第12話 もう一人の家族

 


 ティナの合図を受けた俺は、メレスたちを連れて長老の家へと向かった。


 そして長老の家に入る時に雪華騎士たちには入口で待機してもらい、俺はメレスとリリアのみを連れて中に入った。


 家に入ると長老と4人の護衛のエルフが出迎えてくれたが、俺の隣にいる白いワンピースを着たメレスを見て驚いた表情を見せた。


 俺はある程度察しはついてるみたいだなと思いつつも、部屋の中央へと歩を進めた。


「勇者様。ようこそおいでくださいましたのぅ。ささっ、どうぞお座りくだされ」


「しばらくぶりだね長老。今日は紹介したい子がいたから連れてきたんだ」


 俺は上座に座る長老に進められるままにその場にあぐらをかき、メレスとティナが俺の両隣に座ったところで長老へ挨拶を返した。


「もしや……皇帝とエルフの……」


「ああそうだよ。魔帝とこの里のエルフが愛し合った末に生まれた子だ。すごく綺麗だろ? ほら、メレス。自己紹介して」


 俺は帝城での魔帝の公表を知っている様子の長老へ、メレスの背中に手を回し自己紹介をするように言った。


「メ、メレスロス・テルミナよ」


「なんと……まさかあの噂が本当じゃったとは……」


「そう驚くなって。同じ姿形をしているんだ。確率はゼロじゃないだろ? 過去のことは知っているよ。なぜ帝国がエルフを人として見ないように教育していたのかもな。だがそれを超えてでも愛し合ったんだ。それはもう本物の愛だろ? エルフに限って無理やりなんてあり得ないからな」


 俺は緊張しながらもちゃんと自己紹介ができたメレスの背中を撫で、驚く長老へと精魔の歴史のことは知っていると告げた。


「そこまでご存知じゃったか……勇者様のおっしゃる通り精魔が契約するフラウは強力ゆえ、帝国ではエルフと子をなす事は禁忌とされてきたんじゃ。それはエルフの里でも同様じゃった」


「それでもエルフの血が流れている。この子は200年もの長い間、自分は禁忌の子だと、生まれてこなければよかった存在なのだと苦しんできたんだ。俺はメレスの居場所を作ってやりたい。人族や獣人だけではなく、母親と同じ種族のエルフの中にもだ。長老……この通りだ。メレスをどうかエルフの仲間として受け入れて欲しい」


 俺はそう言って長老とその背後に控える護衛のエルフに向かい、手をつき頭を床に擦りつけた。


 隣ではティナも俺に続き同じく頭を下げていた。


「光……エスティナ……」


「光殿……」


「ゆ、勇者様!? そのようなことおやめくだされ! 」


「「「そ、そうです勇者様! お顔を上げてください! 」」」


「勇者様。お願いじゃ。お顔を上げてくださらんかのぅ。エルフの恩人に頭を下げさせたなど知られれば、里の者だけに留まらず、風精霊の里に加え全てのダークエルフに儂らは非難されるじゃろう。そもそもじゃ。勇者様が心配されるような事にはなりませぬ。どうして帝国の奴隷として長き時を過ごしてきた我らが、差別などできようか……エルフの血を引く者は等しくエルフじゃ。そう里の者には儂から説明すれば、皆がメレスロス様を受け入れるじゃろう」


「ありがとう長老。そう言ってもらえると助かる」


「長老ならそう言ってくれると思ってたわ。ありがとう」


 俺とティナは長老の言葉に安心して顔を上げ、そしてお互いに顔を見合わせてホッとした。


 よかった〜。長老なら受け入れてくれるとは思っていたけど、まさかこんなにすんなりいくとは思わなかった。


「礼を言われるようなことではありませんのぅ。差別されることの辛さを知る者が、差別をすることなどは無いという当たり前のことじゃ。後ろの四人も同じ考えのはずじゃ」


「はっ! 長老のおっしゃる通りです」


「勇者様がお連れになったお方を、白い目で見る者などこの里にはおりません」


「水精霊の湖のエルフは、メレスロス様を同胞として迎え入れるでしょう」


「ふぉっふぉっふぉっ。そういうことじゃ勇者様。儂もメレスロス様には妙に親近感が湧く。やはりエルフの血が流れておるからじゃろう。それにしても精魔を見るのは初めてじゃが、とても美しい女性じゃのぅ。ふおっふおっふぉっ」


「親近感か……そりゃそうだろうな。うん、みんなありがとう。メレス……今日からここも君の故郷だ。よかったな」


「光……ありがとう……私が本当に受け入れてもらえるなんて……とても……とても嬉しいわ」


「ははは、まだ泣くのは早いよ。さあ、お祖父さんにもお礼を言って」


 俺は隣で目に涙を浮かべて喜んでいるメレスに、祖父に挨拶をするように伝えた。


 エルフはメレスを受け入れてくれる。これならもう何も心配する事はないだろう。


「え? 」


「はい? 勇者様……今なんと? 」


「長老。メレスはアルディスさんの娘なんだ。メレス。長老はお母さんの父親だよ。つまり君の祖父だ。黙っていてごめんな。先にエルフに受け入れてもらってから話そうと思っていたんだ。もしものことがあった時に、メレスを傷つけたくなかったんだ」


「あ……アルディス……の……子? メレスロス様が亡き娘のアルディスの……」


「お……祖父……様? この方が私の……お祖父……様……」


「そうだよ。二人は家族なんだ。ほら、メレス。その綺麗な顔をもっと近くで見せてあげなよ。魔帝から目がアルディスさんにそっくりだって聞いてる。目の悪い長老の近くに行って見せてやりなよ。家族の証をさ」


 俺は驚いているメレスの背中を軽く叩き、長老の前まで行くように言った。


 するとメレスは長老から視線を逸らさないまま立ち上がり、一歩ずつゆっくりと長老のもとへと近づいていった。


 長老もメレスから視線を外すことなく、立ち上がった彼女を見上げ目で追っている。


 ふと後ろを見ると、リリアが信じられないとばかりに目を見開いていた。長老の後ろの護衛たちも全く同じ表情だ。


 やがてメレスは長老の目の前で立ち止まり、その場にゆっくりと腰を下ろした。


「似ておる……アルディスの目に……400年前。里を出たあの時のアルディスの目に……孫……儂の……」


「お祖父様……私の……お父様しかいないと思っていた……もう一人の私の家族……」


「メ、メレスロスと……お呼びしても? 」


「はい……お祖父様……」


「う……うおぉぉぉぉぉ! メレスロス! メレスロス! 儂の孫……最愛の娘……アルディスの子……メレスロス……メレスロスゥゥゥ! 」


「お祖父様……ああ……お祖父様ぁぁぁ! ううっ……お祖父……様」


 二人は強く抱きしめ合い、溢れるほどの涙を流しながらお互いの存在を確かめ合っていた。


 俺はそんな二人の姿を見て、目頭が熱くなっていくのを感じていた。


「ぐすっ……よかった……コウ……よかった……」


「ああ……こんなことならさ、もう少し早く会わせてあげれば良かったかな」


 俺の胸に顔を埋め泣いているティナの髪を優しく撫でながら、こんなことならもっと早く会わせてあげればよかったかなと少し思った。


 いや、魔帝の公表があったらこそ疑われなかったのかもしれない。このタイミングでよかったんだ。


「光殿……ぐすっ……ありがとう……ございます……ううっ……光殿のおかげで……メレス様に家族が……ありがとう……ございます」


「リリアまで泣いてるのか? こっちにおいで……よしよし。よかったな。でもなリリア。別に俺のおかげなんかじゃないさ。メレスにはもともと祖父がいたんだ。俺はそれを知っていて黙ってた。メレスを万が一にも傷付けたくなかったからね。今回はその機会が訪れたから会わせた。それだけだよ。魔帝のおかげでもあるかな。感謝なんかしないけどな」


 俺は後ろでメレス並に号泣しているリリアを呼び寄せ、ティナと同じように胸を貸した。


 そして二人の髪を撫でながら、機会が訪れたから会わせただけだと伝えた。


「あの時。メレス様の胸を揉み陛下を挑発したのは、この機会を作るためだったということですか? 」


「え? あ、ああ……うん。そうなんだ。ああでもしないと魔帝はメレスのことを公表しないと思ってね。いやぁ、上手くいってよかったよ。あははは……」


 どさくさ紛れに、ずっと揉みたかったメレスの胸を揉みましたとか言えるわけないよな。


「ふふっ……そういうことにしておきます。ですが、なぜそこまでメレス様のために? 」


「初めてリリアにあった時に言ったろ? 」


「初めてあった時に……ですか? 」


「ああ、俺はハッピーエンドが好きなんだって。みんなが幸せそうな顔をしているのを見るのが好きなんだ。ほら、ふたりとも幸せそうだろ? 」


「あ……そうでした。確かにそうおっしゃっていましたね……ふふっ、はい。メレス様も長老様もお幸せそうな顔をしています。全てはこのために……なのですね」


「ああ。もう大満足だよ」


「光殿……あ、あの……もしまたメレス様の胸を揉みたくなった時は……その……私が代わりに……」


「ええ!? いいの!? あっ! い、いや違う! 間違い! あ、あれは魔帝を挑発するためで決してそういうつもりでは……」


 マジか! リリアのこの爆乳を!? いいの!?


「ふふふ、わかっています。もしもです……もしもの時ですよ。私はメレス様を、魔王よりこの身を挺してお守りしなければなりませんから」


「ちょ! 魔王ってリリアまで……酷いなぁ」


 まあ魔王でもなんでもいいさ。言質はとったからな。揉みたくなったらリリアの胸をいつでも揉める。この爆乳をこの手で……拒否されたら今回のことを言えば……


「ふふふ、とてもえっちで悪い顔をしてますよ? 光殿」


「え? そ、そんなことはないよ! 俺はよく仏の光って言われるし! 」


「コウ? 大きくなってるわよ? 」


 俺はリリアにエロいことを考えていたのを見透かされ、慌てて誤魔化した。


 しかしそこへいつの間にか下腹部に顔を埋めていたティナが、大きくなった股間のモノをガシッと掴み俺を見上げ、とんでもないことを口走った。


「あっ……こ、光殿それは……そんなに大きく? 」


「うわっ! ちょっ! ティナ! 掴むなって! 違う! これは違うから! お、おいティナ! 離せって! 」


 俺はティナの手に掴まれ動くに動けず、顔を真っ赤にしたリリアに凝視され悶絶していた。


 よせっ! ティナ離せ! 護衛のエルフたちに気付かれる! リリア見ないでくれ! これは違うんだよぉぉぉ!


 部屋の奥で感動の再会をして涙しているメレスと長老の前で、なんでティナに息子を握られリリアにそれを見られるという辱めを受けてんだよ俺!


 違うだろ! ここはそういうシーンじゃないだろ!?


 よせっ! 上下に動かして遊ぶなっ! リリアに見せつけなくていいから! やめろってティナ! ティナぁぁぁっ!


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