第28話 伏兵

 


 ーー テルミナ帝国南西部 オズボード公爵領都 宮殿地下 ゲハルト・オズボード公爵 ーー





「んー! んー! 」


「いいのだ。その顔が堪らんのだ。もう少し……もう……オオウッ! 」


 我が輩はベッドの上で顔を腫らし、血だらけのセレスティナの鼻と口を押さえながらフィニッシュをした。


 そして我が輩が快感に身を委ねていると、セレスティナの身体から力が抜けていくのを感じた。


 セレスティナは気を失ったか。うむ、死んではいないのだ。我が輩はこの道のプロなのだ。長きに渡る経験からギリギリの加減ができるようになったのだ。


 我が輩は気を失ったセレスティナの上に覆い被さり、快感を与えてくれたセレスティナへ感謝の気持ちを込めて熱いキスをした。


 ふぅ……『発情期DX』の効果はまだまだあるが、さすがに10連続は腰が疲れたのだ。


 しかし最高なのだ。あの高貴で美しいセレスティナが我が輩のモノとなっているのだ。この女は毎日抱いても飽きないのだ。最初は反抗的だったが、今では苦痛から逃れるために我が輩へなんでもするメス豚となっているのだ。そんなこの女も最後は我が輩の目の前でオークに嬲られるのだ。その時を想像すると興奮するのだ。


 我慢するのだ。まだセレスティナには飽きてないのだ。飽きかけた頃にやるのが最高なのだ。


 オリビアをあの悪魔に取られた以上。今は次の女がいないのだ。我慢なのだ。


 それにしても我が輩のオリビアをあの悪魔に献上したとマルスから聞いた時は、はらわたが煮え繰り返るほどムカついたのだ。でもあの悪魔には今は手が出ないのだ。悔しいのだ。



「ゲバルト様。失礼します」


「ふぅ……なんだペドか。お前もお楽しみは終わったのか? 」


 我が輩がセレスティナから離れ、ベッド横のテーブルのワインを手にしたところで部屋に家令のペドが入ってきた。


 確かペドは没落した下級貴族から、借金のカタに献上させた幼女と愉しんでいたはずだがどうしたのだ?


「はい。しっかりと愛でてまいりました」


「あんなツルペタの何がいいのか……ペドは変わった趣味をしてるのだ」


 ペドは6歳から10歳までの幼女を舐め回すという、よくわからない趣味をしているのだ。そして11歳になれば犯したあとに、なんの未練もなく家臣に譲るのだ。どうやら処女を奪ったらもう興味がなくなるらしいのだ。我が輩には理解できない感覚なのだ。


「穢れを知らない天使に囲まれ、最後に自らの手で堕天させる。これこそ魔人の成すわざかと」


「業というよりごうなのだ。世間では幼女に興奮するのは業が深いと言われるのだ。我が輩はそんなものには興味はないのだ。それより何か用なのかなのだ」


「はい。先ほどロンドメル公爵家のカストロ侯爵様より連絡があり、少しずつ台湾へと軍を駐留させるよう依頼がありました」


「いよいよやる気ということか……あの悪魔が反撃してこないというのは本当かなのだ」


 悪魔が留守の時に領地に奇襲を掛け、悪魔の領民を人質に取るなど本当に効果があるか疑問なのだ。


 セレスティナを譲り受けたことと、オリビアを奪われた悔しさについついカストロの策に乗ったが心配なのだ。


「モンドレット子爵との一件を分析した結果、アクツ男爵は親しい者が人質になった際に身動きが取れなくなるのは確実かと。それが同族の領民であれば尚更です」


「確かに悪魔のくせに甘かったのだ……しかし動くのは陛下が倒れロンドメルが勝てそうな時なのだ。それ以外では動かないのだ」


 ロンドメルが陛下を倒しても、加護が得られるまでにほかの貴族に倒されたら意味がないのだ。その貴族が悪魔の味方をしたら我が輩は窮地に立たされるのだ。我が輩の派閥の者は艦隊を保有していても戦争は苦手なのだ。


「ロンドメル公爵家は自信があるようです。私の知る限りでは、マルス公爵とハマール公爵配下の上位貴族が内応を約束したとか。それにどうやら新兵器を開発したようで、確実に勝てると思っているようです」


「内応の約束など旗色が悪ければ裏切るものなのだ。それより新兵器とはなんなのだ? 先日発覚したあの毒のことなのか? 」


 あの毒はヤバイのだ。とんでもないものをロンドメルは開発したのだ。あれ以降、我が輩は2等級のポーションと解毒のポーションを肌身離さず持っているのだ。ロンドメルはロクなことをしないのだ。


「不明です。陛下を暗殺するような様子ではありませんでしたので、毒ではないと思います。恐らく新型の魔導兵器かと推察します」


「魔導兵器か……一応艦隊は台湾に送るが、協力するかどうかはその新兵器が何かわかってからなのだ」


 台湾は確かローエンシュラム侯爵の派閥の、なんとか子爵が管理していたはずなのだ。ロンドメルが皇家に近い家の派閥の子爵まで取り込んでいることに驚きなのだ。ロンドメルは本気なのだ。


 そのロンドメルが自信を持つほどの兵器なら、よほどの物のはずなのだ。勝てそうならこの領地からも占領軍を出撃させるのだ。あの悪魔は相当な魔石とダンジョンアイテムを貯め込んでいると聞いたのだ。全部いただくのだ。


「それがよろしいかと。ロンドメル公爵様も我々を保険程度に思っているようですので、確実に勝てる時に動くのが得策かと。うまくいけばオリビア女史も手に入れることができましょう」


「オリビアは欲しいのだ。ロンドメルにはうまくやって欲しいのだ。初めてあの脳筋男を応援する気になったのだ」


 皇帝など誰がなろうと構わないのだ。帝国の富を押さえている我が輩が支配者なのは変わらないのだ。


 しかし悪魔だけは思い通りにいかないのだ。ロンドメルはあの悪魔を確実に殺すと約束したのだ。我が輩は人質を取り悪魔の報復を防ぎ、ロンドメルが悪魔を殺すのを高みの見物をするのだ。最悪ロンドメルが失敗しても、領地から撤退するのを条件に悪魔と取引をしてオリビアを戴くのだ。平和的な交渉をすれば、あの甘い悪魔なら無茶をしないはずなのだ。その時に契約スキルで我が輩に報復しないことを約束させれば安心なのだ。うん、ノーリスクなのだ。やはりロンドメルには頑張って欲しいのだ。


 悪くない。悪くないのだ。








 ーー【冥】の古代ダンジョン 98階層 阿久津 光 ーー





『聖炎』


「っと、これで最後かな。ちょっとキツかったな」


 俺は目の前で聖なる炎に灼かれ、魔石を残して消滅していくアンデッドドラゴンから後方にいる恋人たちへと目を向けた。するとちょうどリズとオリビアが、最後のデュラハンロードへと双剣と大剣を突き刺した所だった。


「あらよっと! あたしも終わったぜ」


「ふぅ、これで最後ですコウさん」


「さすがに多かったですぅ。普通なら全滅してましたですぅ」


「ほんとよね。アンデッドドラゴンに挟撃されたと思ったら、突然もう1組現れるんですもの。かなり焦ったわ」


「まあでも【魔】の古代ダンジョンよりはまだいいよ。あっちはかなり頻繁に突然現れるしね、しかも大量に」


 俺は床に転がるアンデッドドラゴン3体分の魔石と、エルダーリッチ6体とデュラハンロード15体。そしてドッペルゲンガー15体分のドロップ品を見ながら皆にそう言った。


 95階層を超えた辺りから、探知に掛からないで突然魔物が現れることが増えてきた。今までは忘れた頃に起こっていた現象だったけど、いよいよ攻略が近くなってきたこともありダンジョンも必死に迎撃しようとしているようだ。


 それでも【魔】の古代ダンジョンに比べればたいしたことはない。あっちは浅い階層でも容赦なくやってくるからな。エルダーリッチの不意打ちの広範囲スキルは厄介だけど、発動する直前に無効化できているから問題ない。ちょっと神経を使うくらいだ。


「確かに70階層にみんなで行った時に、突然後方に火竜と風竜が現れてビックリしたわね。あの時は心臓が止まるかと思ったわ」


「あ〜あれな。しかもいきなり上空からブレス吐いてきたんだよな。アレに比べればまだマシだな」


「ですです! かなり頻繁でしたです。兎も何度皆さんの盾になろうとして失敗したことか……」


「シーナさんはなぜそんなに残念そうにしてるの? 」


「オリビア、いいんだ。触れないでやってくれ」


 俺は昔のシーナを知らないオリビアの肩に手を置き、首をゆっくり横に振ってそう告げた。


 シーナは仲間がピンチっぽくなるとすぐ囮になろうとする。それも嬉々としてだ。だから俺の側から離れないようにしっかり言って聞かせている。それこそ首輪に命令してまでだ。そこまでしても時折戦闘中に横で痺れて動きが止まったりしてる。認めたくないが、やっぱりシーナには首輪が必要なのかもしれない。


「は、はい」


「ふふふ、シーナは昔からこうなのよ。人一倍臆病なのに、私とリズがピンチになるといつも身体を張って守ろうとしてくれるの。やめてって言ってるんだけど、聞いてくれないのよ」


「ほんとだぜ。あたしたちはシーナに守られるほど弱くねえってのによ。まっ、そんなシーナが気に入ってんだけどな」


 あれ? 二人ともシーナが笑顔で突撃していってる姿を知らない? ああ、いつもシーナは二人に背を向けて突然してるからか。まあ知らないならそのままでいいか。なんかいい雰囲気だし。


「兎人族は受けた恩を返す種族なのです。ニーナにもコウさんに恩返しをするように言い聞かせてますです」


「あ〜うん、ニーナね。いや、無理しなくていいんだけどね……」


 ニーナか……ニーナね……彼女は前は俺とシーナの夜の営みを隠れて見ていたのに、いつの間にかお仕置き部屋の中で堂々と見るようになった。シーナが俺にお仕置きされている姿に顔を上気させ、手を胸やアソコでモゾモゾさせながらだ。俺はニーナがそんな気になっちゃってなんというか非常にやり難い。


 このままでいいのだろうか? ニーナも身体がシーナそっくりになってきたし、俺も認めたくないがムラムラしてきてる。とはいえまだ16歳だ。テルミナ帝国の法律では成人していても地球では未成年だ。そんな子にムラムラしている俺はロリコンなんじゃないかと毎回悩まされる。


「ニーナはいつでもコウさんに抱かれる準備はできてますです。早く受け入れてあげて欲しいです」


「あ〜うん。そういうのはちょっと……やっぱりお互い好きじゃないとね」


 さすがに16歳相手にセクハラする気にもなれないし、それ以上はやっぱりお互い好きじゃないとね。ダークエルフたちのように、恩返しのために身体を差し出すとかそういうのはお断りだ。


「ニーナはコウさんを好きなのは間違いないです。ですから今度デートしてあげて欲しいです。メレスさんとリリアさんとデートしていたのを羨ましがっていたです」


「え? そうなの!? でも……わ、わかったよ。帰ったら映画にでも誘うよ」


 確かにメレスとリリアとは頻繁にデートしている。それを見たニーナが不公平さを感じてるなら一度くらいは誘った方がいいよな。個人的にはレミアを誘いたいんだけど。


「やったです! ニーナが喜ぶです! 兎の首輪を羨ましがってたので、あのお店に行ってプレゼントしてあげて欲しいですぅ! 」


「そ、そう……」


 首輪が欲しいとか……


 絶対にニーナには手を出さない。普段はいい子だし最近色気が出てきたけど、シーナが二人とか無理だ。


「ニャハハハ! コウはモテモテだな! まっ、ドM兎二人よりあたしの方がいいに決まってるけどな! 」


「ぶうぅ! ドMじゃないですぅ! 愛ですぅ! 」


「ハイハイ。オリビアがついていけてないわよ。二人ともそれくらいにしなさい。それよりコウ、もうこの階層はいいんじゃないかしら? 昨日見つけた階段で下に行きましょうよ」


「ん〜……そうだね。こんなもんかな。それじゃあ99階層に降りて小部屋を見つけたらそこで休もうか」


 俺は地図スキルを発動しこの広い階層をかなり網羅しているのを確認し、次の階層に降りることに決めた。


 この階層は宝箱が多かった。ここまで念話のイヤーカフを15個に身代わりのアムレットも16個手に入れたし、幻身の指輪や分身の指輪も手に入れた。ほかにも伝説クラスの武器や防具にユニークスキルの『離脱』のスキルや、ミドルヒールやエリアヒールにラージヒールのスキル書も手に入れた。正直【魔】の古代ダンジョンよりレアスキルが多い。あっちは魔鉄やらレア素材が多かったからな。


 ちなみに離脱のスキルは魔道具の離脱の円盤の上位互換のスキルで、なんと触れている仲間ごと地上に出れるスキルだ。運などは関係なく、一度だけで地上に出れる。まあ恐らくボス部屋では発動しないという罠付きだろうけどね。それでもこのスキルがあれば一瞬で外に出れる。これはうっかり転移の罠に掛かる可能性の高いシーナに覚えさせたよ。俺には使用制限を無視できる離脱の円盤があるしね。


「しっかし古代ダンジョンてオイシイよな! こんなにレアアイテムが手に入るなんてよ。この疾風のブーツの上位互換の『烈風のブーツ』なんて小竜巻刃を起こせるんだぜ? 」


「確かにこれは疾風のブーツと同じく瞬間的に速く走れるうえに、防具なのに攻撃ができるのはいいわよね」


「伝説級だしね。できればもう一つ手に入れてオリビアにも履かせたいんだけどな。こればかりは運だよね」


 烈風のブーツは二つ手に入れたから攻撃に速度が必須なリズとティナに装備させたけど、できればオリビアにも装備させたい。けど宝箱には武器ばかり入ってるんだよな。ティナ用に破邪のレイピアが手に入ったのはいいけど、ほかは連撃ができるガントレットとか即死系の短剣や麻痺の短剣ばかりだし。


「私にはミスリルの大剣と吸魔の大剣がありますから……それにリズさんやエスティナのように、足もとから攻撃できるほど器用ではないです」


「確かに器用だよな。まあオリビアはスキル撃ち放題だからな。十分か」


 オリビアには前衛でスキルを撃ちまくってもらうために、吸魔の短剣の大剣バージョンを手に入れたのでそれをミスリルの大剣と交互に使ってもらっている。それにより俺のもとに戻って魔力を補充する必要がなくなり、今回のような不意打ちの連戦時でもオリビアは前線で戦い続けることができるようになった。


「よっし! なら次の階層の小部屋が見つかるまでよ、またコウの先制攻撃無しでやろうぜ! 」


「ふええ!? また死闘をやるんです!? 」


「いいわね。アンデッドドラゴンのパーティ1組ならなんとかなったしね。エルダーリッチは即死スキル撃たないから大丈夫よ」


「そうね。次こそはもっとスムーズに戦えると思うわ」


「うーん……まあいっか。前回はなんとかなったしね。それじゃあ今からエンカウントするアンデッドドラゴンのパーティ1組のみね。ほかは俺が相手をするから。じゃあみんなホークに乗って」


 俺はリズの提案に青ざめるシーナと、やる気になっているティナとオリビアにホークに乗るように指示をした。


 96階層まではデュラハンロードとだけ俺の滅魔無しで戦わせていたけど、ランクが上がり装備も充実して自信が付いた恋人たちから、俺なしでほかのアンデッドドラゴンとエルダーリッチ2体にドッペルゲンガー5体とも戦いたいと言われた。


 けど俺はさすがにアンデッドドラゴンのブレスは封じないとまずいと思ったので、それと回復スキルによる援護をさせることを条件に承諾したんだ。そして2時間に及ぶ激闘の末に、恋人たちは俺抜きでなんとか倒すことに成功した。俺はハラハラしながら回復スキルばかり掛けてたよ。コッソリ滅魔を放ったのはナイショだ。


「やりぃ! あたしたちがコウを守れるって証明しないとな! あたしは守られるだけの女じゃないんだぜ! 」


「ふふふ、結局守られてるんだけどね。それでも隣に立てるようになりたいわ。女の意地ね」


 どうやらコッソリ滅魔を放ってたのがティナにはバレてたらしい。


「私もコウさんの盾になれるようになりたいです」


「こ、怖いですけど兎もコウさんの盾になれるなら……ゾクゾクしてきたです」


「女の子に守られるのは男として避けたいとこだけど、気持ちは嬉しいよ。でもシーナは盾になることよりも、電撃で動きを止めないでみんなを援護してくれればいいからな? 」


「ふえっ!? なぜわかったです!? 」


「わかるよそりゃ……さて、それじゃあ出発しようか」


 俺はホークに乗り込んだ恋人たちにそう声を掛け、99階層に繋がる階段のある場所へと向かうのだった。


 まったく、俺にはもったいないくらい可愛くて頼もしい恋人たちだよ。


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