第23話 擬態

 



 ゲートキーによって現れた門を潜ると、そこは天井付近に窓があるだけの何もない広い部屋だった。


 この建物はイギリスの深い森の中にある【冥】の古代ダンジョンの管理施設の裏手にある建物で、元は倉庫だったのをマルスが俺たちの移動用のために用意してくれたんだ。外には俺たち用の小型飛空艇まで用意されている。いや、使わないんだけど、一応カモフラージュ用だな。


 この建物とダンジョンを警備する人員も、俺たちが攻略する間はマルス公爵家直属の騎士たちが従事している。中にはオリビアの従兄弟がいたりで皆友好的だ。だから俺も気兼ねなくゲートキーで移動できているというわけだ。


 魔帝は指輪指輪うるさいだけだったけど、マルスは一族から古代ダンジョンの攻略者を出せるかもしれないからと協力的だった。指輪はマルスにやろうかな。


 そして部屋を出た俺たちは、外で警備していた騎士とダンジョン入口にいる騎士たちに挨拶してから中へと入った。そして階層転移室へと向かい、81階層へと移動した。



「さて、前回は80階層のボスを倒してそのまま降りて来たから、81階層の魔物は何が出るかわかんないんだ。多分エルダーリッチとデュラハンだと思うんだけど、先ずはホークには乗らずに警戒しながら進もう」


 階層転移室の出入口の岩戸に手を当てながら、ホークをマジックポーチから取り出そうとしている皆にそう提案した。


「それもそうね、わかったわ。でもS-ランクのエルダーリッチが雑魚として出てくるなんて、コウがいなかったら絶対歩けないわよね」


「エルダーリッチってよ、確か灼熱地獄クラスの広範囲スキルとかいっぱい持ってるんだったか? 」


「ええ、リズさんの言うとおりよ。でも60階層のボスとして戦ったけど、その時はコウさんがスキルを封じていたからただのゴーストだったわ」


「まあリッチ系は骨付きゴーストみたいなもんだね。ただ数が多いと思うし、ダンジョンが嫌がらせで突然出現させる可能性もあるから要注意だね」


 このダンジョンは【魔】の古代ダンジョンほどではないけど、突然近くに反応が現れることがままある。グリムリーパーみたいに壁抜けしてくるのもいるしな。最下層も近いし何かやってくるかもしれない。


「不意打ちは確かに何度かあったわね。なら私とシーナが両側面で、コウが最後尾がいいわね。リズとオリビアは先頭をお願いね」


「ええ、前衛は任せて」


「そだな! ティナの戦乙女の鎧と、シーナの聖女のローブがあれば不意打ちは防げるしな! 」


 確かに戦乙女の鎧の肩当ては、空中浮遊して自動防御してくれる。シーナの聖女のローブもそれほど強力ではないけど、結界が常時張られているからな。初撃を防げば護りのサークレットも発動できるし大丈夫だろう。まあ、俺がその前に対処するけど。


「はいです! 兎が皆さんの盾になりますです! 」


「よし、なら進もう」


 俺は少し嬉しそうなシーナに不安を覚えつつ、出入口である岩戸に魔力を通した。


 すると岩戸はゆっくりとスライドしていき、俺たちの目の前に81階層の通路が現れた。


「なんか道幅が広くないか? 」


「79階層の倍くらいはありそうね」


「【魔】の古代ダンジョンの下層と同じくらいありそうですぅ」


「オイオイ、まさかアンデッドドラゴンが雑魚として出てこねえだろうな? あんな臭いのもう嫌だぜ? 」


「う〜ん……匂いはしないから大丈夫だと思うんだけどな。でもこの広さは疑っちゃうよね」


 俺たちは目の前に広がるゴツゴツした岩肌がむき出しの薄暗い通路を見て、幅が竜系のダンジョンのそれと同じくらいあることに一抹の不安を覚えた。


「とりあえず進みましょうよ。コウは広範囲に探知お願い。私やリズたちは近場を重点的に警戒しましょ」


「そうだね。それじゃあ進むか」


 ティナの言葉にリズとオリビアたちが頷き、俺は探知のスキルを全力発動して皆と通路を進んだ。


 そしてそれから20分ほど進んだだろうか? 前方に見える交差点へ、左右の通路からそれぞれ二つの魔力がもの凄い速度で向かってくるのを感知した。


「ストップ! 次の角に左右から凄い勢いで向かってくる反応あり! 数は左右それぞれ二つ! 多分デュラハンだと思うけど、一緒に何か乗っている! 」


「デュラハンが2ケツしてんのか!? そんなの今までなかったぜ? 」


「エルダーリッチかしら? デュラハンの後ろに乗って移動してくるなんて、なんだかシュールよね」


「多分そうだろう。現れたところで魔力を抜くから一斉攻撃してくれ」


「あいよっ! 」


「はいっ! 」


「撃ち抜くですぅ! 」


「ほぼ同時に現れそうだ。3.2.1……なっ!? 」


 俺は左右の角からほぼ同時に現れた二体のデュラハンの姿を見て、驚き動きが止まった。


 その姿はこれまで見たデュラハンと明らかに違っていたからだ。


「馬車!? 」


「荷台にエルダーリッチがいるわ! 」


「まるで戦車ですぅ! 」


 そう、デュラハンは馬にまたがっているのではなく、幌の無い馬車に座り、首の無い馬に鞭を振るい向かってきていた。


 その馬車からは、馬を守るかのようにトゲ付きの盾らしきものが前面に展開しており、馬車の車輪にもトゲトゲの刃が付いていてまさに中世の戦車と呼ぶに相応しい姿をしていた。そしてその荷台ではエルダーリッチが杖を構え、深く被った黒のローブの中から骸骨の目を赤く光らせて俺たちをまっすぐ見ていた。


 ん? なんだあれ?


 俺はエルダーリッチの足もとに、何やら白い塊のようなものがいくつかあるのに気がついた。しかしそれからは魔力反応が無く、それがなんなのか俺にはわからなかった。


「とりあえず動きを止める! 『滅魔』! って、アダマンタイトかよ! みんな! 馬は失敗した! 馬車が突っ込んでくるから左右に避けてくれ! 」


 俺は向かってくるデュラハンと、馬車を引く馬とエルダーリッチへスキルを放った。しかし馬が装備している兜と、胴体を隠すように荷台から伸びている前盾によりスキルは弾かれてしまった。恐らくあれはアダマンタイト製だったんだろう。


 魔素を介してもう一度放つには時間がないと判断した俺は、慌てて皆に左右に避けるように指示をした。


「うげっ! マジか! オリビアは反対側に! すれ違い様にデュラハンに一撃入れるぞ! 」


「ええ、わかったわ! 」


 リズとオリビアは中央を爆進してくる馬車を左右に避け、すれ違い様に飛び上がった。そして荷台に座ったまま魔力を抜かれ、動きの止まったデュラハンへとそれぞれが一撃を入れていった。


「シーナ! 私たちはエルダーリッチに! ウンディーネ! 龍となって噛み砕いて! 『水龍牙』! 」


「はいぃぃ! 光の矢をお見舞いするですぅ! えいっ! 」


 次にリズとオリビアが一撃を入れ、離脱したタイミングでティナが水龍の頭部を出現させた。そして荷台に棒立ちになっていたエルダーリッチへと放ち、エルダーリッチの頭上から襲い掛かった。シーナも聖弓から光の矢を連続して放ち、もう一体のエルダーリッチの胸に立て続けに突き立てた。


「俺は馬を止める! 『滅魔』! 」


 恋人たちがすれ違い様に攻撃する姿を見届けつつ、俺は馬の側面から再度スキルを放った。


 アダマンタイトの前盾の側面から放ったスキルは、今度は問題なく二頭の馬へと届いて体内の魔石から魔力を全て奪うことに成功した。


 魔石から魔力を全て奪われた馬はその場で黒い霧とともに消滅し、二台の馬車はお互いがぶつかり合ってデュラハンとエルダーリッチを巻き込みながら横転した。


「よしっ! みんな追撃を……え? 」


 横転して20mほど先で止まった馬車へ、俺は追撃を掛けるよう恋人たちに指示をしようと振り返った。しかしその時。俺の目には信じられない光景が映った。


「どうしたのよコ……あれ? 私? 」


『え? 私!? 』


「うおっ! なんだ!? あたしがなんでいるんだ!? 」


『お前誰だよ! なんであたしと同じ顔をしてんだ!? 』


「なっ!? わ、私!? 」


『え? 私がもう一人? 』


「ふええ!? 兎がもう一人いるですぅ! 」


『ふええ!? 兎にそっくりな人がいますです! 』


 俺が振り向くとティナ、リズ、オリビア、シーナの隣に、まったく同じ姿をした者たちが彼女たちと同じように驚いた顔で立っていた。


「うおっ!? お、俺まで!? ど、どうなってんだ!? 鏡……じゃないな」


『うおっ!? なんで俺がもう一人!? 』


 そして俺の隣にも同じ姿をした俺が立っており、俺と同じく驚いた顔をしていた。


「コウ! デュラハンとエルダーリッチが! 」


『コウ! デュラハンとエルダーリッチよ! 』


「なっ!? なんなのよ貴女! マネしないでよ! 」


『貴女こそなんなの!? 私のフリをしないでよ! 』


「あ、ああ……『滅魔』! 」


『ああ……『滅魔』! 』


 俺は二人のティナの言葉に振り返り、後方で横転した馬車から起き上がろうとするデュラハンとエルダーリッチの魔石から魔力を抜き消滅させた。


 その時、俺の隣で同じポーズを取っていた、もう一人の俺の顔がギョッとしたのが視界の端に映った。そして俺が再びティナたちへ振り向くと、二人ずついるティナやリズたちの片方だけが驚いた顔をしていた。


 あ〜そういうことか。なんかこういうの漫画で見たことあるわ。


 俺は隣にいるもう一人の俺に顔を向け、体内に魔石が無いか確認した。すると微弱だが魔力の塊が胸の中央にあることがわかった。


 やっぱそうか……ドッペルゲンガーってやつだなこれ。荷台に乗ってた白い塊がコイツらだったってことか。


 デュラハンと戦っている時に俺たちを撹乱して、襲い掛かるつもりだったか? それが呆気なく倒されたもんだから次の手に迷ってるってとこだろうな。しかしほんとそっくりだな……


「みんな! ドッペルゲンガーだ! そいつは姿を似せる魔物だ! 離れろ! ただし攻撃はするなっ! 」


「ま、魔物!? 」


「は、はいっ! 」


「ふええっ!? 」


「マジかよ!? 」


 俺は皆にドッペルゲンガーから離れるように言った。その際に乱戦になると面倒なので攻撃をしないようにとも付け加えた。


 俺の指示を聞いたティナたちは、驚きつつも一斉にお互い距離を取った。それはドッペルゲンガーも同じで、それぞれが自分そっくりな相手に対して武器を構えた。


 俺の隣にいるドッペルゲンガーは、まだ俺になりきって俺と同じ動作をしている。どうやら撹乱かくらんして同士討ちをさせるつもりのようだ。


「俺になりきるなんて、いい度胸してるなお前」


『お前こそ偽物のくせにいい度胸だな』


 この野郎……なんなんだこの自信。鑑定したらすぐバレんじゃねえのか? まさか鑑定の対策をしてるのか?


 俺は気になったので、俺のドッペルゲンガーへ鑑定をしてみた。





 阿久津 光 (あくつ こう)



 種族:人族


 体力:SS+


 魔力:SS+


 力:SS


 素早さ:SS


 器用さ:SS+



 取得ユニークスキル: 【滅魔】.【結界】.【飛翔】


 取得スキル:


【スモールヒール Ⅳ 】. 【ミドルヒール Ⅴ 】.【ラージヒール Ⅴ 】

【鑑定 Ⅳ 】. 【探知 Ⅳ 】. 【暗視 Ⅳ 】. 【身体強化 Ⅴ 】. 【豪腕 Ⅳ 】

【追跡 Ⅳ 】.【錬金 Ⅳ 】.【調合 Ⅲ 】.【硬化 Ⅳ 】.【鷹の目 Ⅳ 】.【遮音 Ⅴ 】

【 隠蔽 Ⅴ 】.【危機察知 Ⅲ 】.【地図 Ⅳ 】.【言語 Ⅳ 】.【契約Ⅰ】.【精神耐性 Ⅲ 】

【風刃 Ⅳ 】.【圧壊 Ⅳ 】.【炎槍 Ⅳ 】 .【豪炎Ⅲ】.【灼熱地獄 Ⅴ 】

【氷槍 Ⅳ 】.【氷河期 Ⅴ 】 .【地形操作 Ⅳ 】.【千本槍 Ⅴ】.【光槍Ⅲ】.【聖炎Ⅲ】



 備考: 【魔を統べる者】




 オイオイ、能力をコピーできるのか? いや、それはないな。さっき横でコイツが放った滅魔のスキルは発動していなかった。つまりはステータスの表示だけいじれるってことか?


 なら装備はどうだ? 


 俺は装備している伝説級の黒竜の革鎧も、ドッペルゲンガーがコピーしているのか確認した。


【黒革の鎧】


 なるほど。装備の能力まではわからないと。つまり鑑定ではなく、何かの能力でステータスはコピーできるってことか。しかし特殊能力が複数付与されている装備まではコピーしきれないと。一瞬でコピーするにはステータスが限界ってことか。声や話し方に関してはここに来るまでに観察をされていたか? 


 まあ普通は騙されるな。魔力反応だって滅魔を使うことにより、魔力に敏感な俺じゃなきゃ感知できないほど反応が小さい。それに仲間そっくりな奴が戦闘中に現れた時、咄嗟に装備を鑑定する奴なんていない。まずは名前や種族が表示されるステータスを見るもんな。第三者がそれを見たら、どっちが本物かわからなくなるか。初見殺しや撹乱に特化した魔物だな。



「コウ! ステータスまで私と同じよ! 魔石も無いわ! けど私が本物だから間違えないでね! 」


『何言ってるのよ! コウ! 私が本物よ! 間違えないでね! 』


 ティナも鑑定したみたいで、まったく同じステータスに不安になっているみたいだ。


「コウ! あたしのこと間違えないよな!? みんなも間違えてあたしを攻撃するなよな!? 」


『あたしが本物だかんなっ! この偽物を攻撃しろよなっ! 』


 リズは双剣を構えながら、俺とティナたちを見て不安そうな顔をしている。


「コウさん……私が本物ですから……でも間違えても恨んだりしません。コウさんに殺されるなら私は……」


『コウさん……私が本物です。どうか間違えないでください』


 オリビアのドッペルゲンガーには、魔石がハッキリとあるのがわかる。コイツら魔石の出力を抑えたりできるってことか。まあどっちがオリビアかはその言動でわかるし、よく見れば魔力の質がオリビアとまったく違う。魔力の質の違いがわかる俺には、魔人のドッペルゲンガーが一番わかりやすいな。


「コウさん! 兎に命令してください! 隷属の首輪をしている兎に! ここで全裸になるなと命令してください! それで兎が本物か証明できます! 」


『め、命令してください』


 うん、シーナは一発でわかった。鑑定する必要も魔石を確認する必要もないわ。


 シーナのドッペルゲンガーは動揺してるな。恐らくシーナの意図がわからないんだろう。まさかシーナが全裸になり、隷属の首輪電撃バージョンを発動させようとしてるなんて思ってもいないんだろうな。まあシーナをドッペルゲンガーごときが真似るのは無理だろうな。


 しかしシーナの変態性癖が役に立つことがあるなんてな。



 まあだいたいわかった。俺がいなかったら結構ヤバかったな。さすが古代ダンジョンの下層だ。


 んじゃ偽物には消えてもらうかな。


 俺は不安そうな目でみつめる恋人たちへ、フッと笑いかけ彼女たちへ向かって腕を伸ばした。


「みんな何を心配してんだ? 俺が愛する恋人を間違えるわけがないだろ。 俺の恋人になりすます魔物どもよ! 死ね! 『滅魔』! 」


 俺は隣にいる俺のドッペルゲンガーと、恋人たちになりすますドッペルゲンガーへ向けてスキルを放ちその体内の魔石から魔力を全て抜き取った。


 その瞬間ドッペルゲンガーたちは糸の切れた人形のようにその場に倒れ、その姿を人型の白い物体へと変化させていった。


 うえっ! のっぺらぼうかよ! キモっ! 


 とりあえずどんな魔物だったか確認しておくか。


 俺は隣で倒れている顔の無い白い人型の物体を鑑定した。




 種族: ドッペルゲンガー


 体力:B-


 魔力:B


 力:S-


 素早さ:A


 器用さ:S-


 種族スキル:擬態




 擬態ねえ……力と器用さ特化か。やっぱり不意打ち専門の魔物だな。


 なるほどな。擬態を見破れさえすればただの雑魚だよな。




「「コウ! 」」


「「コウさん! 」」


「おっと! 」


 俺は目に涙を浮かべ駆け寄ってきた恋人たちを、両腕を広げて抱きとめた。


「ううっ……魔力を抜かれても私は死なないけど、コウに間違えられるのが怖かった……」


「へへっ! あたしは信じてたぜ! コウがあたしを間違えるわけないってな! 」


「コウさん……私は死を覚悟していました……私には魔石があるので……で、でもコウさんは迷わず偽物を……愛してます……」


「兎は自信がありましたです。あの偽物には、コウさんの愛を受け止める覚悟がなかったですから。でも、見ただけで本物の兎を見抜いたコウさんの愛に、兎は感激しましたですぅ。大好きですぅ」


「お、俺が愛する人を間違えるはずないだろ? どんなに見た目や声が同じでも俺にはわかるんだ」


 俺は恋人たちが目に涙を浮かべて感動している姿を見て、装備を鑑定すればわかると言い難くなってしまった。


 つ、次にエンカウントした時に判別方法がわかったことにしよう。うん、そうしよう。


「コウ……ごめなさい……正直に言うわ。私はコウとコウのドッペルゲンガーを見て、どっちが本物かわからなかったの。私はコウの恋人失格だわ……ううっ……ごめんなさい」


 え?


「悪りぃコウ。あたしもなんだ。コウがあたしを想う気持ちより、あたしの気持ちの方が弱かったってことなのかな………悔しいぜ」


「すみません。私も迷ってしまって……コウさんをこんなに愛してるのにどうして……」


 いや、そんなことは……


「兎も命令してもらえないと、どっちが本物かわからなかったと思いますです。で、ですが命令してくれれば絶対わかりましたっ! それはコウさんと兎の愛の歴史が証明してくれますですっ! 」


「い、いや、そんなに気にすることはないさ。せ、戦闘中に突然現れて、あれだけ見た目が似ていて鑑定を封じられたんだ。見分けがつかないのも仕方ないよ。落ち着いて見れば今度はわかるさ」


 そうは言っても次に彼女たちとドッペルゲンガーを接触させたら不味いかも。それでまたわからなかったら、ティナたちが俺のことを好きな気持ちに疑問を抱いてしまう。それが発端でフラれることも…… 


 失敗した! 俺も最初は迷ったって、魔石の存在と装備を鑑定してわかったって言えばよかった! 


「そうよね。ええ、次は絶対に迷ったりしないわ! 偽物のコウを水龍で押し潰してあげるんだから! 」


「私ももう二度と愛する人を間違えません! 偽物は迷わずこの剣で真っ二つにしてませます! 」


 いや、よく見てからにして欲しいんだけど……


「あたしも迷わずこの双剣で叩っ斬ってやるぜ! 絶対だ! 」


 リズは絶対勘で斬りかかる気だろ!?


 どうしてこうなった!? これじゃたとえ偽物と間違えられても本物だって言えないよ! まさか全員に攻撃されるのか俺っ!?


「兎は命令してくれればそれに背きますから、コウさんがどっちかわかりますです! 偽物の命令では首輪は発動しませんから! 」


 なにこの安心感!?


 シーナなら間違えないし、間違えられない気がする。


 俺は決意に満ちた表情の恋人たちの中で、シーナだけは俺を間違えないだろうと確信していた。


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