第27話 レアアイテム

 




 ーー ハマール公爵管理地 帝国アメリカ自治区 ワシントン地区 キシリア・アーレンファルト女侯爵 ーー





「シュヴァイン伯爵! 私はハマール様に繋ぐように言ったはずよ! なぜあなたが出てくるの! 」


 私は執務机を両手で叩き、魔導通信のモニターに映る豚へと怒鳴りつけた。


 なぜこの豚が出てくるのよ! 私はハマール様とお話をしたいというのに!


 《アーレンファルト様。ハマール様は気分が優れないようで、私が代わりに報告を聞くようにと……》


「くっ……また……ハマール様はなぜ私をお避けになるの……」


 ハマール様がニホンに行ってからというもの、すぐにあの悪魔を倒し戻ってくるかと思ったらもう三ヶ月以上もニホンに入り浸っているわ。


 私からの通信もたまにしかお出にならなくなった。それだってアクツの話ばかりで、私の話などほとんど聞いていない。


 アクツと何があったのか聞いても、首に巻いたスカーフを撫でながら従属させられたと幸せそうな顔でおっしゃる始末。


 従属とはどういうことなの? いったいハマール様とあの悪魔の間に何があったというのよ。


 《ハマール様はアーレンファルト様ほか、配下の者たちを大変信頼しております。ですから安心して好きなことをしておられるのではないかと》


「好きなことって何をしているのよ」


 《そ、それは……携帯でメールをしたりその……親衛隊の騎士に撮らせたアクツ男爵とスキンシップをしている動画を鑑賞したりと、充実した日々を送らせているようです》


「なっ!? くっ……アクツめ……」


 ハマール様がアクツがスキンシップですって? あり得ない……やはりあの男はハマール様に何かをしたとしか思えない。上級ダンジョンで私の知らない特殊なスキルかアイテムを手に入れ、それでハマール様を縛っているかもしれないわね。でなければ男嫌いのハマール様がこれほどアクツに執着するはずがないもの。恐らくハマール様の身体は既にあの男の毒牙によって……


 悪魔め……男にトラウマがあるハマール様になんと卑劣なことを……私がハマール様をお救いしなければ……あの悪魔を殺し、ハマール様を解放して差し上げなければいけないわ。


 やはりロンドメル公爵に期待するしかなさそうね。


 先月ロンドメル公爵の懐刀であるカストロ侯爵が来た時に、陛下が倒れた際は味方になるように言われたわ。報酬はこのアメリカ領をハマール様に、南アメリカ領を私にくれるというものだった。そしてあの悪魔の命も。


 ロンドメル公爵が陛下を討つことが本当にできるのかわからないけど、カストロ侯爵は相当な自信があるように見えたわ。もしかしたら何か強力な兵器を開発したのかもしれない。


 恐らく陛下を討てば、ロンドメル公爵かマルス公爵が次の皇帝になるはず。マルス公爵は殺されるでしょうから、ロンドメル公爵が次の皇帝になるわね。それは別に構わないわ。デルミナ神様もエルフなどに欲情する陛下に加護を与えたことを後悔なされているはず。変態が皇帝など、テルミナ帝国の長き歴史の最大の汚点以外何ものでもないもの。陛下にはご退場いただくのが帝国の未来のため。そう、これは聖戦なのよ。


 ロンドメルがマルス公爵軍と皇軍と帝都防衛軍を撃ち破り、陛下が討たれたならば私は動く。加護を得る者がいなくなったのなら反逆にはならない。私は陛下の敵討ちといって最低限の戦力を残して軍を出撃させる。


 そして混乱しているであろう南アメリカのブラジルやアルゼンチンへ侵攻し、そこを管理している陛下の一族や、派閥の者たちを反逆者に仕立て上げ一掃する。そのあとは帝国へとゆっくりと向かい、デルミナ神様により新皇帝が選ばれるのを待つ。新皇帝が現れれば敵討ちなどしようと思う者はいなくなるわ。誇り高き貴族の皆は、心の中ではエルフなどと子を作り高貴なる血を穢した陛下を蔑んでいるのだもの。新たに加護を得た皇帝に忠誠を誓うでしょう。


 問題はハマール様が帝国に向かい敵討ちをする可能性があることね。どういうわけか陛下への忠誠心が厚いのよね。公爵家を継ぐ時に陛下を守ると誰かと約束したとかなんとかおっしゃっていたけど、それが誰なのかは教えてくれなかったわ。いったい誰なのかしら?


 でもハマール様が帝都に行っても無駄。公爵家の戦力と派閥の貴族の半分以上の戦力は、このアメリカ自治区にあるもの。そのうえで私がハマール様との通信は切断すれば、いくらハマール様でもロンドメル公爵軍には敵わないと考え出撃は見合わせるはず。


 ロンドメル公爵は陛下亡き後の統治のことを考えて、ハマール様は殺さないと約束した。家督を継ぐ時にハマール様は一族を粛正したから、ハマール公爵家には後継者がいない。ハマール様を殺し歴史ある公爵家を失うのは、ロンドメル公爵からしても利はないわ。なにより約束を破れば私が敵になる。皇軍との戦いで疲弊しているはずのロンドメル公爵はそんなリスクを冒すはずがない。


 それならばロンドメル公爵に期待するしかないわね。あの悪魔からハマール様を取り戻すために。


 カストロ侯爵はいつでも動けるようしておくようにと言っていたから、恐らく反乱の時は近いのでしょう。こちらは演習をしながらその時を待っていればいい。


 ロンドメル公爵には是非頑張ってもらいたいわ。あの悪魔からハマール様を取り戻すために。








 ーー【冥】の古代ダンジョン 92階層 阿久津 光 ーー






「コウ! 小部屋があったぜ! 」


「よしっ! 行こう! 」


 俺は先頭を飛びながら振り向いて言ったリズの言葉に、一気に加速してリズを追い越して小部屋へと向かった。


 そしてそのまま小部屋に突入して滅魔でトラップを解除し、小部屋にいるアダマンタイト製の鎧に身を包み盾と剣を構えて向かってくるデュラハンロード10体と、エルダーリッチ3体。そして毎度お馴染みとなったドッペルゲンガー10体に滅魔を放ち無力化し、ティナたちを呼んでトドメを刺させた。


 この小部屋にはいないけどこの階層にはアンデッドドラゴンもいて、その身体にこの小部屋にいる魔物が乗って現れる。デュラハンの馬車がアンデッドドラゴンになった感じだ。アンデッドドラゴンは【魔】の古代ダンジョンのドラゴンほどの突然何体も現れないし、エンカウントする回数も少ない。それにアンデッドドラゴンは空を飛ばないし、ランクも【魔】の古代ダンジョンの最下層にいるドラゴンに比べれば1ランク以上低い。


 けど放っておけばブレスを吐かれるし、頭の上にいるエルダーリッチから範囲スキルがバンバン飛んでくる。そして一緒にいるデュラハンロードにはスキルが通用しない。アンデッドドラゴンは傷つけても復活するし、ドッペルゲンガーという撹乱要員までいる。さらに道のあちこちにトラップが仕掛けられているから、難易度は【魔】の古代ダンジョンと変わらないんじゃないかと思う。


 まあ、全部俺のスキルで無効化できるから楽勝なんだけどね。むしろ馬や馬車などで高速で移動する魔物がいなくなったから、飛翔のスキルやホークに乗りグングン進んでいる。空中にもトラップはあるけど、それも俺やティナが事前に感知できるから問題ない。


 なによりも91階層から先はボーナス階層だ。それは魔物を倒しやすいというだけではなく、宝箱のアイテムが魅力的なレアアイテムばかりが入っているからだ。


 だから俺たちは各階層の隅々まで見て回り、通路の陰や小部屋にある宝箱を回収していっている。おかげで全力で進んでいるのに、次の階層まで行くのに1日余分に掛かってしまった。でも、それでもレアアイテムが欲しいんだ。この階層で手に入るアイテムはそれほどの物なんだ。


「コウ、処理したわ。早く宝箱を開けましょう」


「ああ、リズ。開けていいよ」


 俺は少し楽しそうなティナの言葉に頷き、リズに小部屋の奥にあるミスリルの宝箱を開けるように言った。


「おっし! へへっ! アムレット入ってろよ〜♪ どうだっ! 」


「あっ! やりました! アムレットが入ってますです! これで四つ目ですぅ! あと一つで全員分揃いますですぅ! 」


「やったぜ! やっぱあたしは引きがいいよな! 」


 宝箱をリズが開けると狙い通りの物が入っていたようで、二人とも大喜びしていた。


 このアムレットと、ここには入ってなかったけどイヤーカフのアクセサリーが俺たちが狙っていたアイテムだ。


 アムレットは正式には『身代わりのアムレット』といって、見た目は白い小さな人型の御守りみたいな感じの物だ。これはその名の通り肉体が即死級のダメージを負った時。または即死スキルを受けた時に身代わりになってくれるアイテムなんだ。一回使ったらもう使えない使い捨てアイテムなんだけど、即死スキルを一度無効化できて死ぬほどのダメージを無かったことにできるんだからそれでも欲しい。でも即死スキルを放つリッチロードを倒したあとに手に入るなんてな。このダンジョンもなかなかいい性格してるよ。


 そしてイヤーカフの方は『念話のイヤーカフ』といって、見た目は3cmくらいの銀の耳飾りだ。これもその名の通り、耳に着けている者同士であれば、どんなに離れていても心の中で会話ができる。ダンジョンの外と中で話せるかわからないけど、ダンジョン内なら階層が違っても会話ができた。これは万が一見落とした転移トラップに掛かり、離れ離れになった時に有効だから是非とも全員分欲しい。恋人たちは心で繋がっている的な意味で欲しがってるけどね。俺はエロいこと考えられなくなるから普段は外しておきたい。ちなみにこれも四つ手に入れてある。



「あっ、レアな白いスキル書も入ってますね」


「あら? このスキル書分厚いわね。ラージヒールかしら? 」


「ほんとだ。どれどれ……え!? これ凄いよ!? エリアヒールのスキル書だってさ。込める魔力量が多ければ多いほど、広範囲に強力な回復スキルを掛けることができるみたいだ。欠損も治せるらしいから、魔力量の多い俺が使えば範囲ラージヒールを掛けれるかも」


 俺はオリビアとティナの言葉に宝箱の中にあるスキル書を鑑定してみた。するとそれはラージヒールより強力なスキル書だった。


 これは凄いスキルだ。戦争の時や懲罰時に重宝しそうだ。


「広範囲にラージヒールを!? それはとんでもないスキルね。これはどう見ても魔力が無限にあるコウ向きね」


「さすが古代ダンジョンの下層ですね。小部屋の宝箱からこんなとんでもないスキル書が出てくるとは……」


「すげーな。でもあんま頻繁に使うと、うちの獣人の脳筋連隊は調子に乗って突っ込むからな。内緒にしといた方がいいんじゃねえか? 」


「あ〜確かにアイツらならやりかねないね。そうだね。教えないことにするよ」


 リズのいう通りだな。こんなスキルを俺が持ってると知ったら、アイツら魔導戦車に剣を持って笑いながら突っ込みそうだ。怪我は治せても死んだらこのスキルじゃ生き返らせられないからな。言わないでおいた方が良さそうだ。


「ふふふ、確かにその方がいいわね。それじゃあ宝箱に入っているほかのアイテムを回収して、次の宝箱を探しに行きましょう」


「そうだね。どんどん見つけて行こう! 」


 俺は宝箱に入っている残りのポーションと、マジックテントとマジックバッグを回収して皆がホークに乗るのを待ち小部屋の外へと出た。


 ちなみにポーションは2等級のポーションと魔力回復ポーションで、マジックテントは『上級』だった。最下層付近でマジックテント『高級』が出ないということは、恐らく【時】の古代ダンジョンにあるんだろう。マジックテントは欲しがっている人間が多いから、そのうち【時】の古代ダンジョンに潜るのもいいかもな。


 とりあえず今は身代わりのアムレットをできるだけ多く手に入れたい。メレスとリリアにも持たせたいし、予備も欲しい。攻略よりもこっちが最優先だ。


 俺はそんなことを考えながら、この92階層を隅から隅まで恋人たちと飛び回るのだった。



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