第50話 加護

 



「さて……」


 俺はロンドメルの胸に刺した聖剣を抜き、艦橋の隅で固まっている飛空要塞のクルーたちに視線を向けた。


「「「「「ヒッ!? 」」」」」


「オイ、そこの偉そうな奴。お前らのその軍服は皇軍の物だろ? 」


 俺は震えながらこちらを見ている、高級士官ぽい赤髪の中年男に話しかけた。


「そ、そうだ……」


「皇帝を守るためにいるお前らがその皇帝を守れず、あまつさえ皇帝を殺した男の軍門にくだるとか生きてて恥ずかしくねえのか? 」


「た、戦うこともできないまま帝都と基地を制圧され、あっという間に陛下を討たれてしまった。我々が生き延びるためにはこうするしか……」


「ああ、悪い悪い。お前らってそうだったよな。特に貴族は。まあいいや『魂縛』 」


 俺は目の前の男とその周囲にいる者たちにスキルを放った。


 魔人に忠義とか名誉とか聞くだけ無駄だったわ。


「「「ヒッ!? あぐぅっ……」」」


「ここにいるお前ら全員俺に隷属してもらう。逃げようとする者は殺す。お前らも見てただろ? 俺が魔導砲の魔力を一瞬で消し去るのを。当然お前らの体内にある魔石の魔力も消すことができる。ここにいる全員を一瞬でな」


「「「あ、悪魔……」」」


「そうだな。お前らと一緒だな。『魂縛』 」


 俺はそう言って次々とクルーたちを隷属させていった。途中錯乱して逃げようとした者が数名いたが、容赦なく魔石の魔力を奪った。そんな彼らが一瞬で命を失うのを目の当たりにしたほかの者たちは、おとなしく隷属されていった。


 それでわかったことなんだけど、このスキルは相手が抵抗をしないとあっという間に成功する。そのおかげで100人近くいたのに、オズボードの配下の者たちを隷属させた時より早く終わらせることができた。


 下っ端の兵士は命令に従うしかなかったんだろうけど、俺のこの凶悪なスキルを見られてるからな。これ以上俺の評判を落とさないよう隷属してもらう。これでも女の子に怯えた目で、悪魔とか言われるのは地味に傷付いてんだよ。


「これで全部か。命令だ。この艦は阿久津男爵軍の指揮下に入れ。俺からの通信を無視することを禁じる。このスキルのことを他言することを禁じる。逆らってもいいぞ? ロンドメルたちみたいになりたかったらな」


 全員を隷属させたあと、胸を押さえている男女のクルーたちへ立て続けに命令をした。


「「「「「は、はひっ! 」」」」」


 彼らは全員が直立不動の姿勢となり、俺の命令を素直に受け入れた。


「よし、なら艦長は誰だ? 」


「ハ、ハッ! 」


「お前だったのか。ロンドメルが俺に討たれたことはしばらく伏せておけ。派閥の者たちには何があろうと動くなとロンドメルの名で命令を出しておけ」


 俺は一番最初に話した赤髪の男に、ロンドメルはまだ生きていることにするように命令した。


 理由はマルスが加護を受け次の皇帝になる権利を得た時に、ロンドメルはマルスによって倒されたことにするためだ。その方が帝国の混乱も早く収まるだろうしな。次の皇帝が決まってない状態で俺が倒したとか公表したら、残されたロンドメルの一族のやつが派閥の軍をまとめそうだし。まあロンドメルが明日には加護を得られるとか言ってたから、一日くらいなら騙せるだろう。


「しょ、承知いたしました」


「帝都外に魔導通信ができないように、妨害魔導波を出しておけ。もう帝都にうちの軍が攻め入ってる頃だしな。それにともない今からこの艦は帝都上空に移動し、南門を破壊してうちの軍を掩護しろ。その後は帝都に向かってくる飛空艦を撃ち落とせ」


「ほ、本艦のみでですか? 」


「あの超魔導砲とかなら余裕だろ。それに俺もいる。周辺の基地にいる飛空艦隊は俺が無力化しておくしな」


 飛空戦艦の射程外から撃てるんだ。大艦隊でもやってこない限りは撃退できるはず。それにロンドメルは無駄だと思ったのか、ほかの飛空艦隊を飛ばしてないからな。今のうちに無力化しておけばしばらくは大丈夫だ。


「しょ、承知しました」


「それでマルスとハマールはどこにいる? この艦には魔力を感じなかったが? 」


「マルス公爵とハマール公爵は帝都におります。マルス公爵は帝城地下牢に。ハマール公爵は帝城に隣接している尖塔の最上階に軟禁されています」


「そうか。なら俺は二人を助けに行ってくる。この艦はすぐに帝都に引き返せ。ほかの艦内にいる兵たちもそろそろ動けるようになるはずだ」


「ハッ! 」


 俺は艦長の返事に頷き、ロンドメルと魔将たちの遺体と装備を空間収納の腕輪に回収した。そして入ってきた窓から飛空要塞の外へと飛び立った。


 探知には、帝都の東門付近で多くの魔力が固まっている様子が映し出されている。帝都側の魔力がかなりの勢いで減っていることから、どうやらうちの軍が攻城戦を始めたようだ。これなら飛空要塞が南門を破壊すればあっという間に決着がつくだろう。ここに来る前に城壁の魔導砲も砲手も、全て無力化しているしな。


 俺は帝都に向かいながら荒川さんとリズとシーナに連絡を入れ、ロンドメルを討ったからマルスとハマールを助けに帝城に先に行っていると伝えた。その際に南門を指揮下に置いた飛空要塞で破壊するから、そこから侵入するようにとも。


 リズはさすがあたしのカレシだぜって興奮してたな。シーナはどうやって飛空要塞を指揮下に置いたんです? って言いながら興奮してた。俺は捕らえられていた艦長を解放したとか適当なことを言ってごまかしたけど。


 それから帝都に着き、帝城の隣に立っている尖塔へと向かった。


 しかし妙なことにその尖塔からハマールの魔力を感じなかった。


「なんでだ? 偽情報だったとかか? 」


 いや、魂を縛られてるのに嘘をつくのは無理だ。でも現に尖塔にハマールの魔力は感じない。帝城にもマルスの魔力を感じない。マルスはともかく、俺がハマールの魔力を感じないなんてあり得ない。ハマールが島にいる時は、いつ現れるかビクビクしながら常に警戒してたんだ。あいつシーナが俺にされてることを羨ましがってさ、鎖とロープを持って追いかけてくるんだもん。半裸で。


 そんなハマールの魔力を俺が感知できないなんてあり得ない。


 まさか手遅れだったか?


 俺はハマールが殺されたのではないかと考え、一気に速度を上げ尖塔へと近づいた。すると尖塔の窓から両手を口もとにあててこっちを見ているハマールを見つけた。


「ハマール! 」


 俺はハマールが生きていたことにホッとしつつ、聖剣を取り出し尖塔の窓を斬り室内へと入った。


「騎士様! 」


「わ、悪い。助けに来るのが遅くなった」


 俺は頬を赤く染め、目に涙を浮かべ騎士様とか言っているハマールに戸惑いながらも、助けに来るのが遅れたことを詫びた。


「ああ……来て……くれた……アクツ様が……私の騎士様が……うえぇぇぇぇん……アクツ様! アクツ様ぁぁ! 」


「え? お、おい……」


 俺はまるで少女のように、泣きながら胸に飛び込んできたハマールにびっくりしていた。


 てっきり鼻息を荒くして嬉々として抱きついてくると思っていた。そして服を脱ぎ、全裸になってそこのベッドで犯してくださいと言うまでがいつものワンセットだ。


 ところがだ。彼女はシーツで身体を隠したまま、俺の胸の中で泣いている。あのハマールが泣いてるところなんて初めて見た。


 なんだ? この子は本当にあのハマールなのか? 


「うっ……ううっ……アクツ様……」


「ど、どうしたんだ? 何か酷いことされたのか? ロンドメルは俺が殺したからもう安心していい。もう大丈夫だから」


 俺はこれは相当酷いことをされたんだなと察し、ハマールを抱きしめながら優しく背中を撫でた。


 ベッドも乱れてるしハマールも下着姿だ。ロンドメルの野郎……もっと苦しませてから殺せばよかった。


「ぐすっ……何もされてません。危なかったところにアクツ様が来てくれました。私はあの男に汚されてませんから」


「そうか、間に合ってよかった。それにしてもなんで魔力が無いんだ? 」


 俺はハマールの言葉に頷き、なぜ魔力が無いのかを聞いた。


 今のハマールの魔力は帝国の庶民レベルだ。これじゃあ遠くからじゃ判別はできなかったわけだ。しかし俺のスキルを受けたわけでもないのに、なぜ魔力がここまで無くなってんだ?


「ぐすっ……この吸魔の手枷のせいです。魔力を吸収して放出する魔道具なんです」


「そんなのがあるのか。ちょっと待っててくれ」


 俺はそんな便利な魔道具があるのかと驚きながら、ロンドメルが持っていたマジックポーチを取り出した。そしてポーチに手を入れ、手枷の鍵と念じると手に鍵らしき物の感触があった。


 俺はそれを取り出し、ハマールが嵌めている手枷の鍵穴に差した。するとガチャっという音と共に手枷が外れた。


「あ……外れた……アクツ様ぁぁぁ! 」


「お〜よしよし。いま俺の魔力をやるからな。『譲渡』 」


 俺は手枷が外れ今度は両腕を背中に回し抱きついてくるハマールに、滅魔のスキルの譲渡だけを意識して魔力を渡した。


「魔力が……ありがとうございますアクツ様。あっ、私ったらこんな格好で……」


「え? あ、悪い。え〜と……あった。これハマールのマジックポーチだろ? 後ろを向いてるから着替えてくれ」


 俺はハマールが自分が下着姿であることに気付き、シーツで身体を隠す姿に一瞬驚きつつも背を向けた。そしてロンドメルのマジックポーチに入っていた、ハマールのポーチを取り出し彼女に渡した。


 ハマールはありがとうございますと言ってそれを受け取り、俺の後ろで着替え始めた。


 あのハマールが下着姿ごときで恥ずかしがってるだと? 本当にどうしたっていうんだ?


 俺は混乱しつつもハマールが着替え終わるのを待った。そしてもう大丈夫ですというハマールの声に振り向くと、そこにはいつもの赤いチャイナドレスを着たハマールが銀扇を手に立っていた。


「アクツ様。取り乱してしまい申し訳ありませんでした。もう大丈夫です」


「あ、ああ……それより首輪はもういいのか? 」


 俺はハマールが嵌めていた首輪が外れていることが気になり確認した。


「あれはロンドメルに嵌められた首輪ですので」


「そうだったのか」


 魔力を抜いて首輪まで着けるとか鬼畜だな。


 あ、俺がハマールにいつもやってることだったわ。


 しかしまた嵌めてくださいと言われると思ったけど言わないな。本当にどうしたってんだ?


 でもこのハマールの方がいいな。なんというか新鮮だ。


「アクツ様、ご命令を。ハマール公爵家はアクツ様に従います」


「ああ、とりあえず今は帝都をうちの軍が攻めているから、ハマールはマルスを救出して帝城を掌握してくれ。そのあとマルスが加護を得たタイミングで、世界中にロンドメルを討ったことを知らせる」


「はい。皆殺しにしてあげますわ」


「ロンドメルのマジックポーチと手枷の鍵と吸魔の短剣も渡しておく。あと魔石も。好きなだけ暴れろ。俺は皇軍と帝都防衛軍の基地を無力化したらまた戻ってくる。それじゃあまたあとでな」


 俺はハマールにそう言って背を向け、外に出て飛び立とうとした。


「はい。あ、アクツ様」


「ん? なにかあ……」


 しかしハマールに呼び止められ振り向くと、ハマールが俺の胸に飛び込んできてキスをしてきた。


 それは今までお仕置きの過程で求められた狂気混じりのキスではなく、まるで初めてのキスのような優しいキスだった。


「で、では私は帝城に行ってきます! 」


 ほんの数秒唇を合わせたあと、ハマールは顔を真っ赤にしてうつむきながら出口へと駆けて行った。


「ほんとにどうしちまったってんだよ……」


 俺はいつもと違うハマールのしおらしい態度に、高鳴る鼓動を感じながら彼女の背中を見送っていた。




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




 《帝都を守るロンドメル軍を撃破! 残敵掃討に入ります! 》


「一兵たりとも逃さないようにしてください。降伏は受け入れず、男は皆殺しにしてください」


 《はっ! 》


「あとニート連隊に周辺の基地の制圧をするように言ってください。飛空艦と兵は無力化してありますから連隊だけで大丈夫です。荒川さんは帝都でそのまま指揮をお願いします」


 《了解しました。至急進軍させます》


 《コウ! 後から合流した義勇兵が略奪しようとしてたからぶっ飛ばしておいたぜ! 》


「四肢を切断して帝都の広場に吊るしてくれ。グリードにしっかり統率しろとも伝えておいてくれ」


 《わかった! 》


「弥七、帝都から逃げ出す兵を狩れ! 」


 《御意! 》



 俺は皇軍と帝都防衛軍の基地を制圧し終えたあと、帝都に向かいながら各部隊へ指示をしていた。


 帝都の制圧は予定通りだな。帝城はハマールとマルスが制圧したみたいだし、あとは時間の問題だな。


 しかしマルスが生きていて良かったよ。オリビアに速攻で念話を送ったら泣いて喜んでたもんな。ホッとした。


 でも領地にいるメレスには、魔帝が死んだことをまだ言えないでいるんだよな……


 あ〜すげー言い難いわ。助け出すって約束しちゃったしなぁ。悲しむだろうな……メレスの泣き顔なんて見たくないな……


 俺は憂鬱な気持ちになりながら、マルスと今後のことを相談するために帝城へと降り立った。


 帝城の前には捕らえられていた兵や貴族なんだろう。マルスとハマールの前で、2千ほどの帝都防衛軍の軍服を着た兵たちが整列していた。中にはハマールの女騎士たちもいるようだ。みんな無事みたいでよかった。なんだかんだとハマールのことで仲良くなったしな。全員がハマールの情婦らしく、なんの期待もできないけど。


「マルス! 」


「アクツ殿! 」


 俺が帝城の前に降り立つと、兵士に指示をしていたマルスが俺に気付き駆け寄ってきた。


「無事でよかったよ」


「陛下をお守りできなかったというのに、生き恥を晒しているよ」


「済んだことを悔やんでも仕方ないだろ。ロンドメルは俺が殺した。マルスは帝国の未来のことを考えるべきだ」


 魔帝を守れなかった罰はお前が皇帝になって償えばいい。俺が後ろ盾になるから頑張れ。俺と恋人たちの平和のために。


「……そうだな。アクツ殿。助けてくれたことに感謝する。妻たちも保護をしてくれていると聞いた。大きな借りを作ってしまったな」


「オリビアの悲しむ顔を見たくなかっただけだ。それにマルスにはこれからやってもらいたいことが山ほどあるからな」


 魔帝がいない以上、帝国をまとめられるのはマルスだけだ。とっとと貴族たちを掌握して、地球の元国家の反乱を鎮圧してもらわないとな。頼むぞマルス、俺の幸せのために。


「ああ、デルミナ神様の裁定に従うまでだ。加護を得る者が現れてからではないと、帝国の混乱を収めるのは難しいだろう」


「明日にはその加護ってのが得られるんだろ? どうやってわかるんだ? 」


「加護は胸の中央に紋章として現れる。それは魔力を通すことで天空に映し出されるから誰でも確認することができる」


「へぇ〜本当に神の加護っぽいな」


 胸に紋章とかなんかカッコいいな。封印していた厨二心が刺激されるわ。でも魔神の加護なら呪いか。だから魔帝はボケてたんだな。


「陛下の胸に描かれているのを見たことがある。加護を得れば魔力もあがる。間違いなく神のご加護だ」


「ああ、だから魔帝は魔力が多かったのか。呪いだけじゃないんだな」


 なんか魔力値だけSSS-だとか言ってた気がする。それだけは俺に勝ってるとか自慢してたしな。そんなもん俺には関係ないってのにな。というか今はもう追いついたし。本当に負けず嫌いな奴だったな……


「魔帝の亡骸は? 」


 俺は帝都も掌握間近だし、手でも合わせてやろうと思い魔帝の亡骸があるのか確認した。


「……宰相と十二神将と共に地下の霊安室に安置されている」


「やっぱ宰相もか……」


 リリアも悲しむだろうな……


 俺はさらに憂鬱になりつつも遠くから俺を見ていたハマールにも声を掛け、二人に案内されながら帝城の地下へと向かった。



 そして案内された部屋に入るとそこは壁一面に氷が張り巡らされており、正面には白地に赤い不死鳥のような鳥。デルミナ神の使いである、ヴァリスが描かれている大きな旗が壁に掲揚されていた。


 そしてその旗の下の階段を5段ほど上がった場所に、金の棺と黒い棺が並べられていた。棺の蓋は開かれている。遺体をよく冷やすためだろう。


 俺はマルスとハマールと共にゆっくりと階段を上り、金の棺の前に立った。


「魔帝……ははっ、本当に死んでやがったよ……魔人化もせずに死ぬとか……往生際の悪いお前らしくねえな……チッ、満足そうな顔しやがって……馬鹿……ヤロウ……が……メレスを……どうすんだよ……連れて帰るって約束しちまったってのに……伝える俺の身にもなれよな……」


 魔帝は本当に死んでいた……そして顔は笑っていた。その顔はまるでしてやったりといった顔で、なんの未練もなく死んだようだった。


「アクツ殿……陛下のために泣いて……陛下……申し訳ございません……陛下……」


「アルディス姉さん……ごめんなさい……」


「ばっか、魔帝のために泣くなんてあり得ねえから。隣で眠ってる宰相がいなくなって寂しいんだよ。あ〜リリアになんて言おう……憂鬱だわぁ」


「そうか……アクツ殿らしいな」


「さて、手でも合わしてやるか。魔帝、迷わず成仏してくれ。でっかい墓を建ててやるからよ。今頃は魔界でこれまでの罪を償うために苦しんでるんだろうけど、メレスは俺が幸せにするから。子供ができたら墓参りに行くからさ。その時以外は行かねえけど、ちゃんと何万年かけても罪を償うんだぞ」


 俺は魔帝に手を合わせながらそう冥福を祈った。


 そしてマルスと今後の話をするために魔帝の棺から離れた。


「マルス。今後のことなんだけどさ、お前以外が加護を受けたら俺が殺すから、世界中を監視して加護を受ける奴を見逃さないよう……って、熱ちぃ! 熱い熱い熱い! 」


 俺が階段を降りながらマルスに話していると、突然腰の部分に焼けるような熱さを感じた。そしてそれは徐々に範囲を広げ、尻の割れ目部分にまで広がっていた。


 あまりの熱さにたまらなくなった俺は、急いで革鎧とズボンを脱ぎシャツをまくり上げ、パンツをズラして俺の背中で何が起こっているのかを確認した。


「な、なんだこれ? 赤い……鳥? 」


 そこには俺の腰から尻の割れ目部分にかけて赤い鳥が描かれていた。


「なっ!? こ、これは……まさか……人族に……こんなことが……」


「うそ……アクツ様が……」


「お、おい……なんだよこれ……なんでこんなもんが俺の腰に!? 」


 俺が半ケツ状態のまま混乱していると、突然腰にあった燃えるような熱が収まった。すると今度は赤い鳥が光りだし、霊安室の天井を赤く照らした。


「うおっ! 光った! 」


 俺は突然腰というか尻から出た光の先が気になり、天井の方に視線を向けるとそこには赤い鳥の姿が映し出されていた。その鳥は棺のところにある皇家の旗と瓜二つで……


「え? 赤い不死鳥? こ、これってまさか……」


「か、加護だ……信じられないことだが、アクツ殿はデルミナ神様のご加護を得たのだ……我ら魔人の皇帝になることが認められたのだ」


「アクツ様が皇帝……私の騎士様が……ああ……なんてことなの……こんなことって……」


「え……ええぇぇぇぇぇぇぇ!? 」


 俺はマルスとハマールの言葉に、霊安室中に響くほどの叫び声を上げた。


 お、俺の尻に魔神の加護? 俺が皇帝? 嘘だろ……




 拝啓


 馬場さん、浜田


 ただのニートだった俺が、魔人の国の皇帝になっちゃったよ。





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