第35話 鈴の音
「うひょー! やっとお宝を拝めるぜ! 古代ダンジョンの最下層の宝箱だ! こりゃあヤベェもんが入ってるに決まってる! コウ! 先に行ってるぞ! 」
「あっ! リズさん! 抜け駆けはダメですぅ! 兎も早く見たいですぅ! 」
「あっ、リズ……って、行っちゃったよ……まあ今朝からソワソワしてたしな」
俺はマジックテントを出てすぐに、ボス部屋の奥にある宝物庫へと走って行ったリズとシーナを、テントの片付けをしながら見送った。
今日は朝からティナのウンディーネが成長していることに気付いて、大騒ぎしてテントを出るのが結構遅くなったからな。さすがのリズも我慢できなかったみたいだ。
ウンディーネが成長していた原因は、ティナの魔力値がSS-の伝説級になったからだ。それにより上位精霊になったらしい。昨日のカーラたちとの戦いでランクアップしたみたいだ。そのあとみんなでステータスの確認をし合って遅くなったんだ。
ティナがウンディーネが上位精霊になったことに一番驚いてた。過去にエルフで上位精霊使いになった人は、数えるほどしかいないらしいからな。確か最後の上位精霊使いはメレスのお母さんだと聞いた。ほんと数百年に一人とかのレベルらしい。
ああ、ちなみに俺を含めみんなの今のランクはこんな感じだった。
○阿久津 光
種族:人族
体力:SSS-
魔力:SSS-
力:SS+
素早さ:SS+
器用さ:SSS-
取得ユニークスキル: 【滅魔】.【結界】.【飛翔】. 【契約】
取得スキル:
【スモールヒール Ⅳ 】. 【ミドルヒール Ⅴ 】.【ラージヒール Ⅴ 】.【エリアヒールⅢ】
【鑑定 Ⅳ 】. 【探知 Ⅴ 】. 【暗視 Ⅴ 】. 【身体強化 Ⅴ 】. 【豪腕 Ⅴ 】.【追跡 Ⅴ 】
【錬金 Ⅳ 】.【調合 Ⅲ 】.【硬化 Ⅳ 】.【鷹の目 Ⅴ 】.【遮音 Ⅴ 】.【 隠蔽 Ⅴ 】
【危機察知 Ⅲ 】.【地図 Ⅳ 】.【言語 Ⅳ 】.【精神耐性 Ⅲ 】. 【状態異常回復 Ⅱ】
【風刃 Ⅴ】.【圧壊 Ⅳ 】.【炎槍 Ⅴ 】 .【豪炎Ⅳ】.【灼熱地獄 Ⅴ 】.【氷槍 Ⅴ 】.【氷河期 Ⅴ 】
【地形操作 Ⅴ 】.【千本槍 Ⅴ】.【光槍Ⅳ】.【聖炎Ⅳ】
備考: 【魔を統べる者】
○エスティナ
種族:エルフ族
体力:S+
魔力:SS-
力:S
素早さ:S+
器用さ:S+
取得スキル:
【身体強化 Ⅴ 】.【豪腕Ⅴ】【スモールヒール Ⅴ 】.【ミドルヒール Ⅳ】.【ラージヒールⅢ】
【鑑定 Ⅳ 】.【言語Ⅳ】.【調合Ⅱ】.【隠蔽Ⅳ】.【精神耐性 Ⅱ 】. 【状態異常回復 Ⅱ】
備考: 水の上位精霊 ウンディーネと契約
○リズ
種族:猫人族
体力:S+
魔力:S-
力:S+
素早さ:S+
器用さ:S+
取得スキル:
【身体強化 Ⅴ 】. 【豪腕 Ⅴ 】.【探知 Ⅳ 】.【言語Ⅳ】.【鑑定Ⅲ】.【隠蔽Ⅳ】
【スモールヒールⅣ】【ミドルヒール Ⅲ】.【鷹の目Ⅳ】.【危機察知Ⅱ】.【精神耐性 Ⅱ】
【状態異常回復 Ⅱ】.【風刃 Ⅴ 】.【風壁 Ⅳ】.【竜巻刃Ⅴ】.【圧壊Ⅳ】. 【千本槍Ⅳ】
○シーナ
種族:兎人族
体力:S+
魔力:S-
力:S
素早さ:S+
器用さ:S
取得ユニークスキル: 【離脱】
取得スキル:
【鑑定 Ⅳ 】. 【暗視 Ⅴ 】. 【鷹の目 Ⅴ 】.【身体強化 Ⅴ】.【豪腕Ⅳ】.【地図 Ⅳ】.【言語 Ⅳ 】
【スモールヒール Ⅳ 】.【ミドルヒール Ⅲ】.【状態異常回復 Ⅲ】.【危機察知 Ⅳ】】 .【隠蔽Ⅳ】
【氷壁 Ⅴ】.【土壁Ⅳ】.【光矢 Ⅳ】.【浄化Ⅳ】.【精神耐性 Ⅳ 】
○オリビア・マルス
種族: 魔人族
体力:S
魔力:S+
力:S
素早さ:S-
器用さ:S
取得スキル:
【身体強化 Ⅴ 】.【豪腕 Ⅴ 】. 【スモールヒールⅣ】.【ミドルヒール Ⅲ】
【暗視Ⅳ】.【探知 Ⅳ 】.【危機察知Ⅲ】.【言語Ⅳ】. 【精神耐性 Ⅱ】.【火矢 Ⅳ】
【炎槍Ⅳ】.【灼熱地獄Ⅲ】.【土壁Ⅳ 】
俺はとうとう神話級ランクになった。相変わらず魔力値が高いけど。
通常人族の魔力値はほかのステータスより低い。それなのに高めなのは、恐らく【魔を統べる者】とかいう称号が影響してんだと思う。その結果ステータスが魔帝を超えたんだけど、カーラにトドメを刺したことでSS+とSSS-ランクの壁を超えたと思うと素直に喜べない。
ティナはもともと魔力値が高い種族だから、今回のダンジョン攻略で伝説級ランクになった。そのことで契約している精霊のランクも上がったようだ。
リズとシーナもS+ランクになったことで、十二神将クラスになった。装備からして十二神将を超えてるんだけどね。本人はあまり自覚がないみたいだ。オリビアはもともと俺たちとは差があったけど、結構縮めてきた。そのうちリズたちと並ぶと思う。
このダンジョンは回復スキルがたくさん手に入ったから、みんなにミドルヒール を習得させることができたのは収穫かな。
回復を含めほかのスキルも暇さえあればお互いに掛け合ったり魔物に掛けたりして使っていたから、覚えたてのスキルでも熟練度をⅢにすることができた。精神耐性とか状態異常回復スキルは難しいけどね。こればかりはわざと受けるのも嫌だし。ただ、シーナだけが熟練度が高いことから、魔物以外からの干渉で上げることはできるみたいだ。どうやってとかは深くは聞かないで欲しい。
アクセサリーはみんなほとんど同じで、停滞の指輪(1~3等級)・護りの指輪(1等級)・祝福の指輪(1等級)・豪腕の腕輪・魔力の腕輪・浄化のネックレス・清浄のネックレス・念話のイヤーカフ・身代わりのアムレットを標準装備している。このほかはティナとリズとオリビアが空歩のアンクレットを装備して、リズが分身の指輪をしているくらいかな。武器防具も全員が伝説級以上だし、俺たちは間違いなく世界で一番強力な装備を身につけている。早く魔帝に自慢して悔しがらせたくて仕方ない。
まあ今回のダンジョン攻略でみんな強くなったし、超レアアイテムなど得た物は大きかった。昨日はカーラのことで悲しい思いをしたけど、ティナたちに思いっきり甘やかしてもらったし癒してもらった。やっぱり女の子の身体って最高の癒しだよな。あの胸を吸ってると心が安らぐ。おかげで昨日よりだいぶ気持ちが楽になった。
恋人たちも朝からみんな明るく振る舞ってくれている。特にリズはいつも通りでテンション高めだ。
こういう時にリズのあのひたすら前向きな性格に助けられるよな。俺なんかより全然強いよ。
「ふふふ、リズもシーナも朝からずっと何が入ってるか予想のしあいっこしてたものね。でも最下層には宝物庫があるというのは本当ね。宝箱以外にも財宝があるのかしら? 」
「ここには誰も到達してないし、ボスは光り物が好きなドラゴンじゃないしね。宝箱だけだと思うよ」
俺は隣で微笑むティナに、骸が一つも転がっていないボス部屋を見渡しながらそう言った。
【魔】の古代ダンジョンは、世界を手に入れられるほどのスキルを求めて挑む人間が多かったことから、最下層に到達していた者たちがいた。でもヴリトラがあまりにも強過ぎたから、みんなやられて装備を残していった。
それに比べて【冥】の古代ダンジョンは、【魔】の古代ダンジョンほど挑む者は少ない。2等級の停滞の指輪目当てだから、手に入れたらそれ以上はなかなか進まない。中層以降は難易度高いしな。でもヴリトラよりはボスに関しては難易度が低く、速攻を心がけていれば運次第で倒せる感じだ。即死系は身代わりのアムレットで防げるし、重力魔法だなんだとあってもアダマンタイトの装備で無効化できるはずだし。
「それでも最下層の宝箱ですから、相当良い物が入ってそうですね」
「1等級の停滞の指輪は間違いないだろうね。あったらオリビアにも嵌めて欲しいな。ずっと若いままでいて欲しい。いつまでも夜を楽しみたいしね」
俺は宝物庫へと歩きながらオリビアの尻を撫でつつそう言った。
今のオリビアのスタイルは最高だ。できるだけ長い時間そのままでいて欲しい。この尻の弾力を失うわけにはいかないんだ。
「コ、コウさんが望まれるなら……ずっと愛して欲しいですし……はい……」
「あら? それだと私の方が早く老けちゃうじゃない。そんなの嫌よ。私も2等級の停滞の指輪を嵌めようかしら? 」
「ええ!? それだと5千年生きなきゃならなくなるよ」
寿命700年のエルフが2等級の停滞の指輪を嵌めたら8倍!? もう仙人どころじゃないだろ。
「うふふ、でもコウに飽きられたら嫌だもの。ずっと若いままでいたいわ」
「フフッ、エスティナ。それだといつまで経っても死ねないわよ? 」
「老いてコウに飽きられるくらいなら死なない方がマシだわ」
「別に老いたって飽きたりなんかしないよ。ティナのことを愛してるんだし。でも死なない方がマシって言葉は初めて聞いたよ」
普通は死んだ方がマシって言うよな。
「あはは、そうね。なんか変よね。でもずっとコウと一緒にいたいの。いいでしょ? 」
「わ、私もコウさんと永遠に一緒にいたいです」
「それは俺も同じ気持ちだよ。よしっ! なら行けるとこまで生きるとするか。生きるのに飽きたら死のう! うん、そうしよう! 」
これって逆プロポーズされてるようなもんだよな。男冥利に尽きるというか、女の子にこんなこと言わせる俺が甲斐性無しというか……もうちょっと待っててくれ。家庭を作れるほどの安全を確保したら、みんなにちゃんとプロポーズするから。
「ふふふ、そうね。飽きたらみんなで一緒に死にましょう」
「フフッ、それだとなんだか心中するみたに聞こえるわよ」
「いいじゃない。親友同士愛する人と一緒に死ねるなんて素敵じゃない? 」
「フフフ、そうね。素敵ね」
「あはは……そ、そうだね」
俺は二人の会話がヤンデレ女子の会話に聞こえてきて素直に喜べないでいた。
「おーい! 装備もスキルもやべえのがあるぞ! 魔王誕生だってこれ! 」
「コウさん! 魔王になれますです! 世界を闇に包めますです! 」
「オイオイ……また変なスキル書があったのかよ」
俺は90階層でも聞いたリズとシーナのセリフに、宝箱への期待度が急降下していくのを感じながら宝物庫へと入った。
宝物庫はヴリトラの所の宝物庫よりは狭かったが、それでも50帖ほどはありそうだった。奥にはリズとシーナが開けている魔鉄製の青白い光を放つ宝箱が一つと、ミスリルの宝箱二つが鎮座していた。
どうやら他の二つのミスリルの宝箱はまだ空けていないようだ。
「ふふっ、魔王になれるってあんまり良いスキルじゃなさそうね」
「また魂縛のようなスキルですと困りますね」
「だね。ほかの物に期待するよ」
俺はクスクス笑うティナと、残念そうな顔をしているオリビアに肩をすくめてそう答え、リズとシーナの元へと向かった。
「コウ! これこれ! 鑑定してみろって! 」
「黒のスキル書か……ユニークスキル確定だけど、嫌な予感しかしないな。まあ見てみるけど……『鑑定』 」
俺はリズに渡された黒いスキル書を手に取り鑑定を発動した。
【
効果:現世に漂う死者の魂を任意の遺体に入れることができる。ただし、知能は著しく低下する。
使用可能魔力値ランク: SS-以上
「……俺にネクロマンサーになれと? 」
俺は期待を裏切らない結果に肩を落としながらそうボヤいた。
「プッ! あははは! 前に手に入れた魂縛のスキルと合わせて使えば不死の軍団を作れるぜ? 」
「ですです! お墓からスケルトンを大量に召喚できますです! 」
「何言ってるのよリズにシーナも。コウが死者を操るなんて嫌だし、悪魔城をスケルトンが彷徨う姿なんて見たくないわ。そのスキルもお蔵入りね」
「そんなスキルを使ったらコウさんは本物の魔王と呼ばれてしまいます。ただでさえこんなに優しいコウさんが、帝国で魔王と呼ばれていることを聞くと辛いのに……」
「だよな。しかし魂縛に還魂とか、このダンジョンは魔王を作り出すダンジョンだったのかよ」
中層で手に入れた呪いのマスクまで着けたら完璧だな。このダンジョンが魔人に攻略されなくて良かったわ。危なく地上がゾンビで溢れるところだった。
なんか地球の魔素がかなり濃くなったらしく、魔物も数ヶ月は生きるらしいからな。まあ俺が【魔】の古代ダンジョンや上級ダンジョンを攻略して、ダンジョン内の魔素を放出させたのが原因みたいだ。おかげで魔帝を始め魔人の調子がいいとか宰相が言ってた。オリビアも体調がいいみたいだから別にいいけどさ。
「なんだよ。コウが魔王でもいいじゃん。でもゾンビは臭えから地上だとみんなに白い目でみられそうだな」
「兎たちは清浄のネックレスがあるから匂いは遮断できますが、犬人族の人たちはたまらなさそうです」
「それ以前に遺体を粗末に扱うもんじゃないよ。ったく、このダンジョンの黒いスキル書はハズレしかないよな」
俺はそう言ってスキル書を空間収納の腕輪に投げ入れた。もっといいのを期待してたんだけどな。
「じゃあこっちならどうだ? 魔王じゃなくても使い道あるぜ? 」
「金色のスキル書もあったんだ。どれどれ……」
俺はリズが続いて出したスキル書を鑑定した。
【再生のスキル書】
効果:無機物を元ある姿に再生することができる。
使用可能魔力値ランク: S+以上
「これは……いいんじゃないか? 自動修復の能力が付いてない装備を元に戻せるってことだよな? 飛空艦の修復にも使えるかも」
これは大当たりじゃね? 恐らく流れ的に還魂で復活させたスケルトンやゾンビを、ラージヒールの代わりに修復するのが第一目的のスキルなんだろう。でもこれは応用が利くスキルだ。生物以外を再生できるってことは、剣や鎧に限らず飛空艦や車両も直せるってことだしな。
「壊れた物を再生できるの? それなら魔力量が無限のコウが覚えてくれたら家の財政的に助かるわね」
「ですです! ギルドに修理が間に合わない貸し出し用の装備がたくさんあるです! コウさんに直してもらいたいですぅ! 」
「あーあれな。修理が終わるのを新人が待ってんだよなー」
「あ、あの……祖母の形見のオルゴールが破損してしまって……特殊な造りで修復は難しいらしくて……その……コウさんに直して欲しいです」
「う、うん……わかったよ。俺が覚えるよ」
訂正。大当たりのスキルじゃないわこれ。当分あっちこっちで使われそうだ。まさかダンジョンで得たスキルで仕事が増えることになるなんてな……トホホ。
「ふふふ、お願いねコウ。飛空艦の修理費ってかなり掛かるから助かるわ」
「鍛治士が少ないので助かりますです」
「どれだけ使いこなせるかわからないけど頑張るよ……」
俺はそう言ってスキルをその場で覚えた。
それからみんなで宝箱を一つずつ開けていき、鑑定をしていった。
スキルはアレだったけど、宝箱の中にあった装備とアイテムは大満足の物だった。
その中でも1等級のポーションと『聖剣』と『反撃の鎧』に『女神の聖域』という魔道具は超大当たりだ。
1等級のポーションはどんな重傷を負っていても即時全回復するのはもちろん、あらゆる病気を治すことができるというものだった。予想通りエリクサーだったよ。それがなんと5本もあったんだ。これでティナたちがどんな病気になっても怖くない。
『聖剣』はそのまんま聖属性の大剣で、ミスリルと魔鉄の合金でできている。切れ味は俺の持つダンジョン産の魔鉄の片手剣ほどではないが、剣を通してスキルを放つとその威力を何倍にも増幅するという能力がある神話級の剣だ。これは修復屋になる予定の俺が装備することになった。
物語では聖剣って勇者の装備なはずなんだけど、攻撃スキルの威力を上げるためではなく、壊れた物を再生するのに便利だからと使うのは多分俺だけだろう。
『反撃の鎧』は魔鉄とアダマンタイトの合金でできた全身鎧で、【反撃】という特殊能力が付いている。これは魔力をともなった攻撃を受けると、任意の相手に受けた魔力分の魔力の塊を放つことができる。ただし、許容量を超えた場合はこの限りではないらしい。この辺は一度実験する必要があるな。
その他の能力として、物理防御力上昇(込めた魔力量により上昇率は異なる)・サイズ自動調整・軽量化・自動修復・体温調節機能がある文句なしの神話級防具だ。これは全身鎧ということもあり、オリビアが装備することになった。オリビアは神話級の防具と聞いて目を回していたよ。
最後に『女神の聖域』という魔道具は、30cmほどの白銀のミスリル製の正方形の箱の形をしている魔道具だ。これはなんと一度起動するとどんな攻撃からも守ってくれる結界が、半径20mに展開されるというとんでもない魔道具だ。効果時間は1日6時間で結界の中からは攻撃ができないし一度出たら入れないけど、これがあれば今後どんなピンチに陥っても態勢を立て直すことができる。これはティナに持っててもらうことにした。俺には結界のスキルがあるからね。
ちなみに『回復の短剣』という伝説級の装備もあったんだけど、斬りつけた相手を回復するという「それ回復なの!? 」と思える能力がある短剣だった。なんでもこの短剣で切った傷の深さにより回復度合いが変わるそうだ。さすがに欠損した部位は生えてはこないけどね。ただ魔力は消費しないらしいから、ポーションも魔力も切れた時に、戦闘中に簡単に回復できるからちゃんと割り切れればかなり強力なアイテムだと思う。割り切れればだけどな。
重傷者に重傷を負わせるほどの傷を与えて回復するとか、絶対パーティが崩壊すると思うんだ。もう呪いの短剣だよなこれ。シーナがキラキラした目でこの短剣を渡してきたから、そっと空間収納の腕輪にしまったよ。俺が受け取っただけでシーナは興奮して失神しそうだったけど、絶対に夜に使わないからねとは言っておいた。白目をむいていてまったく聞いてなかったけど。
その他のアイテムは停滞の指輪1等級が5つと、時戻りの秘薬(高級)が5本。魔力回復や解毒などの1等級のポーションもそれぞれ5本あった。そしてティナにあげた無限水筒の魔道具も入っていた。これはメレスにお土産としてあげようと思う。フラウも喜ぶと思うんだよね。
「さすが古代ダンジョンの最下層ね。1等級のポーションに神話級の装備。それに1等級の停滞の指輪に時戻りの秘薬の高級まで……このダンジョンが復活する度に来れば1万年くらい生きれそうね」
「私が神話級の装備を身に付けるだなんて……」
「こんな装備を持ち歩いてんのが知られたら、世界中から狙われそうだよな。ダンジョンボスが地上を歩いてるってよ」
「ふええ!? 兎はダンジョンボスじゃないですぅ。狩られるのは嫌ですぅ! 」
「あはは、確かに狙われるかもね。帝国に限らず地球の権力者たちにとって、喉から手が出るほど欲しいアイテムばかりだしね。だからちゃんと指輪カバーをしておくこと」
まあ今のリズたちをどうこうできるとは思えないけど、狙われないに越した事はない。世の中にはとんでもない馬鹿がいるからな。
「ほーい! 」
「聖女らしく白手袋をしますです」
「まだ言ってんのかよ。島のみんなには性女だってバレバレだってのによ」
「ほえ? そうなんです? やっぱり兎が聖女だってみんな思ってたんです? 」
「そりゃ普段の行いがアレだしパンツ履いてねえし」
「パンツ履いてないと聖女なんです? 」
「そりゃどこからどうみても性女だろ? 」
「まあまあ、シーナが聖女でも性女でもいいじゃないか。それよりそろそろ日本はお昼だし、もう帰ろうか」
俺はリズとシーナの会話に割り込み、宝箱のアイテムを空間収納の腕輪に入れながらそろそろ地上に出ようと提案した。
「ふふふ、そうね。喧嘩になる前にそうしましょ」
「フフッ、シーナさん本当に可愛いわ」
「ふえ? 何がです? 」
「ははは、気にしない気にしない。じゃあシーナの離脱のスキルで地上……」
俺は勘違いにシーナが気付く前にさっさと地上に出ようと、シーナに離脱のスキルを発動してもらうように言おうとした。しかしその時、鈴の音が宝物庫に響き渡った。
リーーーン
リーーーン
それは俺の腰に付けていた共鳴の鈴から発せられている音だった。
「「「!? 」」」
「シ、シーナ! 離脱のスキルを! みんな! シーナに触れて! 」
俺は鈴の音に一瞬固まりつつも、すぐに俺はシーナにスキルの発動を促した。そして皆にシーナに触れるように指示をした。
フォースターには古代ダンジョンの最下層を攻略していることは告げてある。そのうえで共鳴の鈴を鳴らしたということは、相当なことが起こったということだ。魔帝がメレスを取り戻すために艦隊を引き連れてきたか? それともいよいよロンドメルが動いて先に俺のとこに攻めてきたか? どちらにしろすぐに領地に戻らないと!
「は、はいですぅ! 」
「わ、わかった! 」
「急ぎましょう! 」
「い、行きますです! 『離脱』! 」
シーナは全員が身体に触れたことを確認してスキルを発動した。
すると足もとに魔法陣が展開し、そこから青い光が放たれ俺たちを包み込んだ。
俺は焦りと少しの不安を感じながらその光に身を任せ、ボス部屋を後にしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます