はダンジョンに吸収されたはずだ。それがなんで俺の中に? 


 《ああそうだ。ヴェロキラプトルに殺されたあと、最初は酷くドス黒い物の中にいた。俺はそれに耐えきれず意識を閉じた。でもある時突然そこから解放され、温かい場所に移ったんだ》


 《僕も同じです。最初いた場所には僕以外の存在はいなかったんですけど、次の場所には僕と同じ懐かしい人たちの存在も感じられて、すごく居心地が良かったんです》


 《そして俺たちを何度も呼ぶ声が聞こえてきた。その声に俺は目を覚ました》


 《馬場さんや僕の名前を呼ぶ声を聞いて、僕は阿久津さんじゃないかと思ったんです。阿久津さんが僕たちをあの嫌な場所から救い出してくれたんだって》


「嫌な場所? そこから俺の中に? 」


 ど、どういうことだ? もしかしてダンジョンを攻略した時に、みんなの囚われていた魂が解放された? でも浜田の話だと最初は別々の場所にいたって……


 あっ! まさか最初にいたのはヴェロキラプトルの魂の中か!? それをあの時。ティナたちと別れたあと、このダンジョンを出る前に俺が全滅させたあの時。馬場さんたちを殺したヴェロキラプトルを俺が殺していた? その時にヴェロキラプトルの魂の一部と一緒に俺に吸収されたのか? まさかそんなことが……でもそれしか考えられない。


 本来なら同じ人族の馬場さんたちの魂が、俺の中にあるわけがないんだ。でも、間に魔物を介したらそれは可能なのかもしれない。


 でもまさか俺の中から魂から出てくなんて……あっ、そういえばカーラを蘇生した時にも、身体から魔力以外の何かが抜けていく感覚があった……ということはアレはもしかして彼女の魂だったということか? 


 あの時、ダンジョンで彼女を殺した時に魂の一部が俺の中に入ってきた。だから俺はランクアップした。つまり死者蘇生をした際に、その魂が出て行ってカーラの身体に戻ったってことなのか? それが本当なら俺のランクは下がってるはず……


 俺はこの仮説が正しいのかすぐに自分を鑑定して確認した。


 するとSSS-になっていた体力と器用さはSS+に、SSSになっていた魔力はSSS-になっていた。


 間違いない。蘇生したい者の魂がこの世に無かった場合は、その魂の一部を持っている者から分離されるんだ。


 馬場さんたちが幽霊の状態なのは、恐らく入る肉体が無いからだろう。だから魔法陣も現れなかったということか。


 残念だ……けど今はそれでもいい。ずっと会いたかった二人に会えたんだから。



 《そうだ。目覚めてからはずっと感じていたぞお前の戦いと苦悩を……》


 《阿久津さんの感情が高ぶる時に声が聞こえてくるんです。復讐を成し遂げた時も聞こえてきました。僕たちの復讐をしたぞって。そして誰かを傷つけられて、ものすごく怒っている時の声も》


「そうだった……のか……届いていたんだ……みんなに……」


 届いていたんだ……心の中で馬場さんたちに伝えていたことが……


 なんだ……いたんだ……馬場さんたちはずっと俺の中に……


 《ははは、あの負けん気の強かった阿久津がずいぶん泣き虫になったな》


 《僕たちは泣くことができないから羨ましいです》


「ぐすっ……だってよ……もう会えないかと……あの時俺が弱かったからみんなを死なせたって……あの時もっと力があればって………」


 《馬鹿なことを考えてるな。俺たちは弱かった。だから死んだ。でもお前は強かった。最後まで生きることを諦めなかった。だから生き残り、俺たちとの約束を果たしてくれた。俺はそれが嬉しいんだ。お前が生きていてくれたことも、仲間のために戦ってくれたことも》


「馬場さん……俺……強くなんかないです……俺、いつも悩んでばかりで……本当にこれでいいのかって、ほかにもっといい方法があるんじゃないかって……このままじゃ俺たちをダンジョンに放り込んだ奴らと一緒なんじゃないかって……自分がされて嫌だったことをしている自分が嫌で……》


 《阿久津……外の世界で何が起こっているのかは知らない。だがお前が常に悩んで、俺たちに助けを求めていたのは知っている。そんなお前を俺と浜田だけではなく、同じパーティだった仁科や和田もずっと励ましていたんだぞ。もっと自分に自信を持てとな》


 《そうです。僕たちずっとめげずに頑張ってくださいって応援してたんですよ? あの時招集されたニートたちや、僕たちを守るために命を失った自衛官の人たちとずっと》


「みんなが……そうだったのか……」


 悩んでいる時。俺はいつもここに来ていた。その時に不思議と力が湧いていたのを覚えてる。


 そうか、みんなが応援していてくれてたんだ。駄目な俺を叱咤しったしてくれてたんだ……


 《優しいお前があれほど悩んで出した結論だ。それが悪いことのはずがないだろ。もっと自分の判断に自信を持て》


 《そうですよ阿久津さん! いつも仲間のことを想っていた阿久津さんが、あんな奴らと同じなわけないじゃないですか! 》


「馬場さん、浜田……ありがとう」


 不思議だ。二人に言われると力が湧いてくる。俺の判断は間違いじゃないって、これでよかったんだって自信を持てる。


 《む? ……阿久津、どうやら時間切れのようだ。身体がお前の中へ戻ろうとしている》


 《あ、阿久津さん! ずっと見ていますから! ずっと応援していますから! だからもう僕たちのことで悩まないでください! それだけがいいたくて! 》


「え? 戻るってそんな……も、もっといてくれよ! まだまだ色々話したいことがいっぱいあるんだ! だから行かないでくれよ! 」


 なんだよ! ずっと幽霊のままじゃないのかよ! まだ15分くらいしか話してないのに……


 《大丈夫だ。また会えるさ》


 《きっとまた会えますよ阿久津さん……》


「あ、待ってく……」


 俺は笑顔で元の白い玉に戻ろうとする二人を掴もうとした。しかし俺の手は二人の身体をすり抜け、その間に白い玉に戻った二人は俺の中へと戻っていった。


「ううっ……まだ話したいことがあったのに……そ、そうだ! もう一度! 『死者蘇生』! 」


 俺はもう一度死者蘇生をすれば会えると思い、スキルを発動しようとした。


 しかし今度は魔力すら抜けていくことはなく、完全な不発に終わった。


 まさか一回だけの奇跡だったのか? そんな……


「馬場さん……浜田……みんな……」


 俺は地面に両手をつきしばらく項垂れていた。


 ああ……駄目だ……こんなメソメソしていたら、俺の中にいるみんなにまた心配を掛けてしまう。


 俺は涙を拭い立ち上がり深呼吸をした後に左手を胸にあて、右手に持つ聖剣を突き出した。


「馬場さん、浜田。ありがとう。俺は前に進むよ。だから見ていてくれ。阿久津光の生き様を! 俺たちニートを見捨てた奴らへの逆襲を! 」


 俺はそう宣言し、馬場さんたちがいた場所に背を向け広場を後にした。




 俺はあの法案に関わった者たちに、俺たちと同じ地獄を味合わせることで復讐を果たした。


 それで心が晴れると思っていた。


 でも俺の心はずっと晴れなかった。


 強くなる度に、強力なスキルを覚える度に俺はあの時この力があればとずっと悔やんでいた。


 そんなこと考えても仕方ないのはわかってる。あの時は弱かった。だからみんなを死なせたんだということもわかってる。


 でもいつも考えてしまうんだ。それだけ大切な仲間だったんだ。


 でもそれは間違ってた。俺のこの力は、みんなの魂から作られているんだって事を二人に教えてもらった。俺は仲間たちとずっと一緒に戦ってきたんだって事を知ることができた。


 だったらもう悔やんだりしない。だって俺の中にはみんながいるのだから。


 これからもずっと一緒に戦っていくのだから。




※※※※※※※※※※




筆者より。


次話はエピローグになります。長い章になりましたが、お付き合いありがとうございました。

4章は少し間を置き連載開始する予定です。新作の執筆の都合上、4章からはしばらく週一更新になります。毎週土曜日を予定しています。


引き続きお付き合い頂ければ幸いです。

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