第36話 悲報

 



 シーナが離脱のスキルを発動し光に包まれ一瞬の浮遊感を覚えると、俺たちはダンジョンの入口から10mほど離れた場所に立っていた。


 斜め後方にはダンジョンの入口が見える。しかし俺はそれに違和感を覚えた。


「マルスのとこの警備兵がいない? 」


「周りに魔力反応が全くないですぅ」


「ダミーの小型飛空挺もないわ」


「……とにかく領地に戻ろう」


 古代ダンジョンは帝国にとって重要なダンジョンだ。帝国人の冒険者だって勝手に入ることはできない。その警備を放棄するなんて、よほどのことがあったということだろう。やっぱりロンドメルの反乱ぽいな。


 俺と同じことを考えたのだろう。心配そうな表情をしているオリビアを横目に、俺はゲートキーを取り出した。そして共鳴の鈴を鳴らした際の集合場所である、デビルキャッスルの東塔の4階の司令室へとゲートを繋ぎ皆を潜らせた。




「アクツ様! 」


「主君! 」


「ボス! 」


「ずいぶんな厳戒態勢だな。何があった? 」


 ゲートを潜るとそこは艦橋の入口で、奥には男爵軍副司令官のフォースターとヤンヘル。そして艦長のイーナと30名の女性クルーがいて、金色のゲートから現れた俺たちに全員が顔を向けていた。

 俺はそんな彼らと、艦橋の中心にある戦術モニターに全艦隊が鹿児島の南端に表示されているのを見て、フォースターに何があったのか問いかけた。


「はっ! ご報告申し上げます! 本日、日本時間午前2時。帝都時間午前1時頃。ロンドメル艦隊により帝都が奇襲攻撃を受け陥落いたしました! 」


「はあぁ!? 奇襲? 陥落? あり得ないだろそんなの! 」


 俺はまったく予想していなかった展開に混乱した。


「嘘だろ!? 帝都にゃ皇軍も帝都防衛軍もいるんだぜ? いくら奇襲だからってそんな簡単に壊滅するわけねーだろ」


「そうですぅ! リズさんのいう通りですぅ! 帝都が陥落するなんて、そんなはずないですぅ」


「信じられないわ……でもフォースターさんが嘘をつくはずはないし、そうなると本当に帝都が……」


「まさか……そんな……陛下が……」


「残念ながら事実です。現在入手した情報では、ロンドメル公爵は帝都とマルス公爵及びハマール公爵ほか、派閥の伯爵以上の貴族の軍基地。そしてチキュウのマルス公爵が管理する、欧州駐留軍基地を同時に奇襲し陥落させました」


「マルスもハマールもかよ! しかも同時に!? 」


 どうなってんだよ! 公爵二家と帝都だぞ? それをたかが公爵一家で? とてもじゃないが信じられない。


「はい。その証拠にこちらをご覧ください。30分ほど前に帝国魔導テレビと魔導ラジオにて放送された映像です」


 フォースターは目を見開き驚く俺たちにそう言って戦術モニターを見るように促した。


 するとそこには帝都が映し出され、その上空には100隻以上の飛空艦が陣形を組んで滞空していた。そして帝都防衛軍なのだろう。多くの兵が倒れている帝城の入口が映されたあと、謁見の間らしき場所が映された。


 そこには見覚えのある玉座があり、40代くらいの赤髪の男がその玉座に足を組み偉そうに座っていた。その男の右隣には60代くらいの少し燻んだ赤髪の初老の男が立っており、左隣りには黒い鎧の6人の騎士に挟まれたマルスとハマールが立っていた。二人は両腕を縛られ隷属の首輪を嵌められ、玉座に座る男を睨みつけている。


「なっ!? ロンドメル!? 」


 俺は玉座に座る男が、貴族名鑑やニュースでよく見掛けるロンドメル公爵であることがすぐにわかった。


 恐らく隣にいるのは腹心のカストロ侯爵だろう。玉座の背後には金縁の白い旗が天井から吊り下げられており、そこにはフェニックスに似た赤い鳥。確かデルミナ神の使いで『ヴァリス』という名の鳥だったと思う。そのヴァリスが刺繍されていた。周囲には戦闘の後とも思える焼かれた絨毯やえぐれた床や血の跡が見える。


 俺の知る謁見の間とは違うが、確か前に魔帝がゲートキー対策で他の階に移転したと言っていたな。元々の部屋はゲートが展開できないように潰したとも。つまりモニターに映っている部屋は新しい謁見の間なのだろう。


 つまり帝城は完全に制圧され、あの殺しても死なないような魔帝が本当に負けちまったってことか。


 ふざけんなよクソ魔帝! 飛空要塞をさんざん自慢して余裕かましておいて、あっさり負けてんじゃねえよ! クソッ! クソッ!


「マジかよ……」


「ふえぇ……」


「まさか陛下が負けるなんて……」


「陛下……お父様……」


 俺が拳を握りしめ怒りに震えティナたちがショックを受けていると、ロンドメルはカメラに向かって話し出した。


 《神の子である帝国の臣民よ。私はロンドメル公爵だ。今日私は神の子であるテルミナ人と下等種のエルフと獣人を同等に扱い、さらにはエルフとの間に子を作り神の血を穢し、我らが神であるデルミナ様を裏切った皇帝ゼオルム・テルミナを討った。それにより現在帝国はデルミナ神様の加護を失っている状態だ。だが安心するがいい。数日のうちに新たに私が加護を得て皇帝になるだろう。その時に私は神の子である帝国民に誓うだろう。エルフと獣人。そしてチキュウの人族ら下等種共を奴隷にし、神の子であるテルミナ人の威厳を取り戻すことを! 》


「私たちを再び奴隷にするですって! 」


「コイツばっかじゃねえの? そんなのあたしのカレシが許すわけねーじゃん」


「ですです! 身のほど知らずですぅ! 」


「ロンドメルの野郎……」


 帝国の内戦だろうが皇帝が誰になろうが知ったことじゃない。そんなに同族で殺し合い、権力が欲しいなら勝手にやればいい。だがテメーがエルフたちをまた奴隷にするってんなら話は別だ。そんなことをしようとする奴を皇帝なんかにさせるわけにはいかない。


 それによくよく考えてみたら帝城が陥落したからといって、あのしぶといクソ魔帝が死んだとは限らない。城の抜け道みたいなので宰相と生き延びている可能性もある。加護を失ったというのは、反ロンドメル勢力を抑えるための嘘かもしれないしな。こうしている今も魔帝を必死に探しているんだろう。


 そうだよ、あの魔帝がそんな簡単にくたばる訳がねえ。あの親バカがメレスを俺に預けたまま死ぬなんてあり得ねえ。ならロンドメルを殺しマルスとハマールを救出して、ヒョッコリ現れた魔帝にお前使えねえって嫌味を言ってやるか。



 それからロンドメルはくだらない理想をペラペラと喋り、歯向かう者は一族郎党皆殺しにすると言って放送を終えた。


「以上です」


「状況はわかった。魔帝が本当に死んだとは思えないが、エルフたちを奴隷にするというのならロンドメルは敵だ。そのうえで聞くがどうやって奇襲したんだ? 魔帝はロンドメルが怪しい動きをしているのがわかっていたはずだ。どうやってそんな大規模な奇襲を成功させたんだ? 」


 欧州に帝都にマルスやハマールの領地まで、気付かれることなく同時に奇襲を成功させ、短時間で壊滅させるなんていくらなんでもおかしい。警戒している兵が怠慢だったとしても、どこかで気付かれるはずだ。気付かれれば艦隊が出撃して激しい艦隊戦になるはず。そうなればよほどの兵力の差が無ければ、短時間で壊滅させることなんて不可能だ。たかが公爵一家で同じ公爵二家と、帝都防衛軍と皇軍を上回る兵力なんて用意できるわけない。ならどうやって壊滅させた?


「はっ! チキュウ各地の貴族及びヤンヘルが放った隠密部隊。そして救助した貴族からの情報によりますと、ロンドメル公爵軍は魔導レーダー及び電波式レーダーに映らない特殊な装備または、装甲を飛空艦隊に取り付けていたと思われます。それにより気付かれないまま近づくことができ、各地に停泊中の艦隊を攻撃したとこことです」


「魔導レーダーに映らないだって? 魔導版ステルス装備ってことか……それにしたって離陸する前に襲撃を受けるほど近づかせることなんて……」


 100隻近く停泊している軍基地を短時間で壊滅させるほどの艦隊だ。ステルスで近づいたのは一隻や二隻じゃないだろう。数十隻はいたはずだ。一番小さい巡洋艦でさえ全長150mはあるんだぞ? その全てをレーダーに映らないからと見逃す? そんなことが可能なのか? 


 ん? いまフォースターは貴族を救助したとか言ってたな。うちに助けを求めに来る貴族……まさか!


「フォースター、救助した貴族とは誰だ? 」


「はっ! マルス公爵のご正室と側室及び臣下の女子供と、ライムーン伯爵の一族です。早朝に帝国本土近くまで警戒に行かせていた戦闘機が、帝国の北と西の二ヶ所で5隻の高速飛空艇がロンドメル軍と思われる戦闘機と巡洋艦に追われているところを発見しました。その高速飛空艦にはマルス公爵家とライムーン伯爵家の紋章があり、警戒中の戦闘機にて牽制させつつアクツ男爵軍であると警告したところ、追跡していた軍は引き返し救助することに成功しました」


「よくやった! お前超有能! 」


「ああ……お母様……よかった」


 俺はフォースターの肩を叩き労った。後ろではオリビアが安堵からか、崩れそうになっていたのをティナとシーナが支えている。


 マルスのことだ。奇襲を受けつつも、家族を逃すために最後まで戦って捕らえられたんだろう。しかし奇襲艦隊の目の前で脱出するのは難易度が高すぎた。フォースターが艦隊を展開して帝国本土近くまで警戒機を飛ばしていなかったら、オリビアの母親も捕らえられていたか撃ち落とされていたかもしれない。フォースターマジ有能。


 それからフォースターにオリビアの一族が桜島の港にある飛空挺発着場近くにいると聞き、俺はここは大丈夫だからとオリビアにエレーナさんのところに行ってあげるように言った。エレーナさんもあの放送を見ていただろうし、マルスのことで憔悴してるだろうからな。


 オリビアは俺にうなずいたあと、司令室を出て小型飛空挺で港へと飛んでいった。


 その後俺は司令室にある会議テーブルに腰掛け、フォースターとヤンヘルから詳しい報告を聞いた。


 それによるとロンドメルの放送があるまで、ずっと帝国本土との通信が繋がらなかったらしい。恐らく遠隔魔導通信基地を制圧されたんだろう。戦争で敵の情報を遮断するのは基本だしな。


 しかし電波を使った通信は帝国本土以外のチキュウ各地の貴族と可能だったようで、ずっと情報収集を行っていたらしい。それでまず日本にいて奇襲を回避していたはずのハマールがなぜロンドメルに捕らえられたのか聞いたら、どうもハマールはアメリカの駐留部隊と連絡が取れなかったそうだ。


 それで業を煮やしたハマールが、シュヴァインの豚に日本を任せて横須賀に駐留しているたった30隻の艦隊を引き連れて帝都に突撃したらしい。まあそれで返り討ちにあって捕らえられたんだろう。


 いくら脳筋のハマールでもこれはおかしい。彼女は自分の命ならともかく、部下の命まで危険に晒す愚はおかさないはずなんだけどな。


 それはハマールがお仕置き後の真面目モードの時に、領地運営の仕方を教えてもらっている俺にはわかる。俺の知るハマールなら、アメリカの駐留部隊と連絡が取れるまで我慢して動かないはずだ。それなのに彼女がなぜ無謀な突撃をしたのか不思議でならない。何かあったんだろうか?


 まあ太ももに俺の名前を刺青してきたりするし、変態だしメールは大量に送ってくるしでドン引きしまくりだけどシーナで慣れてるしな。まだ領地運営で教えて欲しいことがあるし、助けてやらないとな。


 ほかには欧州のマルス軍は壊滅したそうだ。確かあそこにはオリビアの兄がいたんだったな。これは話しにくいな。マルスと同じく捕らえられていてくれればいいが……


 あとは魔帝の一族のローエンシュラム侯爵が裏切り、その派閥の貴族たちも裏切ったそうだ。それによりインドとオーストラリアの駐留軍はロンドメルについたそうだ。魔帝の実家の一族まで裏切るとはな。人徳なさ過ぎだろアイツ。


 ただ、魔帝の孫とひ孫がいる南アメリカの駐留軍は、帝都を解放するために出撃するだろうとフォースターは言っていた。そりゃ黙ってたら粛清されるだろうからな。確かデルミナ神から与えられる加護は血ではなく実力的なことを言っていたけど、万が一がある。ロンドメルの立場からしたら殺しておきたいだろう。


 こりゃすぐにでも魔帝の孫の南アメリカの軍と、ハマールの北アメリカ軍と連携した方がいいな。ロンドメルの派閥の軍を引きつけてくれれば、ロンドメルも俺の領地に手を出す暇はないだろうし。それなら俺の留守中に奇襲される危険を防げる。俺は南北のアメリカ駐留軍がロンドメル軍を引き付けている間に、帝城に単身乗り込んでロンドメルを討てばいい。そうすりゃ隠れている魔帝も出てくんだろ。


 そしたらその時にロンドメルは魔帝が倒したことにしてやるから、メレスとの仲を邪魔しないように……いや同棲を認めさせるよう取引するかな。メレスも露天風呂が気に入ったらしく、悪魔城に住みたいと言ってたしな。魔帝も逃げ回ってて男爵に救われたなんて面子が丸潰れだし、血涙を流しながら乗ってくる可能性はある。うまくいけばリリアも雪華騎士も付いてくるしな。妙案だな。


 あっ! やべっ! そうだよ! メレス! 魔導テレビをメレスが見ていたらヤバイだろ! ダンジョンから出てすぐにあまりにもショッキングなことを聞いてすっかり忘れてた! メレスがあのロンドメルの言葉を信じて、もしも父親が死んだと思ったら間違いなく……


「緊急通信ニャ! メレスロス様の旗艦フェアロスが発艦したニャ! 」


「なんだと! メレスロス様が!? 」


「だあぁぁ! やっぱり! 」


 俺は通信手の言葉にテーブルの上で頭を抱えた。


 メレスは普段はおとなしいけど、父親を殺されて黙って泣いてるような子じゃない。氷のように冷たい殺意をロンドメルに向けているはずだ。


「いけない! メレスのことを忘れてたわ! 」


「あいつマジかよ! 」


「ど、どうするです? 連れ戻しますです? 」


「メレスを止めるのは無理だと思う。恐らく何を言っても聞かないだろう。参ったな……ゲートキーが再使用できるようになったら、魔帝側の貴族と連携して俺一人で乗り込むつもりだったんだけどな。予定は狂ったけど、俺がメレスと一緒に行ってくるよ。みんなはここに残っていてくれ。俺じゃないと追いつけないだろうしね」


 復讐心を持った人間を止めるのは無理だ。それは俺が一番よくわかってる。だから俺はメレスを止める気はない。こうなったら帝都にいる艦隊を全てメレスと沈めて帝城に乗り込んでやるさ。


「そうね。戦闘機で行っても、私たちを巻き込まないように着艦させてくれないかもしれないわね。あの子優しいから」


「まさか単艦で行くなんてよ、無茶しやがって」


「コウさん、メレスさんをお願いしますです」


「ああ、ロンドメルもその派閥の貴族たちも全部潰してくるから。何かあったら念話で知らせてくれ。フォースター、お前はこの艦を離陸させ引き続き指揮を取れ。大丈夫だとは思うが、警戒を怠るな。ヤンヘルにはティナたちの護衛を頼む。イーナ! デビルキャッスルを任せたぞ? みんなを守ってくれ」


「あいよ! このイーナ様に任せときなボス! 」


「御意! 」


「ハッ! 必ずやアクツ男爵領をお守りします! それとこれはライムーン伯爵の奥方様からの情報なのですが、帝都と飛空要塞には超魔導砲という魔導砲とレールガンを組み合わせた新兵器があるそうです。射程は非常に長く、飛空要塞が高高度から放った場合は数百キロ先から狙い撃てるそうです。アクツ様には通用しないものですが、魔力を吸収しても超高速の砲弾が飛んでくるそうですので念のため」


「マルスが前に言っていたやつか。やっぱり物理攻撃を混ぜてきやがったか……フォースター助かった」


 こりゃ帝都に近づいたらメレスの艦の外にいないと危ねえな。艦橋は結界で守れても艦全体は無理だからな。事前に知れてよかったわ。フォースターマジ有能! 


「お役に立てたのなら幸いです」


「それじゃあメレスを追い掛けてロンドメル滅ぼしてくるわ」


 俺はそう言って艦橋から出て飛翔のスキルで全力でメレスを追うのだった。


 ったく、クソ魔帝! 生きてるならメレスに連絡くらいしやがれ!







 ーー アメリカ領自治区 ワシントンD.C. アメリカ総督府地下 統合司令室 カール・アイシンガー総督 ーー






「大統領。ここワシントンとニューヨークの帝国基地から、大艦隊が南アメリカに向け出撃しました」


「南アメリカだと? ブラジルとアルゼンチンには皇帝の子がいるのではないか? 合流する気か? 」


 今日の昼頃に欧州のマルス公爵基地が、何者かに奇襲を受け壊滅したとの報告が現地に潜入させていた諜報員からあった。そしてその後、鹵獲した魔導通信機に帝都やマルス公爵領とハマール公爵領も襲撃を受け混乱しているとの情報が舞い込んできた。


 よほど混乱していたのだろう。オープンチャンネルでどれほど危機的な状態なのか情報が垂れ流されていた。そのおかげで一連の奇襲攻撃は、ロンドメル公爵軍の仕業だと知れたのだがな。


 私は歓喜した。ついにこの時がやっきたと。そしてすぐに核すらも防ぐこの地下司令所に軍幹部を招集し、この地を支配するハマール公爵の代理のアーレンファルト侯爵が動くのを待っていた。しかしそこで更なる衝撃的な情報が舞い込んできた。


 なんとそれは帝都が陥落し皇帝が討ち取られ、マルス公爵とハマール公爵が捕らえられたというものだった。


 まさか帝都までこれほど早く陥落するとは思っていなかったうえに、両公爵まで早々に捕われたというこの報には心底驚いた。しかし皇帝が死んだとしても我々の計画には支障がない。帝国の皇帝は血筋で継承されるものではないと、買収した帝国兵から我々は情報を得ているからな。どうやら神の加護というものを得なければならず、それは誰になるかはその時までわからないというのだ。これは反乱を起こし皇帝を討ち取ったとしても、その者が皇帝になれるわけではないということを意味する。


 つまりは帝国は現状皇帝がいない状態だ。それならばマルス公爵やハマール公爵を救出しようとする者や、皇帝の敵討ちのために兵を挙げる者もいよう。そしていつになるかまではわからないが、いずれ加護を得た者がほかの貴族を率いることになる。そうなれば現在帝都を占拠しているロンドメル公爵と、新たに加護を得た者は戦争になる。数ヶ月か数年か、帝国は激しい内戦状態になるのは必然だ。


 そして今か今かとアーレンファルト侯爵が、ハマール公爵を救出するために帝都に出撃するのを待っていたのだがどうやらすぐには行かないようだ。


「それが魔導通信を傍受したところ、討伐という言葉を拾いました。恐らくハマール公爵を捕われたことで、その命と引き換えにロンドメル公爵側に付いたのではないかと」


「ハマール公爵を助けに行くのではなく、助けるためにロンドメル公爵に与したか……これは朗報だな」


「はい。南アメリカの軍も消耗するのであれば」


「部隊を密かに展開し両軍の戦闘状況を見て動く。ブラジルとアルゼンチンに潜ませている諜報員との連絡を密にせよ。それと各国に状況を教えてやれ。反乱を起こすなら今この時をおいてないとな」


 我々が動く前に動いてくれればさらに成功率は上がる。どこの国の総督も国を取り戻したいという気持ちは同じだ。そのほとんどが愛国心からではなく、帝国により奪われた富を取り返すためだがな。


 だがそれでいい。今は各国と協調し、帝国から独立することが最優先だ。独立さえすれば、優秀な我が国の技術者は必ずや帝国を圧倒する兵器を作り出すだろう。


「はい。ご指示通りに」


「いい流れだ。この混乱を利用して合衆国を我々アメリカ人の手に取り戻す。そしていつか裏切り者ともども帝国を滅ぼしてやる」


 まずは独立の第一歩を踏み出す。そしてこの最大のチャンスを必ずモノする。我が合衆国のために。



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