第3話 来たわ!【挿絵キャライラストあり】

 




 《ア、アクツさん! 陛下を乗せた皇軍艦隊が桜島に向かってきていると連絡が! 》


「はあ? なんで魔帝がここに? 」


 《わかりません。演習中だった皇軍艦隊に突如陛下が合流し、桜島に向かうよう命令をしたそうです。宰相のリヒテンラウド伯爵から先ほど連絡がありまして、攻撃しないようアクツさんに伝えて欲しいと》


「あー多分アレかな? この間予備の魔導携帯全部燃やした件かな? 連絡が取れないから直接来たか」


 戦後処理で忙しいってのにダンジョンにいつ行くんだとかうるさかったから、オリビアが持ってる予備の魔導携帯を全部燃やしたんだよな。


 それで怒って直接文句言いに来たとかか?


 《その可能性も無いとは言い切れませんが……そんなことで皇軍まで動かすでしょうか? 》


「老人は時間が余ってるからな。お迎えが近いし焦ってんじゃないか? まあ俺が対応するからオリビアは気にしなくていいよ」


 どうせ魔帝のことだ。これが余の艦隊じゃ! 凄いじゃろ! とか見せびらかしにきた可能性も無いとはいえない。


 あれ? でも旗艦の飛空要塞は新兵器の換装中とか言ってなかったっけ? 皇帝が普通の戦艦に乗ってきたのかね? それでいいのかよテルミナ帝国……


 《そう言われても立場上お出迎えしないわけにもいきませんし、局の視察に来られるかもしれないので……》


「それもそっか。まあただの老人の散歩だ。仕事しろって言ってその場ですぐ追い返すよ。オリビアは発着場の隅っこにいればいいから。だからそんな憂鬱そうな声を出すなって」


 《はい……》


「んじゃ、ちょっと準備するからまた後でな」


 俺は憂鬱そうな声を出すオリビアに、なるべく明るい声でそう言って魔導通信を切った。


 オリビアも情報局の奴らもかわいそうにな。いきなり抜き打ちで魔帝が来るとか、役人からしたらいい迷惑だよな。今夜はお風呂でスケベ椅子に座らせて俺が慰めてやらないとな。


「コウ、皇帝が向かってきてるの? 」


「ああ、演習中だった皇軍艦隊を引き連れてこっちに向かって来てるらしい。多分魔導携帯が通じないから文句言いに来たんだろ。まさか軍まで動かして直接来るとはね。ストーカーを舐めてたわ」


 俺は隣で通話を聞いて驚いた顔をしているティナに、ヤレヤレという感じで答えた。


「呆れた。皇帝って暇なのね」


「でなきゃ毎日のように電話してこないだろ? アイツがいなくても帝国は回るんだし、もういなくていいんじゃないかな。とにかくレーダー観測所の隊員たちが混乱しないように事前に通達しておいてよ。それと港の飛空艇発着場を空けとくようにも言っておいてくれ。あと念のため島の住民には外に出ないようにとも」


 まあ契約があるから、魔帝が艦隊に攻撃命令を出すことはないけど念のためな。


「わかったわ。すぐに各所に連絡をいれるわ。まったく、忙しい時にいい迷惑ね」


「頼むよ」


 ほんと絵に描いたような老害だよな。早く死なねえかな。


 そして俺とティナはこの忙しい時に来る魔帝にイラつきつつ、各方面に連絡を入れたのちに飛空艇発着場へと向かった。


 俺とティナが執務室のあるビルを出るとライガンたち親衛隊が外で待っていた。ヤンヘルたち御庭番衆はビルの屋上やら路地裏からこっちを見ている。無視だ無視。


 俺はヤンヘルたちを見なかったことにして、ライガンたちが乗る魔導車に囲まれながら港の南にある飛空艇発着場へと向かった。その時ふと視界の端に見えたサイドミラーに、魔導バイクに乗って付いてくる忍者服姿の集団が映っていた。


 いつの間にあんなの買ったんだよ……忍者が魔導バイクに乗るとかもうむちゃくちゃだろ。


 俺はあんなのが5千人もいるのかと憂鬱になりつつ、その姿から目を逸らし車の窓から遠くの海を眺めていた。



 飛空艇発着場に着くと駐機してあった輸送機は全て移動されおり、広い発着場の入口にはオリビアと情報局員ほか兵士たちが既に並んで待っていた。


 そしてその横ではリズと数十名ほどのギルド隊員たちがフル装備で立っていた。


 絶対来ると思ったよ。シーナは仕事押し付けられてブーブー言ってるんだろうな。


「コウ! 皇帝が来るんだって? 」


 俺が魔導車から降りると、リズが駆け寄ってきてそれはもう嬉しそうに聞いてきた。


「リズ、ギルドは忙しいんじゃなかったのか? シーナに怒られるぞ? 」


「ばっか、我らが皇帝陛下様がご視察に来られるんだぜ? 帝国民としてお出迎えしなきゃ不敬ってもんだろ? ウシシシシ! 」


 よくもまあ毛ほども思ってないことを言えるな。どうせ面白そうだから野次馬しに来たんだろうに。


「リズ? 来なくていいって言ったわよね? それに何がお出迎えよ。完全装備で言っても説得力ないわよ。面白そうだから仕事をシーナに押し付けて来ただけでしょ? 」


「ケケケ! バレたか! コウと皇帝が会ってなんにもないはずないからな。暴れられるかもってみんな楽しみにしてんだ」


「そんなことだろうと思ったよ。あとでシーナにブーブー言われても知らないからな? 」


「大丈夫だって! それよりなんか見えるぜ? あれじゃないか? 」


 俺はリズに呆れつつも、彼女が指差す方向に視線を向けた。


 すると遠くの山の陰から50隻はいそうな艦隊が現れるのが見えた。


 しかし艦隊は一向にこちらへ向かって来る気配がなく、そのうち1隻の飛空艦のみがこっちへと向かってきた。


「ん? なんだあの白いエイ、いやマンタみたいな船……」


「白いマンタ? そんな飛空艦あったかしら? 」


 俺はだんだんと近づいて来る飛空艦を鷹の目のスキルを発動して確認してみると、それは真っ白なマンタのように平べったい流線型の船体をしていた。エイと違うとは思ったのは、両翼が尖っているのとなんとなく優雅な印象を受けたからだ。


 なんかアレだな。軌道戦士ガンドムに登場するモビルアーマーみたいでカッコいいな。両翼に2つ付いてるのは主砲か? てことは一応は戦艦級ってことか。でも戦艦よりかなり小さいな。半分の全長150mくらいか? でも幅は200m以上ありそうだ。高さは30mあるかないかってとこか。新型かな?


 うーん、なんか速そうだ。一隻欲しいな。


 俺は昔アニメで見たことがあるような形をしている飛空艦が優雅に飛ぶ姿を見て、物欲が高まっていくのを感じていた。


 やがてマンタ型飛空戦艦は発着場に着陸し、俺とティナとリズは飛空艦が止まっている位置に近づくいていった。すんと両翼のすぐ下が開き、そこから幅10mはありそうな階段が現れた。


 そしてそこから白い見覚えのある鎧を着た女性たちが次々と現れ、階段の両端に整列していった。その数は200名ほどにもなり、俺は彼女たちの姿と見覚えのある顔に驚きを隠せなかった。


「雪華騎士団!? 」


「ちょっと! なぜこんなとこに雪華騎士団がいるのよ!? まさか! ? 」


「せっかきしだん? なんだなんだ? 皇帝じゃねえのかよ。でもどっかで聞いたような……なんだっけ? 」


 俺とティナが驚きリズが残念そうにしていると、階段に絹のような布を両手で頭上に広げ顔を覆い隠している女性が現れた。


 その女性はめちゃくちゃな着付けをした白い生地の着物を身に着け、胸もとを大きくはだけさせていた。


 俺がその見覚えのある真っ白な胸の谷間に視線を固定していると、彼女はゆっくりと階段を降り始めた。そしてその後ろを、メイド服を着た赤髪のショートカットの女性が付いていっていた。


「オイオイ、まさか向こうから来るなんて予想外だったよ」


「ふふふ、可愛い子。よほどコウに会いたかったのね」


「そうかなぁ。そうだと嬉しいけどね。でもこれなら魔帝が出張ってくるのも頷けるな。ティナ、とりあえずオリビアに連絡して、オリビア以外の情報局の奴らをここから退場させてくれ」


「そうね。その方が良さそうね」


 まったく、来るなら事前に一言知らせてくれればいいのに。困った子だ。


 俺は一部の公爵家と伯爵家しか知らない存在を情報局の職員に見せるわけにはいかないと思い、ティナにオリビアを通して彼らをここから離れさせるように指示をした。


 やがてその女性は俺の前で立ち止まり、口もとを少し緩めたと思ったら掲げていた布を後ろへとバサッと放り捨てた。


 そして緩む口もとをキュッと引き締め、その豊かな胸を張り口を開いた。


「来たわ! 」


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イラスト:こきはなだ様



「ぷっ! いらっしゃいメレス。それにリリア」


「ふふふ、いらっしゃい。メレスにリリア」


 俺は頬を染めながら精一杯偉そうに来たわと言ったメレスの言葉を、脳内で「きちゃった♪ 」と変換していた。そしたらそれが面白くてついつい笑ってしまった。


「わ、笑うなんて酷いわ。私が会いに来てあげたのに……」


「光殿にエスティナ殿。ご無沙汰しています。メレス様は会いに行けば光殿がきっと喜ぶと思ったようで、昨夜から楽しみにしていたのですよ? 」


「リ、リリア! そ、そんなことないわ! 別に光に喜んでもらおうだなんて思ってなんかないわ! 」


「いや、俺も二人に会いたいと思っていたところだから嬉しいよ。でも来る前に一言教えて欲しかったかな。魔帝付きだしね」


 俺はメレスの髪の中から飛び出したフラウに魔力水をあげながら二人へそう言った。


「そうよ二人とも。突然皇軍を引き連れて来るもんだからびっくりしたわよ」


「あ、会いたいって……そ、そう。ならいいわ。急に来たのは悪かったわ。お父様に今日来ることを知られたくなかったから連絡できなかったのよ」


「結局見つかってしまいましたけどね。まさか艦隊を引き連れてくるとは思いませんでした」


「ああ、そういうことか。まあ知られれば絶対付いてくるって言うに決まってるもんな。そりゃなるべく内緒にしたかったよね」


 でも魔帝からは逃げられない! ってやつだな。絶対メレスの屋敷周辺に監視カメラを設置していたに違いない。あの変態親バカを舐めちゃいけない。


「でもあそこを出られたということは、陛下の許可を得られたんでしょう? その飛空戦艦は湖に無かったわよね? 」


「ええそうよ。お父様に光の領地内に限り、社会勉強として観光することを許してもらえたわ。あの飛空戦艦は『フェアロス』というの。お父様が私がいずれ外に出たいと言った時のために造っておいてくれたようなの」


 あの魔帝がメレス用の飛空艦を建造していたとはな。フラウを制御できるようになったし、帝国人のあまりいない土地があることからいずれ外に出してやろうと思ってたのか。一応メレスのことを考えてるんだな。まだまだ気に入らないところは多々あるけどな。


「よくあの皇帝が首を縦に振ったわよね。可愛い子には旅をさせろという、日本のことわざを知っていたのかしら? ふふふ、でもフェアロス。『雪の精』だなんていい名前じゃない」


「ええ、エスティナに古代エルフ語を教わっている時に、私の名前の意味である愛の雪と氷の精霊のフラウにぴったりだと思ったの」


「雪の精か、確かにいい名前だね。そっか、メレスは自由を自分の手で掴んだんだね。あの魔帝相手によく頑張ったな。偉いぞ」


 俺はメレスに一歩近付き、籠の中から自らの意思で出ることを決めた彼女の頭を優しく撫でた。


 あの超絶親バカを相手にしてよく許可をもらえたよな。相当大変だったはずだ。


「あ……た、たいしたことではないわ……光のいう通りにしたら簡単だったわ」


「俺の言うとおり? 」


「そうよ。泣いたらすぐに許可してくれたわ」


「ぷっ! あははは! そうか、あの手を使ったのか。そりゃ効果的だったろうね」


 そうか、メレスは魔帝に泣いてお願いしたのか。その時の魔帝の慌てふためく顔が見たかったな。


「それはもうすぐに許可が出ました。ですが陛下が必ず同行すると言い出したものですから、そこで親娘喧嘩になってしまいまして……早朝に秘密裏に湖を出ることにしたのですが、まさか帝城を抜け出して皇軍を引き連れて付いてくるとは思いませんでした。それを知った高祖父様の慌てようといったら……」


「宰相の爺さんには同情するよ。まあ魔帝は放っておけばいいさ」


「はい。サクラジマに着くまでの護衛として、後をついて来ることをメレス様がお許しになられたのでもう帝城へ戻ると思います」


あの魔帝がおとなしく帰る? 多分ずっといそうな気がするんだよなぁ。


「なあなあ! アンタがメレスってのか? 色々話は聞いてるぜ! あたしはコウの恋人のリズってんだ。 よろしくな! 」


 俺がリリアと話していると、後ろにいたリズが黙って聞いていられなくなったのか俺の肩に腕を回しながら自己紹介をしだした。


「あなたがツンデレのリズね。ええ、私がメレスロスよ。特別にメレスと呼ぶことを許してあげるわ」


「ツンデレってなんだよ! コウ! 変なこと言い振らすなよな! あたしは別にツンデレじゃねえしっ! 」


「え〜モロにそうじゃん。お酒入った時なんか特に……ニャとか語尾に付けてるし」


 猫人族の女の子は物心つく前は語尾に『ニャ』を付ける子が多い。たまに成人してもそのままの子もいるけどな。リズの場合はお酒を飲むと語尾にニャを付けて甘えまくってくる。まあ甘えてくるのはベッドの上でもだけどな。そういうところが可愛いんだよな。


「なっ!? ちょっ! 酔った時のこととか言うんじゃねえよ! 酒の席のことなんか無効だ無効! 」


「ふふふ、聞いていた通り賑やかな方ですね。私はメレス様の侍女のリリア・リヒテンラウドです。リズさん、しばらくお世話になると思いますのでどうぞよろしくお願いします」


「お? 赤髪なのにずいぶん感じがいいじゃんか。なんだ家に来るのか? コウがいいって言えば歓迎するぜ! 」


「当然家に来てもらうさ。部屋は余ってるしね。ただ雪華騎士団全員は入らないから、近くに彼女たちの住居を用意しなきゃね」


 アルディス湖から発進した飛空艦を護衛するために皇軍が動いたんだ。そのことを聞きつけた貴族たちが色々と嗅ぎ回るかもしれない。なら俺の近くにいた方がいいだろう。まあ言われなくても誘うつもりだったけど。


 しかしメレスとリリアに雪華騎士の美女たちと一つ屋根の下か……風呂上がりの食堂とか花園になりそうだな。浴衣とか小さめのを出すようにレミアとニーナに言っておかないとな。


「そう、それなら光の屋敷に滞在することにするわ」


「計画通りですねメレス様」


「け、計画なんてしてないわ」


「あはは! まあそう強がるなって! それよりオリビアを紹介すっからよ。あっちに行こうぜ! 」


「そうね。オリビアも不安そうにしてるわ。説明してあげないと」


「そうだね。それじゃあ移動しようか」


 俺はティナの言うとおり状況が掴めず不安な顔をしているオリビアのところへ、メレスたちに移動するよう促した。


 オリビアは一族の者がメレスの騎士団にいるので彼女の存在は知っている。ただ、俺が教えるまでは魔人とエルフのハーフだということまでは知らなかったみたいだ。難病を患っている魔帝の隠し子がいるとしか聞いていなかったらしく、かなり驚いていたな。


「ええ、案内してちょうだい」


「ん? ああ……それではご案内させて頂きます。姫様」


 俺は頬を染めながら右手を差し出すメレスに膝をついてそう言い、メレスの手を握りしめて歩き出した。


 そしてオリビアのもとに行きメレスたちを紹介した。その間もメレスはずっと俺の手を握りしめて離さなかった。


 やっぱこれって脈ありだよな? リリアもなんか妙に距離が近いし。


 恩を感じてるだけでこんなことはしないよね? 勘違いじゃないよね?


 それからギルドの野次馬たちを解散させ、俺は少し調子に乗ってメレスの腰に手を回して魔導車を停めている場所へと一緒に歩き出した。


 メレスは嫌がらない。それどころか腰に回した俺の手に自分の手を重ねてきている。これは間違いないよね? ね?


「コウ…… 一隻だけこっちに向かって来るわ」


「え? あ、ほんとだ……『探知』。ああやっぱり我慢できなかったか」


 俺がティナの言葉に振り向くと、皇軍艦隊から一隻の船が全速力でこちらへと向かってきていた。


 それを見た俺は探知のスキルを発動し、艦内の魔力を確認した。


 そこには見覚えのあるSSランク以上の魔力が艦橋にあるのがわかった。


 あ〜うるせーのが来るな。


 でも無視しても家まで来そうだしな。


 めんどくせーなー。




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